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第二章

違和感

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 翌日学園へ出勤し、クラスへ行く途中でマデリンの後ろ姿を見かけたので挨拶をした。


 「マデリン、おはよう。今日もいい天気ね」

 「……………………おはよう……」


 どうしたのかしら……瞳は暗く陰っているように見えるし、声をかけてもボーっとしている。

 いつもシャキッとしているマデリンらしくないわ。

 私が顔を覗き込んでも「ちょっと恥ずかしいじゃない!」という感じもない……熱でもあるのかしら。


 「大丈夫?一緒に保健室に行きましょうか?」


 あまりにもいつもと違い過ぎるから具合でも悪いのかと思って保健室に行こうと声をかけると、突然ビクッと反応したマデリンは恍惚とした表情に変わっていた。


 「保健室!カリプソ先生がいらっしゃいますよね!あのお方は素晴らしい方です…………私、会いに行ってきます!」


 マデリンはそう言って走って行ってしまったのだった。

 何事?

 何が引き金になったのか分からなかったけど、人が変わったかのようにカリプソ先生を崇拝しているマデリンに驚きを隠せず、何も言葉を返す事が出来なかった。

 前日までカリプソ先生を嫌悪していたのにこの変わりようは凄いわ。

 昨日帰るまでは普通だったはず…………何かあったの?

 表情も虚ろだったり突然熱を帯びたり、明らかにいつものマデリンとは違う。

 でもあんな状態で授業を受ける事は出来ないだろうし、ひとまず私も仕事をしなければとクラスへむかったのだった。


 その日のクラスの授業では奇妙な事が続いた。

 今朝のマデリン同様に明らかにボーっとしている生徒が何人かいて、私が心配して保健室の話をすると一目散に保健室に行ってしまうのだ。

 どうやら私のクラスだけではないらしいけど、カリプソ先生がいくらいい先生だとしてもこれはおかしいわよ。

 皆一様に正気には見えない目をしていて、私の声もまるで届いていないかのようだった。

 胸がザワザワする――――生徒達の様子がおかしいのはもちろんなのだけど、皆が同じような症状である、という事が一番引っかかる。

 この話をすぐにジークに相談したいと思っていると、この日も仕事終わりに公爵邸に来てくれたので、今日の出来事を相談してみる事にした。


 「……………………皆が同じ症状……虚ろ……恍惚とした表情…………魅了か?でも魅了は魔法ではない……」


 ジークが色々と考えながら独り言のようにブツブツと考えを述べている。


 「確かに魅了は魔法ではないわよね。でも魔法にも特殊な魔法を使える人がいるのでは?例えば時魔法とか」


 私はこの世界のゲームをしていたので、その時に特殊な魔法を使えるキャラクターがいた事を思い出した。確か時魔法、空間魔法……補助系の魔法ばかりだから使う事が出来てもあまり感動はなかったので忘れていたわ。

 ジークが使う瞬間移動も空間魔法の一種で、誰でも使えるものではない。


 「…………そうだな、カリプソ先生がそういうものを使える可能性もある。彼女が得意なのは土魔法だったはずだが……そういった特殊な魔法は最上級魔法でもあるので、相当優秀である事は間違いない。まだ彼女がそれを使っている証拠がないから、一概にそうとは言い切れないが」

 「そうよね、カリプソ先生は分かっていない可能性もあるし……カールの時の事もあるから」

 「カールか……昨日、今日と庭園には……」

 「行ってません。もう……カールも正気に戻ってるんだし、何回も同じ事は起こらないと思うわ」
 私が呆れたように言葉を返すと、すぐにジークが反論してくる。

 「危険とかそういう話ではない……いや、危険か……カールは君の事を…………」

 「私?」

 「……………………いや、何でもない。とにかく庭園に行くなら私も行く」


 有無を言わさない感じで無言でお茶を飲み出すジークを上目遣いで見ていると、半分くらいは呆れる気持ちになりつつも、もう半分は一緒にいられて嬉しい気持ちが湧いていた。

 今日も昨日もだけど、邸ではなくたって一緒にいられるのは嬉しいものだ。

 自分の気持ちを自覚してからは、とにかく目で追ってしまうし、彼の姿を捜してしまう自分がいた。彼は王太子なのできっとこの先政略結婚が待っているのだろうという事はだいたい想像がつく。

 だとしたら女性として悪評だらけの自分が選ばれるとは思えない。

 もしかしたらもう結婚相手は小さな頃から決まっているのかもしれないし、結ばれたいと願うのは現実的ではないと分かっている。

 でも初めてまともに好きになった相手なので、出来る限りそばにいたい――――そう思うくらいはいいわよね。


 「……仕方ないわね」


 嬉しさと苦しさが入り混じってよく分からない気持ちのまま答える。


 「ディア……どうした?」


 私の小さな変化にも気付いてくれるこの人を好きにならないでいる事など無理ね。いっそ何も気付かないでいてくれたらいいのに。

 でもきっと気付かれないと、それはそれで傷つくのかも……私ってとても面倒な人間だわ。突如自分自身に危機感を覚える。


 「ううん、何もないわよ。ジークがいてくれたら心強いなって思ったの!」

 「……そ、そうか」


 私が咄嗟に返した言葉にモジモジと照れているジークを見ていると、自分の悩みが馬鹿らしく思えて自然と笑顔になっていた。

 深く考え過ぎるのは前世からの悪い癖だわ。

 なるようにしかならない、私は転生して身をもってそれを知ったのだから、考えすぎないように気をつけなきゃ。

 結局カリプソ先生についてはジークが出来る限り注視しておくという事で話はまとまり、その後は何気ない話をしながら穏やかな時間を楽しんだのだった。



 
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