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第二章
聖魔法の練習とほんの少しの甘い時間
しおりを挟むジークを庭園に案内すると、公爵邸の庭園を見回しながら「相変わらず見事な庭園だな」と褒めてくれた。
「ありがとう、王宮ほどじゃないけどお気に入りの庭園よ。さっきまで聖魔法の練習をしていたの。使い方を練習しないとって思って」
「ああ、やっぱり……そうじゃないかなと思ったんだ。学園の庭園に姿が見えなかったからね。君が私の言葉を大人しく聞いて帰っているとは思わなかったな」
「もう、自分で言ったんじゃない!でも確かに一理あるなと思ったから帰る事にしたの」
「君がもし練習しているなら私も付き合いたいと思って、瞬間移動してきた。突然来てすまない」
ジークは笑いながらサラッと言ってくれたけど、そこまで考えてすぐにここに来てくれたって事?
彼の言葉に自分が何を気にしていたのかとバカバカしくなり、胸が温かくなったのだった。
「ううん、来てくれて嬉しい」
「ディア」
「さっそくだけどジークに練習を見てほしいの」
「あ、ああ、分かった」
なんだかジークがガッカリしているような気がしたけど、気のせい?
それよりも魔法に集中しなければ。まだ使い慣れない魔法の練習だもの、何が起こるか分からないのだから。
私はジークに見てもらう為に自分の魔力に集中し始める。
聖魔法を使う時は主に使う目的と、それに対しての祈りが大事になる事がだんだんと分かってきた。心の底からの祈りを捧げる事によって体の奥から湧き起こってくる聖なる力を具現化する――――
私は自分の守りたい者の事を考え、集中して祈りを捧げた。すると祈りは光となって私を包み、やがて光は私の目の前で具現化されていく。
「聖なる大盾――――ヘブンズガード」
この庭園一体をすっぽりとおおってしまえるくらいの大盾が出来上がった。
「これが聖なる大盾…………美しいな」
「ありがと、でもまだ成功かは分からないかな……」
「そうなのか?大きさも十分だし、綺麗に作られているが……」
「まだ力が安定しなくて、次に同じのを作れる感じがしないの。やり始めたばかりだから仕方ないのかもしれないけど」
私がそう言うと、少しの間ジークが考え、私の両手を握ってきた。
「ジーク?」
「私が君の力を安定させるべく補助してみようと思う。私の光魔法は聖魔法から派生したと言われるくらい、相性がいいんだ。力の使い方なども教えてあげられるかもしれない」
「そうなんだ!それじゃあお願いします」
「ああ」
突然手を握られてドキッとしてしまったわ……そういう事なのね。でもありがたい申し出に甘える事にして、ジークの手を握りながら力に集中する。
私は先ほどと同じように祈りを捧げていると、私の体はジークの力に包まれているかのような感覚に陥り、とても温かくて気持ちがリラックスしてきた。
そして私の中に集まってきた祈りの力を解放してあげると、この邸がすっぽりと収まるほどの聖なる大盾が出来上がったのだった。
「見て、ジーク。凄いわ…………」
「ああ、物凄いのが出来たな。やるじゃないか」
ジークに褒められてすっかり上機嫌になってしまう私……現金ね。でも彼に褒められる事なんて大人になってから記憶にないからとても嬉しい気持ちになってしまう。
「ふふっほとんどジークのおかげだと思うけど、嬉しいわ。そろそろ消さないと邸の者たちが大騒ぎしてしまうわね」
「そ、そうだな」
心なしかジークの顔が赤いような……とにかくこの盾をすぐに消し、一休みしようと彼をお茶に誘ったら快く返事をしてくれたのだった。
ラクーの力を借りなくてもこんなに威力を発揮出来たのは大きいわね。
そのラクーはいつの間にか庭園に来ていて、私の周りをパタパタと嬉しそうに飛んでいた。
まるでこの力に反応しているみたいだわ。私が力を使う時、聖なる力の気配を感じた時、ラクーは必ず姿を現す。
やっぱり私の使い魔的な生き物なのかしら?
そんな事を考えながら、セリーヌが用意してくれたお茶をいただく事にした。
「ジークに聞きたい事があったの。カリプソ先生の事なんだけど……」
「カリプソ先生?」
「ええ、カリプソ先生が今日、風のクラスに来てお話したの。とっても人気のある先生なのね!彼女が来たらクラスの生徒達が一斉にカリプソ先生を囲むから驚いたわ」
あの時は本当に驚いたし、こんなに人気のある先生とは知らなかった。でも何か違和感があって、それをどうやってジークに伝えればいいのかしら……ふとジークの顔を見ると柔らかく微笑んでいる。
カリプソ先生の話をしたから?
そう考えるとまたモヤモヤした気持ちが湧き上がってくる。私は自分の気持ちが分からずに誤魔化すように話を続けた。
「カリプソ先生は今年からやってきたってマデリンが言っていたんだけど、そうなの?」
「ああ、彼女は臨時の職員なんだ。父親が王族派の人間で父上が信頼している人物なので、娘の社会勉強の為にと頼み込まれたと言っていたな。教員は足りていたが、まぁ一人くらいならと、保健医として勤めてもらっている」
「そう、なんだ……」
という事はジークが連れてきたわけではないのね。陛下から――――ホッとしている自分と、親同士が仲がいいという事が引っかかってしまう。
それって後々ジークとカリプソ先生の距離が近づく可能性もあるって事じゃない?
婚約とか――――カリプソ先生のお父様はそれが狙い?
こんな事を考える私は、今すごく嫌な女になっている気がする。自分の中で色々と葛藤していると、私の両手にジークの片手が乗せられ、心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
こんな嫌な事ばかり考えている私の心配をしてくれるジークの目が見られない。
そっか、私はいつの間にかすっかり彼の事を好きになっていたんだ。今までのモヤモヤに妙に納得して少し気持ちが軽くなった気がする。
「あなたは優しいわね」
精一杯笑って言葉を絞り出した。彼の優しさがちょっと苦しくて泣きそうな自分がいるけど、何とか誤魔化せているかな。
「…………誰にでも優しいわけではない」
いつの間にか私の両手は彼の両手で握られていて、さらにギュッと力が込められる。
「そう、なんだ」
「そうだ」
二人の重なり合った手に目線を落としたまま、長い沈黙が流れた――――でも全然嫌じゃない。このままずっと続けばいいのに。
そう思っていたところにセリーヌの大きな声が響き渡った。
「お嬢様!あ…………も、申し訳ございません!!」
私たちを見たセリーヌのあまりの慌てように、ジークと目を合わせて思わず笑ってしまう。
「じゃあ、そろそろ私は帰るとするよ」
「ええ、また明日」
颯爽と帰っていくジークの後ろ姿を見つめていると、セリーヌがすぐ隣に来ていて「わたし、お邪魔してしまいましたよね?」と上目遣いで言ってきた。
その表情が面白くて「ちょうど良かったのよ」と笑って返すと、セリーヌは少しホッとしたようにテーブルの上を片づけ始め、自分の仕事をテキパキとこなしたのだった。
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