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第二章
新たな力
しおりを挟む殿下と仲直り出来て胸の痞えが一気にとれた感じがした私は、転生してようやくクラウディア先生と気持ちが1つになれたように感じていた。
今までは肉体は彼女のものでもどこかでクラウディア先生と自分は別物で、感情も別のものだと感じていたのだけど、今回クラウディア先生の色んな感情を受け入れた事で気持ちが1つに溶け合えたように感じたのだ。
これで良かったのよね、きっと。
ホッとしたところで、今日の出来事について殿下に聞いてみる事にした。
「殿下…………あの、今日の事ですけど」
私がそこまで口にしたところで、殿下の手がそっと私の唇に触れて、言葉を制止させられてしまう。
「出来れば昔のように呼んでほしい……ジーク、と。それに話し方も普通でいい、ここには私と君しかいないのだから」
「あ……ええ、分かっ、たわ…………えと、ジーク?」
私が殿下に向かってそう呼びかけると、片手で顔を覆った殿下は俯いてしまった。どうしよう、これで良かったのかな……でもよく見てみると耳まで真っ赤だったので、間違ってはいないらしいと少しホッとしたのだった。
「すまない。続けてくれ、ディア……」
そう言って照れくさそうに少し顔をこちらに向けたかと思うと、指の隙間から覗く瞳がひどく熱を帯びていて、ドキッとしてしまう。私の髪をひとすくいして髪で遊ぶかのようにいじりながら私の言葉を待っている殿下の様子に、何故か心臓がうるさくなっていく。
突然距離が近くありませんか?こういう時はどうしたらいいんだろう――――私は誤魔化すように話を続けたのだった。
「あ、あの今日の事だけど、どうしてジークがあの場に来たのかなって」
「あれは、偶然理事長室の窓から君達が見えて……何だかカールの様子がおかしいし、君に対して魔法を使っているように見えたから急いで庭園に向かったんだ」
このドロテア国では、回復魔法系や補助系以外の魔法を人に向けて使う事を禁じられている。授業など特殊な状況の場合は許可が必要で、そのため以前も風魔法の実習授業の時に理事長である殿下が見に来ていたのだ。
カールが私に向けて魔法を使っているというのは禁忌を犯しているという事になるので、彼は急いであそこへ来てくれたのだろう。
「理事長室って庭園が見えるのね……でもジークが来てくれて助かったわ、ありがとう」
「いや…………私も色んな意味であの場に行けて良かった」
「え?」
「君は覚えているか?カールに対して使った魔法を……なぜ君が魔力を使い過ぎてしまったのか」
殿下に言われてあの時の事を改めて考えてみると、あんまり記憶に残っていない事に気付く。そう言えばどうして私はこんなに魔力を消耗して……それにカールは操られていたはず。
どうやってカールの魔法を解除したの?解除…………
「あの時、カールが操られていると思って、このまま誰かに見られてしまうとカールが悪者になってしまうから必死で祈ったの。そうしたら胸が熱くなって白い光に包まれて…………それがカールに入っていって――私――――」
あの力は何だったんだろう。妙に懐かしいような、自分の為にあるような、そんな気持ちになる力だった。
「あれは……あの力は恐らく聖属性の魔法だ」
「聖、属性?」
そんな魔法、ゲーム中に出てきた記憶はない。隠し能力とか?でも公式からも発表されていないはずだし、そんな話は聞いた事がないわ。
「聖属性魔法は誰にでも使えるものじゃない。持って生まれるのは何百年に一人くらいだ」
「そんな貴重な力が、どうして私に?」
ゲーム中のクラウディア先生にはもちろんそんな能力はなかった。私が転生したから?イレギュラーが起きているの?
あのゲーム通りにクリアしていけばいいと思っていたのに、全然違う方向に向かっている感じがして、途端に怖くなってしまう。
貴重な力を得て喜ぶどころか青ざめてしまった私を心配してくれたのか、殿下は手を握ってくれて落ち着かせようとしてくれたのだった。
「大丈夫だ、あの場にいたのは私と君とカールのみ。他の者には見られていないはずだから、何かがいきなり変わるわけではない。ただ力が不安定だからどこで発動するかも分からないので、しばらくは注意が必要だな」
「そ、そうね……じゃあこの力を練習した方がいいのかしら。使いこなせていないから魔力を大量に消費してしまうのよね?邸なら他人に見られる心配もないし大丈夫よ」
「まぁ……そう、か?…………」
私としてはナイスな提案かと思ったんだけど、ジークからはなんとも歯切れの悪い答えが返ってきて首をかしげる。
「良くないアイディアだった?」
「あ、いや、違うんだ。ぜひとも練習してほしいところなんだが……ただ心配で…………未知の力だから何が起きるか分からないと思うとね。私が傍にいてあげられたらいいんだが……」
そう言ってくれるジークの表情が本当に私を心配してくれている顔で、何だか胸が温かくなってくる。さっきまで未知の力を得て怖い気持ちすらあったのに、それすらも吹き飛んでしまう感じがしたのだった。
「ふふっ心配性なところは変わらないのね」
ふと幼い頃のクラウディアを思い出して懐かしんでしまう。仲が良かった頃はいつも私がお転婆な事をする度に心配かけていたのよね。
「君こそ相変わらず私を心配させてくるじゃないか」
そう言って2人で笑い合うと、色んな事があったはずなのに全ての杞憂が吹き飛んでいくような気がしたのだった。
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