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第二章

癒しのラクー

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 あの後授業に戻ると生徒達が心配して駆け寄ってくれて「もう大丈夫よ」と伝えるとまた風魔法の練習を始めた。

 マデリンは少しバツが悪そうに私から顔をプイッと背けて、実習が終わるまで窓際で大人しくしていたのだった。

 今日はさすがに疲れたので裏の庭園には行かずに、直ぐに馬車に乗って公爵邸に帰る事にした。何と言っても邸には先日一緒に帰ったラクーが待っていてくれる。

 邸の中も慣れてきたのか、元気に飛び回りながらお腹が空くと調理場で食べ物をもらったりと、ちゃっかりしているところもあって可愛すぎる。

 少しだけ成長したような気もするけど、まだ小さくて飛び方に力強さはなく、ゆらゆら飛んでいる姿がまた可愛い。

 とにかく癒されるのよね。

 邸の皆もラクーが大好きで、すっかり公爵家の一員になっていた。

 帰ったらいつもラクーがどこからともなくゆらゆらと飛んでくるのだけど、今日は飛んでくる気配はない。いつもはすぐに飛んでくるのに……おかしいな。


 「ラクーはどこにいるか知ってる?」

 「さきほど厨房に入っているのを見かけたので、何か食べているのかもしれません」


 セリーヌに聞いてみたところ、どうやら厨房でお食事中のようだったので、楽な服装に着替えてさっそく厨房に向かった。


 「ラクー、このスクランブルエッグの残りを食べるかい?こっちのパンも食べていいんだよ」


 料理長のゼノは今日もラクーに余っている食べ物を与えている。

 ラクーも嬉しそうね……高い鳴き声を響き渡らせながら全身で喜びを表していた。


 「2人で楽しそうね~~私も交ぜてちょうだい」

 「お、お嬢様!おかえりなさいませっ」


 私がヒョコっと顔を出すと、ゼノは驚いて恐縮してしまい、慌てて立ち上がる。セリーヌはかなり慣れてきたみたいだけど、まだ邸の人達は私の態度が変わった事に慣れていない様子だった。

 ゼノも声をかける度に恐縮するから、むしろ私の方が恐縮してしまったりして、申し訳ないと思う時もあるのよね。

 そんな私の元へラクーが嬉しそうな鳴き声をしながら飛んできたのだった。


 「クゥゥーー」


 あんまり嬉しそうに鳴くものだから、手の平に収めて頬ずりしてしまう……毛もふわふわしているし、可愛すぎるわ。


 「ラクー、ただいま。元気にしてたのね、いっぱい食べた?ゼノにお礼を言ってね」


 頬ずりしながら私がそう言うと、ラクーは元気よく「ク―!クー!」と鳴き出す。その姿がビシッと敬礼しているような気がして、私の言葉が分かるのかしら……とちょっぴり驚いてしまう。

 そんなところも可愛すぎるわね。


 「ゼノ、ラクーにご飯をあげてくれてありがとう。良ければ小さなお皿に残りを乗せてくれる?ラクーの分を私の部屋に持っていくから」

 「あ、はい!承知しましたっ」


 ゼノは相変わらず恐縮しきった態度だったけど、私がお礼を述べたのですっかり気分を良くして、せっせとラクー用の食事を用意してくれたのだった。


 「良かったわね、ラクー。じゃあ私の部屋へ戻りましょう」

 「クゥゥー!」


 ゼノに挨拶をして厨房を後にする。戻っている道すがら、今日の出来事を思い出していた。

 マデリンはバツが悪そうにしていたから、きっと反省してくれると思いたいわね。今度彼女とじっくり話をしてみようかしら。

 それに理事長――――いつもクラウディア先生に接している態度とは比べ物にならないくらい優しかったな。

 あの出来事のおかげで、また理事長との距離が近づいた気がする。

 私がそう思いたいだけ?

 ゲームでの理事長はクラウディア先生に対して彼女に負けず劣らず高慢な態度で、幼馴染でありながら二人の仲は最悪の状態だった。

 仲良くしたいという私の気持ちが伝わったんだろうか……そうだと嬉しいなぁ。

 自室に戻ると、窓の外はもうすっかり暗くなっていて、大きな月が昇っていた。

 ベランダに出てラクーと一緒に月を眺めていると、ラクーが小さな翼をパタパタさせて、私の周りを飛び始めたのだ。


 「ふふっなぁに?何か嬉しい事でもあったの?」

 「クゥクゥ」


 ラクーの翼は孔雀のような色合いをしていて、月明りに照らされると七色に光り、とても神秘的な光景だった。

 一緒にベランダに出たのは今日が初めてなので、新たな発見だわ――――こんな美しい光景を見られて、それだけでも癒されるのに、ラクーが私の周りを飛んでいると本当に癒されてきたような気がするのよね。

 不思議だわ。もしかしてラクーにも何か魔力があるのかな?なんてそんな事をぼんやりと考える。


 まさか、ね…………この時の私にはまだラクーがどんな力を持っているのか全く気付いていなかったし、ラクーが聖なる気を発しているだなんて知る由もなかった。

 そして……私が何となく回復している気がしていたのは気のせいではなく、その理由は後日知るところとなる。

 数日後に学園の裏側にある庭園に行った時に起こった出来事により、私の身辺は一気に慌ただしくなっていくのだった。

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