上 下
16 / 51
第二章

シグムントSide 4

しおりを挟む


 ゴミ捨てが終わった後、私は自室に戻る途中で色々な思考と闘っていた。

 どうしてあの場を離れがたかったのか、クラウディア先生の笑顔が他に向けている事が気に入らなかったり――――一緒にゴミを捨てに行っただけなのに、あのちょっとした時間で色々な感情がせめぎ合って、一気に疲れた気がする。

 普段は仕事中だろうと王宮でも感情が揺れ動く事など滅多にない。

 物事に一喜一憂して他者に感情を読み取られる事は弱点を晒す事だと教え込まれているので、王太子として自分の感情をコントロールする事を心掛けていた私は、いつも誰と話していても一定の表情を崩す事はなかった。

 ただ一人を除いて。クラウディア先生、彼女に関しては…………事件がある前からずっと振り回されている。

 私の感情を知らぬ間に動かすのはいつも彼女だ。

 前はそれでイライラしていたはずだったのに、今は心臓が痛いくらいに鼓動が激しくなる。

 原因不明の感情に振り回されるなど、王太子としてあるまじき事だ。何としても原因を突き止めなくては。

 理事長室に戻って一息入れながら、窓から見える学園の裏側にある庭園を眺めていた。

 この理事長室から庭園が一望出来るのが、この部屋のいいところだ。庭の手入れをしてくれる用務員のカールは働き者で、広い庭園をほぼ一人で綺麗に管理してくれていた。

 真面目な男なので私はかなり気に入っていたし、このままずっとここで勤めてほしいと思っている。

 そのカールがいつものように手入れをしていると、そこにゴミ捨てで別れたクラウディア先生がやってきたではないか。


 「…………なぜクラウディア先生が……それにカールと――――」


 誰がどう見ても二人は凄く仲が良く見える。いつの間に?

 カールの水魔法に感動しているクラウディア先生が目にはいる――――あのくらいの水魔法なら私だって出来る。

 私だけではなく、この学園にいる生徒達も皆魔力があれば魔法が使えるのだが、それぞれの適性属性というものがあり、一番相性の良い属性を磨いていくのだ。

 適性の低い魔法を使うとコントロール出来ずに魔力の暴走を引き起こしたりしかねないので、たいていは自分に合った属性以外は使わない。

 私は王太子としての教育の一貫で、全ての魔法を一通り試しながらある程度使えるようにしている。

 一番得意なのは火属性の魔法で、次いで光属性の魔法が得意だが、水属性の魔法だって使えない事はない。

 あんなに感動してもらえるなら私が――――いや、なぜ私がクラウディア先生を感動させなければならないのだ?

 またしても変な感情が生まれてきて混乱していると、カールとクラウディア先生の元に今度はダンテがやってきたのだった。


 「な、なぜあいつが…………こんなところにまでクラウディア先生を追いかけているのか?」


 そこまで呟いて自問自答する、だから何だ?と。ダンテがクラウディア先生を追いかけている事になぜこんなに動揺している?

 思えば事件より前もダンテが彼女に興味深々で、私は何故だかそれが気に入らなかった気がする。

 自分の思考と行動が一致せず、窓に張り付いてモヤモヤしていると、庭園にいる3人は水やりの後、皆で枝の剪定をし始めたのだった。

 ダンテなど普段から汚れ仕事は絶対に嫌がるのに――――クラウディア先生となら一緒にやるんだな。

 楽しそうに庭の手入れをする3人の姿を見守りながら、誰かを羨んだ事など全くない私にダンテやカールが無性に羨ましいという気持ちが生まれるのだった。
 

 ~・~・~・~・~・~


 その日はクラウディア先生が受け持つ風魔法のクラスで実習があるというので、私は理事長としてクラスの様子を見に行く事になっていた。

 彼女は魔力も高いし、先生としても優秀である事は認めているので、クラスでの授業も生徒達はいつも楽しそうに取り組んでいる。

 今回も教室には見事なシールドが張られ、自身の周りにも風魔法を吸収するストームシールドを作っていた。

 そして魔力の羽根を大量に作り出して対象を攻撃する”フェザークロスを生徒達がクラウディア先生に向けて発動させ、それをしっかりと吸収しながら次々と練習させていた。

 特に問題はなさそうだな…………生徒達もだがクラウディア先生も楽しそうに見える。

 その姿が微笑ましく思い、その場を去ろうとした時、伯爵令嬢であるマデリン・トンプソンの順番になると様子が一変したのだった。

 彼女はなぜかクラウディア先生を嫌っているのが私でも分かるくらいで、今回も自分の番になるとフェザースクロスが簡単過ぎると難癖をつけ始める。

 マデリン嬢はトンプソン伯爵の一人娘で、少々甘やかされて育てられた令嬢といった感じが見受けられ、王太子妃を狙っているのが一目で分かる態度を度々私にしてきた事があった。

 トンプソン伯爵は教会側の人間だ――――マデリン嬢は父親の思惑など何も知らないのか、それとも……伯爵は教皇に取り入りながら娘を王族に嫁がせて、内側からも権力を手に入れようと企んでいるのか?

 なんにしてもこの親子に近づき過ぎるのは良くないな。

 私が目を細めて考え事をしていると、私の姿に気付いたマデリン嬢がこちらにやってきて、腕をつかまれて授業に参加させようとしてきたのだった。


 「理事長先生も一緒に授業を受けましょうよ!次は私の番なんですけど、なかなか上手く出来なくて……理事長先生が手伝ってくれたら嬉しいなぁ」


 先ほど簡単過ぎると言っていたその口で、上手く出来ないなどと呆れるな。

 彼女の魔力量はとても高いし、出来ないはずはない。


 「いや、私は各クラスを回っていただけだから――」


 やんわりと断ろうとしたが、生徒達が次々と私を授業に参加させようとしてくるので仕方なくマデリンの横に立ち、彼女の魔法を見守る事にした。

 しかし私のその行動が失敗だった事をこの後すぐに身を以って体験する事になるのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

最強魔導師エンペラー

ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

朝方の婚約破棄 ~寝起きが悪いせいで偏屈な辺境伯に嫁ぎます!?~

有木珠乃
恋愛
メイベル・ブレイズ公爵令嬢は寝起きが悪い。 それなのに朝方、突然やって来た婚約者、バードランド皇子に婚約破棄を言い渡されて……迷わず枕を投げた。 しかし、これは全てバードランド皇子の罠だった。 「今朝の件を不敬罪とし、婚約破棄を免罪符とする」 お陰でメイベルは牢屋の中へ入れられてしまう。 そこに現れたのは、偏屈で有名なアリスター・エヴァレット辺境伯だった。 話をしている内に、実は罠を仕掛けたのはバードランド皇子ではなく、アリスターの方だと知る。 「ここから出たければ、俺と契約結婚をしろ」 もしかして、私と結婚したいがために、こんな回りくどいことをしたんですか? ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...