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第一章

2人きりの保健室

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 ――――コンコン――――


 「カリプソ先生」


 理事長が養護教諭のカリプソ先生の名前を呼んだけど、中から先生の返事は返ってこない。


 「いないのでしょうか?」

 「…………カリプソ先生」


 …………シーン…………再度呼んでみても応答がない。


 「……いないようだな。仕方ない、入らせてもらおう」


 理事長がそう言って中に入ると、やはりカリプソ先生は中にはいなかった。トイレにでも行ってるのかな。

 抱きかかえた私を無言のままベッドまで連れて行き、そのままそっとおろしてくれる――――なんだかお姫様になったような気持ち。それくらい理事長が優しくおろしてくれたのだ。

 クラウディア先生とは犬猿の仲だったのに、転生してからは何かにつけて優しい。

 そして今も私が着られそうな服を探して、室内中をウロウロと歩き回っている。その姿が慣れない行動のせいでとてもぎこちなくて面白い……探し物なんて王太子だから周りがしてくれるものね。

 ようやく女性用のローブが見つかったらしくて、嬉しそうに持ってきてくれたのだった。


 「見つかったぞ、これを羽織ればひとまず大丈夫だろう」


 上から羽織るだけのシンプルなローブだけど、これにベルトをすればオーバードレスのようになりそうね。

 助かった…………。


 「私が隣にいながら生徒の暴走を止める事が出来ず、こんな事になってしまい申し訳なかった」


 私の隣りに腰掛けながら真剣な表情で理事長が謝ってくるので、どう返していいか分からない……これは理事長のせいではないし、そんなに責任を感じる事ないのに。

 少ししょんぼりしているようにも見えて、本当に真面目なんだなと理事長が可愛く見えてしまったのだった。


 「ふふっ理事長が謝るなんて、貴重な表情が見られました」

 「な、私は真剣にっ」


 反論しようとする理事長の唇に手を当て、言葉を遮る。


 「分かってます、でもそれ以上は何も仰らなくても大丈夫ですわ。今回のは担任である私の責任でもありますし、どうしても気が済まないのなら責任は2人で半分こしましょう」

 「半分こ…………」

 「それにクラスの子達に何もなくて良かった~~それが何よりじゃないですか」


 そう、あれだけ大きな爆発にも関わらず、生徒達には傷1つなかったし、クラスもシールドを張っていたので散らかっただけで済んだのだ。

 私の服は着替えればいいだけの話なので、そこまで思い詰める必要もない。

 私が勢いよくベッドから腰を上げて立ち上がり、理事長の方に向き直ると、ポカンとしている理事長と目が合う。そして羽織っていたマントがはらりと落ちてしまい、いつもは胸に布を巻いて胸を押さえていたのだけど破けてしまって大きな胸が主張してしまっていた。


 「わわっ」


 慌ててローブと手で胸を隠そうとしたものの大きすぎて隠しきれない……こういう時に困った事になるとは。


 「わ、わ、私は向こうを向いているから!カーテンを閉めて早く着替えた方がいいっ」

 「は、はいっ」


 耳まで真っ赤にしながらそう言ってくれたので、急いでカーテンを閉めてその中に滑り込み、お言葉に甘えて着替えさせてもらう事にしたのだった。

 私が着替えている間、理事長が室内をウロウロしているのが見える……女性と二人きりで過ごす事にも慣れていなさそうなのに、中で裸に近い状態の女性が着替えているのだから落ち着かないんだろうな。

 ビリビリに破けた服が肌に張り付いてなかなか脱げないわ……ようやく全て脱ぎ終わり、上半身が裸で下着のみの姿になってしまった。

 急いでローブを着ないと――――私が枕の方にあるローブに手を伸ばした瞬間に保健室の扉が突然ガラガラッと開かれたかと思うと、思いもよらない人物の声が室内に響き渡る。


 「あれ?兄上しかいないじゃないか……クラウディア先生が保健室に行ったって聞いたんだけど」

 「……なぜお前がそれを知っている?」

 「風のクラスを覗いてみたら生徒がそう言ってたんだ。それにマデリンが泣きついてきてね。『私がクラウディア先生を攻撃した事になっている』って」


 え…………理事長もその場にいたし、さすがにその言い訳は苦しいのでは。ダンティエス校長の話に思わず絶句してしまう。


 「お前はそれを信じるのか?」

 「まさか!そこまでバカじゃないよ。でも彼女の父親は厄介な人物だから気をつけないとね」

 「トンプソン伯爵か。教皇ともずぶずぶの関係だったな。すっかり教会側の人間だ……あれだけ王家に擦り寄ってきていたにも関わらず、父上の魔力の衰えを感じるとあっさり寝返るとは――――」


 何?何の話?

 このドロテア魔法学園というアクションゲームを隅から隅までやりつくしたはずだけど、貴族間の争いなどはストーリーには出てこなかった。

 ひたすら王都の外にいる魔物を倒し、ラスボスを倒せば魔物も消え失せ、平和な世界が訪れるのよ――――それまでに幾つものステージをクリアしていかなければならない。でも1つ1つクリアしていけば必ずラスボスにたどり着いて、そいつを倒せば……てっきり私が転生した理由はそれを成し遂げる為なのかと思っていた。

 確かラスボスは魔物達の王様ロキ。サイコパスみたいな魔王で、今はまだこの世界の地下深くに眠っている。

 シグムント理事長とダンティエス校長の話を聞く限り、王族でもこの事を知っている人はいなさそうね……。

 そんな事を悶々と考えつつも理事長と校長の会話は続いていく。

 私は上半身は何も着ていない状態で物音を立てないようにしながらこっそり聞き耳を立てるという、よく分からない構図が出来上がっていたのだった。
 
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