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第一章

憩いの時間と用務員カール

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 「はい、じゃあ今日はここまで!」

 ドロテア魔法学園に復帰してから5日が経ち、少しここでの生活が慣れてきて、授業をする事にも随分慣れてきた。

 転生する前は学生だったし、誰かに教える立場でもなかったので授業をするという事に物凄く不安があったのだけど、いざ教卓の前に立ってみるとクラウディア先生の記憶も残っているからか、思いの外すんなりと先生をする事が出来たのだった。

 最初は先生と呼ばれる事にも違和感しかなかったのにね。

 風の教室で授業をしていて気付いたのは、クラウディア先生は割と生徒に好かれていたのだという事。

 皆が「クラウディア先生!」と寄ってきてくれて本当に嬉しいし、心から可愛いという気持ちが湧いてくる。

 やっぱりクラウディアはカッコいいのよ!私は一番好きなキャラクターだったので、彼女が慕われていた事実が嬉しくて仕方なかった。

 それに――――復帰してから理事長に嫌味を言われる事もなく、とても快適に過ごせている。

 ゲームでは事あるごとに嫌味の押収だった2人なのに、こんなに穏やかに会話出来るようになるなんて思ってもいなかった。


 昨日は教室のゴミ箱を魔法を使わずに持って歩いていると、突然やってきて一緒に持ってくれたのだ。


 「君は風魔法を使えるのだから、魔法で重さを軽くしたらいいのに」

 「……それだと生徒に示しがつかないと思うんです。なんだかズルをしている気がして……魔法っていざという時に使うものだと思うので」

 「ま、真面目だな…………」


 理事長にそう言われたけど、そんな私に付き合って一緒に大きなゴミ箱を持ってくれる理事長の方がよほど真面目だし優しいと思う。

 
 「真面目、ですか?このくらい普通だと思いますよ。でも理事長が手伝ってくれて助かりました、ありがとうございます!」


 前なら絶対に手伝ってはくれなかっただろうと思うから、今一緒に歩いている事が嬉しくて何だかお礼を言いたくなってしまったのだった。

 笑ってお礼を言ってみると、照れながら「礼には及ばない、ク、クラウディア先生が大変そうだったからな」とぶっきらぼうに言葉を返してくれたのだった。

 理事長ってツンデレ?それに今クラウディア先生って言ってくれた?!

 前はロヴェーヌ先生だったのに……何だか距離が縮まっている気がしてますます嬉しくなってしまい、一緒に過ごせる時間がもう少し続いたらいいなーなんて思ってしまう。でも理事長は忙しいし、そういうわけにもいかないのよね。

 ゴミを捨て終わり、空になったゴミ箱を抱えながら「理事長、お疲れ様でした」と挨拶をした。


 「…………いや……そろそろ帰るのか?」

 「そう、ですね。もう帰れると思います」

 「……どこに犯人がいるか分からない。気を付けて帰るんだ」


 そう言って私の肩にポンと手を乗せて颯爽と去っていく理事長の後ろ姿を見えなくなるまで見守っていた。少し去り際に表情が曇ったような気がしたのは気のせい?

 クラウディア先生に自分から触れる事など絶対になかった理事長なのに――――右肩をそっと触りながら、なんだか心臓がうるさい気がして落ち着かない。

 疲れが溜まっているのかしら。

 疲れを取るには裏庭の庭園が一番よね、そう思って足早に庭園へと向かったのだった。


 「本当はお父様に人気のない場所にはあまり行かないように言われてるんだけど……庭園なら大丈夫よね」


 お父様はあの事件以来、私が単独行動を取ったり人気のない場所に行ったりする事をあまり良く思っていない。

 気持ちは分からなくもないけど、ただ家に閉じこもっているわけにもいかないし、1つの場所にいるよりも逆にあちこちに出没した方が攪乱する意味でもいいような気がしてる。

 それに庭園には手入れをしている職員がいる事が多く、割と人目につきやすいので安全だと思うな。

 カールという用務員の男性が放課後に庭園の手入れをしていて、ここ数日はよく話す機会があり、すっかり打ち解けたのだった。

 私は普通の女子大学生だったので貴族といっても高位貴族ではない人の方が気兼ねなく話せて、とっても楽なのよね。

 今日も庭園へ着くと、カールが水やりをしている最中だった。


 「カール、こんにちは。今日も精が出るわね」

 「クラウディア先生!ようこそいらっしゃいました。授業お疲れ様です!」


 カールは笑顔が素敵な男性で、学園の女生徒からも人気が高い。この笑顔を見たら分かる気がするわ、とっても柔らかく笑いかけてくれるからホッとするのよね。

 カールは水魔法が得意で自身の水魔法を駆使しながら、ホースから出る水を広範囲にわたって植物たちに与えている。

 水魔法って綺麗――――


 「見ているだけっていうのも悪いし、私も手伝うわ」

 「え?!いいんですよ~~クラウディア先生に手伝っていただくのはさすがに申し訳ないですっ」


 カールがあまりにも恐縮するので、少し強引に水やり用のホースをカールから奪い「やってみたかったからいいの」とウィンクをすると、カールの顔がタコのように真っ赤になってしまったのだった。

 そんなに照れられると私まで照れてしまうわ……クラウディア先生がよくこんな感じでウィンクしていたからやってみただけなんだけど。


 「こっちはまだなのよね?」

 「え?!あ、ええ、そうです。こちら側に向かって水を撒いてくだされば、私がその水を広範囲に蒔きますので……」


 私はカールに言われるがままにホースを持ち、まだ水やりをしていない植物たちに向かって水をかけ始めた。

 するとカールが水魔法の詠唱を始め、水たちが役割を持ったように動き始める。

 間近で見ると何だか水の動きが可愛い……生き物みたいね。私が水たちの動きに感動していると、ここに来そうにない人物の声が後ろからしてくる。


 「やぁやぁ、楽しそうな声が聞こえたから来てみたら、カールとクラウディア先生じゃないですか。お2人で仲良く何をしているのです?」

 「え?…………ダンティエス校長?!」


 カールと同時に振り返ると、ダンティエス校長が腕を組みながら楽しそうに立っていたのだった。

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