上 下
8 / 51
第一章

ダンティエスSide 1

しおりを挟む
 ドロテア王国の第二王子として生まれ落ちた俺は、勉強も二番、王位継承権も二番、剣技や魔法も二番、持って生まれた魔法も兄上は光だったのに対して俺は闇…………全てにおいて兄上に劣る半端者だった。

 しかし人間関係においては兄上より上手いようで、特に女性とはすぐに仲良くなれるし、顔立ちも良かったからか遊び相手には困らない生活を送っていた。

 誰かと一緒にいると兄上には出来ない事をしているという優越感に浸れる事もあり、絶えず誰かと(主に女性と)一緒にいる事が多く、学園随一の遊び人と呼ばれるようになる。

 そんな俺にも難攻不落の女性がいた。

 クラウディア・ロヴェーヌ嬢だ。彼女は幼い頃から王宮に来ていた事もあり、兄上と仲が良よかった。

 私もこっそり陰から見ていたけど、兄上に対抗心を持っている俺にとって兄上と仲が良い彼女に近づくのは容易ではなかった。

 ずっと陰から見ているだけの存在だったが、いつからか2人の仲が悪くなり、クラウディア先生は見た目もどんどん遊び人のようになっていく。まるで俺のように……しかし俺と同じ遊び人といった感じなのに、なかなかに身持ちが固い。

 兄上が離れたので彼女に声をかけられるようになり、さっそく周りの女性のように口説き落とそうとした。しかし俺がどんなに近寄って口説き文句を言っても笑顔でスルリとすり抜けていく。いかにも悪い女と言った感じなのに。

 魔力も高く優秀だから全然近寄る事も出来ない。

 こんな女性は初めてだった――――たいていは俺が声をかければ目が喜び頬が赤くなり、向こうから近寄ってくるのが定石だ。

 クラウディア先生は声をかけたら一度は必ずスルーしてきて、何度目かでようやく立ち止まってくれる。

 女性にここまであからさまに冷たい態度をされた事のない俺としては、傷つくというより興味深々だ。彼女が俺を無視できなくなった時にどんな表情をするのか見てみたい。

 そんな好奇心が膨れ上がり、いつからかクラウディア先生から目が離せなくなっていった。

 よく彼女を観察していると、気付いた事がある――――兄上との関係だ。

 兄上はクラウディア先生の事を見た目のまま、ふしだらで学園の風紀を乱す悪女だと思っている。そして彼女もそんな兄上の誤解を解こうとしている様子は見受けられず、むしろ誤解されているのを逆手に取っているかのような態度だ。

 この2人は一見正反対に見えるけど、お互いの存在が気になっているように見えるのは気のせいか?

 兄上もどうでもいいなら放っておけばいいのに事あるごとに突っかかりにいく…………あの堅物な兄上の事だから一生認めなさそうだけど、男の勘で気になっているのは間違いないだろうな。

 面白い、俺がクラウディア先生を手に入れたら兄上はどんな顔をするのだろうか――――自分の気持ちに気付けない兄上はそこから眺めていればいい。

 俺は兄への劣等感からの対抗心に近い気持ちで、クラウディア先生にもっと近づこうと考えていた。

 そんな俺の考えを見透かしているかのように副校長のミシェルが待ったをかけてくる。


 「校長、ご存知かと思いますが、クラウディア先生は見た目とは違い、真面目な方です。あなたが利用していい人物ではありませんよ」


 クラウディア先生が階段から落とされて休暇を取った後、復帰した日の校長室にてミシェルが指摘してくる。

 どうしてミシェルには俺の考えている事が分かるんだ?


 「どうして俺の考えが分かるんだ?って顔をしていますね。見え見えですよ、理事長室であんな風に理事長を煽るような態度をしていたら……クラウディア先生も戸惑っていたじゃないですか」

 「ふふっ君は本当に優秀な副校長だね」

 「…………褒められている気がしませんけど」


 ミシェル副校長はクラウディア先生に次ぐ、俺に興味のない女性の一人だ。

 見た目も兄上のように堅物な感じで眼鏡をかけて髪は1つにまとめ、常にキリッとしていて、どちらかというとカッコいい女性といった感じだ。

 女性として近づいた事もあったけど、軽く一蹴されてあっさり終わったのだった。

 俺はそんな彼女にいつもたしなめられながら、仕事面でよくサポートしてもらっている。

 もちろん感謝はしていたが時々鬱陶しくもあり、けむに巻くように逃げ回っていた時もあった……しかしけっこう助けられる事もあって最近は大人しく従うようにはしている。

 でもクラウディア先生の事に関しては言う事を聞くのは無理そうだ。兄上との関係は俺のアイデンティティにも関わる事だし、彼女が気になっているのも確かだから。


 「まったく、校長はどうしてそんなに理事長との関係にこだわるのか、私には分かりません」

 「…………まぁ君には分からないだろうね」


 これは王族の二番手として生まれた俺にしか分からない気持ちだろうな。常に兄と比べられ、実力も全て敵わない。父上は実力次第で次男である俺にも王位継承権を与えてもいいという考えの持ち主だが、今のままでは兄上に勝つ事が出来ないのは明らかだった。

 別に王位継承権がほしいわけでもないし、出来れば王位なんて継ぎたくはないのだけど、兄上に勝ったと実感出来るものといったら俺には女性関係と地位くらいしかない。


 「ええ、分かりません。あなたにはあなたの良いところが沢山あるのに、どうしてそこまで理事長と張り合わなくてはならないのです?」

 彼女の言葉に俺は固まってしまった。俺には俺のいいところ?


 「それは、どんなところ?」

 「…………そのご尊顔ではないですか?」


 俺の顔が兄上より勝っているという事?確かに見た目には自信はあったけど、兄上ほどではないと思っていただけに何だか嬉しくなってくる。


 「ミシェルは俺の顔が好きって事?」

 「好きとは言ってません、顔が良いと言っています」

 いつものようにキリッとした表情で照れる事もなく事務的に伝えてくれていたけど、彼女の言葉が思ったよりも深く自分の心に刺さった。

 そしてミシェルに言われたこの日から、自分の顔が思いの外好きになれたのだった。




 ~・~・~・~・~



 ――――ドロテア王国王宮――――


 「ふむ、近頃の息子たちはそなたの娘にご執心のようだな」

 「陛下……決してそのような事は」

 「私の目は誤魔化せない。息子達の様子はつぶさに報告してもらっているからな……早く一人前になってもらわねば、王都の外では魔物による被害が年々増えている」

 
 そう言って窓の外を眺めながら厳しい表情をしているのは、ドロテア王国の現国王であり、シグムントとダンティエスの父であるエヴァンス・フォン・ドロテアだった。

 この国は国王の力によって守られていると言われていた。特に王都には強力な結界が張られており、代々の国王が力を尽くしている為、魔物もここには入っては来られない。

 
 「そろそろ身をかためてほしいところ……そなたの娘、クラウディア嬢が息子達のどちらかの”運命の相手”だといいのだが」

 「それは……私からは何とも言えない事です。お互いの気持ちもありますし、娘の幸せが一番なので」


 そう言ってニッコリと微笑みやんわりと断りを入れるのは、クラウディアの父であり、国王の側近でもあるロヴェーヌ公爵だった。


 「ふふっ言うではないか。まぁまだ時間はある、息子達が”運命の相手”を見つけた時、ようやく私の役目も終わるというもの…………もちろん魔物がこの世からいなくなってくれれば一番なのだがな」

 「陛下……」


 そう言いながら国王は、物憂げな表情でため息交じりにドロテア魔法学園の方を見つめていたのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

朝方の婚約破棄 ~寝起きが悪いせいで偏屈な辺境伯に嫁ぎます!?~

有木珠乃
恋愛
メイベル・ブレイズ公爵令嬢は寝起きが悪い。 それなのに朝方、突然やって来た婚約者、バードランド皇子に婚約破棄を言い渡されて……迷わず枕を投げた。 しかし、これは全てバードランド皇子の罠だった。 「今朝の件を不敬罪とし、婚約破棄を免罪符とする」 お陰でメイベルは牢屋の中へ入れられてしまう。 そこに現れたのは、偏屈で有名なアリスター・エヴァレット辺境伯だった。 話をしている内に、実は罠を仕掛けたのはバードランド皇子ではなく、アリスターの方だと知る。 「ここから出たければ、俺と契約結婚をしろ」 もしかして、私と結婚したいがために、こんな回りくどいことをしたんですか? ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

処理中です...