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第一章

ドキドキの職場復帰初日

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 「うーーん、素晴らしい」


 この世界で目覚めてから10日ほど経って、その間健康的な食事と運動(主にジョギングと筋トレ)をしながら魔法を試して使いこなせるようにしたり色々と頑張った結果、美しい筋肉の筋が見えるようになってきて、自分の腕を見ながら感動していた。

 やっぱり食事と運動って大事なのよね。

 転生前の世界で運動部だった私は、その辺の知識を生かして筋肉が全然ついていないクラウディア先生の肉体改造に踏み切ったのだった。

 クラウディア先生の体はとても女性的で魅力的だけど、私には少し動きにくくて……胸も大きいので布を巻いてあまり揺れないように固定してみた。

 この状態で運動してみたところ、とっても動きやすい!

 学校の先生って肉体労働も多いだろうから、この状態で出勤しよう、そうしよう。このスタイルなら変に周りを誘惑する事もない……と思うし、あの堅物の王太子殿下も話しやすくなるんじゃないかな、なんて。

 これから色々とお世話になりそうだから、悪印象は避けたいものね。

 クラウディア先生は公爵家の令嬢でもあるから女性的なのは素敵な事なのだろうけど、その魅惑のボディで男性を誘惑していくキャラクターなものだから、殿下にはふしだら認定されている。

 先生自体は全く男性と遊んでいた記憶もないし、勝手に言い寄られていただけなのに傍から見たら誘惑しているように見えるのね。彼女自身も高慢な性格を演じていた事も相まって、男性がクラウディア先生につかまっているような構図が出来上がってしまっていた。

 そんな事情もあり、21歳になっても未だに婚約話はまとまっていない状態だった。

 それは私にとっては好都合なんだけど、嫌われるのは避けたい。

 自分の中では極力周りを誘惑しないように服装に万全を期して出勤の準備を済ませ、馬車に乗り込んで魔法学園に向かったのだった。


 魔法学園に出勤する時のクラウディア先生の服装は、丈の長いローブを腰の位置に太めのベルトで締め、ドレス状にして着こなしていた。

 セリーヌに「いつものように胸元を開けますか?」と聞かれ、胸に布を巻いているし肌を見せるのは落ち着かないから、襟はハイカットにして首元にはレースのクラヴァットをあしらうカッコいい装いにしてもらったのだった。


 「お嬢様、今日の装いは一段と素敵です~~!」


 セリーヌが服装を思いっきり褒めてくれたので、何となく今日は幸先のいい一日になるような気がしてきたわ。

 転生した私にとっては初めてとなる出勤日だったのでかなり緊張してるみたい。何とか上手く乗り切れますように――――

 そんな事を祈りながら馬車に揺られていると、小一時間ほどでドロテア魔法学園の入口に着いたので馬車はゆっくりと停車したのだった。


 「着いたわね。さぁ、いざ出陣よ」


 誰もいない馬車で独り言を言いながら馬車をおりると、目の前にはゲームで見ただけだけど、あのドロテア魔法学園の美しい校舎が広がっていた。


 「……本当にあのゲームの世界に転生したんだ…………」


 改めてその事を実感し、しみじみと呟いてしまう。馬車が停められた場所は生徒用の入口ではなくて、職員用の入口の門の前だった。

 ドロテア魔法学園がある王都には外から魔物が入ってこない為の強力な結界が張られていて、この魔法学園も生徒が安全に通えるようになっている。

 ここでしっかりと魔法を学んで、王都外にいる魔物を魔法や武器などで根こそぎ倒していく爽快なゲームの世界…………いざ自分が転生してみて思ったのは、これから先、魔物との戦いが待っているかもしれないって事よね。

 最初はそうなる事に頭が痛いと思っていたけど、体を鍛えて魔法も使いこなせるようになった今は、ワクワクしている自分がいる。

 もともと体育会系な気質だしアクションゲームも大好きだったので、自分がその世界で魔法を縦横無尽に使って戦えるなんて、想像したらテンションが上がってしまう。

 常に危険と隣り合わせかもしれない。でももうすでに1回死んでるんだし、やりたい事をして生きた方がいいわよね。

 期待と緊張が入り混じりながら、ドロテア魔法学園の校舎に入っていったのだった。

 まずは復帰した報告をしなければならないから、理事長室に行かなければならないわね。

 理事長室は学園のどの位置だったかな…………確か一番最上階の奥だったような…………何とかクラウディア先生の記憶とゲームの記憶を頼りに歩いていると、無事に理事長室にたどり着くことが出来てドアをノックした。

 ――――コンコン――――


 「どうぞ」


 中からシグムント王太子殿下の低い声が聞こえてきたので「失礼いたします」と返事をして静かにドアを開けた。

 中には理事長室の机で書類とにらめっこしている殿下と、その横にはシグムント王太子殿下の弟君であり、この学園の校長でもある第二王子ダンティエス殿下が立っていて、さらに副校長のミシェル・ジョヴロワ伯爵令嬢も窓辺に立っていたのだった。

 こ、これはお偉いさんが勢揃いってやつね……皆ゲームで選べるキャラクターばかり。思わず喉がゴクリと鳴ってしまう。


 「長らくお休みをいただいておりましたが、今日から復帰いたします。ご迷惑をおかけいたしました」


 私がそう言って頭を下げると、皆一様に驚いた表情を浮かべて固まっていた。

 クラウディア先生が頭を下げるなんて、と言ったところなのだろうけど私は部活動で礼儀を教えられてきた事もあり、こういうところではちゃんとした態度をしたいので、私は私らしくさせてもらう事にしたのだった。


 「クラウディア先生、あなたは階段から突き落とされたと聞いています。今回のお休みも致し方ない事です、お気になさらずに」

 「ミシェル副校長、ありがとうございます」


 副校長ってとっても優しい人なのね……見た目は真面目なキリッとした感じなので怖いイメージがあったのだけど、全然そんな事はなくホッとして思わず笑顔になった。


 「クラウディア先生は休んでいる間に随分印象が変わりましたね……」


 校長のダンティエス殿下がそう言ってニコニコしながら近づいてきて、私の肩に手を置いたかと思うと耳元に顔を近づけて囁いてくる。


 「君がいなくてとてもつまらなかった、待っていたよ」


 一瞬何を囁かれたのか分からずに固まってしまった私は、校長とクラウディア先生ってそういう仲だったのかと変な動悸がしてきたのだった。

 まさかね…………クラウディア先生の記憶を辿っても彼といい雰囲気の記憶もないし、あまり関わっている記憶が見つからない。

 ダンティエス殿下はシグムント王太子殿下に負けじと劣らずとてもカッコ良くて人気のキャラクターだったし、少し遊び人で悪いっぽい感じが物凄い女性人気だったはずだけど、クラウディア先生はこの王族兄弟が苦手で、むしろ避けていたはずだわ。


 「おい、ダンテ」


 シグムント殿下の低い声がしてくると、ダンティエス殿下はおもむろに顔を上げて振り向き「なんでしょう、理事長」と続けた。

 ダンティエス殿下が離れてくれたのをチャンスととらえ、サッとその場から数歩移動して校長から距離を取る事が出来たのだった。

 助かったわ…………理事長の方をチラリと見てほんの少しだけ頭を下げてみる。殿下が気付いたかは分からないけど、彼はふぅと一息吐いて話を続けた。


 「…………とにかく生徒も待っている事だし、今日からクラウディア先生にはまた頑張ってもらう。誰かが君を狙っている可能性もあるから、くれぐれも気をつけるように」

 「その件に関してはまだ進展はないのでしょうか?」

 「ああ、目撃者もほとんどいないんだ…………もしかしたら目撃者がいても魔法で記憶を改ざんされている可能性もある」

 「?!」

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