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第三章
幸せな場所
しおりを挟む私たちは馬でベルンシュタットへ帰り、城門前に着くと、中からエリーナや城の皆、ステファニー様やヒルド様が出迎えてくれた。
ステファニー様やヒルド様も来てくれていたのね!
「ロザリア!良かった、無事で!テオドールが向かったから大丈夫だと思ってはいたけど、戻ってくるまで気が気じゃなくて……助けてあげられなくてごめんね!」
ステファニー様は涙目で私に抱き着き、無事を喜んでくれた……ステファニー様のせいじゃないのに相変わらずお優しい方だわ。
「ステファニーはロザリーの為に戦ってくれたんだ」
「え?戦い?!」
「もう!今話す事じゃないでしょ、テオドール!そんな事はいいの」
ステファニー様が頬を膨らませてテオ様を窘めているけど、戦ってって…………
「お怪我はありませんか?!なんて事……巻き込んでしまったのですね…………」
「ロザリアも、皆無事だったんだから気にしないで。ヒルドが来てくれたし……私は大丈夫よ」
ヒルド様の方を向いて二人で微笑み合っている姿を見ると、ホッと胸をなでおろした。
「全部終わったんだな」
「ああ、王族達は王宮に連行されている。これから我が国の法で裁かれるだろう……陛下も色々と思うところもあるだろうし、直接話したいのではないかと思う」
テオ様とヒルド様のやり取りを見て、陛下の事を考えた。大切な妹を奪われて、今までその為に尽力してきた長い年月……私の父親とは言え、お父様の事をとてもじゃないけど許せないだろうと思う。
「私も落ち着いたら陛下にお会いしに行こうと思います……伯父様、になるのですよね?」
「そうか、そうだな。そうしよう……凄く心配しておられたはずだから」
ずっとお母様と私の事を心配してくれていた優しい伯父様……もう大丈夫って伝えたい。
「じゃあ、こんなところで立ち話もなんだし、中でお茶飲みながらお話ししましょう」
「はい!」
私の幸せが詰まった場所…………ベルンシュタットは私にとってそんな場所になった。およそ約2年前に嫁ぐ為にリンデンバーグを出た時は、ここがそういう場所になるとは思ってもいなかったのだけど――――
ベルンシュタットに戻れた幸せな気持ちに浸りながら、その夜は遅くまで起きて皆と語り合ったのだった。
~・~・~・~
翌日、お昼近くに目覚めた私は、エリーナと庭園でお茶をしながらリンデンバーグで聞いた事を話していた。私にはどうしても聞きたい事があったのだ――
「私の部屋に保管していたお母様の日記よ。ここが破けていて…………私と関わらないようにしていた期間の日記だと思うの。エリーナは何か知っている?」
私はこの期間にお母様に何があったかを王妃殿下から聞いていたけど、あえてエリーナに聞いてみた。
「…………ロザリア様、ベラトリクス様はあなた様の為に関わらないようにしていらっしゃったのです。王妃殿下や側妃からの嫌がらせは全て自分が受けると……自分と関わる事でロザリア様がまた王妃殿下たちに連れて行かれる事になったら、今度こそ立ち直れないからと…………」
「お母様……」
「私はリンデンバーグ城の侍女でしたが本当に仕事が遅くて、使えない人間でした。ベラトリクス様がいらっしゃった時、私ならどんくさいからお似合いだと……ベラトリクス様付きになったのです。でもベラトリクス様はこんな私にも本当にお優しくて、あなた様が生まれた時も私に抱かせてくれて……姉妹みたいねって――」
エリーナはお母様との事を思い出して流れてくる涙を拭い、話を続けた。
「だから私は、この命が尽きるまでお二人にお仕えするって決めていたのです。ベラトリクス様は私だけはロザリア様にずっと付いていてほしいと頼まれておりました……ここでは自分がそばにいるとロザリア様にはいい事はないからって。でもベラトリクス様のお願いがなくてもずっとお仕えする気満々でしたので!ロザリア様の為なら旦那様にだってご意見しますよ、私は!」
エリーナはそう言って自慢げに腕を組むので、エリーナならするだろうなと思って笑ってしまう。
「エリーナ、ありがとう。いつも私のそばにいてくれて、味方でいてくれて……エリーナがいなかったら私はここにいなかったわね。これからも私のそばにいてね、ずっとよ」
「姫様~~~~あ、ロザリア様~~~ずっとずっとお供させていただきます!」
「エリーナさんの声はどこにいても聞こえてきますね」
今朝もせっせと庭仕事をしていたレナルドが、エリーナの大きな泣き声に苦笑している。私はベルンシュタットでの平和な光景に幸せを噛み締めていた。
~・~・~・~
そして更に数日が経ち、陛下へ謁見する為に私とテオ様は王宮を訪れた。日中の王宮の庭園は鳥たちがさえずり、楽園のように美しかった。
ここでお母様は生まれ育ったのよね…………舞踏会で来た時は美しく煌びやかな場所としか思っていなかったけど、ここで生きていたお母様の事を考えて胸がいっぱいになる。
私は今日、家族として陛下とお会いするので、私とテオ様が通された場所は謁見の間ではなく応接間だった。
――――コンコン――――
「入りなさい」
舞踏会でご挨拶した時の声が中から聞こえてきた。テオ様は私の背中に手を添え、私の顔を見て頷く…………意を決して頷くと、テオ様が扉を開いてくれた。
「……失礼致します」
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