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第三章

最後のお別れ

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 お父様たちが集められているホールに向かうと、そこにはベルンシュタット兵に囲まれて膝をついているお父様や王妃殿下、側妃達や兄弟姉妹達が揃っていたのだった――


 先にテオ様がお父様達に伝えるべき事を伝えている。


 お父様はまだ国王だという気持ちが強いのか、ボルアネアの法では裁く事は出来ないと仰っている…………もうリンデンバーグはなくなるというのに……その事実を受け入れられないのね。処刑されるよりも何よりもお父様にとって、国王ではなくなる事、国がなくなる事が何より堪えるのかもしれない――


 そしてお姉様がテオ様に縋り付いている。私はびっくりして思わずテオ様の手を握りしめてしまったのだけど、テオ様が大丈夫と言わんばかりに頷いてくれたので、心が温かくなった。私の不安を察してくれているのね。


 テオ様はお姉様に対して、とても厳しい態度を崩さなかった。


 私の事も家族に言ってくれたり、本当に大事に想ってくれているのが伝わってきて、泣きそうになる…………最後に私を抱き上げて頬にキスをくださった。

 嬉しくて涙は引っ込んだけど恥ずかし過ぎて…………私たちの仲を見て、お姉様は倒れてしまう。



 それでもテオ様にばかり任せてしまって終わり、ではいけない…………私も伝えるべき事を伝えなければ。私はテオ様の腕からおりて、お父様や皆の前に出た。



 「お父様、王妃殿下や皆さまも、お元気で。もう会う事はないかと思いますが、これだけは伝えたくて…………私をベルンシュタットにお嫁に出してくださって、ありがとうございました。それだけは皆に感謝しています、ベルンシュタットで私、幸せになりますね!」



 そう言って頭を下げた後、ニッコリ笑った。


 皆放心しているようだったけど、私の心は雲1つない晴天の空のように清々しさで溢れていた。そしてテオ様の方を振り向くと、私をまた抱き上げて優しく微笑んでくれる…………これでやっとお別れ出来たのだと、解放感でいっぱいになった。


 「…………連れて行け」

 「はっ!」



 テオ様が兵にお父様達を連れて行くように指示を出し、皆が連行されて行く姿を見守りながら、心の中でお別れを言った…………お父様、皆、さようなら――――――

 

 「…………大丈夫かい?」

 「はい。やっと本当の意味でお別れが出来ました。テオ様もありがとうございます、あんな風に言ってくださって……」

 「あれは私がずっと言いたかった事だからいいんだ……出しゃばり過ぎてしまったかなと思ったんだけど」


 気まずそうに苦笑いするテオ様が可愛らしくて、思わず顔を抱きしめた。
 

 「そんな事はありません…………私ではあそこまで言う事は出来ませんでしたし…………それに――」

 「うん?」


 「…………私がこれからもずっと旦那様を幸せにしますね!私にしか出来ないと仰ってくださったから……私、頑張ります!」


 テオ様は目を丸くしている……でも望みを叶えられるのは私だけなので、頑張らなければ。私が拳を握りしめて意気込んでいると、テオ様が噴き出すように笑った――

 
 「……………………ははっ頑張らなくてもいいんだけど、それは楽しみだ。じゃあ帰ろうか…………私たちの城へ」


 「はい!あ、でもその前に…………少し寄りたい場所があって…………」

 「?」



 ~・~・~・~



 私は北の塔の近くにある、墓石のところに来ていた。お母様は王族であって王族の扱いを受けていなかった事もあり、ずっと幽閉されていた北の塔のすぐ近くに埋葬されていた。



 そこには先にレナルドが立っていて、お母様に挨拶をしていたようだった。


 「レナルド?お母様に挨拶に来てくれていたの?」

 「奥様……はい、お先にさせてもらっていました。私にとってもベラトリクス様は特別なお方なのです」

 「レナルドにとっても?」


 「…………はい。私はベラトリクス様に命を救って頂いたのです。あのお方のおかげで今の私がいる……」


 命を救って…………まさか………………


 「奥様の考えている通りです。当時見習いの王宮騎士だった私は、ベラトリクス様の遠乗りの護衛に入っていました。そこで何者かに襲われ……他の騎士たちは皆殺されましたが、ベラトリクス様は何とか私を逃がそうとして捕まり、そのまま…………私は何とか王宮までたどり着き、陛下に状況を説明して………………ベラトリクス様の捜索にもずっと携わっていました。あのお方が見付かって、リンデンバーグに潜入した事もあります。でもその時にはもう……」

 「ベラトリクス様は動けないほど弱っていたのだな」

 「はい。何としても陛下の元へお連れしたかった……ここまで来るのに長い時間がかかりましたが、ようやく……」


 「………………レナルド、ありがとう。きっとお母様も喜んでいるわ」


 私がそう言うと、レナルドの目から次から次へと涙が溢れてくる。ハンカチを持ち合わせていないのでドレスの布を少しちぎって渡してあげた。レナルドはそれで顔を拭き、鼻をかんでいる。


 「奥様……奥様にお仕え出来たのもきっと、ベラトリクス様が導いてくださったのだと思います。旦那様だけじゃ心許ないので、私も庭師としてお側にお仕えしますね」

 「なっ……それを許可した覚えはないぞ!」


 「陛下が許可を出してくださいました。国王陛下公認という事で、よろしくお願いします」



 レナルドはテオ様にニッコリ笑っている。これは認めざるを得ない状況だわ……陛下も凄いし、レナルドも凄い…………


 「…………ふふっレナルドがいてくれたら庭の手入れが、また楽しみになるわね。これからもよろしくね」



 レナルドは万歳をしながら喜び、テオ様は頭を抱えている様子だったけど、私も陛下も許可を出してしまったから容認するしかなくなってしまったわね。


 「………………仕方ないな。後日ベラトリクス様の墓をベルンシュタットに移そう。今日はひとまず帰ろうか」


 『はい!』


 私とレナルドが同時に返事をして、私たちはその場を後にした――――お母様、今度こそ祖国に還りましょうね――――――



 
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