38 / 43
第三章
最後のお別れ
しおりを挟むお父様たちが集められているホールに向かうと、そこにはベルンシュタット兵に囲まれて膝をついているお父様や王妃殿下、側妃達や兄弟姉妹達が揃っていたのだった――
先にテオ様がお父様達に伝えるべき事を伝えている。
お父様はまだ国王だという気持ちが強いのか、ボルアネアの法では裁く事は出来ないと仰っている…………もうリンデンバーグはなくなるというのに……その事実を受け入れられないのね。処刑されるよりも何よりもお父様にとって、国王ではなくなる事、国がなくなる事が何より堪えるのかもしれない――
そしてお姉様がテオ様に縋り付いている。私はびっくりして思わずテオ様の手を握りしめてしまったのだけど、テオ様が大丈夫と言わんばかりに頷いてくれたので、心が温かくなった。私の不安を察してくれているのね。
テオ様はお姉様に対して、とても厳しい態度を崩さなかった。
私の事も家族に言ってくれたり、本当に大事に想ってくれているのが伝わってきて、泣きそうになる…………最後に私を抱き上げて頬にキスをくださった。
嬉しくて涙は引っ込んだけど恥ずかし過ぎて…………私たちの仲を見て、お姉様は倒れてしまう。
それでもテオ様にばかり任せてしまって終わり、ではいけない…………私も伝えるべき事を伝えなければ。私はテオ様の腕からおりて、お父様や皆の前に出た。
「お父様、王妃殿下や皆さまも、お元気で。もう会う事はないかと思いますが、これだけは伝えたくて…………私をベルンシュタットにお嫁に出してくださって、ありがとうございました。それだけは皆に感謝しています、ベルンシュタットで私、幸せになりますね!」
そう言って頭を下げた後、ニッコリ笑った。
皆放心しているようだったけど、私の心は雲1つない晴天の空のように清々しさで溢れていた。そしてテオ様の方を振り向くと、私をまた抱き上げて優しく微笑んでくれる…………これでやっとお別れ出来たのだと、解放感でいっぱいになった。
「…………連れて行け」
「はっ!」
テオ様が兵にお父様達を連れて行くように指示を出し、皆が連行されて行く姿を見守りながら、心の中でお別れを言った…………お父様、皆、さようなら――――――
「…………大丈夫かい?」
「はい。やっと本当の意味でお別れが出来ました。テオ様もありがとうございます、あんな風に言ってくださって……」
「あれは私がずっと言いたかった事だからいいんだ……出しゃばり過ぎてしまったかなと思ったんだけど」
気まずそうに苦笑いするテオ様が可愛らしくて、思わず顔を抱きしめた。
「そんな事はありません…………私ではあそこまで言う事は出来ませんでしたし…………それに――」
「うん?」
「…………私がこれからもずっと旦那様を幸せにしますね!私にしか出来ないと仰ってくださったから……私、頑張ります!」
テオ様は目を丸くしている……でも望みを叶えられるのは私だけなので、頑張らなければ。私が拳を握りしめて意気込んでいると、テオ様が噴き出すように笑った――
「……………………ははっ頑張らなくてもいいんだけど、それは楽しみだ。じゃあ帰ろうか…………私たちの城へ」
「はい!あ、でもその前に…………少し寄りたい場所があって…………」
「?」
~・~・~・~
私は北の塔の近くにある、墓石のところに来ていた。お母様は王族であって王族の扱いを受けていなかった事もあり、ずっと幽閉されていた北の塔のすぐ近くに埋葬されていた。
そこには先にレナルドが立っていて、お母様に挨拶をしていたようだった。
「レナルド?お母様に挨拶に来てくれていたの?」
「奥様……はい、お先にさせてもらっていました。私にとってもベラトリクス様は特別なお方なのです」
「レナルドにとっても?」
「…………はい。私はベラトリクス様に命を救って頂いたのです。あのお方のおかげで今の私がいる……」
命を救って…………まさか………………
「奥様の考えている通りです。当時見習いの王宮騎士だった私は、ベラトリクス様の遠乗りの護衛に入っていました。そこで何者かに襲われ……他の騎士たちは皆殺されましたが、ベラトリクス様は何とか私を逃がそうとして捕まり、そのまま…………私は何とか王宮までたどり着き、陛下に状況を説明して………………ベラトリクス様の捜索にもずっと携わっていました。あのお方が見付かって、リンデンバーグに潜入した事もあります。でもその時にはもう……」
「ベラトリクス様は動けないほど弱っていたのだな」
「はい。何としても陛下の元へお連れしたかった……ここまで来るのに長い時間がかかりましたが、ようやく……」
「………………レナルド、ありがとう。きっとお母様も喜んでいるわ」
私がそう言うと、レナルドの目から次から次へと涙が溢れてくる。ハンカチを持ち合わせていないのでドレスの布を少しちぎって渡してあげた。レナルドはそれで顔を拭き、鼻をかんでいる。
「奥様……奥様にお仕え出来たのもきっと、ベラトリクス様が導いてくださったのだと思います。旦那様だけじゃ心許ないので、私も庭師としてお側にお仕えしますね」
「なっ……それを許可した覚えはないぞ!」
「陛下が許可を出してくださいました。国王陛下公認という事で、よろしくお願いします」
レナルドはテオ様にニッコリ笑っている。これは認めざるを得ない状況だわ……陛下も凄いし、レナルドも凄い…………
「…………ふふっレナルドがいてくれたら庭の手入れが、また楽しみになるわね。これからもよろしくね」
レナルドは万歳をしながら喜び、テオ様は頭を抱えている様子だったけど、私も陛下も許可を出してしまったから容認するしかなくなってしまったわね。
「………………仕方ないな。後日ベラトリクス様の墓をベルンシュタットに移そう。今日はひとまず帰ろうか」
『はい!』
私とレナルドが同時に返事をして、私たちはその場を後にした――――お母様、今度こそ祖国に還りましょうね――――――
6
お気に入りに追加
1,052
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる