上 下
34 / 43
第三章

地下牢を脱出

しおりを挟む


 私を連れて来た兵は私を地下牢に入れた後、すぐに戻って行った。地下牢ではいかにも雇われ牢番のような男が、地下牢の入口に立っている。地下牢にはその牢番と私以外誰もいない。


 改めて状況を整理してみようと思うけど、さすがにここから抜け出す方法はなさそうね……大人しく事態が動くのを待つしかないのかしら――


 ここに来るまでに何も口にしていないから、そろそろ喉が渇いてきたわ。

 空腹は気にならないけど、喉の渇きは辛いものなのね……この牢番に水を用意してもらえないか聞いてみよう。


 「あの…………誰かいませんか……」


 「………………何か言ったか?」

 「あの、何か飲み物をいただければ嬉しいんですけど……」


 機嫌を損なうのは得策ではないと判断して、出来る限り丁寧に話した。すると牢番は腰に装着していた布の水袋を取り出し、差し出す。

 どうしたらいいのかしら……これに口をつけるのは憚られるわね…………私は両手を合わせて牢の中の私の手の平に水を注いでくれるように頼んだ。


 牢番は意外と親切で、手の平に水を注いでくれたので、一日ぶりに飲み物を飲んで生き返ったような気分だった。


 「……ありがとう、とても助かったわ。あなたは雇われてここにいるの?」

 「…………そうだ。この国にはもう働く場所はない。王族はこんな状態でも贅を尽くしているが、俺たち平民は働くところもなければ満足に生活をする事も出来ない。何か仕事があれば何でもするさ……」


 私にこんな話をするのは嫌でしょうね。この人がどのくらい事情を知っているか分からないけど、民に罪はない。こんな生活を強いてしまって、王族として生まれた者として罪悪感が募る――



 「こんな王族のところで働くなんて反吐が出るけどな……家族もいる。金もないから他所に行ったところで生活出来ないのは同じだ……」

 「…………ごめんなさい」

 「あんたが謝る事じゃない。この国はもう終わったも同然だ……国の行く末を見るもの悪くないと思っている」

 「…………………………」


 お母様はリンデンバーグに嫌な思いしかないのかもしれない、でも私は、気のいい人々が住んでいる事も知っている。この国を王族から解放して、皆で治められる国を作れたらいいのに――――


 
 「……奥様!」

 「誰だ?!」


 突然扉が開いたと思うと、レナルドが地下牢に入って来たので、驚いた牢番は大きな声を出した。でも地下へ向かう階段にいた兵たちはやって来ない……シーンとしているわ。


 「レナルド!どうしてここが分かったの?」

 「奥様の動きは常に注視していましたので、ここに入った事も知っています。地下階段の兵たちには気絶してもらっています」

 「……………………あんた、この姫さんの仲間か?」

 「……ああ、そうだ」


 牢番は腕を組んで何か考えていた。そして意を決したように自身が持っていた鍵を使って私の牢屋の扉を開け、私を中から引っ張り出した。

 
 「このお姫さんを連れて行きな。大事な人なんだろ?」

 「…………まぁ大事と言えば大事ですけど……あなたはいいんですか?」

 「人を捕まえる仕事なんて、碌なもんじゃないしな。適当な事を言って、この城を出るよ」

 
 この人にも生活があるのに私を見逃してくれるのね。こんな仕事、本当はやりたくないって言っていたし……私は自分のドレスの装飾に使われている宝石類や手首の宝飾品を取り、この牢番に渡す。


 「…………見逃してくれてありがとう。こんなものしか渡す事が出来ないけど、お礼だと思って受け取ってほしいの。家族と共に他国に移ってもいいし、生活の足しにしてくれてもいいし……」

 「あ、いや……こんなの受け取れねぇよ…………」

 「いいの、受け取ってほしい。お水も飲ませてもらったし、助けられてばかりだから……あなたの名前は?」

 「…………ヴィーゴだ。お姫さん、あんた、幸せになんなよ」


 ヴィーゴははにかんだ顔でそう言ってくれた。私はリンデンバーグに連れて来られて、初めて胸が温かくなった――――いい人も沢山いるわ。
 
 
 「ありがとう、ヴィーゴも元気で…………」

 「奥様、行きましょう」


 レナルドの言葉に私は頷き、私たちは先に地下牢を出る事にした。途中の地下階段ではレナルドによって気絶させられている兵たちが、ぐっすり眠っている。起こさないようにそっと階段を上って行った。


 地下階段から出ると玉座の間から歩いてきた王城内に出るのだけど、城は閑散としている。あの牢番もそうだったけど雇われ者ばかりで、正直この城はもう城としての機能を果たしていない。


 私がここに捕まったままだとテオ様の足を引っ張ってしまうから、ひとまずこの城を出なくては。

 何よりテオ様の元へ帰りたい。


 こんな危ない事をしようとして、怒るかしら…………怒られたとしても会いたい――――


 「……奥様、こちらです」


 レナルドは脱出の経路を確保してくれていたのか、私を導いてくれた。城の裏側に回ると、裏は鬱蒼とした森が広がっている。

 今はもう日も落ちていて夜だし、正直どこに何があるかがはっきりと分からず、森の中に国境の関所もあるのだけど、夜の森では何が起こるか分からない。それに正面から行ったら捕まるんじゃ……

 
 「大丈夫です、城の裏側から地下通路で国境を越えられる秘密の通路があります。大昔に造られた非常用のものですが、ここの王族はすっかり忘れているようですので、我々が使っても誰にも見つからずに国境を越えられるでしょう」

 「…………レナルドは何故知っているの?」

 「この城の造りは戦の時に調査済だったのです。本来なら攻め滅ぼそうとすればいつでも出来たのですが……」


 私たち親子の為にそうしなかったのね…………私は自分のお腹に入れたままのお母様の日記をさすった。きっとお母様が守ってくれるわ――


 「ではその通路から国境を越えて、国境沿いを伝ってベルンシュタットを目指しましょう」


 レナルドは無言で頷いてくれた。レナルドの後ろを付いて行き、雑草に隠されている地下通路の入口を見つける。こんなところに入口があったなんて……草が張り付いて、扉にからみついている。ここまで無造作に放置されていたのなら、長い間使われていなかったってすぐに分かるわね。

 
 中はどんな感じになっているのだろう…………ちょっと怖い気がするけど、レナルドを信じて入る事を決意した。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】

鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡ ★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。 ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?! ★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます ★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』) ★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。 ★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい! その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。 いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...