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第二章
友達を守りたい ~ステファニーSide~
しおりを挟む私には、私が生まれたばかりの頃に親同士が勝手に決めた婚約者がいた。名前はテオドール・ベルンシュタット、ベルンシュタット辺境伯の令息で、私より6歳年上の少しお兄さんだった。
私が5歳の時、すでに彼は11歳……まるで住む世界が違う人に思えたけど、幼い私の話に合わせてくれたり無口なのに結構優しいところもあるな、という印象だった。
テオドールといつも一緒にいる公爵家の令息はブルンヒルド・ベルジテックといって、物腰も柔らかく、出会った時から私の王子様だと思っていた。
すぐにヒルドとも打ち解けて……呼び方もヒルドって呼ぶようになり、彼は私をお姫様のように扱うから私も勘違いしてしまって、男友達のようなテオドールではなく、ヒルドと結婚したいと思うようになっていった。
その話をテオドールにしたら、婚約解消をあっさり承諾してくれる――
彼は母親を早くに亡くしていたし、父親の辺境伯は厳しい方だったから愛が何かが分からなくなっているような感じだった。
テオドールの事は心配だったけど、だからって同情で婚約しているのはお互いの為に良くないと思った。
テオドールにもヒルドにも正直な自分でありたい…………私はそんな気持ちもあって、テオドールが辺境伯を14歳で継いだ二年後に婚約を解消する。
その時の事を後悔した事は一度もない。
後にテオドールがリンデンバーグに攻め入った時に運命の出会いをするのだけど、その話を聞いて、解消しておいて本当に良かったと胸をなでおろした。
私は晴れて自由の身となり、ヒルドにアプローチをし始めた。
ヒルドも照れながらも受け入れてくれて、このまま婚約して結婚、という流れになるのかと思っていた…………
私が14歳のある日、お父様のお仕事に付いて行って、ヒルドが王宮に来ていると聞いたから探しに歩いていた時の事…………美しい中庭で歩き疲れて休んでいたら、ヒルドの友達と名乗る伯爵家の令息が声をかけてきた。
ヒルドのお友達だし、愛想を振りまいておいた方がいいかなと思った私は、笑顔で対応していた。
するとその令息は気をよくしたのか、どんどんせまってきて…………ベンチで押し倒されて、力で組み敷かれて………………あの時の事は今も思い出したくないわ。
辛うじてファーストキスは守り通したけど、令息が触れたところが汚くてたまらない。
ヒルドが駆けつけて、令息を殴り飛ばし、私を守ってくれて…………やっぱりヒルドは私の王子様だと思った。でもその後の対応を私は間違ってしまう。自分が汚い者だと思ってヒルドの手を払い退けてしまって…………
その日からヒルドは、私に一切触らなくなった。
近くにいるのに一番遠い――――――
そして月日が流れ、テオドールの元に可愛らしい王女がやってくる。でも彼はなかなか会わせてくれなくて……14歳で敵国から嫁いできた姫の事をとても大切にしている事が私にも伝わってくる。
そんなテオドールを見ていると、とても羨ましく思えた。そんな風に大切に想えて、全力で守りたいと思える人に出会える事は幸せな事だから――
私にもいるはずなのに……私は完全に機会を逃してしまったのね。私の王子様は未だに私に触れてくれない。
テオドールが珍しく姫の事で悩んでいるから、悩みを聞きに行ったら、ヒルドを見ているみたいで胸が痛かった。彼らには私のようになってほしくない…………お姫様も本当に可愛らしい女性だった。
私もこのくらい可愛らしい女だったら、ヒルドも今頃触れてくれたかしら――
バルーンアート祭りで夜にスカイランタンを飛ばすイベントで、ヒルドへの気持ちにけじめをつけようと、他の方との結婚を願った。
もう王子様を待っている年齢でもないし。さようなら、私の初恋。
でもその後、なぜかヒルドが頻繁に通ってきて、お茶をする事になるんだけど…………庭園を散歩する時に一生懸命手を繋いでくる。どうしたんだろう……
「ヒルド大丈夫?無理しなくていいのよ?」
「無理なんかじゃないよ。ステファニーは大丈夫?私に触られて嫌じゃないかい?」
「……私は嫌だった事なんてないわ。昔、あなたの手を払ったのだって、自分が汚れている気がしてあなたを汚したくなかったから……ヒルドのせいじゃないの」
「…………ステファニー……」
ヒルドは苦しそうに私を見つめて、優しく包み込むように抱きしめてくれた――
「私は君の事を何も分かっていなかったんだね。君が汚れているだなんて、そんな事あるわけがない。今まで私が触れる事でステファニーを傷つけてしまうのではって思うと、触れなかったけど……それで君を傷つけてしまっていたなんて。本当にごめん」
「ヒルド…………」
私はヒルドの言葉に涙が流れて……私が手を払ったからヒルドを傷つけてしまったのかと思っていた。でも違ったのね…………ヒルドも私を想ってくれていた事が分かって嬉しかった。
「君はずっと私のお姫様だよ、ステファニー。ずっとずっと好きだった。私のプリンセス……」
ヒルドはそう言って、私の大事なファーストキスをようやくもらってくれた。
~・~・~・~
年が明けて、ヒルドが私に見事なドレスを贈ってくれて、それを着てヒルドにエスコートしてもらって舞踏会に出席した。
テオドールとロザリアの二人も素晴らしい装いで出席していて、いつもより楽しい舞踏会にすっかり浮かれていたの。
ロザリアと、ヒルドとの関係で二人で話していたら盛り上がったから、もっと沢山お喋りしたくて二人でサロンに行きましょうと私は提案した。ヒルドにテオドールへの言伝を頼んでいる最中にテオドールが戻ってきて、あれこれ話していたらロザリアのところに行くのが少し遅くなってしまって…………
ホールの扉から廊下に出ると、不自然なほど誰もいない。辺りはシーン……と静まり返っている。
案内係は?警護にあたっていた騎士は?いくら王宮とは言え必ず安全とは限らないのに誰もいないなんて――
嫌な予感がしてサロンの入口を見ると、僅かに開いていたので、そっと中を覗く――――ロザリアを布でぐるぐる巻きにしている男がいる事に気付く。
友達の窮地にすぐさまサロンに入った――
「そこのあなた、その女性は私の友達なの。置いていってくださらない?」
私は出来る限り相手を刺激しないように…………尚且つ少しでも時間を稼ぐように話した。早くヒルドかテオドールが来て…………
「…………それは出来ない頼みですね。私がここにいる事は目を瞑ってもらいたいところですが…………そうもいかないようですね」
「当たり前でしょ?友達の窮地を見過ごす人間がいると思って?その子を置きなさい!」
私が大きな声を出したと同時に男がロザリアを抱えながら走ってきて、突進してきたっ――
私は護身術を習っていたので、何とかかわしたのだけど……ドレスが重くてバランスを崩す――逃すものか――――咄嗟に男の足にしがみつき、時間を稼ぐ。男は私を引きずった状態で扉から出て行こうとする。
「…………っく…………放せ!」
「っ放すものですか!誰か――!!」
男は足を思い切り振り払って、私を廊下の方へ吹っ飛ばした。私は床に打ち付けられて身動きが取れなくなる…………そこへホールからの両開きの扉が開き、ヒョコっとヒルドが顔を出した。
「ヒルド!あの男がロザリアを!!」
男はヒルドの存在を確認してマズイと思ったのか、ロザリアを抱えて走り去ってしまう――――
ヒルドはすぐにその場からテオドールに伝えて、テオドールが男を追っていく――ヒルドは倒れている私の元に駆けつけてくれた…………
「ステファニー!どこか打ち付けたのかい?!どうしてこんな事に…………」
「ごめんなさい……ロザリアを守れなくて…………」
「喋らないで…………ステファニー……君は勇敢に戦って友達を守ろうとしたんだね…………ごめん、駆けつけるのが遅くなって――」
ヒルドの美しい目から涙が――――
「そんな顔しないで……あなたはどんな時も私の王子様よ。ずっと…………一番に駆けつけてくれる王子様だから……」
ヒルドが私を抱きしめながら「愛してる」ってずっと囁いてくれる声を聞きながら、私の意識は遠のいていった――
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