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第二章

舞踏会に到着

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 エントランスに下りる階段の下には、テオ様が正装をして立っていた。なんて素敵なの…………このお方が私の旦那様だなんて――


 いつもは無造作な髪の時が多いテオ様だけど、今日はサイドをまとめて前髪も綺麗に流している。フロックコートのカフは大きく、金糸や銀糸などの様々な絹糸を使われた織り柄が施されていて、黒の布地にいっそう映えているわ。

 ゴールドのウエストコートにも同様の織り柄が施されていて、ブリーチズもテオ様の鍛え上げられた脚のシルエットを美しく見せていた。


 いつもは鎧を着ている事が多くて、あまり貴族の服装を着ている姿を見る機会がない。もちろん一緒に夜会に行くのも初めてなので、正装姿を見るのが初めてなのは無理もないのだけど…………こんな姿を見たら、世の女性が放っておかないわね。舞踏会に行かせたくないというテオ様の気持ちが分かった気がする。


 私でもこんな独占欲があったなんて、自分の気持ちに驚きを隠せない。


 そして私のゴールドと赤の組み合わせのドレスと、自身の服装の色味を合わせてくれたんだなと思うと、夫婦なんだと実感して胸が温かくなった。
 


 「テオ様………………」


 
 エリーナに手を引かれて階段を下りて行くと、テオ様が気付いてこちらを見上げた。目を細めてこちらを見つめている…………大丈夫かしら…………ちゃんと満足していただけたかしら――――

 舞踏会に出席するよりも緊張するかもしれない。旦那様に喜んでもらいたい――



 最後の階段の数段前にテオ様が上ってきて、エリーナに代わって手を引いてくれる。スマートに引き寄せて、私の手の甲に口づけした。



 「ロザリー………………美しすぎて上手く言葉が出て来ない。私がエスコートしてもよろしいのですか?」

 「喜んで……テオ様もとても素敵ですわ。言葉にならないくらい…………」

 「良かった。嬉しいよ…………では、行こうか」

 「はい!」


 私は笑顔で返事をして、馬車で王宮へと向かった。


 王宮への道のりは3時間ほどかかったけど、道は整備されている街道だったので大きな揺れもなく、快適な馬車の旅だった。馬車の中では何度もテオ様が私の頬にキスをして、舞踏会に行きたくない、と呟いていた。


 「テオ様ったら、そういうわけにはいきませんわ」

 「…………自分で贈っておいて悪いとは思うけど、こんな姿の君をみたら………………」

 「……私も同じ気持ちです。テオ様があんまり素敵だから、女性が寄ってくるだろうなって思うと……テオ様のお気持ちが分かってしまいました。でも皆に見せたい気持ちもあるのです。こんなに素敵なお方が私の旦那様ですって…………」

 「旦那様…………ロザリー、もう一度旦那様って言ってくれないか」


 「…………旦那様」


 お願いされたので旦那様と呼ぶと、テオ様は顔を赤くして喜ばれている……そんなに嬉しいものなのかしら…………テオ様が喜ぶなら何度でも呼んであげたい。


 「旦那様、今宵の舞踏会は存分に楽しみましょう」

 「あ、ああ…………そうだね……」


 赤い顔をして返事をしてくれるテオ様が可愛らしくて笑ってしまう。いつの間にか馬車は、王宮が見える場所まで来ていた。



 ~・~・~・~



 馬車から見る初めての王宮は、壮麗で美しく、リンデンバーグとは国力が全く違うという事が良く分かる。華美でありながら、防衛機能もある作りになっていて、このような国に攻撃をしかけていた母国の事を考えて頭が痛くなった。きっと愚かな国だと思われているでしょう…………そこからやってきた、14歳の第5王女。


 この国の貴族がそのような王女を妻にしたテオ様をどのような目で見ていたのか……考えただけで胸が痛む。


 もしテオ様が私を見つけてくれなかったら、もし陛下がこの結婚を許可してくださらなかったら…………今日は陛下に感謝を述べなければならないわね。


 私はもう14歳の子供ではなく、16歳になって社交界の仲間入りをするのだから、妻として恥ずかしくないように背筋を伸ばして堂々としていなければ――


 私とテオ様は馬車を下り、従者が案内をしてくれて、舞踏会が行われるホールの入口まで連れて行かれた。案内されている途中に中庭と思われる場所が王宮の中央にあり、月明りに照らされていて、とても素敵だった。

 後で息抜きに来てみたいわ……そんな事を考えながら、入口で名前を呼ばれるのを待つ。


 『ベルンシュタット辺境伯様とその奥方様がご到着なさいました!』


 大きな両開きの扉がゆっくりと開かれる…………私はテオ様の腕に手をかけ、二人で入場した。



 周りの貴族たちが一斉に私たちの方を見る――――もの凄い注目されているわ……皆ザワザワしていて、あのリンデンバーグの王女……という言葉が聞こえてきたのでビクッとしてしまう。覚悟はしてきたけど、いざ耳にすると耳が痛いものね…………テオ様はそんな私に気付いて、私の手を取りホールにいる自身とお付き合いのある方に紹介して回ってくれた。


 テオ様とお付き合いのある方は私に好意的で、変な態度を取られる事はなかった。


 良かった…………と胸を撫でおろした時、ステファニー様とヒルド様の名前がアナウンスされ、また一段とホールの雰囲気が色めき立った――――

 
 
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