25 / 43
第二章
舞踏会に到着
しおりを挟むエントランスに下りる階段の下には、テオ様が正装をして立っていた。なんて素敵なの…………このお方が私の旦那様だなんて――
いつもは無造作な髪の時が多いテオ様だけど、今日はサイドをまとめて前髪も綺麗に流している。フロックコートのカフは大きく、金糸や銀糸などの様々な絹糸を使われた織り柄が施されていて、黒の布地にいっそう映えているわ。
ゴールドのウエストコートにも同様の織り柄が施されていて、ブリーチズもテオ様の鍛え上げられた脚のシルエットを美しく見せていた。
いつもは鎧を着ている事が多くて、あまり貴族の服装を着ている姿を見る機会がない。もちろん一緒に夜会に行くのも初めてなので、正装姿を見るのが初めてなのは無理もないのだけど…………こんな姿を見たら、世の女性が放っておかないわね。舞踏会に行かせたくないというテオ様の気持ちが分かった気がする。
私でもこんな独占欲があったなんて、自分の気持ちに驚きを隠せない。
そして私のゴールドと赤の組み合わせのドレスと、自身の服装の色味を合わせてくれたんだなと思うと、夫婦なんだと実感して胸が温かくなった。
「テオ様………………」
エリーナに手を引かれて階段を下りて行くと、テオ様が気付いてこちらを見上げた。目を細めてこちらを見つめている…………大丈夫かしら…………ちゃんと満足していただけたかしら――――
舞踏会に出席するよりも緊張するかもしれない。旦那様に喜んでもらいたい――
最後の階段の数段前にテオ様が上ってきて、エリーナに代わって手を引いてくれる。スマートに引き寄せて、私の手の甲に口づけした。
「ロザリー………………美しすぎて上手く言葉が出て来ない。私がエスコートしてもよろしいのですか?」
「喜んで……テオ様もとても素敵ですわ。言葉にならないくらい…………」
「良かった。嬉しいよ…………では、行こうか」
「はい!」
私は笑顔で返事をして、馬車で王宮へと向かった。
王宮への道のりは3時間ほどかかったけど、道は整備されている街道だったので大きな揺れもなく、快適な馬車の旅だった。馬車の中では何度もテオ様が私の頬にキスをして、舞踏会に行きたくない、と呟いていた。
「テオ様ったら、そういうわけにはいきませんわ」
「…………自分で贈っておいて悪いとは思うけど、こんな姿の君をみたら………………」
「……私も同じ気持ちです。テオ様があんまり素敵だから、女性が寄ってくるだろうなって思うと……テオ様のお気持ちが分かってしまいました。でも皆に見せたい気持ちもあるのです。こんなに素敵なお方が私の旦那様ですって…………」
「旦那様…………ロザリー、もう一度旦那様って言ってくれないか」
「…………旦那様」
お願いされたので旦那様と呼ぶと、テオ様は顔を赤くして喜ばれている……そんなに嬉しいものなのかしら…………テオ様が喜ぶなら何度でも呼んであげたい。
「旦那様、今宵の舞踏会は存分に楽しみましょう」
「あ、ああ…………そうだね……」
赤い顔をして返事をしてくれるテオ様が可愛らしくて笑ってしまう。いつの間にか馬車は、王宮が見える場所まで来ていた。
~・~・~・~
馬車から見る初めての王宮は、壮麗で美しく、リンデンバーグとは国力が全く違うという事が良く分かる。華美でありながら、防衛機能もある作りになっていて、このような国に攻撃をしかけていた母国の事を考えて頭が痛くなった。きっと愚かな国だと思われているでしょう…………そこからやってきた、14歳の第5王女。
この国の貴族がそのような王女を妻にしたテオ様をどのような目で見ていたのか……考えただけで胸が痛む。
もしテオ様が私を見つけてくれなかったら、もし陛下がこの結婚を許可してくださらなかったら…………今日は陛下に感謝を述べなければならないわね。
私はもう14歳の子供ではなく、16歳になって社交界の仲間入りをするのだから、妻として恥ずかしくないように背筋を伸ばして堂々としていなければ――
私とテオ様は馬車を下り、従者が案内をしてくれて、舞踏会が行われるホールの入口まで連れて行かれた。案内されている途中に中庭と思われる場所が王宮の中央にあり、月明りに照らされていて、とても素敵だった。
後で息抜きに来てみたいわ……そんな事を考えながら、入口で名前を呼ばれるのを待つ。
『ベルンシュタット辺境伯様とその奥方様がご到着なさいました!』
大きな両開きの扉がゆっくりと開かれる…………私はテオ様の腕に手をかけ、二人で入場した。
周りの貴族たちが一斉に私たちの方を見る――――もの凄い注目されているわ……皆ザワザワしていて、あのリンデンバーグの王女……という言葉が聞こえてきたのでビクッとしてしまう。覚悟はしてきたけど、いざ耳にすると耳が痛いものね…………テオ様はそんな私に気付いて、私の手を取りホールにいる自身とお付き合いのある方に紹介して回ってくれた。
テオ様とお付き合いのある方は私に好意的で、変な態度を取られる事はなかった。
良かった…………と胸を撫でおろした時、ステファニー様とヒルド様の名前がアナウンスされ、また一段とホールの雰囲気が色めき立った――――
2
お気に入りに追加
1,044
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる