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第二章
スカイランタンに願いを
しおりを挟む「…………ヒルド……手を離せ……」
テオ様が私とブルンヒルド様を引き離してくださったので、とても助かったわ…………気軽に女性とスキンシップなさるお方なのかしら……
「なんだい、手の甲にするのは挨拶だよ~皆しているだろ?減るわけでもないし」
「減る。とにかく妻に触るのは禁止だ」
ブルンヒルド様に触られた私の手の甲を払うテオ様に笑ってしまう。時々子供みたいなところがあって、やっぱりクマさんのように思ってしまう時があるわ――
「ヒルド、今日はどのようなご用で来たのです?」
「うん?だからこのお祭りに……」
「そのような戯言は、私とテオドールには通用しませんわ。何か思惑があっていらしたのでしょう?」
ステファニー様は確信を持って聞いていて、お祭りの為に来ているという言葉を信じていた私は驚いた。きっとテオ様も気づいているのよね。
「お前の事だから、お祭りを口実に私の妻を見に来たのだろう?」
「……………………まあね、だってテオドールがいつまで経っても紹介してくれないからさ~~ステファニーはもう仲良くなっているし私だけ除け者は酷いよ……」
そう言っていじけている殿方を見るのも初めてで、驚きの連続だわ……
「あの…………ブルンヒルド様。よろしければご一緒に回りませんか?きっとテオ様もステファニー様もお喜びになると思います」
「…………だよね!そうだと思うんだ~ロザリアは優しいね!皆で一緒に回ろう~」
突然テンションが上がるのでびっくりしてしまう事が多いけど、賑やかな人……なのよね?
「はぁ…………では行きましょう、ヒルド」
ステファニー様はブルンヒルド様の襟を掴んで引っ張って行った……ステファニー様、男前だわ。そうだ、テオ様に確認しなければ。
「テオ様………………あのお方がステファニー様の想い人、なのですよね?」
私がこっそりテオ様に聞くと「ああ……そうだよ」と答えてくださった。やっぱり――――でも二人には微妙な距離があるような……
「あいつはあいつなりにステファニーを気遣っているんだ。多分大切だからこそ…………」
ああ、そうなのね…………ブルンヒルド様はきっとステファニー様の為に距離感を間違えないようにしていらっしゃるんだ。ステファニー様との関係を壊さないように…………お互いに特別だと思っているのに恋人には発展しないなんて、もどかしいような――
その後、皆でカフェに入ってお茶をしたり、バルーンアートの出し物を見たり、お土産を買ったりしていると、あっという間に日が落ちてきて夜が近づいてきた。
確か夜にはスカイランタンを飛ばすイベントがあるとテオ様が仰っていたと思う。どういうものか想像も出来ずにいたので、私はそれをとても楽しみにしていた。
「スカイランタンを飛ばすのは、あの広場で行われるんだ」
「わぁ…………沢山人が集まっていますね!」
「私もスカイランタンを飛ばすのは初めてだわ」
ステファニー様も楽しみにしている事が伝わってくる。
「楽しみですね!」
「ええ…………スカイランタンには願い事を書いて飛ばせるのよね?ロザリアは何をお願いするか考えている?」
「はい……もう決まってます。ステファニー様も決まっていますか?」
「……………………ええ、叶いそうもないけど……どうしようかなって迷い中……」
きっとブルンヒルド様の事よね……横顔がとても切ない。なぜ叶いそうもないのか、ステファニー様の心の奥の事を私が根掘り葉掘り聞く事は出来ない。でも願わずにいられない、ステファニー様のお願いが叶う事を――
「あそこでスカイランタンを配っているな…………皆の分も取ってこよう。ちょっと待っていてくれ」
「はい」
テオ様を待っている間、ステファニー様とブルンヒルド様がお話している。ブルンヒルド様はステファニー様と話している時はとても楽しそうで…………二人を見ていると…………あれ?……………………もしかして……………………私の考えが間違っていなければ、ブルンヒルド様は――――――
「……皆の分を取ってきたよ。ここに願い事を書いて、真ん中の蝋に火を付けて飛ばすんだそうだ」
「ありがとうございます。あの…………テオ様。お聞きしたい事が……」
私はステファニー様とブルンヒルド様に聞こえない場所で、テオ様に二人の事を聞いてみる事にした。
「ブルンヒルド様は…………もしかしてステファニー様の事がお好きなのでは?」
「……ロザリアも気付いたか?二人は本当は想い合っているんだ……」
やっぱり――――ブルンヒルド様はステファニー様に触りそうになると手を引っ込めて、ずっとそれを繰り返しているから、もしかしてと思ってテオ様に確認してみたのだけど……ステファニー様に触れられないのに他の女性には触れるっていうのも――――
「ちなみにステファニーもそれには気付いていて、ヒルドが自分に気を遣い過ぎている事で全然進展しないから、もう諦めかけているんだ……」
「え………………それは……どうしてブルンヒルド様はステファニー様にそこまで気を遣うのですか?」
「ステファニーは昔から綺麗で有名だったから、言い寄ってくる男が後を絶たなくて、付きまとわれていた事があってね。行き過ぎたヤツに襲われて恐怖が抜けなくて……その時に助けに入ったのがヒルドだったんだけど、ヒルドの手も振り払ってしまった事で二人が気まずくなってしまったんだ。もう何年も前の事だし、ステファニーの方はその時の恐怖は克服したから大丈夫なんだろうけど、ヒルドの方が重症だったんだな……未だに引きずっている」
「………………きっとブルンヒルド様は、ステファニー様の事が本当に大切なんですね。次に拒否されたら、もう立ち直れないと考えているのかもしれません……」
そういう気持ちなら私はよく分かるから……大切だからこそ臆病になってしまうのよね。お二人の気持ちが早く通じるといいな――――
「まったく、もういい大人なのに……いつまで昔のままでいるつもりなのか。ステファニーはヒルドを追いかける為に婚約解消をしたいと言ってきたというのに」
ステファニー様とブルンヒルド様が二人で仲良く願い事を書いている姿を見て、私はランタンの願い事を変える事にした。きっと私たちの事はテオ様が書いてくださると思うから――
――――皆の想いが通じますように――――
中央の蠟に火を付けるとランタンが浮いて、飛んで行く――――それと同時にバルーンも一緒に飛び立っていく――
これからの未来に想いを馳せながら、テオ様と一緒にスカイランタンやバルーンがどこまでも飛んで行く様子を飽きる事なくずっと見ていた。
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