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第二章
城下町へ
しおりを挟む約束通り、ステファニー様は一月後にやってきた。沢山の手荷物を抱えて…………
「その手荷物はなんだ?」
テオ様が訝しみながら聞くと、ステファニー様は得意げに「ロザリアの今日の衣装よ!」と鼻息を荒くして返した。私の服?!
「ロザリアの服なら自室に沢山用意している……」
「分かってないわね、服のデザインってすぐに移り変わっていくものなのよ。最新のデザインの服を持ってきたのだから、あなたも喜ぶと思うのだけど?」
「…………………………」
「ステファニー様、とっても嬉しいです。ありがとうございます!」
私の為にわざわざ用意してきてくれたのが嬉しい…………私は素直に感謝の気持ちを述べた。この服たちを持ってくるのはとても大変だったに違いないと思う。
「ロザリア……ありがとう。可愛らしく仕上げてみせるわ、任せて!」
「はい!」
私が嬉しそうだったので、それ以上テオ様は何も言ってくる事はなかった。テオ様ごめんなさい。でも可愛らしくコーディネートしてもらえたら、テオ様を喜ばす事が出来ると思って……私、頑張ります!
そうして準備に一時間ほどかかり、エントランスではテオ様が待っていてくれた。
城下町に行くという事で、動きやすいシュミーズドレスにストローハットを被り、ブーツを履くという軽装だったけど、シュミーズドレスの裾は足首付近までの長さでとても綺麗な装飾が施されていた。
スカートや袖の裾には蝶の刺繍が幾つも施され、そこに宝飾が散りばめられていて、布は裾に向かってピンクのグラデーションになっている。腕はジゴ袖でとても腕が動かしやすい……それでいて美しい刺繍が入っているのでオシャレで可愛らしいわ。
ストローハットのリボンも赤に近いピンクで、テオ様の髪色のようでとても気に入ってしまった――
髪はエリーナによって結い上げられてはいるものの、襟足の部分は残して巻いている。
ステファニー様がお化粧もしてくれて……
こんなにオシャレをして出かけた事がないから、少し緊張してしまう。テオ様に変に思われないかしら――
階段を降りていくと、テオ様は少し上ってきて片手を差し出して迎えてくれた。
「……いかがですか?」
「………………うん、とても……美しい…………外に出したくないな……」
「テオ様…………良かった」
私が笑顔で応えると、突然抱きかかえられてしまう。
「このまま部屋に連れて閉じ込めてしまいたい」
「ちょっとテオドール、それじゃオシャレをした意味がないじゃない!」
後ろから少し怒り気味のステファニー様の声が聞こえる。でもテオ様が喜んでいる姿を見て、コーディネートが成功したという事で嬉しそうでもあるわ――
「ふふっテオドールの溺愛具合が見られて面白いわ。ロザリア、美しいでしょう?私がコーディネートして良かったと思わない?」
「………………不本意だが、そうだな……感謝しなくては」
「うふふ。では城下町に行きましょう」
「はい!」
~・~・~・~
城下町はバルーンアート祭りを開催中とあって人が溢れていて、そこかしこにバルーンで作った装飾が施してあったり、景品やお土産として売っている物もあった。年に1回開催されるこのお祭りには、国中から人が集まるってテオ様が教えてくださった。
もの凄い人が来ているのね…………皆とはぐれないようにしなきゃ。
「何かほしい物があれば、遠慮なく言ってほしい。記念に買って帰ろう」
「いいんですか?嬉しいです…………こういうお祭りが初めてなので……」
大きなバルーンアートも欲しいけど、お土産で売っているバルーンで作った動物が可愛くて欲しいなぁ――やっぱり自分はまだお子様なのかしら――――
「あそこのお店に入ってみましょうよ」
ステファニー様が指を指したのは、バルーンで作られたお家だった。これはお店?入ってもいい物なのかしら?もの凄い量のバルーンだわ……テオ様は入れるのかしら――
そんな事を考えながらドアのようなものを開いてみると、中は子供たちの遊び場になっていた。これはさすがに私たちが入っていい場所ではないわね。ステファニー様も察したようで、渋々諦めていらっしゃった。その姿が可愛らしくい…………普段は勝気なのに子供のような魅力のあるお方だわ――
そんな事を考えながらステファニー様を見つめていると、後ろから私たちに向かって声が聞こえていた。
「おや?そこにいるのは我が親友のテオドールとステファニー嬢ではないかな?」
「?!」
皆が驚いて振り返る…………そこにはテオ様と負けず劣らず背が高く、体付きこそ少し細めではあるけどスマートな男性が優雅に立っていた。エメラルドブルーの長めの髪を後ろで束ね、サイドを少し残していかにも知的な雰囲気を醸し出している。
女性が寄ってきそうな甘いルックスで、道行く人々が振り返っていた――ただ立っているだけなのにここまで目立つお方はテオ様以外では初めて見たわ――――
そう言えば我が親友と仰っていたし、ステファニー様とお知り合いという事は…………
「……なぜお前がここにいるんだ、ヒルド…………」
「………………ヒルド……」
「なんだい、皆幽霊でも見たかのような目で見ないでおくれ。年に1回のお祭りなんだから私が来ていても不思議ではないだろう?」
私はヒルドと呼ばれているお方の話を聞いて、頭が混乱していた。公爵様がお祭りに来るのは当たり前の事なのかしら?
「ヒルド…………お前は相変わらずだな……妻が混乱しているから、ふざけるのはその辺にしておいてくれ」
「妻?ああ!ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はブルンヒルド・ベルジテックと申します。お見知りおきください……」
「あ……私はロザリアと申します。よろしくお願いいたします」
テオ様のご親友とあって、私は深々と頭を下げてご挨拶した。きっとこれからお付き合いする機会も増えるでしょうし、しっかりとご挨拶しなくては――
すると突然ブルンヒルド様が私の手を取り、甲に口づけをするような素振りをしながら「テオドールの奥様がこんなに可愛らしい方だったなんてね~」と言って朗らかに笑ったので、驚いて固まってしまう――
テオ様と正反対のお方にどう対応したらいいのか分からないまま、私は立ち尽くしていた。
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