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第一章
私の幸せ
しおりを挟む「テオドール……様?」
「…………ロザリア………………すまない……」
目覚めると目の前にはテオドール様がいて、私は強く抱きしめられていた……これは自分の都合のいいように作り替えられた夢なのかもしれない。そう思うと往生際が悪い自分がまた情けなくて涙が出てくる。
リンデンバーグにいた時は色んな事を諦める癖が付いていて、諦める事は簡単だった。むしろその方が楽で、とても生きやすい。
いつから私はこんなに欲張りになってしまったのだろう――――
テオドール様を諦める事がこんなに困難な事だったとは。
「…………テオドール様………………ごめんなさい。沢山ご迷惑をおかけしていたのですね。それに気付かずにのうのうと過ごしていたなんて……私は自分を許せなくて」
「君が謝る事ではない…………私がちゃんと説明をしていなかった事が原因なんだ」
「いいのです、テオドール様は私に伝えにくかったのでしょう?お気持ちは分かります…………自分がどうするべきかも分かっていますから」
私は両手をぎゅっと握りしめて、下を向く。そこへテオドール様がご自身の手を握りしめた私の手にそっと乗せた。
「……そうやって自己完結しないでほしい。私たち二人の事なのだから、二人で決めるべき事だ。ひとまず私の話を聞いてほしいんだ…………その上で君の考えを聞かせてもらいたい」
「………………分かりました……」
私がそう言うと、テオドール様が「ありがとう」と少し苦し気な表情で言ってくださった。
そしてテオドール様は、自身の事を沢山お話してくれた…………ご両親の事、幼い頃に婚約させられたけど色々と面倒だからそのままにしていた事、婚約者には想い人がいて婚約の必要がなくなった事、私との出会いを元婚約者が喜んでくれて、今も応援してくれている事…………
「…………テオドール様はまだ、ステファニー様の事を想っていらっしゃるのですね?」
「………………え?…………いや、どうして?」
「ステファニー様に想い人がいるから婚約解消したのであって、本来ならまだ婚約していたかったのでは…………」
「いや、いやいやいやそうではない。私にも今は想い人がいるのだから…………」
やっぱりテオドール様にも想い人がいるんだ……勘違いするところだった……
「では、その想い人と幸せになってください……」
「…………分かった、じゃあそうさせてもらうよ……」
ああ、これでお別れなんだ…………そう思ったら涙が滲んできて顔を下に向けた。するとテオドール様の両手が私の顔を挟み、上を向かせたと思ったら、そのままキスをしてきて――――
私は一瞬何が起こったのか分からず、瞬きもせずに目を見開いて固まってしまう。
少しの間触れただけの唇は、名残惜しさを残しながらゆっくりと離れていった。
「………………テオドール様…………」
「…………私の想い人は君だ。私を幸せに出来るのもロザリア………………君しかいないんだよ」
私が放心していると、テオドール様が自身の額を私の額にコツンと触れ合わせてきて、ゆっくり話始める。
「…………色々と誤解をさせてすまない。でも私の気持ちだけは誤解しないでほしいんだ。君をあの森で見つけた日から、私の気持ちは君にしか向いていない…………今もずっと、これからも。私の幸せを想うなら、ロザリア……………………私の元からいなくならないでほしい……」
苦しい表情は変わらなかったけど、テオドール様の目は熱を帯びていて、愛おしい者を見る目を向けてらっしゃる――――これは自分に都合のいい夢ではないだろうか――
そう思ってテオドール様の手に頬を擦り寄せてみても、しっかりと感触があるわ。これは夢じゃないのね――
「…………嬉しい。私もテオドール様が大好きで…………どうしても一緒にいたいのです」
泣き笑いのような顔をしてしまったけど、私がそう言うとテオドール様は今までで一番の笑顔をくださった。
私の幸せはテオドール様の幸せだから、この笑顔を見られただけで、もう一生分の幸せをもらったような気持ちになっていた。
「ロザリー……って呼んでいいかい?そろそろ私の事も愛称で呼んでもらいたい…………まだダメ、かな……」
テオドール様を愛称で…………テオドール…………でもテオドールだと、あの綺麗な女性も呼んでいるし、同じは嫌だなって気持ちが湧いてしまう。
「……じゃあ、テオ…………様……で………………」
「テオ様…………うん、いいね。それでいこう、じゃあもう1回呼んでみてほしい」
「…………テオ様」「もう1回」「テオ様」
何度もこんなやり取りをすると慣れてきたのか、恥ずかしさはなくなってきた。
「ロザリー…………君を愛している。だからこそ、話しておかなくてはならない事があるんだ…………君と距離を置いていた事について」
私はテオ様と仲直り出来た事ですっかり忘れていた事を思い出した。そう言えば距離を置いているって言われていたのだわ――
「あれはね……君に抱き着かれると…………その………………私は君がほしくなってしまうんだ。」
テオ様が顔を真っ赤にして手で顔を覆いながら話してくれる内容は、私には考えもつかない驚きの内容だった。
「私も男だからね…………愛する女性に抱きつかれてしまうと、たまらなくなってしまう。それは許してほしい…………君が成長期なのもあって余計に触り心地が…………まぁ、この話はいいだろう。そういうのもあって君を避けていたというより、君に近づかないようにしていたんだ」
私をそういう対象として見てくれている事に喜びを感じつつ、顔に熱が集まって真っ赤になってしまう。私がまだ15歳で社交界にもデビューしていない事を考えると……確かにそういう事態は避けるべきなのかもしれない――
「私としては君が16歳になって社交界デビューをして、盛大な式を挙げてから初夜を迎えたいと考えていて……その話を君にしていないが為にこのような誤解を生む事になってしまった。本当にすまないと思っている……」
テオ様が私に頭を下げてくださっているけど、そんなお話を私にする事はとても勇気がいると思うから、怒る気にはなれなかった。むしろそんなに大事に考えてくれている事が嬉しくて……感謝を述べずにいられない――
「テオ様が謝らなくていいのです。それほどに大事に考えてくれていて……とても嬉しいです」
私のありったけの感謝の気持ちを伝える為に笑顔でそう伝えたら、テオ様が私をぎゅうぎゅうと抱きしめながら「早く式を挙げたい……」と呟くので、久しぶりに心から笑って幸せな気持ちでいっぱいになった。
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