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第一章

成長期

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 「旦那様!」

 「……テオドール様…………お、お仕事は……」


 「今日は早めにあがれたから、お昼は君と食べようと思って帰ってきたんだ。厨房にいるって聞いて来てみたら、皆で楽しそうにしているから声をかけようか迷ったんだけど……私も仲間に入れてほしいな」


 まさかこんなに早く帰ってくるなんて…………夜にお出ししようと思っていたけど、今出してしまおうかしら。


 「まぁまぁ、なんてグッドタイミング!では奥様、焼き立てを食べていただいたら、いかがです?」

 「ロザリア様、それがいいと思います!」


 グリンゴールもエリーナも顔を輝かせて勧めてくる。二人とも私と同じ事を考えていたのね。


 「じゃあ、そうしようかしら……」

 「うんうん、旦那様!たった今、奥様がお作りになったパンを焼いているところなんです~お昼はそれにいたしましょう!」

 「ロザリアがパンを作ったの?……それは楽しみだな~」


 テオドール様がとても嬉しそうに笑ってくださるから、パンを作って良かった…………こういう仕草1つ1つに救われてホッとする。テオドール様は嫌がらないから……自分がここにいる事を赦されている感じがして、嬉しい気持ちでいっぱいになる。


 「上手に出来ているかは分かりませんが……食べてもらえたら嬉しいです」


 私の感謝の気持ちが少しでも伝わってほしいな……そう思って笑っていると、テオドール様が私を例のごとく抱き上げて「パンが焼けたら私たちの部屋に運んでくれ」と言って、厨房を後にする事になった。



 「テ、テオドール様?」

 「…………どうしてパンを焼こうと思ったの?」


 「…………テオドール様に日頃の感謝の気持ちを表したくて……パンがお好きだと言ってらっしゃったから、沢山作ってあげたら喜ぶかなと……ダメ、でしたか?」

 「…………………………」


 テオドール様が片手で顔を覆っている…………ダメだったのかしら……なんだか困らせてしまっているみたい。


 「ご、ごめんなさ……」

 
 私が謝ろうとした瞬間、人差し指を私の唇に当てて言葉を遮った。


 「…………謝らないで、嬉しいんだから。とても嬉しくて言葉が出てこないくらい」


 ああ、このお顔は喜んでいらっしゃるお顔だわ…………良かった…………このお顔が見たくて頑張ったから、グリンゴールに感謝しなくては。

 
 テオドール様は体は大きいけど普段はとても穏やかで、私はクマさんのようだと思っていて……笑っているお顔がとても可愛い。男性に可愛いだなんて失礼よね……しかも私みたいに年齢が遥かに下の女性に。

 でも可愛いと思ってしまう。そして時々お顔を抱きしめたくなる衝動に駆られるの……我慢するのが大変。


 そんなやり取りをして夫婦の部屋に到着すると、ソファに腰を掛けるけど、私は膝に乗せられたままの状態だった。最近はもうこれが定位置になってきていて、食事の時以外はこんな感じでいる事が多い。


 テオドール様は重くないのかしら…………私はこのお城に来てから、かなり増量したと思う。


 そして何より成長期なのか、胸が…………どんどん大きくなっていて、それにも困っていた。来ている服はキツくなってきているし、胸のサイズが合わなくて苦しい時も。

 これだけ増量しているのだから、絶対にテオドール様は重いはず。私は意を決して聞いてみた。


 「テオドール様、いつも膝に乗せてくださいますが、重くはありませんか?」

 「ん?全然?重いと思ったことはないな」


 「………………私、ここに来てからとても重くなっています……自分でも分かりますし、重くないなんて事は……」

 「軽いよ。すっごく…………まだまだ沢山食べないと、成長期なんだから。」


 私は驚いた、私が成長期なのを分かっていらっしゃるのね…………テオドール様の観察力に関心してしまう。


 「よく分かったって顔をしているね。分かるよ、君の事なら誰よりも…………それに目線も変わってきたしね。膝に乗せた時の目線が変わっているし、一年で随分伸びたんだなって思っていたんだ。私は体格がいいし力もあるから、重さなんかは気にする必要はないよ」

 「…………グリンゴールのお料理が美味しすぎて……彼にはお礼を言いました。いつもとても美味しい料理を毎回出してくれるから……今日パンを作ってみて、料理って凄く大変なんだなって感じたんです。」

 「うん……」

 「でも出来上た時の喜びが大きくて…………またテオドール様の為に作ってもいいですか?」


 「…………………………」


 テオドール様がまた手で顔を覆われてしまった…………これは嬉しい時の表現だったかしら……


 「……ごめん、嬉しくて」


 やっぱり。良かった……謝らなくて。ふにゃりと笑ってそう言ってくれたので、私はホッとして笑い返す。

 そこへグリンゴールが焼き立てのパンを運んでくれた。


 ――――コンコン――――


 「旦那様、奥様、焼き上がりました~~とっても香ばしい焼き上がりです!」

 「わあ…………美味しそう!成功したのね、グリンゴール!」

 「はい!奥様はパン作りの才能がおありですね~最初からこんなに上手に出来るなんて、素晴らしいです!」


 私とグリンゴールは喜びのあまり二人で手を取ってはしゃいでいると、テオドール様に腕を引かれて、また膝に乗せられる形になってしまう。


 「ロザリアは、教えればきっと何でも出来るようになるよ。私が教えてもいい」

 「旦那様……大人げないです…………」


 グリンゴールに大人げないと言われたテオドール様は、顔を赤くしてパンを頬張り始めた。そして顔を輝かせて美味しいと褒めてくださったのだった。


 
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