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第一章
旦那様を喜ばせたい
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15歳の誕生日に贈られたガーネットの首飾りは、ジュエリーケースに入れて大切に飾っている。
「綺麗………………」
思わず声が漏れてしまう…………ずっと眺めていてもいいくらい。まだ社交界デビューもしていない身で、付けていく機会もない。でも16歳になったら…………そんな淡い期待も出来るようになってきた自分に驚きを隠せないでいた。
前は追い出されないように必死だったのに――――今は未来の事を考えて希望を抱いている。
それもこれもテオドール様の優しさのおかげね。感謝してもしきれない。私に対しての気持ちが例え恋じゃなくても家族愛でもいい、そばにいたい。そしてテオドール様を幸せに出来たら――
私が出来る事は限られているけど、テオドール様が笑ってくださる事をしたい。
「ふふっロザリア様は時間があればずっと見ていますね~」
「だって、本当に綺麗だから…………私の誕生石が入っているのよ。ガーネット……どうして私の誕生日を知っていたのかが分からないんだけど…………」
「そりゃあ愛の力じゃないですか?旦那様はロザリア様には甘々ですもんね!」
「………………………………それはきっと家族愛よ」
私がそう言うと、エリーナが心配して顔を覗き込んできた。
「ロザリア様?本当にそう思っていらっしゃるわけじゃないですよね?」
「………………………………」
エリーナは納得出来ないといった顔をしているわ……でもテオドール様には、想い人がいらっしゃるって聞いた事があるの。お兄様が言っていたけど、このお城に来た時もその話は聞いた事があるから、本当なんだと思う…………侍女たちが噂しているのを偶然聞いてしまったから。
確か名前はステファニー・ドゥカーレ伯爵令嬢だったわ。
テオドール様の昔馴染みで20歳、結婚の約束をしていたとか…………私は二人の仲を裂いてしまったのかもしれない。私が来たせいで二人は結婚出来なくなったんだとしたら…………テオドール様の為に離縁してあげる事が彼の幸せなんだろうか。
でも私にはここの生活がとても幸せで離れがたくて…………真実を確かめる勇気がない。そんなところもお子様なんだと痛感する。
テオドール様の幸せを願いながらも失いたくないという相反する気持ちがせめぎ合う。いつか真実を確かめて、解放してあげられる日がくるかしら。
それまではおそばにいて、一緒に笑っていたいな…………
そうだ、テオドール様はパンが好きと言っていたわ!沢山焼いたら喜んでくれるかしら……エリーナに相談してパンの焼き方を教えてもらいましょう。
「ねぇ、エリーナ。パンの焼き方を教えてほしいの!」
「え?!パン……ですか?」
「ええ、テオドール様がパンをお好きだと言っていたから、自分で作って振る舞いたいなって思って……」
「それはお喜びになりますね!料理長に話してきます!」
そう言ってエリーナはバタバタと走って行った。思いつきで料理長の手を煩わせるのは心苦しいけど、テオドール様に喜んでほしいから頑張りたい。エリーナが急いで戻ってきて、厨房を使わせてもらえるとの事で、私たちは厨房に移動した。
「こんにちは、料理長のグリンゴール。今日はよろしくお願いいたします」
「奥様、私めの名前を憶えてくださっているとは!こちらこそよろしくお願い致しますね~」
グリンゴールはとても恰幅の良い髭を蓄えた中年の男性で、料理も大好きだし食べる事も大好きだと言っていたわ。私とエリーナは動きやすい服装にエプロンを付けて、髪を全て結い上げて頭巾をかぶり、料理に入る態勢を整えた。するとグリンゴールがテキパキと材料を用意し、パン作りが開始される。
「まずはこの粉と塩と……そこにあるオイルと水を使いましょうね。こうやって粉っぽさがなくなるまで混ぜて……」
「この粉と、お塩と……オイルは…………このくらい?」
「もう少し!」
「もう少しね…………お水と…………このまま混ぜて…………」
うん、なんとか粉っぽさがなくなってきた?私の生地を見てエリーナが「ロザリア様、良い感じです~」と言ってくれる。
「ふむ、なかなかいい感じですぞ!ではこの生地をこの台の上に置いて……捏ねます」
「……はい…………こんな感じですか?」
台の上でグリンゴールさんと同じ捏ねてみた。すると生地が滑らかにまとまってきてまん丸になっていく。
「いい感じですね~~奥様は筋がいいです!」
「やったわ!エリーナ、私パン作りが好きになりそう」
「ロザリア様、良かったです~~」
上手く捏ねる事が出来て得意になってしまったわ……でも捏ねている間は無心でいられるから、パン作りは楽しいかも!
「では、この生地を一時的に発酵させますので、少し休憩しましょう。何か甘い物とお茶をご用意しますね~」
「ありがとう、グリンゴール」
パンってすぐに焼くのではないのね……1回発酵させなきゃいけないなんて。私が何気なく食べている物がとても手間がかけられていると知って、ますます料理をしてくれる方々に感謝の気持ちが湧いてくるわ。
「はい、お茶とブラウニーケーキです~」
「……グリンゴール、いつも美味しい料理をありがとう」
私は美味しいお茶をいただきながら、グリンゴールに感謝の気持ちを述べた。ここのお城に来てから、食べ物に困る事もないし、全部が美味しいからとても食べる量が増えたと思う。
そのお陰で、身長も少し伸びたし、体もふっくらしてきている……やっぱり栄養って大事なのね。
それもこれもいつも美味しい料理を作ってくれるグリンゴール達のおかげだわ。
「ど、どうしたのですか奥様……突然私のような使用人にそのような事を」
「だってグリンゴールの作る料理は本当に美味しくて、いつも食べ過ぎちゃうくらい。そのお陰で体の調子はいいし、食べ物に困らないってありがたいなって……お礼を言いたくなっちゃって」
「ロザリア様……」
エリーナは私のリンデンバーグでの生活を知っているから、きっと私の言いたい事を分かってくれているんだと思う。
「奥様…………私らが料理を作るのは仕事ですからいいんですが、私らのような者にそんな事を言ってくださるお方は奥様くらいですよ!ありがたいお話です…………」
グリンゴールは涙目で、頭を下げてきた。そんなに喜んでもらえるとは思わなくてびっくりしたけど、喜んでもらえたなら伝えて良かったって事ね。
「では、続きをしていきましょう!きっと奥様が作ったと知ったら旦那様はお喜びになると思いますからね!」
「……うん。だといいな…………この発酵した生地を5個に分けるのね?」
「はい。そして…………」
グリンゴールの教えの通りに作っていったら、かなり時間がかかったけど、なんとかパン焼き窯に入れるまで辿り着いた。
「パンって手間と時間がかかるのね!何回も休ませて発酵させたり……こうして作ってみないと、大変さが分からないものだわ。ありがたく食べないとね」
「奥様の手際がいいから、あっという間ですよ!このパンを夜に旦那様にお出ししましょう~」
「いいですね!」
「……ふふっ楽しみだわ」
窯に入ったパンを眺めながら、焼き上がりを想像するとワクワクが止まらない。
「何が楽しみなんだい?」
「ひゃっ!」
突然耳元で声がしたのでびっくりして、変な声が出てしまった…………振り向くとテオドール様がニコニコしながら立っていたのだった。
「綺麗………………」
思わず声が漏れてしまう…………ずっと眺めていてもいいくらい。まだ社交界デビューもしていない身で、付けていく機会もない。でも16歳になったら…………そんな淡い期待も出来るようになってきた自分に驚きを隠せないでいた。
前は追い出されないように必死だったのに――――今は未来の事を考えて希望を抱いている。
それもこれもテオドール様の優しさのおかげね。感謝してもしきれない。私に対しての気持ちが例え恋じゃなくても家族愛でもいい、そばにいたい。そしてテオドール様を幸せに出来たら――
私が出来る事は限られているけど、テオドール様が笑ってくださる事をしたい。
「ふふっロザリア様は時間があればずっと見ていますね~」
「だって、本当に綺麗だから…………私の誕生石が入っているのよ。ガーネット……どうして私の誕生日を知っていたのかが分からないんだけど…………」
「そりゃあ愛の力じゃないですか?旦那様はロザリア様には甘々ですもんね!」
「………………………………それはきっと家族愛よ」
私がそう言うと、エリーナが心配して顔を覗き込んできた。
「ロザリア様?本当にそう思っていらっしゃるわけじゃないですよね?」
「………………………………」
エリーナは納得出来ないといった顔をしているわ……でもテオドール様には、想い人がいらっしゃるって聞いた事があるの。お兄様が言っていたけど、このお城に来た時もその話は聞いた事があるから、本当なんだと思う…………侍女たちが噂しているのを偶然聞いてしまったから。
確か名前はステファニー・ドゥカーレ伯爵令嬢だったわ。
テオドール様の昔馴染みで20歳、結婚の約束をしていたとか…………私は二人の仲を裂いてしまったのかもしれない。私が来たせいで二人は結婚出来なくなったんだとしたら…………テオドール様の為に離縁してあげる事が彼の幸せなんだろうか。
でも私にはここの生活がとても幸せで離れがたくて…………真実を確かめる勇気がない。そんなところもお子様なんだと痛感する。
テオドール様の幸せを願いながらも失いたくないという相反する気持ちがせめぎ合う。いつか真実を確かめて、解放してあげられる日がくるかしら。
それまではおそばにいて、一緒に笑っていたいな…………
そうだ、テオドール様はパンが好きと言っていたわ!沢山焼いたら喜んでくれるかしら……エリーナに相談してパンの焼き方を教えてもらいましょう。
「ねぇ、エリーナ。パンの焼き方を教えてほしいの!」
「え?!パン……ですか?」
「ええ、テオドール様がパンをお好きだと言っていたから、自分で作って振る舞いたいなって思って……」
「それはお喜びになりますね!料理長に話してきます!」
そう言ってエリーナはバタバタと走って行った。思いつきで料理長の手を煩わせるのは心苦しいけど、テオドール様に喜んでほしいから頑張りたい。エリーナが急いで戻ってきて、厨房を使わせてもらえるとの事で、私たちは厨房に移動した。
「こんにちは、料理長のグリンゴール。今日はよろしくお願いいたします」
「奥様、私めの名前を憶えてくださっているとは!こちらこそよろしくお願い致しますね~」
グリンゴールはとても恰幅の良い髭を蓄えた中年の男性で、料理も大好きだし食べる事も大好きだと言っていたわ。私とエリーナは動きやすい服装にエプロンを付けて、髪を全て結い上げて頭巾をかぶり、料理に入る態勢を整えた。するとグリンゴールがテキパキと材料を用意し、パン作りが開始される。
「まずはこの粉と塩と……そこにあるオイルと水を使いましょうね。こうやって粉っぽさがなくなるまで混ぜて……」
「この粉と、お塩と……オイルは…………このくらい?」
「もう少し!」
「もう少しね…………お水と…………このまま混ぜて…………」
うん、なんとか粉っぽさがなくなってきた?私の生地を見てエリーナが「ロザリア様、良い感じです~」と言ってくれる。
「ふむ、なかなかいい感じですぞ!ではこの生地をこの台の上に置いて……捏ねます」
「……はい…………こんな感じですか?」
台の上でグリンゴールさんと同じ捏ねてみた。すると生地が滑らかにまとまってきてまん丸になっていく。
「いい感じですね~~奥様は筋がいいです!」
「やったわ!エリーナ、私パン作りが好きになりそう」
「ロザリア様、良かったです~~」
上手く捏ねる事が出来て得意になってしまったわ……でも捏ねている間は無心でいられるから、パン作りは楽しいかも!
「では、この生地を一時的に発酵させますので、少し休憩しましょう。何か甘い物とお茶をご用意しますね~」
「ありがとう、グリンゴール」
パンってすぐに焼くのではないのね……1回発酵させなきゃいけないなんて。私が何気なく食べている物がとても手間がかけられていると知って、ますます料理をしてくれる方々に感謝の気持ちが湧いてくるわ。
「はい、お茶とブラウニーケーキです~」
「……グリンゴール、いつも美味しい料理をありがとう」
私は美味しいお茶をいただきながら、グリンゴールに感謝の気持ちを述べた。ここのお城に来てから、食べ物に困る事もないし、全部が美味しいからとても食べる量が増えたと思う。
そのお陰で、身長も少し伸びたし、体もふっくらしてきている……やっぱり栄養って大事なのね。
それもこれもいつも美味しい料理を作ってくれるグリンゴール達のおかげだわ。
「ど、どうしたのですか奥様……突然私のような使用人にそのような事を」
「だってグリンゴールの作る料理は本当に美味しくて、いつも食べ過ぎちゃうくらい。そのお陰で体の調子はいいし、食べ物に困らないってありがたいなって……お礼を言いたくなっちゃって」
「ロザリア様……」
エリーナは私のリンデンバーグでの生活を知っているから、きっと私の言いたい事を分かってくれているんだと思う。
「奥様…………私らが料理を作るのは仕事ですからいいんですが、私らのような者にそんな事を言ってくださるお方は奥様くらいですよ!ありがたいお話です…………」
グリンゴールは涙目で、頭を下げてきた。そんなに喜んでもらえるとは思わなくてびっくりしたけど、喜んでもらえたなら伝えて良かったって事ね。
「では、続きをしていきましょう!きっと奥様が作ったと知ったら旦那様はお喜びになると思いますからね!」
「……うん。だといいな…………この発酵した生地を5個に分けるのね?」
「はい。そして…………」
グリンゴールの教えの通りに作っていったら、かなり時間がかかったけど、なんとかパン焼き窯に入れるまで辿り着いた。
「パンって手間と時間がかかるのね!何回も休ませて発酵させたり……こうして作ってみないと、大変さが分からないものだわ。ありがたく食べないとね」
「奥様の手際がいいから、あっという間ですよ!このパンを夜に旦那様にお出ししましょう~」
「いいですね!」
「……ふふっ楽しみだわ」
窯に入ったパンを眺めながら、焼き上がりを想像するとワクワクが止まらない。
「何が楽しみなんだい?」
「ひゃっ!」
突然耳元で声がしたのでびっくりして、変な声が出てしまった…………振り向くとテオドール様がニコニコしながら立っていたのだった。
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