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第一章

15歳の誕生日

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 テオドール様に改めて結婚を申し込まれ、翌日に教会で簡易な結婚誓約式を行った。神の前で結婚を誓い、書類にサインをするという儀式を終えると、ボルアネア国では正式に夫婦になれる。

 
 私がまだ14歳で社交界にも出られない年齢なので、盛大な式は16歳になってからと言う話になった。

 
 それでも正式に妻になれた私は、テオドール様と一緒にいられる権利を手に入れて、本当に幸せだった。誓約式の時の誓いのキスは頬にしたのだけど、16歳になるまでそういう事はしないという事なのだろうと私は理解した。

 少し残念な気がしてしまう自分もいるけど……テオドール様が誠実なお方だと感じて嬉しくもある。

 
 大切にしてくれているんだわ……私も妻として恥ずかしくないように頑張らなければ。


 ベルンシュタットのお城の皆は本当にいい人ばかりで、リンデンバーグのお城での生活が嘘のようだった。

 綺麗な衣服に包まれて、温かいお湯に浸かれて、食事も栄養満点で…………ここは天国じゃないかなと勘違いしてしまいそうになる。


 「ロザリア様、こちらには沢山のドレスや宝飾品がありますよ~~どれも素晴らしいです!」


 テオドール様と夫婦になった事で、王族ではなくなった私の事を姫様と呼ぶのもおかしいという事で、エリーナは名前の方で呼んでくれている。

 お城の皆は奥様って呼ぶんだけど…………年齢が年齢なだけに私の方が抵抗が出てしまう。

 
 エリーナはそれを察して、名前で呼んでくれている。そしてエリーナが感激して見せてくれたドレスたちは…………どれもハイセンスだし、高そう……私の為にここまでお金をかけてくれる事に申し訳なく思ってしまう。

 それに私はこれからまだ体型が変わってしまいそうだから、勿体ない気もするわ。


 「辺境伯夫人というもの、それくらいのドレスや宝飾品を持っていなくていかがします。それでも少ない方でございますわ」


 私の気持ちがバレたのかしら……侍女長のモネにピシッと言われてしまった。


 後日この話をテオドール様に話すと「ははっモネはさすがだな」なんて言って笑顔を見せる。


 「私はあのような宝飾品は縁遠くて……あのような物は必要最小限で良いのですが……」

 「うん、でも私が嫌なんだ。ロザリアを着飾る物がないのが……それに君に贈るのは私の楽しみでもあるから、受け取ってくれると嬉しいんだけど」


 テオドール様にそう言われると嫌とは言えない。私がテオドール様の楽しみを奪うなんて出来るはずがない……このお方はそれを分かって言っているところがあるわ。


 「………………分かりました。程々でお願いします」

 「嬉しいよ」


 ニコニコ笑うテオドール様は、何故か私を横向きに膝の上に座らせて話す。それが恥ずかしくて侍女たちの顔を見られない…………この方が私の声を聞きやすいからって言われたのだけど、未だに慣れなくて……


 私の前では常にニコニコしているのだけど、ひとたび戦場に立てば鬼の形相で敵をなぎ倒すってお城の人たちに聞いて、全然想像出来なかった。

 この優しい方が本当に鬼に…………


 そんな疑問を侍女長にぶつけてみたところ、驚くような事を聞かされた。


 「旦那様は、普段はほとんど表情が変わりません。奥様とお話する時だけです、あのように柔らかい表情になるのは……私も長年このお城に仕えてきて、旦那様のあのような表情を見た事はありませんわ。奥様の事になると百面相になるところは、この城で知らない者はいません」


 「そ……そうなの?」

 「はい、旦那様は戦場にいる事が多かったのもあり、常にピリピリした空気を纏っておりましたから……奥様を連れてきた時は、それはもう皆驚きましたよ。それと同時に感謝しております。奥様がいらしてから旦那様の空気が柔らかくなりましたので、お城の雰囲気が随分明るくなりました」


 侍女長のモネも負けず劣らず表情を変えない人なのだけど、この話をした時はとても柔らかい表情だった……私が皆の迷惑になっていないのなら喜ぶべき事ね。

 私はリンデンバーグでは常に邪魔者だったから……他者から迷惑に思われないかが常に気になってしまう。


 ここの人たちがそんな人達ではないと分かっているのだけど、長年培われた考え方というのはなかなか直ぐには変えられない。


 ここがあまりにも居心地が良くて、ここにずっといたい、邪魔に思わないでほしい、必要とされたい、という気持ちが私の中で大きくなってきていた。

 でもそんな気持ちをどうにかして諫め、何かあった時に自分の心を守れるように……いつでも出て行けるように考えている自分がいる。そんな私の弱い気持ちを見透かしているのでは、と思うほどテオドール様は沢山の贈り物を贈ってくださる。

 
 これ以上宝物が増えては、前の生活に戻れなくなる。


 もっと欲張りになってしまう事が嬉しくもあり、苦しくもあった………………

 

~・~・~・~


 
 そしてベルンシュタット城に来てから約1年が経ち、私は15歳になった。


 
 「ロザリア、君にこの首飾りを贈らせてほしい……」



 それは私の誕生石”ガーネット”をあしらった豪華な首飾りだった。私の誕生石を調べて作っていてくれた事に感激してしまう。


 「あり……がとう、ございます……」


 私は上手に笑えているかしら………………ガーネットは絆を深め、勇気や精神力を高めると言われているわ。そして石の色がテオドール様の髪色と同じ……もしテオドール様にとって私が必要のない存在になっても、テオドール様にもらった物や真心は、ずっと宝物にしていこう。


 「一生大切にします」


 いつものように膝に乗せられた状態でプレゼントされ、私はその首飾りが入ったケースを抱きしめてお礼を言った。

 そしてテオドール様が私の後頭部に手をやって、優しく私の顔を引き寄せる…………1つ大人に近づいた私へのご褒美のような優しいキスをしてくれた。唇が触れるだけの優しいキス…………


 「早く16歳になってくれないかな……」

 「……ふふっさすがに私にはそんな力はありません」

 「…………………………そうだよね……分かってはいるんだけど」


 そう言って恥ずかしそうに私から顔を逸らすテオドール様が、何だか可愛く思えてしまった。

 
 私はテオドール様の胸にそっと顔を埋めて、15歳の誕生日の幸せを噛み締めていたのだった。


 
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