3 / 43
第一章
あなたを守りたい
しおりを挟む「……………………あ……あの………………ベルンシュタット辺境伯様……お初にお目にかかります、ロザリアです。あの…………私、自分で歩けますわ…………」
テオドール様の顔が目の前にある事に耐えられなくて、思わずそう言ってしまう。可愛くない女って思われたかしら…………でも首に抱き着くしかない形なのが恥ずかしすぎて顔から火が出そう…………
「……初めてではないと思うが…………まぁいいさ。ここから城までの道のりは長いからね、それに冬の終わりとは言え寒いから、このまま連れて行っていいかい?この方が暖かいし顔が近いから声がよく聞こえて、話しやすいんだ」
ニコニコと笑顔で言われるとダメって言えないわ…………
「承知いたしました……」
「うん、じゃあ行こう。しっかり摑まっていて」
「きゃっ」
そう言ってテオドール様はずんずん歩き始めた。私はバランスを取る為にテオドール様の首に腕を回すしかなくて…………お顔が近い上に美しいから直視出来ない。時折こちらを見てニコッと笑ってくれる。
なんて優しそうな方なのかしら…………初めて出会った時はお顔が逆光でよく見えなかったのだけど、こんな優しそうな方だったのね。あの時は鬼神か何かじゃないかとすら思ったのだけど。
今は微塵もそんな風に思わない。
私は14歳とは言え155cmくらいで小さく、テオドール様は190cmは超えているわね。私たちが横に並んで歩けば、確かに声が聞こえにくいかもしれない…………だからってこの状況は恥ずかしくて周りの皆の顔を見られないわ………………テオドール様のお体がとても大きいのもあって、ズンズン城に向かって歩いていくと、あっという間に城壁まで辿り着いた。
城下町から城壁までが細い曲がりくねった道のようになっていて、馬車で城門まで行くのは厳しかったかもしれない。
だから下まで迎えに来てくれたんだ。
色々と気遣ってくれている事に私の胸は温かくなった…………こんな気遣い、エリーナ以外の人にされた事なんてないもの。嬉しい…………
「……私だ。開けてくれ」
「はっ!」
門を守る騎士はテオドール様を確認し、鎖を引いて門をゆっくり開けていく…………物凄い強固な門だわ……ここの守りは万全って感じがする。こんな素晴らしい軍を持つ国に勝とうとしていたとは、無謀な戦いだったという事なのね。
この長い争いによって多くの民が亡くなった。あの時の丘で亡くなった兵も……我が国の敗戦によって、もう血が流れる事はないと思いたい。
私の身、1つで解決するなら安いものね。
そんな事を考えながら門を通り抜けると、綺麗に整列した兵達がテオドール様の帰りを出迎える。皆ピシッと敬礼しているわ…………凄い統制が取れているのね。
その奥には執事と思われる中年の男性が待っていた。
「ミルワース、帰った」
「旦那様、お帰りなさいませ…………そのお方がリンデンバーグの?」
「…………ああ、そうだ………………ロザリア、執事のミルワースだ。」
「あ…………初めまして、わたくし…………」
私が言い終わらないうちにテオドール様が歩き始めてしまう。
「応接間を使う。しばらく二人にしてくれ」
「承知いたしました」
ミルワースは恭しく頭を下げている……テオドール様は有無を言わさずズンズン歩いていくので、私の頭は追い付いて行かなかった。挨拶も出来なかったし、お城の方々もこんな状況で混乱するわよね…………何より私の心臓がもたない。
この状況に混乱しきっていると、気付けば応接間と言っていた部屋に二人で入っていて、私はソファにそっと下ろされた。
そして私の膝元に跪くような形でテオドール様がこちらを見上げている。私の手を握り、優しい笑顔を向けてゆっくり話し始めた。
「突然このような出迎えで申し訳ない。あなたが来るのをずっと待っていたものだから…………」
「私を?」
「2年前、デボンの森で出会った時の事は覚えているかい?」
もちろん覚えている…………あの時は怖かったし、逆光で顔はよく見えていなかったけど、あの時助けてくれたテオドール様の事を一日たりとも忘れた事はないわ……そう思い出して、私は頭を縦にブンブン振って頷いた。
テオドール様はニッコリ笑ってお話を続ける。
「良かった…………さっき初めましてと言っていたから、覚えていないのかと……」
「あ、あれは咄嗟に出ただけで……動揺していたのです…………ごめんなさい」
「謝る事はないよ。私の事はテオドールと呼んでほしい。ロザリア」
「テオドール…………様…………私とあなた様はとても年齢が離れていますし、気安い呼び方は……まだ、出来ません…………」
私は14歳。テオドール様は27歳。さすがにこの年齢差で呼び捨てにする事は憚られてしまう…………私が20歳くらいの女性だったら呼べたのかもしれないけど。
「……分かった。じゃあロザリアの呼びやすい形でいいよ」
そう言って優しい笑顔で頭をわしゃわしゃしてくる。やっぱりお子様枠よね…………分かっていた事とは言え、若干ショックを受けている自分がいる。
「あなたはあの森で出会った時、一生懸命に侍女を守っていたよね…………自身の身分がバレても私のような大男に剣を向けられても両手を広げて守ろうとする姿が、私の心を動かしたんだ。あの時、敵国の王女だったのに君を守らなければって思ったんだよ」
「…………あの時助けていただいて、私もずっとお礼を言いたいと思っておりました……エリーナは私にとって唯一の心許せる人だったから、エリーナがいなくなるなら自分の命など惜しくはなくて。私たちを見逃してくれて本当に感謝しています。ありがとうございます」
私は噓偽りのない気持ちを述べて、頭を下げた。ずっとテオドール様に感謝していたわ、エリーナを見逃してくれて。彼女が助かるなら、私の命などどうでも良かった。
「…………うん、あなたならそう言うと思ったよ。でも私の妻になるからには、自分の命も大切に思ってほしい。私はロザリアが死んだらとても悲しいよ」
テオドール様が?まだ会って間もないのに?
そんな事を言ってくれるのはエリーナとテオドール様ぐらいだわ…………でも社交辞令であってもその言葉が私には、涙が出そうなくらい嬉しくて……とても嬉しくて泣き笑いみないた表情になってしまった。
「あなたの事は私から陛下にお願いしたんだ。失礼かもしれないと思ったけど、あなたの事は少し調べさせてもらった……リンデンバーグでの事も。早くあそこから連れ出してあげないとって思って…………」
テオドール様は全て分かって、私の身柄を引き取ってくださったというの?
なんて優しいお方なのかしら…………こんな人を好きになるなと言う方が無理だわ。
「私はあなたをこの世界の全てから守ると誓うよ。私の妻になってくれるね?」
私を守ると言ってくれる方に出会えるなんて――――人生の幸せを全部使い果たしてしまったかもしれない。それでもいい。私はこの時、目の前の素晴らしく優しい人を絶対に不幸にしてはいけない、この人の幸せだけを願って生きようと、固く心に誓った。
「…………はい……」
いつの間にかテオドール様は私の隣に座っていて、涙がポロポロ落ちている私を宥めるように背中や腕をずっとさすってくれていたのだった。
15
お気に入りに追加
1,044
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる