幽霊鬼ごっこ

西羽咲 花月

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それ、誰?

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森慎吾が消えたグランドで立ちつしていると突然街の喧騒が戻ってきた。
行き交う車の音、犬の泣き声、鳥の羽ばたき。
そして花壇に水やりをするために校舎からできた用務員さんに「こら、なにしてる!」と怒られた私達は大慌てでグラウンドから出たのだった。

「なんだか全部夢だったみたい」
校門前に置かれていた自分の自転車を引いて歩きながら呟く。
「本当だね」

由紀が苦笑いを浮かべて答える。
こんなにすんなり終わることができるなんて思ってもいなかったから、意外な気もする。
この記憶は徐々に薄れて、詳細は誰にも知らされないまま学校の怖い話の中に埋まっていくんだろうか。

「この川だよな。森慎吾が流されたのって」
前方に大きな橋が見えてきて信一が言った。
今日の川はおだやかで 透き通った水が流れている。

「うん。そうだよ」
昼間調べた情報通りなら、ここのはずだった。
4人はなんとなく橋の真ん中で立ち止まり、そして川へ向けて手を合わせた。
森慎吾が安らかな眠りにつけますようにと、願いを込めて。

「そういえばあいつ、もうひとつ願いがあるとか言ってたな」
直人が呟く。
「そうだね。でもそれを聞く前に消えちゃったから、結局なんだったのかわからないよね」

そこが少し引っかかるところだった。
未練が残った幽霊はすべての願いを叶えなくても成仏できるものなんだろうか。
「き、きっと大丈夫だよ」

由紀が気を取り直すように大きな声で言った。
由紀の大きな声を聞くのは久しぶりのことで驚いて振り向く。
由紀はジッと川の水面を見つめている。

「私達の気持ち、届いたはずだから」
「……うん。そうだね」
今回の出来事があって、由紀は以前よりもハッキリと言葉を発するようになった気がする。

自分の気持を表に出す大切さや勇気を手に入れたのかも知れない。
「よーし! 明日からまた学校だな!」

信一が両手を天へと伸ばして背筋を伸ばす。
「あ~! 私宿題してない!」
「え、宿題出てるのか?」

「俺もう終わった」
「私も終わったぁ」
「え、ちょっと待ってよ。僕いなかったから知らないんだけど!」
そんな声が暮れゆく街に響いたのだった。

☆☆☆

「はぁ……はぁ……」
ガラリと教室の戸が開いて他のクラスの女子生徒が飛び込んで来た。
5年1組のクラスを見回し、私を見つけると駆け寄ってきた。

信一と由紀と直人の3人でおちゃべりをしていた私達は、自然と会話を止める。
「ね、ねぇあなた。図書室に来てた子だよね!?」
肩までのツインテールを揺らして女の子が質問してくる。
「え? うん。何回は行ったけど、どうして?」

「榎本さんって知ってるよね!?」
すがりつくようにして聞かれてとまどった。
榎本という名前に聞き覚えはない。

「えっと……誰のことかな?」
首を傾げて聞き返すと、彼女は真っ青になってその場に座り込んでしまった。

「ちょっと、大丈夫!?」
すぐに様子を見るけれど、彼女はその場から動こうとしない。
「嘘でしょ……。みんなから記憶が消えてる?」

そんなことをブツブツと呟いている。
「おい、保健室に連れて行った方がいいんじゃねぇか?」
「そ、そうだね」

直人の言葉に由紀が頷く。
彼女を保健室へ連れて行く途中で、ふと胸に違和感が走った。

榎本。
榎本……?
知らないはずなのに、なんだかひっかかるものがある。

なにか、とても大切な人の名前だったような気がする。
沢山助けてもらった気がする。
だけど思い出せない。
誰だっけ?

「裕美、どうした?」
信一に声をかけられて、私は我に返った。
その瞬間今まで考えていた榎本という人に関する情報が記憶の奥深くに沈み込んで行き、もう出てくることはなかった。

「大丈夫だよ、信一」
なにかもっと大切なことを忘れている気がする。
私は……私達4人はとても大切なことを忘れている。
だけどそれがなにかわからない。

そうだ。
誰かの願いを叶えるんだっけ?
願い?
誰の?

もうひとつの願い。
「わかんないや。保健室、急ごう」






あいつもあいつもあいつも。
僕をイジメた3人はのうのうと生きている。
許さない。
絶対に許さない。
僕のもうひとつの願い叶えるために、まだ、幽霊鬼ごっこは終わらない。


END
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