命令教室

西羽咲 花月

文字の大きさ
上 下
11 / 14

探る

しおりを挟む
「ごめん……ごめんな充」


教室に戻ってきてから正志は膝を抱えてずっと泣いていた。
入ってはいけない部屋に入ろうといい出したのは充だった。
消える直前に充はそれを気にして、狂ったように走り出したのだ。

そして、消えてしまった。
正志の胸には今罪悪感が支配していた。


「お前のせいじゃないよな。俺だって、楽しんでたんだ」


いくら謝罪をしても考え方を改めても、肝心の相手には届かない。
大切な親友はもういない。


「いつまでもこうしてても意味がない。次は正志の番かもしれないだろ」


厳しい意見を言ったのは修だった。
修はさっきから正志へ向けて険しい表情を浮かべている。
もう3人しか残っていない上に、正志は消えてしまうかもしれないのだ。
ここまで危機的状況で、いつまでも泣いていてもらっては困る。


「とにかく、もう1度部屋に行ってみない?」
私も正志にそう声をかける。


やれるだけのことはやらないと、このまま消えるのを待つなんて、正志だって嫌なはずだ。
正志は何度か鼻をすすり上げてから顔を上げた。
目が真っ赤に充血している。


「そうだな。なにか、しないとな」


怒り始めることもなく、ゆっくりと体を起こす。
1人きりになってしまって、ようやく協力することの大切さを理解したのかも知れない。


「カギは?」


初日、あの部屋のカギは充が準備していた。
今は誰が持っているんだろう?


「カギはあの後すぐに返したはずだ」


ということは、事務室だ。
私達3人はまず事務室へむかった。
ドアを開けて中に入ると、本来そこにいるはずの先生の姿が一瞬見えた気がして、すぐに幻覚だと気がついた。
先生の幻は近づくと陽炎のように消えていく。

事務室の壁にかけられている何種類もあるカギには、ちゃんと部屋番号が振られているけれど、その中でもなにも書かれていないカギを正志は手にした。


「これだ」


そのカギだけやけに錆びついているのは、ずっと使われていないからか。
カギを握りしめて再び廊下を歩き始める。
私達しかいない施設内は怖いくらいに静まり返っている。
少し歩くだけで自分の足音がうるさく感じられるくらいだ。


そし部屋の前までやってきたとき、小さな音が聞こえた気がして首を傾げた。
私達は今部屋の前で立ち止まっているから、なにも音はしないはずなのに。
まさかこの部屋の中から聞こえてきたんだろうか?

緊張しながらも、そっとドアに耳を近づけてみる。
部屋の中からなんの物音も聞こえてこない。
気のせいだった……?
そう思って油断した瞬間、キィィと、なにかがキシムような音が鼓膜を揺るがした。


「なんだ!?」


驚いた正志がカギを取り落とす。
3人同時に音がした方へ視線を向けると、そこにはホワイトボードがあった。
ホワイトボードは教室の中にあったはずなのに、なぜか廊下に出てきている。


「なんで……」


得体のしれない恐怖に全身が凍えたとき、ホワイトボードがキィィと音を立ててキャスターを回転させながらこちらへ近づいてきたのだ。


「嘘だろ!?」


正志が逃げようとするけれど、ここは1階の最奥だ。
逃げ道はない。

ホワイトボードはぐんぐんスピードを上げて近づいてくる。
このままじゃぶつかる!!
壁にべったりと背中をつけてキツク目を閉じる。


次の瞬間ガシャーンッ! と大きな音が響いていた。

ハッと息を呑んで目を開けると、目の前にホワイトボードが倒れて、カラカラとキャスターを回転させていた。
そして、正志の姿はどこにもなかったのだった……。



合宿参加者

山本歩 山口香(死亡) 村上純子(死亡) 橋本未来(死亡) 古田充(死亡) 小高正志(死亡) 安田潤(死亡) 東花(死亡) 町田彩(死亡) 上野修

担任教師

西牧高之(死亡)


残り2名

☆☆☆

倒れたホワイトボードを目の前にして私と修は呆然と立ち尽くしていた。
ついさっきまでそこにいた正志の姿はもうどこにもない。
修がゆっくりと腰を落として床に落ちてしまったカギを手に取る。

その指先が震えている。
私はこぼれだしてしまいそうな涙を必死に押し込める。
ついに2人なっちゃった……。
その絶望感が胸の中を支配して、この場にうずくまって泣きわめいてしまいそうになる。

だけどきっとそんな時間は残されていない。
修と2人きりになって明日になれば、またきっとホワイトボードに新しい命令が書かれているはずだ。
どちらかがその命令に失敗すれば、ひとりぼっちになってしまう。
こんな世界で自分1人が取り残されることを思うと、全身に寒気が走る。

いくら食料があったってまともに生活していけるとは思えない。
誰もいない世界なんて、想像もつかなかった。


私は無意識の内に自分の体を強く抱きしめていた。
そうしないと、本当に崩れ落ちてしまいそうだった。


「行くしかないよな」


修がカギを握りしめて呟く。
私は小刻みに頷いた。
もう、それしか方法は残っていない。

この部屋でなにかのヒントを得なければ、私達はずっとここから出られないままだろう。


「よし……行こう」


修は青ざめた顔で決意を固めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」 この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい だけど力はそれだけじゃなかった その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

ホスト科のお世話係になりました

西羽咲 花月
児童書・童話
中2の愛美は突如先生からお世話係を任命される 金魚かな? それともうさぎ? だけど連れてこられた先にいたのは4人の男子生徒たちだった……!? ホスト科のお世話係になりました!

人食い神社と新聞部

西羽咲 花月
児童書・童話
これは新聞部にいた女子生徒が残した記録をまとめたものである 我々はまだ彼女の行方を探している。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

処理中です...