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目撃

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汰斗と喧嘩みたいになってしまった翌日学校は休みだった。
ホスト科に顔を出さなくていいことにホッとしていたけれど、問題を先送りにしてしまったような気がしなくもない。
「ホストに恋なんてしない。その答えは間違えてないはずなのになぁ」

どうしてこんなに胸の中がモヤモヤしているんだろう。
答えがわからないままベッドに横になって目を閉じると汰斗の顔が浮かんでは消えていく。
なぜか他のホスト科の生徒たちの顔は思い出さなかった。

「もう、ひとりでいると変なこと考えちゃう。出かけようかな」
そう呟いたタイミングで百恵からの連絡が入った。
《今日何してる? 遊びに行かない?》
行く行く!

すぐに返信をして出かける準備をする。
今日は思いっきり楽しんで、明日からまた頑張ればいい。
百恵との約束場所は学校に近いコンビニだった。
約束時間の5分前に到着すると、百恵はすでに店内で買い物をしていた。

「なんかこうして遊ぶのも久しぶりな気がするね」
コンビニで飲み物を購入して外へ出る。
太陽がだんだん登ってきていて、これから徐々に暑くなってくる頃だ。

「最近お世話係で忙しかったから。ごめんね遊べなくて」
「そんなの気にしないでよ。休日にはこうして遊べるんだからさ」
ふたりで肩を並べてショップが立ち並ぶエリアへと向かう。
比較的安価なものが揃っているお店をぶらつくのが、私と百恵の休日だった。

「あ、これ可愛い」
宝石店の前で百恵が立ち止まり、ショーケースの中を見つめる。
赤や青や黄色の大きな宝石がついたネックレスや指輪が所狭しを飾られている。
宝石といってもどれもガラスとかプラスチックでできたもので、高くても千円くらいで買うことができる。

店内へ入ればもっと安いものが沢山ある学生向けのお店だ。
「中に入ってみようよ」
ふたりで店内へ足を踏み入れると同い年くらいの子たちで賑わっていた。

小さな買い物かごに沢山のジュエリーを入れていっている子もいる。
「これ、おそろいにしようよ!」
百恵が目につけたのはハート型の指輪だった。
ゴールドのリング部分はサイズを調節できるようになっていて、どの指にも合いそうだ。

値段も200円と格安で、色違いを買うことにした。
店内は見ているだけでとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまう。
ふたりでレジに並んだときにはもう30分くらいが経過していた。
「あれって……」

レジを済ませて外へ出たとき、見知った顔を見つけて私は足を止めた。
私服姿は初めてみるけれど、大通りの向こう側を歩いているのは汰斗で間違いなさそうだ。
あのクールな汰斗が笑顔で話をしているのは、見知らぬ女の子。
「嘘……」

思わず呟いて硬直してしまう。
汰斗が心を許して笑っている。
隣の女の子もすごく慣れた様子で汰斗の肩を何度も叩いている。
あんな風に楽しそうに歩く相手がいたなんて……。
カッコイイのだから彼女くらいいても不思議じゃない。

部活動の中では恋愛禁止でも、私生活で恋人がいないなんて、誰も言っていなかった。
汰斗だけじゃなくて、他のメンバーだって同じように恋人がいるのかもしれない。
そう考えると途端に胸が苦しくなって、服を握りしめた。

「愛美、どうかした?」
立ち尽くしてしまった私を心配して百恵が声をかけてくる。
私はようやく汰斗と見知らぬ女の子から視線を外して「なんでもないよ」と、答えたのだった。

☆☆☆

その日はホスト科のことを忘れて楽しむつもりが、ずっと汰斗のことを考えてしまった。
おかげで百恵の話を何度も聞き流してしまって、すごく申し訳ない気持ちになった。
「どうしてこんな気持ちになるんだろう」

帰宅して自分のベッドに横になって呟く。
せっかく百恵と楽しい時間を過ごしていたのに、汰斗の姿を見てからすっかり気分も変わってしまった。
いまだに胸のあたりが苦しくて、言葉に言い表せない感情が渦巻いている。
ベッドの上で寝返りを打ったとき、百恵からメッセージが届いた。

《今日は楽しかったね! だけどまだ悩みがあるみたいに見えたんだけど、大丈夫?》
百恵の優しさに泣いてしまいそうになる。
私は勢いよく上半身を起こしてベッドのわきに座った。

《今日はぼーっとしちゃってごめんね。実はホスト科の子を偶然見かけて、気になっちゃって》
《そうだったんだね! それなら言ってくれればよかったのに》
百恵に簡単に紹介したくないという気持ちが湧いてきてしまう。
百恵はずっとホスト科に興味を持っていたから、汰斗の姿を見ると好きになってしまうかもしれないし……。

そこまで考えてハッとした。
私は、百恵が汰斗のことを好きになるのが嫌なのかな?
それはどうしてだろう?
考えるとなんだか心臓がドキドキしてきて、体温が上がってくるみたいだ。

《汰斗っていうんだけど、その子を見た後からなんだか胸がモヤモヤしちゃって》
どう説明すればいいかわからず、汰斗と女の子が親しそうに歩いていたことを説明する。
すると今度は百恵から着信があった。

慌てて電話に出ると『それって恋でしょ!』と、第一声で言われてしまった。
「こ、恋?」
『そうだよ! だって、汰斗くんって人と知らない女の子が一緒にいるところを見て、胸がモヤモヤしたんでしょう? それはヤキモチだと思うよ!』
や、ヤキモチ!?

思ってもいなかった百恵の言葉に混乱は増していくばかりだ。
「で、でもホスト科は恋愛禁止だから、私が汰斗くんを好きになることはないよ?」
昨日だってそう宣言したばかりだ。

すると百恵の大きなため息が聞こえてきた。
『愛美、いい? いくら恋愛禁止でも、誰かを好きになる気持ちは止められないと思うよ?』
「そ、そうなの?」
『そうだよ! 好きになっちゃったらどうしても相手のことが気になって、目で追いかけちゃって、胸がモヤモヤしたり、ドキドキしたり、顔が真っ赤になったりするものなんだよ』
それはすべて私に当てはまっていることで、愕然としてしまう。

そんな、じゃあ私は汰斗のことが好きってこと……!?
「ダ、ダメだよそんなの。だって、恋愛禁止なんだから」
『まぁね。それは気になるところだけれど、でもそれで我慢ができるような気持ちなの?』

それは……正直わからない。
だって、今ようやく自分の気持ちに気がついたところなんだから。
『とにかく、それは恋だと思うから、これから頑張って!』
百恵は楽しそうな声でそう言うと、電話は切れてしまったのだった。
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