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恋したのは誰?~汰斗サイド~
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『私だって、ホストに恋なんてしない! 絶対に!!』
あいつにそう言われた瞬間胸が張り裂けてしまいそうなほど痛くなった。
ズキズキとうずく胸にその場にしゃがみ込む。
あいつの後ろ姿はどんどん遠ざかっていって、すぐに見えなくなってしまった。
「くそっ」
小さく呟いて頭を抱える。
あんな風に怒らせるつもりはなかった。
ただ、尋とふたりきりでいたあいつを見た瞬間に、言いようのない気持ちが湧き上がってきて、我慢ができなくなってしまった。
ホスト科は恋愛禁止。
だから尋や他の連中を好きになるな。
そう伝えたかっただけなのに。
クールだとか言われるけれど本当はただの口下手で、気持ちをうまく伝えることができなくて人間関係がこじれてしまったことも沢山ある。
恋愛だって、うまくいったためしがなくてホストとしての仮面をかぶることでようやく会話できる自分を演じているだけだった。
「大丈夫?」
その声に顔を上げるとそこには懐かしい顔があった。
「梨奈」
驚いて相手の名前を呼び、立ち上がる。
梨奈は胸まである長い髪の毛を後ろでまとめていて、以前よりもスッキリとした印象だ。
そう、昔の梨奈はもっと派手だった。
「なにかあったの?」
「いや、別に」
梨奈を直視することができなくて視線をそらせる。
「また、ホスト科の悩み?」
その質問に黙り込んでしまった。
梨奈も俺がホスト科にいることを知っている生徒の1人で、なにを隠そう梨奈は以前お世話係をしていたことがある。
梨奈がお世話係をやめてからはほとんど接点がなくなっていたけれど、同じ学校に通っているからこうしてバッタリ会ってしまうこともあった。
「私はもうホスト科とは無関係な人間なんだから、相談くらい乗るよ?」
前髪をかきあげてそういう梨奈には、昔のように腹黒い思惑はなさそうだった。
「尋のことはもういいのか?」
「お世話係を辞めた時点で諦めたよ。今は彼氏もいるから、安心して?」
梨奈に彼氏。
なんだか不思議な気分だ。
さっき愛美に話した、尋のことを好きになったお世話係は梨奈のことだった。
当時は恋愛感情を隠して仕事を続けていたことに、ひどく怒ってしまった。
「尋はやっぱり魅力的だったか?」
「そりゃあね。大人っぽいし優しいしカッコイイし。なに? また恋愛での悩み?」
「いや、本人は否定してるけど、でもわからなくて」
愛美が梨奈のように嘘をついている可能性だってある。
「そうじゃなくてさ。汰斗がお世話係を好きになっちゃったのかって質問だったんだけど?」
長い足を持て余すように交差して立つ梨奈に俺は驚いて目を見開いた。
「俺が……?」
「そうだよ? だって汰斗、私のことも好きだったでしょう?」
まるで当然のことだというように言われて絶句してしまう。
なにも言えないままジッと梨奈を見つめていると、くすっと笑われてしまった。
「私が気がついていないと思った? 汰斗ってば元々私のことを好きだったでしょう?」
「それを……どうして?」
図星だった。
梨奈がお世話係になる前から、俺は梨奈の存在を知っていた。
梨奈がホスト科を利用していないから、翻弄の恋愛対象になれると思って積極的に話しかけたこともある。
だけどある日、梨奈がお世話係としてやってきたんだ。
ホストとお世話係の恋愛はご法度。
俺は必死で自分の気持に蓋をした。
それなのに、梨奈は尋のことを好きになって……。
それ以上思い出すことが辛くて記憶をかき消した。
「お世話係で近くにいたからわかったよ。それでも恋愛禁止だから気が付かないふりをしてた。次第に尋のことを好きになったけど、それも自分で気が付かないふりをしてたの。結果的にバレちゃって、解雇されたけどね」
梨奈が大人っぽく肩をすくめて見せた。
自分の気持ちがバレていたことに大きく息を吐き出す。
「でも、今のお世話係の子は今の所そんな風には見えないよ?」
「あいつのことを知ってるのか?」
「気になって、ちょこちょこ朝の部室を覗いてたの。あの子、仕事熱心でいい子じゃない?」
確かにあいつはいいヤツだ。
仕事も頑張っているし、花を飾って部室の雰囲気もよくしてくれる。
なにより、あいつが作ってくれるハチミツレモンはとても美味しくて元気が出る。
「それにさ、ホスト科の部長は汰斗なんだから、やり方を変えてもいいんじゃない?」
「やり方を変える?」
首を傾げると「そう。本物のホストクラブに近づける必要なんてない。恋愛だって自由でいいじゃん?」と、梨奈が笑った。
それはとても自由な発想で、同時にとまどうものだった。
確かにホスト科の部長は俺だけれど、やり方を考えてくれたのはOBたちだ。
俺の代で大幅にやり方を変更していいものか、どうか決断にこまる。
「ま、よく考えて頑張りなよ。私は行くから」
立ち去ろうとする梨奈の後ろ姿を呼び止めた。
「声をかけてくれてありがとう。少しだけ、心が軽くなったよ」
梨奈はニッコリと微笑んで片手を上げると、俺に背を向けて行ってしまったのだった。
あいつにそう言われた瞬間胸が張り裂けてしまいそうなほど痛くなった。
ズキズキとうずく胸にその場にしゃがみ込む。
あいつの後ろ姿はどんどん遠ざかっていって、すぐに見えなくなってしまった。
「くそっ」
小さく呟いて頭を抱える。
あんな風に怒らせるつもりはなかった。
ただ、尋とふたりきりでいたあいつを見た瞬間に、言いようのない気持ちが湧き上がってきて、我慢ができなくなってしまった。
ホスト科は恋愛禁止。
だから尋や他の連中を好きになるな。
そう伝えたかっただけなのに。
クールだとか言われるけれど本当はただの口下手で、気持ちをうまく伝えることができなくて人間関係がこじれてしまったことも沢山ある。
恋愛だって、うまくいったためしがなくてホストとしての仮面をかぶることでようやく会話できる自分を演じているだけだった。
「大丈夫?」
その声に顔を上げるとそこには懐かしい顔があった。
「梨奈」
驚いて相手の名前を呼び、立ち上がる。
梨奈は胸まである長い髪の毛を後ろでまとめていて、以前よりもスッキリとした印象だ。
そう、昔の梨奈はもっと派手だった。
「なにかあったの?」
「いや、別に」
梨奈を直視することができなくて視線をそらせる。
「また、ホスト科の悩み?」
その質問に黙り込んでしまった。
梨奈も俺がホスト科にいることを知っている生徒の1人で、なにを隠そう梨奈は以前お世話係をしていたことがある。
梨奈がお世話係をやめてからはほとんど接点がなくなっていたけれど、同じ学校に通っているからこうしてバッタリ会ってしまうこともあった。
「私はもうホスト科とは無関係な人間なんだから、相談くらい乗るよ?」
前髪をかきあげてそういう梨奈には、昔のように腹黒い思惑はなさそうだった。
「尋のことはもういいのか?」
「お世話係を辞めた時点で諦めたよ。今は彼氏もいるから、安心して?」
梨奈に彼氏。
なんだか不思議な気分だ。
さっき愛美に話した、尋のことを好きになったお世話係は梨奈のことだった。
当時は恋愛感情を隠して仕事を続けていたことに、ひどく怒ってしまった。
「尋はやっぱり魅力的だったか?」
「そりゃあね。大人っぽいし優しいしカッコイイし。なに? また恋愛での悩み?」
「いや、本人は否定してるけど、でもわからなくて」
愛美が梨奈のように嘘をついている可能性だってある。
「そうじゃなくてさ。汰斗がお世話係を好きになっちゃったのかって質問だったんだけど?」
長い足を持て余すように交差して立つ梨奈に俺は驚いて目を見開いた。
「俺が……?」
「そうだよ? だって汰斗、私のことも好きだったでしょう?」
まるで当然のことだというように言われて絶句してしまう。
なにも言えないままジッと梨奈を見つめていると、くすっと笑われてしまった。
「私が気がついていないと思った? 汰斗ってば元々私のことを好きだったでしょう?」
「それを……どうして?」
図星だった。
梨奈がお世話係になる前から、俺は梨奈の存在を知っていた。
梨奈がホスト科を利用していないから、翻弄の恋愛対象になれると思って積極的に話しかけたこともある。
だけどある日、梨奈がお世話係としてやってきたんだ。
ホストとお世話係の恋愛はご法度。
俺は必死で自分の気持に蓋をした。
それなのに、梨奈は尋のことを好きになって……。
それ以上思い出すことが辛くて記憶をかき消した。
「お世話係で近くにいたからわかったよ。それでも恋愛禁止だから気が付かないふりをしてた。次第に尋のことを好きになったけど、それも自分で気が付かないふりをしてたの。結果的にバレちゃって、解雇されたけどね」
梨奈が大人っぽく肩をすくめて見せた。
自分の気持ちがバレていたことに大きく息を吐き出す。
「でも、今のお世話係の子は今の所そんな風には見えないよ?」
「あいつのことを知ってるのか?」
「気になって、ちょこちょこ朝の部室を覗いてたの。あの子、仕事熱心でいい子じゃない?」
確かにあいつはいいヤツだ。
仕事も頑張っているし、花を飾って部室の雰囲気もよくしてくれる。
なにより、あいつが作ってくれるハチミツレモンはとても美味しくて元気が出る。
「それにさ、ホスト科の部長は汰斗なんだから、やり方を変えてもいいんじゃない?」
「やり方を変える?」
首を傾げると「そう。本物のホストクラブに近づける必要なんてない。恋愛だって自由でいいじゃん?」と、梨奈が笑った。
それはとても自由な発想で、同時にとまどうものだった。
確かにホスト科の部長は俺だけれど、やり方を考えてくれたのはOBたちだ。
俺の代で大幅にやり方を変更していいものか、どうか決断にこまる。
「ま、よく考えて頑張りなよ。私は行くから」
立ち去ろうとする梨奈の後ろ姿を呼び止めた。
「声をかけてくれてありがとう。少しだけ、心が軽くなったよ」
梨奈はニッコリと微笑んで片手を上げると、俺に背を向けて行ってしまったのだった。
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