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目撃
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今日も1日アイドルとして授業を乗り切った。
帰宅したリナは玄関に中学生の妹と小学生弟の靴があることを確認した。
「ただいま」
声をかけながら狭いリビングダイニングへ入ると妹が冷蔵庫の中を確認しているところだった。
弟はリビングのテーブルに宿題を広げている。
「おかえりおねえちゃん。今日はカレーにしようと思うんだけど、タマネギがないから会に行ってくるね」
妹は食卓の上にカレーの材料を並べながら言った。
「それなら私が行ってくるよ。宿題あるんじゃないの?」
「宿題は学校で終わらせてきたよ。友達に成績いい子がいるから、教えてもらった」
ニコッと笑顔で答える妹。
妹の要領のよさに関心してしまう。
妹が家のことを熱心に手伝うようになったのは今から2年前、父親が死んだことがきっかけだった。
働き者だったリナたちの父親はその日休日出勤をしていた。
ほんの1時間ほどで終わる仕事だからと言い残して玄関を出て行った父親。
しかし、その後ろ姿を見たのが最後になってしまった。
仕事を終えた父親は帰宅している最中、飲酒運転の車にはねられてしまったのだ。
相手の運転手はその日が休みだったので、前日の夜からずっと飲んでいたらしい。
酒の席には他にも何人かいたらしいが、車を運転している犯人の飲酒を止める人は1人もいなかったと聞いている。
そんな連中にリナの父親は殺されてしまったのだ。
思い出すと胸の奥から苦いものがこみ上げてきてリナは顔をしかめた。
普段外ではしない表情だ。
「じゃ、行ってくるから」
いつの間にか買い物に行く準備を整えて玄関へ向かう妹の後を、リナは慌てて追いかけた。
「待って。お金出すから」
リナは自分のサイフを握り締めて言った。
アイドル活動で得たお金の他に、母親から生活費として預かっているお金がある。
この家の食費や消耗品は、母親とリナが買い物に行くことが多いからだ。
「タマネギくらい私も買えるから大丈夫」
妹はそう言うと笑顔を向けて玄関を出て行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
リナが声をかけたときには玄関は閉められてしまっていた。
「お小遣いだって少ないのに、もう。ちょっと出かけてくるから、お留守番よろしくね!」
リナはリビングで勉強をしている弟に声をかけ、返事が来るのを待ってから妹の後を追いかけた。
父親が死んでから長沢家の家計は苦しかった。
父親の生命保険が下りたことと母親は朝から晩まで仕事をしていることでどうにか成り立っている。
もう何年も使っている運動靴を履いて妹の後を追いかける。
妹の足は以外の速くてその背中を確認することができない。
けれど自転車は家においてあったから、徒歩で行けるスーパーへ向かったようだ。
リナは最寄のスーパーに入ると冷房にホッと息を吐き出した。
早足でここまで来たから背中にはジットリと汗が滲んでいる。
妹の姿を探すために青果売り場を歩くがその姿は見つからない。
タマネギ1個だから、もうレジへ向かったのかもしれない。
そう思って視線を他の棚へ向けたときだった。
妹の後ろ姿が見えてリナは軽く微笑んだ。
やっぱりいた。
レジを通ってしまう前にお金を渡さなきゃ。
そう思って足早に妹に近づいたときだった。
妹が右手に持っていたタマネギを体前に広げたエコバッグに入れるのを見てしまったのだ。
え……。
リナは立ち止まり、一瞬呼吸さえも忘れてしまった。
周囲にお客さんの姿はなく、店員もいない。
妹が万引きした姿は誰も見ていないみたいだ。
リナは咄嗟に棚の影に身を隠した。
心拍数が上がっているのを感じる。
妹はそのままレジを通ることなくスーパーを出て行ってしまった。
どうして?
なんで?
お金はあるって言ったのに、嘘だったの?
見てしまった光景があまりにもショックでグルグルと同じ疑問が頭の中を渦巻き始める。
妹の微々たるお小遣いで食費がまかなえるはずがない。
それはリナもよくわかっている。
だからリナがお金を出すと言ったのだ。
それなのに、どうして……?
あまりにショックが大きくて隠れた棚から動くことができない。
妹の手際は初めてのものとは思えなかった。
きっと今までに何度もやってきているのだ。
「お金が……ないから?」
小さな声で呟くと、リナの胸が押しつぶされてしまいそうになった。
中学生の妹に万引きなんてさせてしまっているのは自分のせいじゃないかと考えてしまう。
自分がアイドルなんてしているからお金がなくなっていくんだ。
自分がアルバイトをすれば、もっとお金が入るのに……。
リナの中のショックな気持ちは、いつの間にか自分自身を攻める要因へと変化して行ったのだった。
帰宅したリナは玄関に中学生の妹と小学生弟の靴があることを確認した。
「ただいま」
声をかけながら狭いリビングダイニングへ入ると妹が冷蔵庫の中を確認しているところだった。
弟はリビングのテーブルに宿題を広げている。
「おかえりおねえちゃん。今日はカレーにしようと思うんだけど、タマネギがないから会に行ってくるね」
妹は食卓の上にカレーの材料を並べながら言った。
「それなら私が行ってくるよ。宿題あるんじゃないの?」
「宿題は学校で終わらせてきたよ。友達に成績いい子がいるから、教えてもらった」
ニコッと笑顔で答える妹。
妹の要領のよさに関心してしまう。
妹が家のことを熱心に手伝うようになったのは今から2年前、父親が死んだことがきっかけだった。
働き者だったリナたちの父親はその日休日出勤をしていた。
ほんの1時間ほどで終わる仕事だからと言い残して玄関を出て行った父親。
しかし、その後ろ姿を見たのが最後になってしまった。
仕事を終えた父親は帰宅している最中、飲酒運転の車にはねられてしまったのだ。
相手の運転手はその日が休みだったので、前日の夜からずっと飲んでいたらしい。
酒の席には他にも何人かいたらしいが、車を運転している犯人の飲酒を止める人は1人もいなかったと聞いている。
そんな連中にリナの父親は殺されてしまったのだ。
思い出すと胸の奥から苦いものがこみ上げてきてリナは顔をしかめた。
普段外ではしない表情だ。
「じゃ、行ってくるから」
いつの間にか買い物に行く準備を整えて玄関へ向かう妹の後を、リナは慌てて追いかけた。
「待って。お金出すから」
リナは自分のサイフを握り締めて言った。
アイドル活動で得たお金の他に、母親から生活費として預かっているお金がある。
この家の食費や消耗品は、母親とリナが買い物に行くことが多いからだ。
「タマネギくらい私も買えるから大丈夫」
妹はそう言うと笑顔を向けて玄関を出て行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
リナが声をかけたときには玄関は閉められてしまっていた。
「お小遣いだって少ないのに、もう。ちょっと出かけてくるから、お留守番よろしくね!」
リナはリビングで勉強をしている弟に声をかけ、返事が来るのを待ってから妹の後を追いかけた。
父親が死んでから長沢家の家計は苦しかった。
父親の生命保険が下りたことと母親は朝から晩まで仕事をしていることでどうにか成り立っている。
もう何年も使っている運動靴を履いて妹の後を追いかける。
妹の足は以外の速くてその背中を確認することができない。
けれど自転車は家においてあったから、徒歩で行けるスーパーへ向かったようだ。
リナは最寄のスーパーに入ると冷房にホッと息を吐き出した。
早足でここまで来たから背中にはジットリと汗が滲んでいる。
妹の姿を探すために青果売り場を歩くがその姿は見つからない。
タマネギ1個だから、もうレジへ向かったのかもしれない。
そう思って視線を他の棚へ向けたときだった。
妹の後ろ姿が見えてリナは軽く微笑んだ。
やっぱりいた。
レジを通ってしまう前にお金を渡さなきゃ。
そう思って足早に妹に近づいたときだった。
妹が右手に持っていたタマネギを体前に広げたエコバッグに入れるのを見てしまったのだ。
え……。
リナは立ち止まり、一瞬呼吸さえも忘れてしまった。
周囲にお客さんの姿はなく、店員もいない。
妹が万引きした姿は誰も見ていないみたいだ。
リナは咄嗟に棚の影に身を隠した。
心拍数が上がっているのを感じる。
妹はそのままレジを通ることなくスーパーを出て行ってしまった。
どうして?
なんで?
お金はあるって言ったのに、嘘だったの?
見てしまった光景があまりにもショックでグルグルと同じ疑問が頭の中を渦巻き始める。
妹の微々たるお小遣いで食費がまかなえるはずがない。
それはリナもよくわかっている。
だからリナがお金を出すと言ったのだ。
それなのに、どうして……?
あまりにショックが大きくて隠れた棚から動くことができない。
妹の手際は初めてのものとは思えなかった。
きっと今までに何度もやってきているのだ。
「お金が……ないから?」
小さな声で呟くと、リナの胸が押しつぶされてしまいそうになった。
中学生の妹に万引きなんてさせてしまっているのは自分のせいじゃないかと考えてしまう。
自分がアイドルなんてしているからお金がなくなっていくんだ。
自分がアルバイトをすれば、もっとお金が入るのに……。
リナの中のショックな気持ちは、いつの間にか自分自身を攻める要因へと変化して行ったのだった。
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