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盗みの仮面
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姿見の前で長沢リナは念入りに自分の身なりを確認していた。
白いブラウスに紺色のスカート。
胸元にはエンジ色のリボンが結ばれている。
「お姉ちゃん、早くしないと遅刻するよ!?」
バタバタと家の中を駆け回っている妹の声が聞こえてきて「わかってる」と、顔だけ振り向いて返事をする。
よし、今日もおかしいところはなし、と。
リナは自分の姿に満足をしてひとつうなづくと、足元に置いてあった学生カバンを手に取った。
「じゃ、私行ってくるから」
家族に声をかけ、外へ出る。
今日は思ったよりも日差しが強くて外へ出た瞬間目を細めた。
一瞬日傘を取りに玄関へ戻ろうかと思ったが、思い直してそのまま歩き始めた。
アイドルにとって日焼けはご法度だけれど、日にあたらなすぎるのも体によくないと効いたことがある。
日焼け止めは塗ってあるし、今日くらいはこのまま歩いて行ってもいいかもしれない。
学校までの道のりを背筋を伸ばして歩いていく。
一歩外へ出れば私はもうアイドルだ。
近所の人たちだって私の活動を知っているから、下手な姿を見せることはできない。
休日に近くのコンビニまで行くときだって、スッピンに見えるナチュラルメークで、可愛いルームウェアを身に着けて行く。
そのくらいしなければ本物のアイドルになんてなれないとリナは思っていた。
学校までの道のりを歩きながら、小学校の頃両親につれられていったアイドルのコンサートを思い出す。
ステージの上でキラキラと輝いていた彼女たち。
いつか自分のあのステージに立ちたいと願い、中学に入学してからダンスレッスンをはじめた。
それがよかったのかはわからないが、高校に入学してからは地元アイドルとして活動するようになっていた。
最初、地元アイドル募集のチラシを見たときはまさか自分が選ばれるなんて思ってもみなかった。
だって、応募条件は市内に暮らす0歳から100歳までの女性となっていたから。
町おこしのための一風変わったアイドルを作りたいのだと思っていた。
だけど最終的に残ったのはリナを含める高校生2人と中学生2人の4人だ。
あのアイドル募集チラシはただ注目度を高めるために作られたものだとすぐにわかった。
地元アイドルとして活動させたいのは赤ん坊でもおばあちゃんでもない、若い女の子たちだったのだ。
それじゃどこにでもいるアイドルと同じだ。
地元から羽ばたいて行こうと思っても埋もれてしまうのが関の山。
リナは一瞬そんな風に焦ったけれど、それでも地元アイドルを引き受けることにした。
まずは第一歩だ。
どんなことでも経験していないとしているのでは大違い。
それに最近では地元アイドルが全国的に有名になるパターンは多く存在している。
あわよくば自分もその1人になりたかった。
「リナちゃんおはよう」
考え事をしているうちに学校に到着してしまった。
慣れた道だからボーっとしていても足は勝手に動いてしまう。
「おはよう。今日も暑くなりそうだね」
リナはクラスメートに笑顔で返事をする。
「本当だねぇ。あ、リナちゃんが気になるって言ってたCD持って来たよ」
「本当!? わぁ、嬉しい! このCDすっごく聞きたかったんだ! ありがとう!」
少し大げさに喜んで飛び跳ねる。
学校内でももちろんリナはアイドルのリナだった。
みんなに優しく、そして明るく元気。
意識してそういうキャラクターを作っていると、みんなの前では自然とそういう風に振舞うことができるようになっていた。
案の定リナに友人は多かった。
クラスメートのほとんどはリナの友達だし、他のクラスにも沢山友達と呼べる子がいる。
けれどたった1人の親友を作ることは難しかった。
親友となれば自分の悩みを打ち明けたりできないといけない。
今のリナにとって、そこまで心を許せる子はいなかった。
どんな小さなグチでもアイドルにとって致命傷となる場合はある。
まだ全国デビューもできていないリナが、今から汚点を背負うことはできなかった。
「ねぇリナちゃん。ちょっと言い難いことなんだけどさぁ」
借りたCDをカバンにしまっているとき、ショートカットの女子生徒がおずおずと話しかけてきた。
隣の席の九条さんだ。
「なに?」
「南部のやつ、またカメ持ってきてるよ」
九条さんはリナの耳元に顔を寄せてささやいた。
リナはその言葉にチラリと南部恵一へと視線を向ける。
大人しい恵一は今も1人で机に座って文庫本を広げている。
恵一は誰かと楽しく会話をしているところを、リナは1度も見たことがなかった。
「そう。困ったね」
リナは眉を寄せて答える。
本当はそこまで困っていないけれど、苦情さんがせっかく知らせてくれたので深刻そうな表情をしなければならない。
南部君が自分を盗撮していることは知っていた。
彼がアイドルオタクであることも、地元のイベントに参加したとき必ず見に来ていることも。
イベントのときに手売りするグループのプロマイドや、簡単な装丁で作られた写真集も買ってくれているのを見たことがある。
でも、リナはそれを気がつかないフリをしてあげているのだ。
イベントに来ても直接リナに話かけてくることはないし、同じクラスなのに話たこともない。
そんな南部君の気持ちを察して、自分との接点を隠してあげている。
もちろん盗撮はよくないことだけれど、南部君がこっそりこちらへカメラを向けているとき、リナは自然と表情を作り、ポーズを決めていた。
だからちゃんと写真に残されていいものを撮らせてあげているのだ。
南部君がそのことに気がついている様子はないけれど。
そう思うとリナは1人の男を手のひらで転がしているような気持ちになり、とても気分がいい。
南部君のようなファンがどんどん増えていくことを祈ってすらいた。
「ね、1度私がガツンと言ってやろうか?」
九条さんが拳を作って言うのでリナは慌てて左右に首を振った。
「ま、待って待って。私は大丈夫だし、実害だってないんだから」
それになにより全国デビューする前に汚点を作るようなことはできない。
南部君のような人を非難するのは実はとても怖いことだ。
自分の行動を否定された南部君がどのように感じて、どのように動き始めるかわからない。
もしもこちらの体や名誉に傷がつくようなことがあってはいけない。
「本当に大丈夫? このままエスカレートするかもしれないよ?」
「心配してくれてありがとう。本当に困ったらまた相談するね」
リナがそう言うと九条さんは嬉しそうに胸を張った。
自分がリナの相談相手になれるということが嬉しいみたいだ。
南部君にしても九条さんにしても、みんなよりもリナに近づくことを嬉しいと感じているのがわかる。
地元アイドルに特別扱いされるよりも、全国的なアイドルに特別扱いされたいでしょう?
リナは心の中でささやく。
きっと近いうちにそういう未来がくる。
だってこんなにも私は頑張っているんだから。
リナは体操着を取り出して他のクラスメートたちと一緒に席を立つ。
1時間目から体育の授業だなんてめんどくさいな。
そう思ってももちろん声には出さない。
地元アイドルとして活動し始めてから不平不満を漏らしたことはほとんどない。
気を許しているのは家族に対してだけだ。
妙なグチを口走ることで自分の夢が絶たれるなんて考えられないことで、リナはいつでも自分の言動をコントロールしていた。
その分ストレスもたまるけれど、いつでも自分がアイドルでいられるような気分にもなれた。
「もしかしてそれ、縫ってるの?」
教室から出て行こうとしたとき後方からそんな声が聞こえてきて立ち止まった。
振り向いた瞬間うんざりした気分になる。
気分がそのまま顔に出そうになって、リナは慌てて笑顔を作った。
声をかけてきたのは同じクラスの四条クルミだ。
クルミは地元では有名な企業のひとり娘で、お金があることで有名だった。
お稽古事や勉強、美容にも沢山お金をかけているようで才色兼備だと有名だ。
そんなクルミはアイドルであるリナの存在が気に入らないようで、ことあるごとに突っかかってくる。
リナもクルミに嫌味を言われるとつい言い返してしまいそうになったりして、やっかいな相手だった。
「ねぇ?」
首をかしげたクルミはリナの持っている体操着袋を指差している。
クルミに指摘された通り、リナの体操着袋にはハートのアップリケがつけられている。
可愛くて気に入っているけれど、オシャレのためにつけたのではない。
袋が破れてしまったからつけたのだ。
リナは咄嗟に体の後ろに袋を隠した。
「それって破れたからつけたんでしょう? シューズだって随分汚れて、それでも買い換えてないんだね。もしかしてお金がないの?」
その言葉に体がビクリと反応してしまう。
平静でいようと思っているのに笑顔が引きつってきてしまう。
他の友人たちはキョトンとした表情でリナとクルミのやりとりを見つめている。
ここで言い返したり、怒ったりしてはいけない。
みんなの見ている前では絶対にいけない。
リナは一度目を閉じて深呼吸をした。
「クルミちゃんに比べれば、私の家なんてお金がなくて当たり前だよ」
甘ったるい声で答えるとクルミは眉間にマユを寄せた。
わざとリナを怒らせようとしたのに見事に失敗してしまったからだ。
「ふぅん? でもさリナってアイドルじゃん。アイドルって貧乏なの?」
「そ、それは……地元アイドルは、ボランティアみたいなものだから」
リナは引きつった笑みを続ける。
実際にそうだった。
いくら活動をしても、いくらグッズを売ってもリナたちの手元に入ってくるのはお小遣い程度のもの。
学校終わりにアルバイトをしたほうがよほどお金になる。
「ふぅん、そうなんだ」
いくらつついてもリナがボロを出さないので、クルミは飽きたように大きな欠伸をして背を向けた。
その後ろ姿を一瞬だけ睨みつける。
噂ではクルミも地元アイドルコンテストに参加していたという。
だからきっとクルミはリナをアイドルの座から引きずり下ろしたいのだ。
だけどそうはさせない。
私はいずれ全国的にデビューして、クルミの嫌味なんて聞こえないくらいのお金と夢を手にいれるんだ。
「じゃ、行こうか」
リナは笑顔になり、みんなと一緒に教室を出たのだった。
白いブラウスに紺色のスカート。
胸元にはエンジ色のリボンが結ばれている。
「お姉ちゃん、早くしないと遅刻するよ!?」
バタバタと家の中を駆け回っている妹の声が聞こえてきて「わかってる」と、顔だけ振り向いて返事をする。
よし、今日もおかしいところはなし、と。
リナは自分の姿に満足をしてひとつうなづくと、足元に置いてあった学生カバンを手に取った。
「じゃ、私行ってくるから」
家族に声をかけ、外へ出る。
今日は思ったよりも日差しが強くて外へ出た瞬間目を細めた。
一瞬日傘を取りに玄関へ戻ろうかと思ったが、思い直してそのまま歩き始めた。
アイドルにとって日焼けはご法度だけれど、日にあたらなすぎるのも体によくないと効いたことがある。
日焼け止めは塗ってあるし、今日くらいはこのまま歩いて行ってもいいかもしれない。
学校までの道のりを背筋を伸ばして歩いていく。
一歩外へ出れば私はもうアイドルだ。
近所の人たちだって私の活動を知っているから、下手な姿を見せることはできない。
休日に近くのコンビニまで行くときだって、スッピンに見えるナチュラルメークで、可愛いルームウェアを身に着けて行く。
そのくらいしなければ本物のアイドルになんてなれないとリナは思っていた。
学校までの道のりを歩きながら、小学校の頃両親につれられていったアイドルのコンサートを思い出す。
ステージの上でキラキラと輝いていた彼女たち。
いつか自分のあのステージに立ちたいと願い、中学に入学してからダンスレッスンをはじめた。
それがよかったのかはわからないが、高校に入学してからは地元アイドルとして活動するようになっていた。
最初、地元アイドル募集のチラシを見たときはまさか自分が選ばれるなんて思ってもみなかった。
だって、応募条件は市内に暮らす0歳から100歳までの女性となっていたから。
町おこしのための一風変わったアイドルを作りたいのだと思っていた。
だけど最終的に残ったのはリナを含める高校生2人と中学生2人の4人だ。
あのアイドル募集チラシはただ注目度を高めるために作られたものだとすぐにわかった。
地元アイドルとして活動させたいのは赤ん坊でもおばあちゃんでもない、若い女の子たちだったのだ。
それじゃどこにでもいるアイドルと同じだ。
地元から羽ばたいて行こうと思っても埋もれてしまうのが関の山。
リナは一瞬そんな風に焦ったけれど、それでも地元アイドルを引き受けることにした。
まずは第一歩だ。
どんなことでも経験していないとしているのでは大違い。
それに最近では地元アイドルが全国的に有名になるパターンは多く存在している。
あわよくば自分もその1人になりたかった。
「リナちゃんおはよう」
考え事をしているうちに学校に到着してしまった。
慣れた道だからボーっとしていても足は勝手に動いてしまう。
「おはよう。今日も暑くなりそうだね」
リナはクラスメートに笑顔で返事をする。
「本当だねぇ。あ、リナちゃんが気になるって言ってたCD持って来たよ」
「本当!? わぁ、嬉しい! このCDすっごく聞きたかったんだ! ありがとう!」
少し大げさに喜んで飛び跳ねる。
学校内でももちろんリナはアイドルのリナだった。
みんなに優しく、そして明るく元気。
意識してそういうキャラクターを作っていると、みんなの前では自然とそういう風に振舞うことができるようになっていた。
案の定リナに友人は多かった。
クラスメートのほとんどはリナの友達だし、他のクラスにも沢山友達と呼べる子がいる。
けれどたった1人の親友を作ることは難しかった。
親友となれば自分の悩みを打ち明けたりできないといけない。
今のリナにとって、そこまで心を許せる子はいなかった。
どんな小さなグチでもアイドルにとって致命傷となる場合はある。
まだ全国デビューもできていないリナが、今から汚点を背負うことはできなかった。
「ねぇリナちゃん。ちょっと言い難いことなんだけどさぁ」
借りたCDをカバンにしまっているとき、ショートカットの女子生徒がおずおずと話しかけてきた。
隣の席の九条さんだ。
「なに?」
「南部のやつ、またカメ持ってきてるよ」
九条さんはリナの耳元に顔を寄せてささやいた。
リナはその言葉にチラリと南部恵一へと視線を向ける。
大人しい恵一は今も1人で机に座って文庫本を広げている。
恵一は誰かと楽しく会話をしているところを、リナは1度も見たことがなかった。
「そう。困ったね」
リナは眉を寄せて答える。
本当はそこまで困っていないけれど、苦情さんがせっかく知らせてくれたので深刻そうな表情をしなければならない。
南部君が自分を盗撮していることは知っていた。
彼がアイドルオタクであることも、地元のイベントに参加したとき必ず見に来ていることも。
イベントのときに手売りするグループのプロマイドや、簡単な装丁で作られた写真集も買ってくれているのを見たことがある。
でも、リナはそれを気がつかないフリをしてあげているのだ。
イベントに来ても直接リナに話かけてくることはないし、同じクラスなのに話たこともない。
そんな南部君の気持ちを察して、自分との接点を隠してあげている。
もちろん盗撮はよくないことだけれど、南部君がこっそりこちらへカメラを向けているとき、リナは自然と表情を作り、ポーズを決めていた。
だからちゃんと写真に残されていいものを撮らせてあげているのだ。
南部君がそのことに気がついている様子はないけれど。
そう思うとリナは1人の男を手のひらで転がしているような気持ちになり、とても気分がいい。
南部君のようなファンがどんどん増えていくことを祈ってすらいた。
「ね、1度私がガツンと言ってやろうか?」
九条さんが拳を作って言うのでリナは慌てて左右に首を振った。
「ま、待って待って。私は大丈夫だし、実害だってないんだから」
それになにより全国デビューする前に汚点を作るようなことはできない。
南部君のような人を非難するのは実はとても怖いことだ。
自分の行動を否定された南部君がどのように感じて、どのように動き始めるかわからない。
もしもこちらの体や名誉に傷がつくようなことがあってはいけない。
「本当に大丈夫? このままエスカレートするかもしれないよ?」
「心配してくれてありがとう。本当に困ったらまた相談するね」
リナがそう言うと九条さんは嬉しそうに胸を張った。
自分がリナの相談相手になれるということが嬉しいみたいだ。
南部君にしても九条さんにしても、みんなよりもリナに近づくことを嬉しいと感じているのがわかる。
地元アイドルに特別扱いされるよりも、全国的なアイドルに特別扱いされたいでしょう?
リナは心の中でささやく。
きっと近いうちにそういう未来がくる。
だってこんなにも私は頑張っているんだから。
リナは体操着を取り出して他のクラスメートたちと一緒に席を立つ。
1時間目から体育の授業だなんてめんどくさいな。
そう思ってももちろん声には出さない。
地元アイドルとして活動し始めてから不平不満を漏らしたことはほとんどない。
気を許しているのは家族に対してだけだ。
妙なグチを口走ることで自分の夢が絶たれるなんて考えられないことで、リナはいつでも自分の言動をコントロールしていた。
その分ストレスもたまるけれど、いつでも自分がアイドルでいられるような気分にもなれた。
「もしかしてそれ、縫ってるの?」
教室から出て行こうとしたとき後方からそんな声が聞こえてきて立ち止まった。
振り向いた瞬間うんざりした気分になる。
気分がそのまま顔に出そうになって、リナは慌てて笑顔を作った。
声をかけてきたのは同じクラスの四条クルミだ。
クルミは地元では有名な企業のひとり娘で、お金があることで有名だった。
お稽古事や勉強、美容にも沢山お金をかけているようで才色兼備だと有名だ。
そんなクルミはアイドルであるリナの存在が気に入らないようで、ことあるごとに突っかかってくる。
リナもクルミに嫌味を言われるとつい言い返してしまいそうになったりして、やっかいな相手だった。
「ねぇ?」
首をかしげたクルミはリナの持っている体操着袋を指差している。
クルミに指摘された通り、リナの体操着袋にはハートのアップリケがつけられている。
可愛くて気に入っているけれど、オシャレのためにつけたのではない。
袋が破れてしまったからつけたのだ。
リナは咄嗟に体の後ろに袋を隠した。
「それって破れたからつけたんでしょう? シューズだって随分汚れて、それでも買い換えてないんだね。もしかしてお金がないの?」
その言葉に体がビクリと反応してしまう。
平静でいようと思っているのに笑顔が引きつってきてしまう。
他の友人たちはキョトンとした表情でリナとクルミのやりとりを見つめている。
ここで言い返したり、怒ったりしてはいけない。
みんなの見ている前では絶対にいけない。
リナは一度目を閉じて深呼吸をした。
「クルミちゃんに比べれば、私の家なんてお金がなくて当たり前だよ」
甘ったるい声で答えるとクルミは眉間にマユを寄せた。
わざとリナを怒らせようとしたのに見事に失敗してしまったからだ。
「ふぅん? でもさリナってアイドルじゃん。アイドルって貧乏なの?」
「そ、それは……地元アイドルは、ボランティアみたいなものだから」
リナは引きつった笑みを続ける。
実際にそうだった。
いくら活動をしても、いくらグッズを売ってもリナたちの手元に入ってくるのはお小遣い程度のもの。
学校終わりにアルバイトをしたほうがよほどお金になる。
「ふぅん、そうなんだ」
いくらつついてもリナがボロを出さないので、クルミは飽きたように大きな欠伸をして背を向けた。
その後ろ姿を一瞬だけ睨みつける。
噂ではクルミも地元アイドルコンテストに参加していたという。
だからきっとクルミはリナをアイドルの座から引きずり下ろしたいのだ。
だけどそうはさせない。
私はいずれ全国的にデビューして、クルミの嫌味なんて聞こえないくらいのお金と夢を手にいれるんだ。
「じゃ、行こうか」
リナは笑顔になり、みんなと一緒に教室を出たのだった。
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