デス・ドール

西羽咲 花月

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監視カメラ

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私と竜二のふたりは今までで最速で掃除を終えてふたりで職員室へ来ていた。
「屋上の鍵は最近誰も使用してないはずだけどなぁ」

まず、担任の先生に屋上の鍵について質問したところ、そんな風に返された。
だけど犯人が生徒だとは限らない。

もしも先生たちの中に犯人がいれば、わざわざ許可を取って屋上の鍵を持ち出すこともないんだ。
「あの、監視カメラの映像を見させてくれませんか?」

「屋上の監視カメラか? どうしてまたそんなことを?」
先生が怪訝そうな顔になる。

「実は今、友達がサッカーボールを割った犯人だって言われてるんです。無実を証明してやりたくて、証拠が必要なんです」

竜二がよどみなく説明するので驚いてしまった。


監視カメラ映像を確認させてもらうために、考えていたんだろう。

「そういうことか。でも屋上の監視カメラの中にグランドの様子までは写ってないと思うぞ?」

「それでも、可能性があるなら確認させてください!」
いつになく真剣な竜二に先生も驚いている。

きっと友情に熱いと思ってくれたのだろう、先生は監視カメラ映像の入ったUSBを持ってきてくれた。

「帰るときにはちゃんと返しに来いよ」
「わかりました!」

私達は頭を下げて職員室を出たのだった。

☆☆☆

その後私は竜二は図書室へと戻ってきていた。
自由に使えるパソコンがここにならある。

健太もカウンター業務をもう1人に頼んで一緒に映像を確認することにした。
見る日付と時間は決まっているから、そんなに時間もかからない。

「誰もいない……?」
流れてくる映像は灰色の屋上が写っているだけで、そこには誰の姿もない。

先生が言っていたようにグラウンドまでは写っていなくて、そこで自分たちに起こっていた出来事も記録されていなかった。

ちゃんと2日分確認したけれど、どちらにも不審な人物の陰はなかった。
「屋上じゃなかったか、それとも遠隔じゃないのか……」

健太がまた考え込んでしまった。
結局考えは振り出しに戻ってしまい、私は落胆しながらUSBを職員室へと返しに行ったのだった。

☆☆☆

いつもはみんなで帰るのが楽しいから、こんなに重たい気分で昇降口を抜けるのは初めてのことだった。

今日もピエロが出てきたらどうしよう。
私の頭の中はそればかりがグルグルと回っている。

「大丈夫だって」
竜二に手を引かれてグラウンドへ出たとき、またあの音楽が聞こえてきた。

そしてカラカラと安っぽいタイヤが回る音も。
「ひっ」

小さく悲鳴を上げてその場に立ち止まると、今度はグラウンドの木の陰からピエロが姿を見せたのだ。

「また来やがった」
竜二が舌打ちをする。

「どうしよう」


周囲を見回してみても武器になりそうなものはなにもない。
また物陰に隠れてやり過ごすしかないんだろうか。

そう考えている間にピエロがあっという間に距離を詰めてきていた。
真っ赤な口がニンマリと笑う。

その顔がはっきりと見える位置にいる。
「キャアア!」

大きな悲鳴を上げてピエロに背を向けて駆け出した。
竜二と健太も同時に走り出す。

「誰か、助けて!!」
健太が叫び声をあげるけれど、グラウンドには誰の姿もない。

職員室までは声が届かないのか、先生たちが出てくる気配もなかった。
「誰か助けて!」

「先生、出てきてくれ!!」


私と竜二も一生懸命に叫ぶけれど、どれだけ声を上げても誰の姿も見えない。
どうして!?

こんなことってあるわけない。
だって今は放課後で、他に生徒はほとんど残っていないんだから。

周りはとても静かに自分たちの声が先生に届かないなんて、ありえない。
ジワリは汗が滲んできて呼吸も上がる。

振り向けばピエロが疲れる様子も見せずに迫ってきている。
このまま走り続けたら、いつかはつかまってしまう!

私は恐怖心を押し込めてその場で足を止めた。
「千夏!?」

竜二がすぐに気がついて名前を呼ぶけれど、私は振り向かなかった。
「こっちだよ!」


わざとピエロへ向けて声をかけ、1人で竜二たちとは逆方向へと走り出した。
ピエロはギシギシとタイヤを軋ませながら無理やり方向転換している。

やった!
うまく行った!

ピエロは方向転換するときに時間がかかるから、その間に私は足の速度を早めた。
そして木陰へと身を隠すことに成功したのだ。

ピエロは目標物を見失ってその場で動きを止めた。
が、それもほんの束の間のことだった。

ピエロはすぐに竜二と健太の方へ体の向きを変えたのだ。
隠れていなかったふたりはあっという間にピエロと距離が縮まってしまう!

「い、飯島!!」
木陰から顔を出して私は叫んでいた。


飯島。
それはピエロの背中に書かれていた名前だった。

これがピエロと無関係なはずがなかった。
案の定。ピエロは飯島という名前に反応してすぐさま方向転換してこちらへ向いた。

そして今までに見たことのない速度で近づいてくる。
うまく逃げるつもりが一瞬出遅れてしまった。

木陰から出たときにはすでにピエロが目の前まできていたのだ。
飯島という名前でこれほど反応するとは思わなかった。

ピエロが音楽を奏でながらジリジリと距離を詰めてくる。
まるでネズミをいたぶっている猫みたいだ。

ピエロがナイフを握りしめた手を空中へと持ち上げていく。
逃げ道もなく、もう終わりだ……。

そう思って目を閉じたときだった。
「こっちだ!」


と叫び声が聞こえてきて目を開けた。
見ると竜二が木の棒をピエロに振り下ろしたところだった。

「竜二!」
「逃げろ、千夏!」

そう言われて我に返り、ピエロから離れる。
ピエロはそれでも執拗に私を追いかけて来ようとする。

「この! どっか行け!」

竜二が何度もピエロを木の棒で叩くと、ようやくピエロはフラフラと揺れながら校舎の奥へと逃げていった。

「行こう!」
隠れていた健太も出てきて、3人でどうにかグラウンドから出たのだった。

☆☆☆

「今日のピエロは一撃じゃ逃げていかなかった」
帰り道、健太が真剣な顔で言った。

「それだけじゃないよ。動きだってすごく早くなってる」

方向転換するときは少し遅くなるものの、気がつけばすぐ近くまで来ていることが多くなった。

このままじゃ、私達が攻撃を受ける日はそう遠くない。
「だからって囮になろうとするなんて……」

竜二が呆れたため息を吐き出して呟く。
そして私の肩に手を置いた。

「本当に無茶すんなよ。千夏のせいだなんて誰も思ってないんだからさ」
「わかってる。でも、私だってみんなの役に立ちたくて」


なにもできずにただ守ってもらうだけなんて嫌だったから、つい行動してしまった。

「今のところわかっているのは、昼間は絶対に姿を見せないということだな。だから、明日はピエロが出現するまでに対策を練ることにしよう」

健太の提案に私と竜二は頷いた。
監視カメラ映像を確認しても犯人の姿は写っていなかった。

それなら、今まで通りピエロと真っ向勝負するしかない。
「綾は明日学校に来るかなぁ?」

今日の様子を思い出すと休むかもしれないという懸念があった。

それならそれで安全かもしれないけれど、綾の学生生活を台無しにしてしまったようで申し訳なくなる。

「大丈夫。僕からも綾に連絡を入れておくよ」
健太がそう言ってくれたので、少し安心したのだった。
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