デス・ドール

西羽咲 花月

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図書委員会

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私達4人はみんな同じ図書委員の仕事をしていた。

本当はクラスごとに2人ずつ図書委員になるのだけれど、今年は図書委員をやりたがらないクラスが出てきてしまったため、A組から4人が選出された。

最初は面倒だと感じていた仕事だけれど、いつものメンバーで放課後残れるのは楽しかった。

「今月の新刊はこれで最後です」
健太が今月図書館に並べられる予定の本をピックアップして説明してくれたところだ。

「いつもながら相羽くんはセンスのいい本を選んでくれるわね」
図書室の先生が感心したように呟くのが聞こえてきた。

健太は勉強の本だけじゃなくて、エンタメ本もよく読むらしく、図書委員の仕事中はずっと目を輝かせている。

「それじゃ、今日はもういいから帰りなさい」
後は図書室を閉めるだけになって、それぞれがカバンを手に席を立つ。

「ふぁ~あ、やっと終わったな」


大きく伸びをしている竜二は話し合いの最中ずっと寝ていて、今起きたところだった。
「全然話聞いてなかったくせに、よく言うよね」

私は呆れて竜二の脇腹をつついた。
ちょっとは健太を見習って真面目に参加してほしい。

それから4人でおしゃべりをしながら昇降口へと向かう。

少し前までグラウンドでは部活動をする声が聞こえてきていたけれど、図書館が閉まる時間になるともう誰の姿もない。

そのグラウンドを突っ切って行かないと校門へはたどり着けない構造になっている。
「毎日毎日、図書委員の仕事ってなにかしらあるよなぁ」

竜二が頭の後ろで手を組んで言う。
「カウンター業務があるんだから、仕方ないでしょ」

「それにしても毎日やる必要があるかぁ?」
本にあまり興味のない竜二はさっきから不満タラタラだ。

それでも先に帰宅せずに一緒に委員会へ出ているのは、やっぱりこのメンバーで一緒にいることが楽しいからだと思う。


「健太に面白い本を教えてもらえば、ちょっとは委員会も楽しくなるんじゃない?」
私が健太に話をふると眼鏡の奥の目がキラリと光った。

「どんな本がいい? まずはエンタメ色の強い本から入ったほうがいいと思うけど」
「やめてくれよ。本とか、あんまり興味ないんだって」

健太にロックオンされた竜二が広い校庭を逃げ回る。
その姿を見て私と綾は笑っていたのだけれど……。

カランッ。
微かな音が聞こえてきて私は視線をそちらへ向けた。

ちょうど校門がある方角から聞こえてきた気がする。
校庭に残されたサッカーボールが風にフラフラと揺れているだけでなにも見えない。

気のせい?
そう思ったときだった。

校門も奥から音楽を奏でながらピエロの人形が姿を見せたのだ。


「え……嘘でしょ」
驚いて受けなくなっている私に、他の3人は気が付かない。

ピエロはカラカラと細いタイヤを回転させながら近づいてくる。
その右手にナイフのようなものが握られていることに気がついて「ひっ!」と、悲鳴をあげた。

ようやく異変に気がついた竜二が駆け寄ってきた。
「千夏、どうした?」

声をかけられて、私は震える指先で近づいてくるピエロの人形を指差した。
人形の動きは思いの外早くて、すでにサッカーボールのところまで来ている。

グラウンドの中央付近だ。
「ピエロ? あれって千夏が言ってた人形に似てない?」

綾の言葉に私は何度も頷いた。
似ているどろこか、私が購入したものに間違いないと思う。


「嘘だろ。誤作動だとしても千夏の家からここまで来られるわけがない。だいたい、部屋のドアや玄関はどう突破したんだ?」

健太が顎に指先を当てて考え込んでしまった。
だけどいくら考えたって答えは見つからない。

これはありえないことなんだから。
私は自分の頬を自分の指でつねってみた。

ちゃんと痛い。
やっぱり、昨日のあれも夢じゃなかったんだ!

「ね、ねぇ、逃げたほうがいいかも」
ピエロはサッカーボールのところから動いていない。

だけどナイフをもっているのだ。
あんなの、古物市で購入したときには持っていなかったのに。

「大丈夫だって。ただの人形だろ?」
竜二が軽い口調で言ってピエロに近づいていく。

ピエロの首がギギッと動いて竜二へと向けられた。


「なんだあの動きは。体も動くようにできているのか?」
「そんな風にはできてなかったはずだよ」

健太の疑問に私は即座に答えた。
どう見ても首元が妙なねじれ具合をしている。

「竜二! 戻ってきて!」
悪い予感がしてそう叫んだときピエロがナイフを振り上げた。

それが勢いよくサッカーボールに突き立てられる。
サッカーボールがパンッ! と大きな音を上げて弾け飛んだ。

竜二が弾かれたようにこちらへ駆け戻ってくる。
私たち4人はすぐに物置の陰にかくれた。

「な、何だよ今の」
竜二の声が震えている。

間近でピエロを見たせいか、その顔は真っ青だ。


「ナイフが本物だった! こんなのありえない」
健太も分析しながらも顔色が悪く、ずっと綾の手を握りしめている。

綾は青ざめ、言葉にならないみたいだ。

「私が見たのはきっと夢じゃなかったんだよ。こんなの、人形が動くなんてこと、ありえない!」

物置の陰からピエロの様子を伺っていると、しばらくグランド泣いをグルグルと回っていたかと思うと、急に方向転換して校門から外へ出ていってしまった。

それでもしばらくその場から動くことができなくて時間だけが過ぎていく。
「もうそろそろ大丈夫じゃないか?」

十分に時間が経過したのを確認してから竜二が立ち上がった。
グラウンドには誰もいないし、音楽も聞こえてこない。

4人で割れたサッカーボールを見下ろすとバラバラに切り刻まれていることがわかった。
これがもし、私たちの誰かに降り掛かっていたら?


そう考えて背筋が寒くなった。
「あの人形はなんなんだ? まるで自分の意思があるみたいに見えた」

健太はずっと分析を繰り返している。
そうすることで気持ちが落ち着くのかもしれない。

「とにかく帰ろう」
竜二が静かな声で言ったのだった。
☆☆☆

家にあったはずピエロが学校のグラウンドに現れた。

それだけでもおかしな出来事なのに、家に戻ってくるとあの人形の姿が見えなかった。

クローゼットの中もベッドの下もくまなく調べたけれど出てこない。
「あ、あのさぁ、私のピエロの人形知らない?」

夕飯のときになにげなく両親へ訊ねてみたけれど、ふたりとも知らないようだった。

「お母さん、今日は仕事が休みで家にいたんだよね? なにか変な音を聞いたり、見たりしなかった?」

「特に何もなかったわよ? なにかあったの?」
首にかしげている母親に私は思いきって今日の出来事を説明した。

古物市で購入したピエロの人形がグラウンドへ出現して、その手にはナイフが握られていたこと。
そしてサッカーボールが切り刻まれたこと。


説明している間にお母さんとお父さんの顔は渋いものに変わっていた。
「千夏、どうしてそんな嘘をつくの?」

「う、嘘じゃないよ!」
「人形がひとるで動いて学校まで行くなんて、そんなことあるわけないでしょ」

「で、でも……!」
実際に起こった出来事だし、私もこの目で見た!

そう言いたかったけれど、お父さんの強い咳払いによって言葉を遮られてしまった。

簡単に信じてもらえることじゃないのはわかっていたけれど、こんなに頭から否定されるとは思っていなくて胸がチクリと痛む。

それから私は黙って食事を終えたのだった。
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