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夢の中
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はぁはぁはぁ。
どれだけ走ってもあの音楽が耳に張り付いて離れない。
大きな物陰を見つけて私はそこに見を滑り込ませた。
しゃがみこんで呼吸を整え、耳を澄ます。
あの音楽はこちらに気が付かずにどこか遠ざかっていくのがわかった。
「助かった」
思わず呟いたその時だった。
カランッと響く音が聞こえてきてビクリと視線をあげた。
そこには私を見下ろすようにピエロの人形が笑っていたのだった。
2
「きゃあ!?」
思わずベッドの上に飛び起きていた。
心臓は早鐘を打ち、全身汗でびっしょりだ。
額に浮かんでいる汗を手の甲でぬぐって私、柴原千夏はため息を吐き出す。
ピエロの人形に追いかけられるという、すごくリアルな夢だった。
出窓へ視線を向けると前の休日に古物市で購入したピエロの人形がある。
足の部分がタイヤになっていて、ネジを回せば音楽をかなでながら移動するものだった。
普段は可愛い動物のぬいぐるみにばかり興味があるんだけれど、このピエロを見た瞬間目が離せなくなってしまった。
それからなんだか導きられるようにして、購入してきたんだ。
古物市だからタダ同然で購入してきたそれをよく観察してみると、ピエロの背中の衣装をはぐと飯島とマジックで名前が書かれていた。
きっと、元の持ち主の名前なんだろう。
お人形やおもちゃに名前を書くのは自分も子供の頃によくやったからわかるけれど、このピエロの人形が特別好きだったということなんだと思う。
心臓が落ち着いてきたので再びベッドへ横になろうとした、そのときだった。
ふと出窓へまた目を向けると、そこにいたはずのピエロがいなくなっていたのだ。
「あれ?」
目をこすってよく見てみようとしたそのとき、ピエロの音楽がすぐ近くで聞こえてきた。
音をたどって恐る恐るベッドの下を確認する。
真っ暗闇でなにも見えない。
音楽が近づいてくるにつれてその中に2つの白い目が浮かんできた。
ピエロの人形が月明かりに照らされて、ニタリを笑った……。
☆☆☆
いつの間に眠ってしまったのかわからないけれど、翌日は寝不足でひどい状態だった。
目を覚ましてすぐにピエロの人形を確認したけれど、おとなしく出窓に飾られているし、近づいてみても動くことはなかった。
でも、昨日の夜はたしかにベッドの下に移動してたのに……。
そう思うと朝ごはんもろくに喉を通らないまま、学校へやってきていた。
2年A組の教室を開けと、
「千夏、おはよう」
と、先に登校してきていた水野綾が声をかけてくる。
綾は小学校のころからの仲良しで、背が小さくてかわいい子だ。
「綾、おはよう」
「どうしたの? なんだか元気がないみたいだけど?」
綾が私の目の下のクマに気がついて心配そうにしている。
「ちょっと、変な夢を見て」
昨日の夜のことを説明していると、同じクラスの中村竜二と相羽健太もやってきた。
いつもこの四人で行動している仲良しだ。
「ピエロの人形が襲ってくるぅ?」
顔をしかめて言ったのは竜二だった。
竜二と私はおさななじみで、小さな頃からよく知っている。
昔は同じくらいの慎重だったけれど、中学に上がってから急に背が伸び始めた竜二を今では見上げるようになっている。
慎重が伸びると同時にだんだん大人っぽくなっている竜二を、心の中ではドキドキして見ている毎日だ。
「本当だってば」
「夢の続きを見てただけだろ?」
やっぱり、思っていた通り竜二は簡単には信じてくれなかった。
思わずふくれっ面になっていると横から綾が「私は信じるよ」と、フォローしてくれた。
「千夏はそんな子供っぽい嘘なんてつかないもん。ね?」
「そうだよ! 健太も信じてくれるよね?」
健太へ向けて聞くと健太は腕を組んでうーんと首をかしげた。
銀色のメガネの奥で瞳が揺れて困っているのがわかる。
インテリ系の健太はクラステストでいつも1位2位を争っている。
そんな健太へ向ける、綾の視線はとても熱い。
「人形が襲ってくるか……。ありえなくはないとおもうよ」
「本当に!?」
肯定的な健太の意見にパッと笑顔になる。
インテリ系の健太が味方をしてくれたらこっちは強い。
「だって、そのピエロはもともと動く人形なんだろう? ねじ巻き形式だとしたら、途中で止まって後から少しだけ動くことはよくあると思う。電池だとしても、誤作動とかあるだろうし」
「あぁ、そういうことかぁ」
健太の説明に竜二が納得している。
だけど私は内心納得していなかった。
健太の言う通り動くおもちゃは誤作動もある。
だけどそういうんじゃない。
昨日見たピエロはまるで意思を持って私を驚かそうとしているような、そんな気がした。
「千夏。調子が悪いなら保健室に行く?」
綾が心配そうに声をかけてくるので私は慌てて左右に首を振った。
「ううん。大丈夫だよ」
「ま、プエロの人形くらい俺がどうにかしてやるから、安心しろ」
竜二からの思いがけない言葉に顔を向けると、竜二の頬は照れたように赤く染まっていて、視線が合う寸前にそらされてしまった。
「あ~あ、熱い熱い。ちょっと離れたほうが良さそうだな」
健太がわざとらしくそう言って綾とふたりで離れていく。
「ちょ、ちょっとふたりとも!」
顔が熱くなるのを感じながら、私は竜二と綾のふたりを引き止めたのだった。
どれだけ走ってもあの音楽が耳に張り付いて離れない。
大きな物陰を見つけて私はそこに見を滑り込ませた。
しゃがみこんで呼吸を整え、耳を澄ます。
あの音楽はこちらに気が付かずにどこか遠ざかっていくのがわかった。
「助かった」
思わず呟いたその時だった。
カランッと響く音が聞こえてきてビクリと視線をあげた。
そこには私を見下ろすようにピエロの人形が笑っていたのだった。
2
「きゃあ!?」
思わずベッドの上に飛び起きていた。
心臓は早鐘を打ち、全身汗でびっしょりだ。
額に浮かんでいる汗を手の甲でぬぐって私、柴原千夏はため息を吐き出す。
ピエロの人形に追いかけられるという、すごくリアルな夢だった。
出窓へ視線を向けると前の休日に古物市で購入したピエロの人形がある。
足の部分がタイヤになっていて、ネジを回せば音楽をかなでながら移動するものだった。
普段は可愛い動物のぬいぐるみにばかり興味があるんだけれど、このピエロを見た瞬間目が離せなくなってしまった。
それからなんだか導きられるようにして、購入してきたんだ。
古物市だからタダ同然で購入してきたそれをよく観察してみると、ピエロの背中の衣装をはぐと飯島とマジックで名前が書かれていた。
きっと、元の持ち主の名前なんだろう。
お人形やおもちゃに名前を書くのは自分も子供の頃によくやったからわかるけれど、このピエロの人形が特別好きだったということなんだと思う。
心臓が落ち着いてきたので再びベッドへ横になろうとした、そのときだった。
ふと出窓へまた目を向けると、そこにいたはずのピエロがいなくなっていたのだ。
「あれ?」
目をこすってよく見てみようとしたそのとき、ピエロの音楽がすぐ近くで聞こえてきた。
音をたどって恐る恐るベッドの下を確認する。
真っ暗闇でなにも見えない。
音楽が近づいてくるにつれてその中に2つの白い目が浮かんできた。
ピエロの人形が月明かりに照らされて、ニタリを笑った……。
☆☆☆
いつの間に眠ってしまったのかわからないけれど、翌日は寝不足でひどい状態だった。
目を覚ましてすぐにピエロの人形を確認したけれど、おとなしく出窓に飾られているし、近づいてみても動くことはなかった。
でも、昨日の夜はたしかにベッドの下に移動してたのに……。
そう思うと朝ごはんもろくに喉を通らないまま、学校へやってきていた。
2年A組の教室を開けと、
「千夏、おはよう」
と、先に登校してきていた水野綾が声をかけてくる。
綾は小学校のころからの仲良しで、背が小さくてかわいい子だ。
「綾、おはよう」
「どうしたの? なんだか元気がないみたいだけど?」
綾が私の目の下のクマに気がついて心配そうにしている。
「ちょっと、変な夢を見て」
昨日の夜のことを説明していると、同じクラスの中村竜二と相羽健太もやってきた。
いつもこの四人で行動している仲良しだ。
「ピエロの人形が襲ってくるぅ?」
顔をしかめて言ったのは竜二だった。
竜二と私はおさななじみで、小さな頃からよく知っている。
昔は同じくらいの慎重だったけれど、中学に上がってから急に背が伸び始めた竜二を今では見上げるようになっている。
慎重が伸びると同時にだんだん大人っぽくなっている竜二を、心の中ではドキドキして見ている毎日だ。
「本当だってば」
「夢の続きを見てただけだろ?」
やっぱり、思っていた通り竜二は簡単には信じてくれなかった。
思わずふくれっ面になっていると横から綾が「私は信じるよ」と、フォローしてくれた。
「千夏はそんな子供っぽい嘘なんてつかないもん。ね?」
「そうだよ! 健太も信じてくれるよね?」
健太へ向けて聞くと健太は腕を組んでうーんと首をかしげた。
銀色のメガネの奥で瞳が揺れて困っているのがわかる。
インテリ系の健太はクラステストでいつも1位2位を争っている。
そんな健太へ向ける、綾の視線はとても熱い。
「人形が襲ってくるか……。ありえなくはないとおもうよ」
「本当に!?」
肯定的な健太の意見にパッと笑顔になる。
インテリ系の健太が味方をしてくれたらこっちは強い。
「だって、そのピエロはもともと動く人形なんだろう? ねじ巻き形式だとしたら、途中で止まって後から少しだけ動くことはよくあると思う。電池だとしても、誤作動とかあるだろうし」
「あぁ、そういうことかぁ」
健太の説明に竜二が納得している。
だけど私は内心納得していなかった。
健太の言う通り動くおもちゃは誤作動もある。
だけどそういうんじゃない。
昨日見たピエロはまるで意思を持って私を驚かそうとしているような、そんな気がした。
「千夏。調子が悪いなら保健室に行く?」
綾が心配そうに声をかけてくるので私は慌てて左右に首を振った。
「ううん。大丈夫だよ」
「ま、プエロの人形くらい俺がどうにかしてやるから、安心しろ」
竜二からの思いがけない言葉に顔を向けると、竜二の頬は照れたように赤く染まっていて、視線が合う寸前にそらされてしまった。
「あ~あ、熱い熱い。ちょっと離れたほうが良さそうだな」
健太がわざとらしくそう言って綾とふたりで離れていく。
「ちょ、ちょっとふたりとも!」
顔が熱くなるのを感じながら、私は竜二と綾のふたりを引き止めたのだった。
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