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新井皐月のボイスレコーダー
部長、怖い話を扱った記事ってありますか?
あ、これですか。
随分分厚い資料ですね。
学校の七不思議に都市伝説。
卒業生の創作怪談まであるんですか!
これだけの資料を読むのはちょっと……。
いや、そんなこと言っていられないか。
よし、頑張ろう。
☆☆☆
新聞部の資料より
『岩通川都市伝説ファイルその1 自殺の踏み切り』
この町にはいくつかの線路が走り、いくつかの踏み切りが存在する。
踏み切りの数は2箇所だと言われているが、霧が濃い夜になると3つめの踏み切りが出現するらしい。
それはこの岩通川中学校から南へ3キロほど行った先にある、山道へ続く道路にある。
そこに行けば今は廃路線となった線路があり、草木に覆われている。
昔は山道へ入るためにそこに踏み切りが設置されていたのだそうだ。
それは私達が生まれてくるずっと昔に撤去されているのだけれど、その踏み切りは霧の濃い夜になるとその中にボンヤリと姿を見せる。
そして夜に溶けるような切なげな音がカンカンカンカンと鳴り響いている。
その警笛音はまるで人が泣いているように聞こえるらしい。
真夜中に出歩いていた人の中には、その音に引き寄せられるように存在しない踏み切りへ近づいて行き、線路の中へと引き込まれる。
そしてそのまま、行方知らずになるのだ。
そんな出来事が何度か続いたとき、町の人達は自殺の踏み切りだと噂をしはじめた。
あの踏み切りに誘われた人間は見えない電車に轢かれて死んでしまった。
そして死体はそのまま電車に乗せられて運ばれているのだと。
だから、いつまで経っても行方不明者が見つかることはない。
永遠に、見えない電車に乗ってさまよい続けているのだろうか……。
『岩通川都市伝説ファイルその2 ことり鬼』
岩通川も例外に漏れること無く、貧困にあえぐ時代があった。
昔でいえばそれはどこの地域に訪れても不思議ではない、農作物の不況だった。
今のように進歩していない時代の農作物は天候にすべてが左右される。
この町で農作物が取れなくなったときには町の子どもたちが集まってきて、ことり鬼をするという。
この地域のことり鬼とは鬼を1人で決めて、他の子供達を追いかける。
鬼にタッチされた子も、同じように鬼になると、鬼ごっことあまり変わらないルールになっているらしい。
全国的に有名なことり鬼で使う「ころところと」という歌も使わない。
代わりに子どもたちが口ずさむ歌は下記のような歌である。
ひとり消えりゃ雨が降る
ふたぁり消えりゃ芽吹きはじめ
さんにん消えりゃ花が咲く
実になるまで 何人消えりゃ
よにんごにんろくにん消えりゃ
この町は大団円
鬼になった子どもたちは最後に大きな窯の中に入れられて、グツグツと煮られるそうだ。
子供たちが煮えている間にも、この歌はずっと続く。
そしてひもじい思いをしている子たちは、煮えた友人をつついて食べる。
食べられた子どもたちは、行方不明として処理されるが、嘆き悲しむ親は少なかった。
1時間後には自分も餓死しているかもしれない。
そんな状況では悲しむに悲しめない。
ひとり消えりゃ雨が降る
ふたぁり消えりゃ芽吹きはじめ
さんにん消えりゃ花が咲く
実になるまで 何人消えりゃ
よにんごにんろくにん消えりゃ
この町は大団円
どこからかこの歌が聞こえてきても大人たちはみんな聞こえないふりをして、痩せた田畑を耕し続けたらしい。
☆☆☆
新井皐月の覚え書き
岩通川に伝わる都市伝説で、行方不明に関わるものは『自殺の踏み切り』と『ことり鬼』
これのどちらかに久保田春華先輩が出会ってしまった可能性は、極めて低いと思われる。
☆☆☆
新井皐月のボイスレコーダー
今、部長が怖い話をしてくれるそうで、レコーダーを回しています。
部長、よろしくお願いします。
……あれ? なんか緊張してします?
してない?
じゃあどうしてそんなムキになってるんですか?
あぁ、はいはい。
冗談ですよ。
手間のかかる人ですね。
それで、今回はどんな話をしてくれるんですか?
……はい。私は今この町の都市伝説について調べていました。
先輩も、この町についての話をしてくれるんですね?
それはありがたいです。
では、お願いします。
☆☆☆
部長の話
え~、うぉっほん!
これ、もう録音してるんだよな?
俺、話てもいい?
そうか、よし。
俺が話すのもこの町に伝わる都市伝説だけど、あまり知られていない部類のものになる。
昔からあるような話じゃなくて、ここ十数年でぽっと出てきた話なんだ。
だから、親やじいちゃんばあちゃんに質問しても知らないって言ってる。
でも俺は新聞部の部長だからな。
いろいろな情報が入ってくるわけだ。
人が行方不明になる都市伝説としては、最も新しいものなんじゃないか?
え、そろそろ本題に入れ?
わかったよ。
おっふぉん。
これは俺がとある人から聞いた話なんだけど、この岩通川中学の裏には廃寺がある。
今じゃ裏山の木と同化するくらいに廃れてるけど、まぁ賑わっていた時代もあるんだって。
新井も、公民館とか、児童館であの寺が使われてたときの写真くらい、見たことあるよな?
ちゃんと手入れされて年に2度、夏祭りと秋祭りがあって人も沢山集まってきて。
それが今では受け継ぐ人がいなくなっちまって、森同然の有様だ。
人がいなくなった場所にはすぐに噂が立つ。
あの寺も、幽霊が出るって噂なんだ。
え?
知らなかった?
そうなのか。
それくらいの話は知っているものだと思ってたな。
あぁそうか。
新井は元々都市伝説を調べるような部員じゃなかったか。
資料を読んだのも今回が初めて?
ほぉ!
それはもったいないな。
よかったら持って帰って読んでもいいぞ!
あぁ、悪い。
話が逸れたな。
で、廃寺に関する噂ってのが、夜になると誰もいないはずの本殿の中から話し声が聞こえてくるっていうものなんだ。
それもひとりふたりの声じゃない。
もっと沢山の人の話声なんだって。
男の声も、女の声も聞こえてくる。
だけど、子供の声だけは聞こえてこないらしい。
つまり、あの寺には大人になってから死んだ人たちの魂が集まってきてるってことなんだ。
え?
3年生の阿達麻衣子と伊藤孝明?
あぁ、知ってる。
そういやあいつらも怖い話好きだっけな。
寺について質問しても答えてくれなかった?
さぁ……その理由についてはわからないな。
あ、もしかしてあいつら寺に行ったんじゃないか?
それがこの中学の裏にある寺のことかどうかは知らないけど、でも可能性はあるよな。
もう1度聞いてみたらどうだ?
俺もついていってやるから。
なんの寺について噂してたのか教えてもらいたいんだろ?
☆☆☆
新井皐月の覚え書き
部長と一緒に阿達麻衣子先輩と伊藤孝明先輩への聞き込み。
噂していた寺は、中学校の裏にある岩通川寺であると判明。
なお、そのときの会話についてはふたりが嫌がったため録音できていない。
☆☆☆
新井皐月の日記
6月□日
部長のおかげで少しだけ阿達麻衣子先輩と伊藤孝明先輩に話を聞くことができた。
ふたりが話をしていたという寺は、岩通川寺で間違いない。
それについて最初に話してくれなかったということは、岩通川寺でなにかがあった、ということなんだろう。
つまり、あのふたりは岩通川寺へ行ったことがあるのだ。
そしてなにかが起こった。
おそらく、人に話したくないような、なにかが。
それも気になるけれど、このときに久保田春華先輩も一緒にいたのかどうかも気になる。
まだまだ、わからないことだらけ。
取材は続きそうだ。
部長、怖い話を扱った記事ってありますか?
あ、これですか。
随分分厚い資料ですね。
学校の七不思議に都市伝説。
卒業生の創作怪談まであるんですか!
これだけの資料を読むのはちょっと……。
いや、そんなこと言っていられないか。
よし、頑張ろう。
☆☆☆
新聞部の資料より
『岩通川都市伝説ファイルその1 自殺の踏み切り』
この町にはいくつかの線路が走り、いくつかの踏み切りが存在する。
踏み切りの数は2箇所だと言われているが、霧が濃い夜になると3つめの踏み切りが出現するらしい。
それはこの岩通川中学校から南へ3キロほど行った先にある、山道へ続く道路にある。
そこに行けば今は廃路線となった線路があり、草木に覆われている。
昔は山道へ入るためにそこに踏み切りが設置されていたのだそうだ。
それは私達が生まれてくるずっと昔に撤去されているのだけれど、その踏み切りは霧の濃い夜になるとその中にボンヤリと姿を見せる。
そして夜に溶けるような切なげな音がカンカンカンカンと鳴り響いている。
その警笛音はまるで人が泣いているように聞こえるらしい。
真夜中に出歩いていた人の中には、その音に引き寄せられるように存在しない踏み切りへ近づいて行き、線路の中へと引き込まれる。
そしてそのまま、行方知らずになるのだ。
そんな出来事が何度か続いたとき、町の人達は自殺の踏み切りだと噂をしはじめた。
あの踏み切りに誘われた人間は見えない電車に轢かれて死んでしまった。
そして死体はそのまま電車に乗せられて運ばれているのだと。
だから、いつまで経っても行方不明者が見つかることはない。
永遠に、見えない電車に乗ってさまよい続けているのだろうか……。
『岩通川都市伝説ファイルその2 ことり鬼』
岩通川も例外に漏れること無く、貧困にあえぐ時代があった。
昔でいえばそれはどこの地域に訪れても不思議ではない、農作物の不況だった。
今のように進歩していない時代の農作物は天候にすべてが左右される。
この町で農作物が取れなくなったときには町の子どもたちが集まってきて、ことり鬼をするという。
この地域のことり鬼とは鬼を1人で決めて、他の子供達を追いかける。
鬼にタッチされた子も、同じように鬼になると、鬼ごっことあまり変わらないルールになっているらしい。
全国的に有名なことり鬼で使う「ころところと」という歌も使わない。
代わりに子どもたちが口ずさむ歌は下記のような歌である。
ひとり消えりゃ雨が降る
ふたぁり消えりゃ芽吹きはじめ
さんにん消えりゃ花が咲く
実になるまで 何人消えりゃ
よにんごにんろくにん消えりゃ
この町は大団円
鬼になった子どもたちは最後に大きな窯の中に入れられて、グツグツと煮られるそうだ。
子供たちが煮えている間にも、この歌はずっと続く。
そしてひもじい思いをしている子たちは、煮えた友人をつついて食べる。
食べられた子どもたちは、行方不明として処理されるが、嘆き悲しむ親は少なかった。
1時間後には自分も餓死しているかもしれない。
そんな状況では悲しむに悲しめない。
ひとり消えりゃ雨が降る
ふたぁり消えりゃ芽吹きはじめ
さんにん消えりゃ花が咲く
実になるまで 何人消えりゃ
よにんごにんろくにん消えりゃ
この町は大団円
どこからかこの歌が聞こえてきても大人たちはみんな聞こえないふりをして、痩せた田畑を耕し続けたらしい。
☆☆☆
新井皐月の覚え書き
岩通川に伝わる都市伝説で、行方不明に関わるものは『自殺の踏み切り』と『ことり鬼』
これのどちらかに久保田春華先輩が出会ってしまった可能性は、極めて低いと思われる。
☆☆☆
新井皐月のボイスレコーダー
今、部長が怖い話をしてくれるそうで、レコーダーを回しています。
部長、よろしくお願いします。
……あれ? なんか緊張してします?
してない?
じゃあどうしてそんなムキになってるんですか?
あぁ、はいはい。
冗談ですよ。
手間のかかる人ですね。
それで、今回はどんな話をしてくれるんですか?
……はい。私は今この町の都市伝説について調べていました。
先輩も、この町についての話をしてくれるんですね?
それはありがたいです。
では、お願いします。
☆☆☆
部長の話
え~、うぉっほん!
これ、もう録音してるんだよな?
俺、話てもいい?
そうか、よし。
俺が話すのもこの町に伝わる都市伝説だけど、あまり知られていない部類のものになる。
昔からあるような話じゃなくて、ここ十数年でぽっと出てきた話なんだ。
だから、親やじいちゃんばあちゃんに質問しても知らないって言ってる。
でも俺は新聞部の部長だからな。
いろいろな情報が入ってくるわけだ。
人が行方不明になる都市伝説としては、最も新しいものなんじゃないか?
え、そろそろ本題に入れ?
わかったよ。
おっふぉん。
これは俺がとある人から聞いた話なんだけど、この岩通川中学の裏には廃寺がある。
今じゃ裏山の木と同化するくらいに廃れてるけど、まぁ賑わっていた時代もあるんだって。
新井も、公民館とか、児童館であの寺が使われてたときの写真くらい、見たことあるよな?
ちゃんと手入れされて年に2度、夏祭りと秋祭りがあって人も沢山集まってきて。
それが今では受け継ぐ人がいなくなっちまって、森同然の有様だ。
人がいなくなった場所にはすぐに噂が立つ。
あの寺も、幽霊が出るって噂なんだ。
え?
知らなかった?
そうなのか。
それくらいの話は知っているものだと思ってたな。
あぁそうか。
新井は元々都市伝説を調べるような部員じゃなかったか。
資料を読んだのも今回が初めて?
ほぉ!
それはもったいないな。
よかったら持って帰って読んでもいいぞ!
あぁ、悪い。
話が逸れたな。
で、廃寺に関する噂ってのが、夜になると誰もいないはずの本殿の中から話し声が聞こえてくるっていうものなんだ。
それもひとりふたりの声じゃない。
もっと沢山の人の話声なんだって。
男の声も、女の声も聞こえてくる。
だけど、子供の声だけは聞こえてこないらしい。
つまり、あの寺には大人になってから死んだ人たちの魂が集まってきてるってことなんだ。
え?
3年生の阿達麻衣子と伊藤孝明?
あぁ、知ってる。
そういやあいつらも怖い話好きだっけな。
寺について質問しても答えてくれなかった?
さぁ……その理由についてはわからないな。
あ、もしかしてあいつら寺に行ったんじゃないか?
それがこの中学の裏にある寺のことかどうかは知らないけど、でも可能性はあるよな。
もう1度聞いてみたらどうだ?
俺もついていってやるから。
なんの寺について噂してたのか教えてもらいたいんだろ?
☆☆☆
新井皐月の覚え書き
部長と一緒に阿達麻衣子先輩と伊藤孝明先輩への聞き込み。
噂していた寺は、中学校の裏にある岩通川寺であると判明。
なお、そのときの会話についてはふたりが嫌がったため録音できていない。
☆☆☆
新井皐月の日記
6月□日
部長のおかげで少しだけ阿達麻衣子先輩と伊藤孝明先輩に話を聞くことができた。
ふたりが話をしていたという寺は、岩通川寺で間違いない。
それについて最初に話してくれなかったということは、岩通川寺でなにかがあった、ということなんだろう。
つまり、あのふたりは岩通川寺へ行ったことがあるのだ。
そしてなにかが起こった。
おそらく、人に話したくないような、なにかが。
それも気になるけれど、このときに久保田春華先輩も一緒にいたのかどうかも気になる。
まだまだ、わからないことだらけ。
取材は続きそうだ。
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