黄色いレシート

西羽咲 花月

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フリーマーケット

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タエは昨日購入した青いワンピースを着て、明美さんからもらったむぎわら帽子を被って家を出た。

今日はフリーマーケットの日。

お店は休みで、堤さんと一緒に会場へ行く約束をしていた。と言っても、会場はお店のすぐ目の前の砂浜だった。

「タエちゃんおはよ! 今日は一段と可愛いね」

閉店中の幸せ食堂の前で待ち合わせをして、タエと堤さんは歩きだした。

浜辺へと続く近くの駐車場はすでに一杯で、浜辺も人で溢れていた。

友と幸太郎さんのお店を探すだけでも随分時間がかかりそうなくら、出店数は多かった。

タエと堤さんは時々立ち止まって屋台で食べ物を買ったり、懐かしい骨董品屋さんで格安の腕時計を買ったりしながら歩く。

空も海も真っ青で心地がいい日だ。


「タエちゃんは本当に昔の物が好きだね」

さきほど購入した腕時計をさっそく右手首にはめてるタエを見て、堤さんはそう言った。

「はい! 特に大正時代に生産されていた商品がとても好きです!」

「タエちゃんが生まれた時代だもんねぇ」

何気なく返した言葉に、堤さんがハッと気が付いて口を閉じた。

しかし、タエはニコニコと笑顔を絶やさない。

「そうですね。あたし、タヌキですし」

今まで正体を隠して来たタエのその言葉に堤さんは驚いた顔をしている。

けれど、タエの幸せそうな顔見ていると、そんなことどうでもいいかなと思えて来てしまった。


しばらく歩くと、お目当てのお店を見つけることができた。

テントの中から友がこちらに気が付いて手を振っている。

タエの頬がポッと染まり、シッポがぴょこんと出て来てしまった。

その様子を見ても驚く人はいない。

「一緒にいたらお邪魔かな?」

堤さんはそう呟き、そっとタエから離れた。

タエはその事に気が付かず、友へ近づいていく。

友とタエが仲良く会話をしている様子を見つめて、堤さんはほほ笑んだ。

「あの様子じゃタエが人間になる日も近いね」

不意にそう声をかけられて振り返ると、そこには知り合いの漁師が立っていた。

今日はお客さんとして会場に来ているようで、手には沢山の商品が入った袋が握られている。


「そうですね」

堤さんが頷く。

この町の人たちがタエの正体に気が付きながら、誰もなにも言わない理由があった。

「堤さんは昔キツネでしたっけ?」

「そうです。緒方さんは猫でしたよね?」

「そうですそうです。妖怪化した動物たちが普通の人間と恋に落ちると、人間になる。この町はほんとうに不思議な町ですねぇ」

「妖怪化してしまうと死ぬこともできませんからね。元動物たちに第二の人生が用意されている、素敵な町ですよ、ここは」

2人の話し声はタエには届く事なく、真っ青な空へと溶けて消えて行ったのだった。


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