非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

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灰色の日々

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美保は生きていた。
生きて毎日を過ごしていた。

だけどそれは死神に出会う前よりも更に灰色の日々で、ただ会社へ行って、帰って寝るだけの毎日だった。

ご飯を食べる気にもなれずになにも食べずにそのままベッドに潜り込むこともしばしばあった。

ベッドにもぐりこんで目を閉じると毎回死神の顔が浮かんでくるから、声を殺してひとりで泣いた。

もういっそ朝なんて来なければいいのにと本気で願った夜もある。
それでも朝は容赦なくやってくる。

今日も美保はスマホのアラーム音によって無理やり叩き起こされた。


スマホ画面に出ている日付を見て大きくため息を吐き出す。
今日は日曜日で会社は休みだ。

昨日の内にアラームを止めておかないと、こういうことになる。

頭まで布団をかぶってもう1度眠ろうと目を閉じるのだけれど、1度覚醒してしまえばなかなか寝付くこともできなくなってしまう。

日曜日だからといって用事があるわけでもないし、なにもしたくないのに起きるしかなくなってしまう。

仕方なくベッドから起き出してトイレに行っている間に、美保のスマホが震えた。

それ同僚の一美からのメッセージで、今日暇なら遊びに行かないかという誘いだった。

なんの心境の変化があったのか知らないが、一美は最近よく美保に連絡をくれる。

なんでも裕之と別れて暇を持て余しているらしい。

美保に対してやったことはすでに謝罪されていたけれど、なかなか遊びに行く気分にもなれないままだった。


一美からのメッセージに《今日はやめとくよ》と、気のない返事をしてからまた布団に潜り込んだ。
今度こそ二度寝すると決めたけれど、そう簡単には眠れない。

ジリジリと時間ばかりが過ぎていき、やがて空腹を感じて目を開けてしまった。
あぁ。

休日なのにこんなに早く起きなきゃいけないなんて。
二度寝できない自分を呪いながらトロトロとキッチンへ向かう。

冷蔵庫を開けてみると牛乳と卵とウインナーがあるだけだった。
肉も野菜もなにもない。

死神が消えてしまってから食欲がないから、冷蔵庫の中は常にこんな感じだ。
卵とウインナーを炒めるだけでいっか。

そう思って冷蔵庫の中に手を突っ込んだ時、玄関チャイムが鳴った。


休日のこんな時間に誰だろうと出てみると、立っていたのは一美だった。
一美は会社で見るよりも垢抜けて派手な恰好をしている。

といっても以前美保に着せたあのワンピースほどの派手さではないけれど。
「一美、どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。どうしいつも休日に引きこもってるのよ! 出かけるわよ!」
一美はそう言うとズカズカと部屋に足を踏み入れてきた。

そして興味深そうに部屋を見回して「地味な部屋」とひとこと言った。


☆☆☆

無理やり一美に連れ出された美保は電車で30分ほど揺られてショッピング街まで出てきていた。

休日だというのにすでに沢山の人たちが動いていて、下手をすれば一美とはぐれてしまいそうになる。

「朝はコーヒーでしょ」
と言いながら一美は勝手にコーヒーショップへ入っていってしまった。

注文したモーニングセットが届くまでに美保は何度も一美の様子を伺った。
「どうして部屋まで来たの?」

一美なら美保に断られても他に遊び相手はいくらでもいたはずだ。
それこそ、新しい彼氏とか。

「だって、あんた最近ずっと死人みたいな顔してるんだもん。気になるじゃん」
その言葉に一瞬ドキリとする。


死人みたい。
じゃなくて、美保は本当はすでに死んでいるはずだったからだ。

「私のことそんなに心配シてくれなくても大丈夫だよ」
「そんなにガリガリにやせ細ってたら誰でも心配するっつーの」

一美は美保の二の腕を指差してビシリと言った。
確かに、ろくに食事をとっていないから最近では骨と皮だけになりつつある。

だけどそれならそれでいいような気がしていた。
死に近づくということは、また死神に会えるかもしれないということ。

それは美保にとって希望でもあった。

やがて運ばれてきたモーニングセットとチビチビと口に運んでいると、まるで囚人を監視する警察官みたいな目で一美にジッと見られていた。


「よかった。全部食べた」
時間をかけて大きなサンドイッチを食べ終えると、一美の方がホッとした笑みを浮かべる。

それを見て本気で心配してくれていたのだとわかり、胸の奥が熱くなる。
いつだったか、一美とこんな風に仲良くなれたら、なんて考えていたこともあった。

それがいつの間にか現実になっていたのだ。
「なにがあったのかは聞かないけど、今日は思いっきり楽しむからね!」

一美に言われて、美保は思い出したように微笑んだのだった。


☆☆☆

ここで車に飛び込んだら死神に会えるんだろうか。
会社へ行く途中の交差点。

大きな横断歩道の前で立ち止まって美保はぼんやりと考える。
行き交う車はスピードを落とすこと無く美保の前を通り過ぎていく。

美保はそれを見つめて何度も何度も足を踏み出そうと意識する。
だけどできない。

できないのだ。
あの時と同じようには。

車にひかれるときの恐怖が蘇ってきて、怖くて足が固まってしまう。

一歩踏み出すだけでこの苦しみから開放されるとわかっているのに、それよりも恐怖がってしまう。

美保は歩道に立ち尽くしたまま、両手で顔を覆って気が付かれないように嗚咽を漏らしたのだった。
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