非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

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最終日

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7日目の朝はいつものアラーム音で目を覚ました。
時刻を確認すると出勤する1時間前だ。

ベッドから上半身を起こすと昨日の名残を感じて赤面する。
狭いベッドの横には身を縮こませた死神が寝息を立てていた。

死神でも眠るんだ。
長いまつげがかすかに揺れているのを見て美保はそんなところに関心する。

この一週間は人生で1番楽しい日々だった。
色々と嫌なこともあったけれど、今なら心からそう思うことができる。

美保は手を伸ばして死神の前髪に触れた。
そして「行ってきます」と、つぶやくように言うと会社へ行くために部屋を出たのだった。


☆☆☆

最後の日くらいは仕事をさぼってもいいんじゃないか。
そう思わなくもなかったけれど、根が真面目な美保はそうしなかった。

もう二日間も無断で会社を休んでいたし、十分楽しんだ。
だから出勤してすぐに上司に怒られてもひたすら頭を下げて謝ることができた。

「ちょっと美保、どうしたのよ?」

隣の席の一美がわざとらしく心配してきても「ちょっと風邪で寝込んじゃって」と、苦笑いを浮かべることができた。

もう大丈夫。
私の中の心残りは昨日の夜にすべて解消された。

そしていつもどおりパソコンを立ち上げて、最後の1日を過ごすのだった。


☆☆☆

1日はどうしてこんなにあっけなく過ぎて行くんだろう。
死神と共に過ごした時間はどれもとても濃密で、一品一秒がとても長く感じられた。

だけど普段のルーティーンのように過ごす毎日のあっけないこと……。
就業のチャイムを聞きながら美保は自分のパソコンの電源を落とした。

座ったまま両手を伸ばして背中を伸ばす。
まわりでは今日どこに飲みに行くとか、どこに買い物に行くといった会話が聞こてくる。

そうだった。
今日は金曜日だ。

みんな明日は早起きをする必要がないし、この前の土日出勤のことがあるから特に嬉しそうなんだ。

でも、誰も美保には声をかけてこない。
一美ももう、美保を誘うことはないだろう。


美保はひとりで席を立ち、更衣室へ向かう。
一美が選んでくれた服はもう着ないし、自分も服に似合わないメークもしない。

自分は自分。
それでいいと思う。

会社から出て歩いていると、すぐに大きな交差点に差し掛かる。
美保はぼんやりとその交差点を見つめた。

ここで一週間前の今日、私は死んだ。
そのころから一体なにが変わっただろう?

見た目も、地味な性格もきっと対して変わっていない。
だけど確かに変わったものもある。

それだけで、一週間を繰り返した意味があるんじゃないかな?
美保は横断歩道に一歩踏み出す。

沢山の人達が行き交う中、ゆっくりゆっくり歩き出す。


まるで自分の動きだけがスローモーションになってしまったみたいだった。
人々は美保を通り越し、美保も同じように歩いているのにそれに追いつくことができない。

どれだけ頑張って歩いてみても、いつまでも追いつけない。
横断歩道の中央まで来て美保はついに立ち止まった。

あぁ、そうか。
追いつけなくて当然だった。

だって彼らの未来と自分の未来は違う場所にある。
だから、追いつくことなんて最初からできなかったんだ。

立ち尽くす美保の耳に車のクラクションが聞こえてきた。
切羽詰まったような音に視線を向けると、すぐに近くまで車が迫ってきていた……。


☆☆☆

体に強い衝撃が来ることを見越して固く目を閉じる。
私の生きてきた25年間は決して無駄なものじゃなかった。

とくにこの一週間はとても濃くて、したことのない経験をすることができた。
まぶたの裏側に浮かんできたのは死神の笑顔だった。

死神のくせになんとなく優しくて、グイグイと背中を押してくれた変な人。
だけど嫌いじゃなかった。

むしろ好きだったのかもなぁ。

なんて考えている間にも痛みがきていいのに全く体に衝撃を受けることがなくて、美保はそろそろと目を開けた。

するとさっきまで立っていた場所に自分はいなくて、横断歩道を渡り終えた場所にひとりで立っていることに気がついた。


「あれ?」

赤信号に変わっている歩道をマジマジと見つめて行き交う車にまばたきを繰り返す。

私は今日ここで死ぬはずだったけど、どうして?

混乱する頭で周囲を確認シてみると、自分のすぐそばに死神が立っていることに気がついた。

「どうして!?」
思わずひと目もはばからず大きな声を出してしまう。

ひとり驚愕の表情を浮かべている美保に対して行き交う人々が怪訝そうな表情を浮かべて足早に通り過ぎていく。

「あ……つい」
死神が自分でも驚いたという様子で目を丸くし、自分の両手を見つめている。

「どうしてだろうな。助けに来た」


「なによそれ……」
美保を連れていくはずだった死神が美保を助けた。

それが面白くてついふふっと笑ってしまう。
死神もそれにつられて笑顔になる。

しばらく糸が切れたみたいにふたりで笑い合って、それからふと死神は真剣な表情に戻った。

「これは死神として絶対にやっちゃいけないことだ。俺はこれから罰を受けることになる」

「え、罰?」
思ってもいない展開に美保は慌てて、咄嗟に死神の腕を掴んでいた。

「死ぬ予定の人間を助けたんだ。もうここにはいられない」
「ちょっと待って、嘘でしょう?」

あまりの急展開についていけない。
だいたい、どうして私を助けたりしたの?


質問が頭の中に浮かんできたとき、死神の下半身が透き通っていることに気がついて絶句した。

「体が……」

「あぁ、閻魔様に呼ばれてるんだ。俺はきっともう戻ってくることはできない」

言いながら美保の頬に冷たい手のひらを当てる。
ジワリとした人のぬくもりに死神は優しい笑みを浮かべた。

「戻ってこれないって、それじゃあなたはどうなるの!?」
未練を晴らすために力を貸してくれた。

落ち込んだときにはそばにいて励ましてくれて、私に沢山の初めてを経験させてくれた。

そんな人がいなくなるなんて、とても考えられないことだった。
それなら自分が消えた方がずっと辛くない。


「大丈夫。きっとまた会える」
死神の手が頬からすっと離れていく。

胸まで消えた死神はそれでも微笑んでいた。
これから自分がどんな風に罰せられるか、わからないのに。

「待って、まだ消えないで!」
せめて名前だけでも教えて!

その言葉が相手に届いたかどうか。
死神は笑顔を浮かべたまま、霧のように消えていってしまったのだった。
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