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初体験
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電車の中で少しうつらうつらした美保は帰ってきた頃にはすっかり目が覚めていた。
時刻は午後10時を過ぎていたけれど、まだ眠くない。
「他に心残りはないか?」
ベッドを背もたれにしてふたりで床に座り込んだ状態で、死神が聞いてきた。
あるよ。
まだまだ沢山、あなたと一緒にやってみたいことがある。
だけどそれは口に出さなかった。
きっと、迷惑がられてしまうから。
だから美保はジッと死神の顔を見つめた。
整った顔立ち。
素晴らしいスタイル。
だけどそれだけに惹かれたわけじゃない。
美保の手助けをしてくれたこと、美保を助けてくれたこと、思いっきり笑わせてくれたこと。
それらがあってこそ、好きだと心から思うことができている。
美保は月明かりの差し込む室内でそっと立ち上がり、自分の上着を脱ぎ捨てた。
顕になった真っ白な下着が月明かりによって浮かび上がる。
死神が驚いたように目を丸くする。
美保は顔を赤く染めながらスカートも脱ぎ捨てた。
そんなもの、もう今の自分には必要ないとでもいうように。
「なにを……」
とまどっている死神に近づき、その唇に自分からキスをした。
キスをするのは初めての経験で、触れたかと思うとすぐに離してしまった。
死神の唇は冷たくて、でもふわりと柔かい。
触れた瞬間美保の心臓がドクンッと跳ねた。
「最後のお願い、聞いてくれる?」
美保は死神の首に両手を絡ませて、ささやくように言ったのだった。
☆☆☆
1度でいい。
好きな人に抱かれたい。
優しくなくていい。
乱暴でもいい。
それが美保の願いだった。
地味でさえない自分が誰かの特別になれることなんてない。
25年間そう思って生きてきた。
まわりが幸せを見つける中、自分だけはその輪の中に入ることはできないと思いこんできた。
でもそれは違う。
自分が行動を起こせば周りだって変化に気がついてくれる。
そんなことに今更気がついても遅いかもしれない。
でも……。
「本当に、俺でいいのか?」
死神が戸惑いながらも美保の体をベッドの押し倒す。
美保は頷く。
緊張で喉はカラカラに乾いて、恥ずかしさでまっすぐに死神の顔を見ることができない。
それでも、力強く頷く。
この、友達も恋人も来たことのないアパートの一室で、まさかこんな風なことをする日が来るなんて夢みたいだ。
「でも、あの……私初めてだから」
それだけは告げておかなければならないと思い、小さな声で言う。
すると死神はふふっと笑い声を上げた。
「そんなのわかってる。お前は初で可愛くて、最高の女だ」
そんなふうに言われるのは映画の中のキャラクターだけだと思っていた。
現実にもあるんだなぁ。
そんなことをぼんやりと考えながら、美保は霧がかかったような白い世界へ落ちていったのだった。
時刻は午後10時を過ぎていたけれど、まだ眠くない。
「他に心残りはないか?」
ベッドを背もたれにしてふたりで床に座り込んだ状態で、死神が聞いてきた。
あるよ。
まだまだ沢山、あなたと一緒にやってみたいことがある。
だけどそれは口に出さなかった。
きっと、迷惑がられてしまうから。
だから美保はジッと死神の顔を見つめた。
整った顔立ち。
素晴らしいスタイル。
だけどそれだけに惹かれたわけじゃない。
美保の手助けをしてくれたこと、美保を助けてくれたこと、思いっきり笑わせてくれたこと。
それらがあってこそ、好きだと心から思うことができている。
美保は月明かりの差し込む室内でそっと立ち上がり、自分の上着を脱ぎ捨てた。
顕になった真っ白な下着が月明かりによって浮かび上がる。
死神が驚いたように目を丸くする。
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そんなもの、もう今の自分には必要ないとでもいうように。
「なにを……」
とまどっている死神に近づき、その唇に自分からキスをした。
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死神の唇は冷たくて、でもふわりと柔かい。
触れた瞬間美保の心臓がドクンッと跳ねた。
「最後のお願い、聞いてくれる?」
美保は死神の首に両手を絡ませて、ささやくように言ったのだった。
☆☆☆
1度でいい。
好きな人に抱かれたい。
優しくなくていい。
乱暴でもいい。
それが美保の願いだった。
地味でさえない自分が誰かの特別になれることなんてない。
25年間そう思って生きてきた。
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でもそれは違う。
自分が行動を起こせば周りだって変化に気がついてくれる。
そんなことに今更気がついても遅いかもしれない。
でも……。
「本当に、俺でいいのか?」
死神が戸惑いながらも美保の体をベッドの押し倒す。
美保は頷く。
緊張で喉はカラカラに乾いて、恥ずかしさでまっすぐに死神の顔を見ることができない。
それでも、力強く頷く。
この、友達も恋人も来たことのないアパートの一室で、まさかこんな風なことをする日が来るなんて夢みたいだ。
「でも、あの……私初めてだから」
それだけは告げておかなければならないと思い、小さな声で言う。
すると死神はふふっと笑い声を上げた。
「そんなのわかってる。お前は初で可愛くて、最高の女だ」
そんなふうに言われるのは映画の中のキャラクターだけだと思っていた。
現実にもあるんだなぁ。
そんなことをぼんやりと考えながら、美保は霧がかかったような白い世界へ落ちていったのだった。
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