非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

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復讐

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今日の出来事を死神に打ち明けるには勇気が必要だった。

いつもよりも随分早めに帰宅してきた美保を見て死神はなにか聞きたそうな顔をしていたけれど、あまりにやつれている美保を見てなにも言えなくなってしまった。

美保はワンピースを脱ぎ捨てて部屋着に着替えるとなにも言わずにそのままベッドに突っ伏した。

今日は散々な1日だった。
こんなことになるのなら、時間を戻してもらう必要だってなかったかもしれない。

だけどそんな文句を口にする元気もなく、美保は布団を頭まで引っ張り上げてグウグズと泣き崩れたのだった。


☆☆☆

翌日目を覚ましたら頭が痛かった。
ビールを飲んだわけでもないのになんで。

と、思ったが、すぐに大泣きしてしまったことを思い出す。

洗面所で自分の顔を確認すると目が腫れていてとても外へ出られる状態ではないことがわかった。

どうせ今日出勤しても笑いものにされるだけだ。
仕事内容だって1度やったことを繰り返すだけだし、休んでもいいだろう。

そう思ってそのままベッドへ戻ろうとしたとき、ベッドに死神が座っているのが見えて美保は足を止めた。

「私今日は1日中寝てることにしたの。だからどけてよ」
つい、つよい口調になってしまう。

死神に責任があるわけではないけれど、今はそっとしておいてほしい。
「なかなかひどいことをされたみたいだな」


そういう死神はすべてを見透かしているかのようで、美保はビクリと震えた。
見てみると死神は大鎌に昨日の出来事を映し出して確認しているみたいだ。

「それってどんなものでも写すことができるの?」
「そういうわけじゃない。自分のターゲットに関することだけだ」

昨日の出来事を一通り確認すると、大鎌の中の映像はフッと消えていった。
「なんだか見張れてるみたい」

「その通り、見張ってるようなもんだ」
平然と答えた後、美保へ視線を向ける。

相変わらずキレイな顔をしているから至近距離で見つめられると心臓がドキドキしてきてしまう。

美保は咄嗟に死神から視線をそらした。


「こんなんじゃもう会社には行けないし。もう連れて行ってくれていいよ?」
昨日のような失態をおかした後でも出勤するなんて、それこそ拷問だ。

今日で5日目だから、残り3日。
その間が消えたって別にどうってことはない。

そう考えていたときだった。
不意に死神が立ち上がって近づいてきた。

無意識のうちに逃げようとしたら背中に両手を回されてそのまま引き寄せられていた。

驚くほど冷たい体に全身が凍える。
それなのに死神から感じる吐息はとても暑くて美保は混乱した。

「残りの時間を復讐に使えばいい」
耳元でそう言われて「復讐?」と聞き返す。


「あぁ、俺のターゲットがここまでコケにされたなら、俺だって黙っていられない」

なにそれ、どういうこと。
どうして死神が怒るの?

と、質問したいけれどどうやら怒っていることは本当のようで、抱きしめてくる両腕の力がどんどん強くなってきている。

「わ、わかったから。復讐ってどうするのか具体的に教えてよ」


☆☆☆

本当は休みたかった。
昨日のことがあったから休んでもきっと誰も文句は言わないはずだった。

それでもこうして出勤してきたのは死神が提案した復讐がちょっとだけ面白そうだったからだ。

もちろん、今日の服装やメークは普段どおりの美保の姿だ。
「あれ? どうして私が選んだ服を着てこなかったの?」

一美だけはそうして不服を口にしたけれど、上司や他の社員たちは安堵した表情を浮かべていた。

普段真面目でおとなしい美保の急な変化に、みんなどう対応していいかわからなかったのかもしれない。

「あの服は私にはやっぱり似合わないから」
と、一美の前では照れ笑いをしておいた。


「ふーん?」
今日はおもしろメークを施すことができないためか、一美はさっきから不機嫌そうだ。

「そうだ。服やメークを教えてくれた一美に面白い話を教えてあげようか」
仕事を続けながら美保は行った。

すると一美はすぐに食いついてきて、パソコンの乗せていた両手を離して体を近づけてくる。

思っていた通り、一美はおもしろいことが大好きなんだろう。
だから昨日みたいなことをしてしまったんだ。

だけど残念。
私には死神がついているから、いつまでもピエロになってあげる気はない。

「この会社って、昔自殺者が出たらしいよ」
「え、なにそれ」

一美が自分の体を抱きしめて震える。
どうやら怖い話は苦手みたいだ。


「今は定時に帰れるし残業もほとんどないけど、昔は結構ブラックだったんだって。それに加えてお局さんかた沢山の仕事を押し付けられてた子がいたらしいよ」

その子は毎日毎日残業して、土日もほとんど休めなかった。
当然体を壊すよね?

それでも会社は仕事を優先させるように強要したんだって。

ある日その子が熱を出して寝込んでいたところに、上司とお局さんがやってきてこう言ったんだって。

『熱が出たくらいで休むな! 今すぐ出勤してこい!』
って。

アパートまでお仕掛けてきて、そのまま上司の車に乗せられて出勤した彼女はね……途中で意識朦朧となりながらそこの窓から見を乗り出して……飛び降りた!!

「キャア!」


怪談師顔負けの勢いで話を終えたとき一美は真っ青な顔がガタガタと震えていた。

もちろん話はデマだけれど、死神が直伝してくれた怖い話の話し方を実践してみたら、本当に怖がってくれたのだ。

「そ、それでただの噂だよね?」
そう質問してくる一美に美保は左右に首を振った。

「本当にあったことだよ。だけど今でもその話はタブーになってるから、ほとんど誰も教えてくれないの。私は偶然、倉庫で昔の記事を見つけてこの事件があったって知ったんだよね」

いかにも本当のことっぽく説明をする。
「だ、だから今はホライト企業なんだ……」

すっかり信じ切ってしまった一美が震えながらつぶやく。

「そうみたいだよ。女性社員が自殺したのはあの窓から。それ以来、時々この部屋では妙なことが起きてるんだって」


「み、妙なことって?」
怖いけど聞きたい。

そんな間に一美がいることが手に取るようにわかる。
「例えば窓が突然開いたり」

美保がそう言ったタイミングで誰も触れていない窓が突然ガラリと開いて、薄いカーテンが揺れた。

「キャアア!!」
一美が絶叫してその場に尻もちをつく。

他の社員たちも驚いているけれど、もちろんこれは心霊現象とはちょっと違う。

実際はその場に死神がいて、窓を開けたのだ。
ただ、死神の姿はターゲットになっている美保以外には見えない。

だから今の話の通りのポスターガイストが起こったように見えたのだ。
「パソコン画面に突然文字が打ち込まれたりとか」


カタカタカタカタッ。

キーボードを叩く音とともに一美のパソコンに表示された文字は『苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい』それが何行にも連なっているからさすがに怖い。

「あ……あ……」
真っ青な一美は腰が抜けてしまったのか、その場から立ち上がることもできない。

そうしている間に悲鳴を聞きつけた裕之がやってきた。
座り込んでいる一美を見てすぐに「どうした!?」と、駆け寄ってくる。

「裕之ぃ~」
よほど怖かったのだろう。

他人のふりをするのも忘れて一美は泣きながら裕之にすがりついた。

裕之は一瞬美保の方を気にしたけれど、すぐに一美へ意識を戻して「大丈夫か?」と、心配そうな声をかけたのだった。


☆☆☆

それからも死神と美保の復讐は続いた。

裕之の大切なプレゼン中に後ろ髪を引っ張ってみたり、椅子を後ろに引いてこかせてみたり。

そのたびに上司たちは怪訝そうな顔をして、最後には裕之は会議室から逃げ出してしまったらしい。

そういうことをしたと聞いたのは、昼休憩のときだった。

さすがに美保はプレゼンには参加できなかったから『男の方は俺に任せろ』という死神にすべて任せたのだ。

そして今、大鎌の映像でそれを確認したところだった。
「あはは! 真っ青になっておかしい……!」

誰もいないトイレで死神からの報告を受けた美保は涙が出るほど笑った。
一美も裕之もまんまと騙されて右往左往している。

昨日自分を笑い者にしていた人たちが、今度は笑いものになっている。


それがおかしくてたまらない。
おかしくてたまらなくて、涙も止まらなくなった。

「あははっおかしい。最高! あははっぐすっ……ぐすっあははっ」

笑いながら泣いて、いつの間にか涙の方が多くなって、気がつけば子供みたいに大きな声を上げて泣いていた。

鏡にうつることのない死神がそっと寄り添ってくれているから、余計に涙がこみ上げてくる。

好きなのかもから始まった恋。
必死になっている間にいつの間にか本当に好きになった。

それなのに、こんなひどい結果になってつらくないわけがない。
だけどそんなことで泣いているんじゃないと自分でももうわかっていた。


この一週間。
死神がくれた一週間は本当に特別なものになった。

普段あまり人と関わり合わない美保が自分から誰かに話かけ、相談を持ちかけ、連絡先を聞き出して、一緒にショッピングをして。

それが、それらがなくなってしまうことが辛くて辛くて仕方ない。
こんなに楽しい時間が消えてしまうことが悲しくて仕方ない。

こうなって初めて自分は寂しかったのだと気がついた。
1人でいることなんて気にならないと思っていたのに違った。

ひとたびみんなで一緒にいる時間を知っていまえば、こんなにも弱い。
「大丈夫。俺がいる」

そんな気持ちを汲み取ったかのように死神がささやく。
その吐息だけはなぜかいつも熱い。

体は氷みたいに冷たいのに。
「うっ……寂しい。寂しいよぉ」

みんなと離れる運命にあることが寂しい。
もっともっと、仲良くなれるはずだ。

一美や裕之ともちゃんと向き合って仲直りすればいいはずだ。
でもできない。

そんな時間はもう残されていない。
「俺のターゲットをこんなに泣かせるなんて、許せないな」

死神がそうつぶやいたので、美保はハッとして顔を上げた。
もしかしてなにか勘違いしてる?

と、質問する間もなくトイレから出ていってしまった。


美保は慌ててその後を追いかけた。
死神が向かった先は裕之がいる部署だ。

中を覗いてみると、誰もいないのに誰かが髪を引っ張ってきたこと、椅子が勝手に移動したことを熱心に説明する裕之の姿があった。

その隣には一美もいて、自身が経験したホラー現象を説明している。

ふたりとも真剣そのものだけれど、聞いている社員たちは半信半疑といった表情を浮かべていた。

「本当なんだって! この会社では昔自殺者が出たのよ!」

さっき美保が説明した嘘をそのまま力説している一美を見ると、なんだか申し訳ない気分になってくる。

そんな中、誰にも見えない死神が堂々と部署の中に入っていき、そのまま裕之の前に立った。


裕之の周りには複数の女性社員たちが集まってきていて、それほど興味のない話しでも着てあげようとしている。

それくらい人気ものなのだと再確認させられる。
話しに夢中になって立ち上がった裕之のベルトに死神が手をかける。

死神は器用にズボンのベルトを外し始めるが、裕之は気が付かない。

周りの社員たちも裕之と一美の顔を交互に見ているだけで、下腹部に集中している人はもちろんいなかった。

ベルトを外し終えたかと思うと死神は一気に裕之のズボンを引き下ろしたのだ。
あらわになったのは白地に真っ赤なハート柄のパンツ。

しかもTバックだ。
さすがにそれは予想外で、美保はその場でブハッと吹き出してしまった。

周りにいた女性社員たちが悲鳴を上げて遠ざかる。


本人はなにが起こったのかわからなかったのだろう、しばらく呆然として立ち尽くしてしまった。

「裕之、ズボン!」
と、一美に指摘されてようやく自分がパンツをさらけ出していることに気がついたようだ。

顔を真っ赤にして慌ててズボンを引き上げているが、もう遅い。
男性社員からは笑い声が溢れ女性社員からは「最低」とささやきあう声が聞こえてくる。

「ち、違うんだ! これはこれは……ポルターガイストなんだ!」
必死に説明する裕之を前に、一美さえ冷めた表情を浮かべていたのだった。
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