非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

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笑いもの

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翌日はメーク時間を考慮して30分早めに部屋を出ることになった。

その前に服選びに散々苦戦したけれど、ピンク色のタイトワンピースに上着を羽織って出ることにした。

服に合わせヒールのある靴を選んで外へ出ると、なんだか会社に行くような気分ではなくなってくる。

まるでこれから夜の街に出勤するような、そんな心持。
それにこの格好出歩いているだけで沢山の人の視線を感じる。

美保は恥ずかしさを感じてうつむきながら早足で駅へ向かったのだった。


☆☆☆

人の視線から逃げるようにしてどうにか会社へ到着した美保はホッと息を吐き出した。

やっと、到着した……!
普段の通勤路が今日は嘘みたいに遠く感じられた。

「美保、その服やっぱり似合ってるね!」
更衣室へ駆け込もうとしていたら後ろから一美に声をかけられて立ち止まった。

「あ、一美……」
「美保はスタイルがいいから、こういうワンピースが似合うと思ってたんだよね」

一美はマジマジと美保を見つめて納得するように何度も頷いている。
体のラインが出てしまうワンピースは着心地は悪くないけれど、やはり恥ずかしい。

すぐに制服に着替えたい気分だ。
「でもこの上着はいただけない」

一美はそう言うとデニム生地の上着を取り上げてしまった。

上着があったからどうにかここまで来られたのに、それを取り上げられてしまったらもう1歩も外へ出られない!

焦る美保の腕を掴み、一美は女子トイレへと向かったのだった。


☆☆☆

「化粧品は持ってきた?」
「うん」

もちろん持ってきた。

だけどこの服を着るだけで随分恥ずかしかったし、もういいかなぁという気持ちになっている。

「ねぇ一美、今日はメークはやめておこうかな」
おずおずと声をかけると一美が驚いたように目を丸くした。

「どうして!? せっかく昨日これだけのものを集めたのに!」
と、美保が持ってきた数々のメーク道具を指差した。

どれも決して安い商品ではなかった。
「でもやっぱり、場所とか考えたいし……」

「なに言ってるの。会社だからこそ目立って高野の目にとまることができるんでしょう?」

腕組みをして説得する一美に美保は鏡の中の自分を見つめた。


会社にいるのに派手なワンピースを着ていて、それだけで十分変だ。
やっぱりこの服は全然自分には似合っていない。

そう思うととたんに脱いでしまいたくなってくる。
「ほら、グズグズしてたら時間がなくなるよ」

一美はそう言うとメーク道具を美保から強引に奪い取ると、勝手にメークを開始してしまったのだった。


☆☆☆

どうしよう。
本当にこんなのでいいのかな。

美保の胸に不安が押し寄せてくる。

服もメークもおしゃれな一美にまかせていれば問題ないと思うけれど、なぜか一美はメーク後の顔を見せてくれなかったのだ。

「これで完璧。大丈夫だから、行くよ」
と、強引に手をひかれてトイレから出てきてしまったのだ。

メークが終わった時間にはすでに大半の社員たちが出勤してきていて、トイレから出てきた美保を見て驚いた顔をしていた。

中には絶句してしまう社員もいて、美保の不安は膨れ上がるばかりだ。
「一美、せめて自分の顔を確認させて」


「そんな時間もうないわよ。すぐに制服に着替えなきゃいけないんだから」
と、一美は美保の腕を痛いほど掴んで離さない。

そのまま廊下をまるで花魁道中のように練り歩かされてしまった。
「え、橋本さん?」

後ろから驚きの声が聞こえてきて美保の体がビクンッと跳ねた。
緊張して喉がカラカラに乾いて、振り向くだけでぎこちなくなってしまう。

「おはようございます、高野さん」
一美が先に振り向いて笑顔で行った。

それにつられるようにしてゆっくりと顔を向ける。
そこには出勤してきたばかりの裕之の姿があった。

裕之は他の社員たちと同じように驚いた顔を美保へ向けている。


が、その目がキラキラと輝いていることに気がついた。
「驚いたなぁ、橋本さんってそういう恰好もするんだね」

「え、あ……はい」
ぎこちなく頷く。

できれば今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。
が、今もまだ一美がしっかりと腕を掴んできているから逃げることもできない。

「すごくキレイだよ」
裕之の言葉に今度は美保が驚いて言葉を失った。

マジマジと裕之を見つめて、そのまま硬直してしまう。
「メークも服も似合ってる。素敵だね」

ほ、本当だろうか?
裕之に褒められた美保の心臓は一気に早鐘を打ち始める。

ドクドクと心臓が高鳴るたびに緊張感がましていくのを感じる。


一美へ視線を向けるとウインクをしてきた。
大成功という意味なんだろう。

「今度食事に行きたいな」
「ぜ、ぜひ!」

嬉しくて、つい声が裏返ってしまう。
会社へ到着するまでは自分の恰好が不安で不安で仕方なかった。

その不安が一気に解消された瞬間だった。


☆☆☆

裕之の反応は上々だった。

だけど会社員としてはやはりダメだったようで、偶然美保の姿を目撃してしまった食族の上司から呼び出しを食らっていた。

「私服は基本自由だけれど、会社へ来るときはそれなりの恰好をしてもらいたい」
と、誰もいない会議室で説教を受けるハメになってしまった。

上司からの説教を聞きながらも美保の心は満足していた。
一美のおかげで今度裕之と食事へ行くいことが決まった。

これは大きな進歩だ。
死神だって、きっと認めてくれるような大進歩!


考えれば考えるほど体温が上昇していく。
妄想の中の自分はすでに裕之と肩を並べて歩いていた。

今の美保にはうまくいく想像しかできなかった。
「話を聞いているのか?」

ずっとニアニヤしていたため上司から怪訝そうな顔をされてしまった。
「はい。これからは気をつけます」

美保は口先だけでそう答えたのだった。


☆☆☆

どれだけ頑張ってみてもあと3日の命だ。
死神がくれた最後の一週間はもうすぐ終わろうとしている。

ここまで裕之との関係が順調に進むとは思っていなかっから、ちょっとだけ死ぬのが惜しい気持ちになってきていた。

交通事故に遭った当日にはこんな気持になることもなかったのに。
たった4日ほどでこんなに心境変化があるとは思っていなくて、自分自身が驚いていた。

「美保。私今日他の子とお昼食べる約束してるの、ごめんね」
昼休憩になり、一美がそう言いながら席を立った。

元々一美と一緒に食事をすることだってなかったのに、こうして気にかけてくれるようになった。

人間努力次第でなんでも変えることができるんだと痛感する。
「気にしないで。私は社食で食べるから」

そう伝えてバラバラに移動する。
そういえば、1人でお昼を食べるのもちょっとだけ久しぶりだなぁ。

そんなことを考えたのだった。


☆☆☆

いつもどおりA定食を注文して席につくと、社食内はあっという間ににぎやかになった。
社員たちでごった返してしまう前に、食事を終わらせて戻ることにしよう。

「ねぇ、橋本さん」

早めに退散しようとしていたときに声をかけられたので振り向くと、そこには同期の女性社員が気まずそうな表情で立っていた。

「なに?」
「あのさ、顔見たほうがいいかも」

そう言われて美保はまばたきをする。

一美にメークをしてもらってから1度もトイレに立っていないから、まだ自分の顔を確認できていなかった。

だけど裕之はキレイだと褒めてくれたし、さして気にしてもいなかったのだ。
「顔?」


首をかしげて質問すると、女性社員が手鏡を取り出して差し出してくれた。
それを受け取り、自分の顔を確認する。

その瞬間、全身がカッと熱くなるのを感じた。
なに、これ!!

服に合わせて少し濃いめのメークをしていることはわかっていた。
それにしても、鏡の中自分はまるでおかめのお面のような顔をしているのだ。

ファンデーションは真っ白で、頬に丸く真っ赤なチーク、口紅も真っ赤で、眉の一部だけがやけに濃く、太くかかれている。

いくらオシャレに疎い自分でも明らかにおかしいとわかるくらいだ。
美保は手鏡を女性社員に突き返すと顔を隠しながら社食を出た。

そのまま走って一番地下い女子トイレに駆け込む。

早く顔を洗ってメークを落としたいのに、こういうときに限ってトイレ待ちをしていたり洗面所で談笑している社員たちの姿があった。


その人たちは美保の顔を見て一様に驚いた顔をし、そして遠慮なく笑い出す。

それがすべて自分へ向けられた笑いであるように思えて美保はすぐにトイレから飛び出した。

そして隣の多目的トイレに入ると、泣きながらメークを落としたのだった。


☆☆☆

でもどうして?
どうして一美がこんなことをする必要があったの?

それがわからなくて、美保は自分の部署へと戻ってきていた。
けれどまだ一美は戻ってきていない。

戻ってくるまで待とうと思っていたけれど、どうしても気になって席に座っていることができなかった。

なによりもあんな恥ずかしいメークでずっと仕事をしていたのだと思うと、恥ずかしくていられなかった。

一美は今日は他の子とご飯を食べると行っていたけれど、どこへ行ったんだろう。

社食にはいなかったし、他にご飯を食べられる場所といえば屋上とか、使っていない会議室か。


そう思いながら歩いていると大きな笑い声が聞こえてきて足を止めた。
そこは裕之のいる部署だ。

開け放たれているドアの中から一美の高らかな笑い声がまだ聞こえてきている。
嫌な予感がしてそっと中を覗き込む。

他の部署だというのに輪の中心にいる一美はみんなに向けて面白おかしく何かを話している。
「それでね、美保ったら本当にあの派手なワンピースを着てきたの!」

一美の言葉に周りの社員たちがどっと笑い声をあげる。
そしてその社員たちの中には裕之の姿もあったのだ。

裕之はお腹を抱えて誰よりも大きな声で笑っている。
そんな、嘘でしょ……。

全身から血の気が引いていくのを感じる。


立っていられなくて、壁に手をついた。
「信じられる? ちょっと考えれば怒られることくらいわかるでしょう?」

「それにあのメーク! 傑作だったなぁ!」
裕之が美保のメークを思い出してまた笑う。

その光景が信じられなくて美保は一歩を踏み出すことができなかった。
ふたりは元々仲が良くて、それで私のことを笑い者にしていたの?

そんなの信じたくない。
信じられない。

だけどドアの向こうの一美と裕之の距離はとても近くて、時折裕之が一美の腰に腕を回している。

それは誰がどう見ても普通の同期という関係ではない雰囲気だった。
ふたりは付き合ってる……?
それでいて私の気持ちを知って笑いものにしていたんだ!

その現実を突きつけられた瞬間、美保は駆け出していた。
悔しい悔しい悔しい!

あんなやつらのために泣きたくなんてないのに、自然と涙が溢れ出してきた。
それはなかなかとまらなくて、美保は更衣室へと駆け込んだのだった。
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