非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

文字の大きさ
上 下
4 / 12

ショッピング

しおりを挟む
自分が裕之の連絡先を手に入れることができるなんて……。

自分のデスクへ戻ってきた後も美保はボーッとしてしまって、まるで夢の中に浮いているような気持ちだった。

抱きしめたスマホは体温で熱を帯びているけれど、そんなことも気にならない。

「美保、なにかあったの?」

さすがに美保の態度に気がついた一美に質問されて、美保はさっきの出来事を丁寧に話して聞かせた。

「え、すごいじゃん! じゃあ連絡先交換できたんだ?」
一美の質問にコクコクと何度も頷く。

自分だってまだちょっと信じられない。
自分と裕之との距離はググッと近づいたような気もしている。

いいんだろうか、こんなにスムーズに進展していて。
なんだか怖いような気もしてきた。


「そっか。じゃあもしかしたら脈アリなんじゃない?」
「脈!?」

その言葉の意味はもちろん知っていたけれど、思わず聞き返してしまう。

もしかしたら裕之と付き合うことができるかもなんて、考えたこともなかったから。

「だってさ、好きでもない人に自分の連絡先を教えないでしょう?」

「そ、そうかも」
取引先ならいざしらず、同じ会社の人間なのだ。

仕事での連絡だけならパソコンのメールで事が済む。
そんな中で私用電話を教えることはほとんどなかった。

「これは期待大だね! 美保、今日の夜開いてる?」
「え? 今日の夜?」

「うん。気合入れなきゃでしょ!」
一美にバンッと背中を叩かれて美保は激しく咳き込んだのだった。


☆☆☆

一美の言う気合とは見た目のことだとすぐに気がついた。

仕事終わりに引きずられるようにしてやってきたのは会社近くにあるファッションビルで、その階へ行ってもオシャレな服が並んでいて美保の目がチカチカした。

オフィス街が近いこともあってスーツの種類も多いけれど、そのどれもが垢抜けて見えるものばかりだ。

派手な色のスーツを前にして「すごい」と、立ち止まっていると、「こっちこっち」と、一美に手をひかれる。

そこから先はほとんど一美の独壇場だった。

ファッションのことなんてほとんど知らない美保の体に、次から次へと服を当てて試していく。

試着室に入っている美保に手だけ突き出して服を着るように促してくる。


そんな時間が1時間ほど過ぎた頃、美保はクタクタに疲れてしまっていた。
何度も着替えをするのってこんなにも体力を消耗することだったんだ。

ぜぇはぁいいながら試着室を出るとそこには沢山の紙袋を持った一美が待ち構えていた。
「え、もう買ったの!?」

「ある程度はね。どうせまともな服は持ってないんだろうから、私からのプレゼント」
「そ、そんなの悪いよ!」

と、すぐに財布を出そうとしたけれど、また一美の腕を掴まれて歩き出す。
今度はどこへ行くのかと思えばコスメコーナーだ。

そういればメークなんて必要最低限のことしかしてないなぁと思っている間に、あっという間に座らされて「ちょっと派手めにしたいんです」という一美のオーダーを受けて、店員さんが動き出してしまっている。

メークに慣れた店員さんが目にも止まらなう早さで美保の顔に色を乗せていく。
美保はただ呆然と変化していく自分の姿を鏡で見つめているばかりだ。

そういえば、仕事終わりに同僚とショッピングなんて初めての経験かも。


そう気がついたときにはもうメークが終わっていた。
鏡の中にいる自分は普段とは別人で、すごく垢抜けて見える。

でも少し色が濃いような気もする。
「もう少し地味でもいいんじゃないかな?」

夜の街を歩くのならこのメークでもいいけれど、基本夜は出歩かない。
仕事も昼間だ。

「なに言ってるの? 地味な美保が変化してるのがいいんじゃん!」
一美は大満足そうな笑顔でそう言った。


もしかしてギャップ萌えってやつを狙ってるのかな?
そういうのドラマとかでは見たことがあるけれど、実際はどうなんだろう。

鏡の中の自分を見つめているとなんだか不安になってくる。
「お客様よくお似合いですよ」

と、店員さんもニコニコだ。
「大丈夫大丈夫。自信持ちなよ!」

一美にそう言われて美保は少しばかり疲れた笑みを浮かべたのだった。


☆☆☆

「ふぅ、疲れた」

結局2時間ほど買い物をしてようやくアパートへ戻ってきた美保はそのままベッドへダイブした。

仕事終わりのショッピングという憧れていたことを経験したけれど、さすがに疲れてしまった。

ずっと着せかえ人形にされていたのだから、それも仕方のないことだ。
「どうした、なにがあった?」

驚いた声を上げつつ出現したのはもちろん死神だ。
死神はベッドに横たわる美保を見て本気でうろたえている。

「なんだか普段より血色がいいようだが……」
と、マジマジと美穂の顔を見てくる。

至近距離で見られるとさすがに恥ずかしくて飛び起きた。


死神は青白い顔をしているとはいえ、かなりのイケメンなんだった。

最近慣れてきてすっかり忘れていたけれど、こんなイケメンに見つめられると緊張してしまうじゃないか。

お尻の場所をズズズッと横へずらして死神から距離を置く。
「普段とは違う化粧をしてるの。ちゃんとした人にやってもらったんだよ」

と、説明すると死神は感心したように顎に手を当てて「ほぅ。化粧でこんなに変化するのか」とつぶやいた。

死神でも知らないことがあるのだとわかると、なんだか可愛く見えてきてしまう。
「服は一美が選んでくれたの」

「一美っていうのは、相談相手か?」
「うん。一美のおかげで番号交換もできたし、本当に感謝してる」

言いながら美保はベッドを下りて紙袋をひとつ手に取った。


一美が見立ててくれた服だけれど、結局なにを買ってくれたのかまだ見ていなかった。

さっそく中を開いてみると蛍光ピンクが目に飛び込んでいて美保は唖然としてしまう。

慌てて服を引っ張り出してみると、超ミニ丈のタイトワンピースであることに気がついた。

これだと体のラインがはっきりと見えてしまうだろう。
他の袋も開けてみたけれど、どれも同じような系統だ。

色が地味でも背中が大きく開いていたり、肩まわりが開いていたりと、どれもこれも今までの美保が着たことのない服ばかりだ。

「なにこれ、こんなの着ろっていうの!?」
思わず声をあげるけれど、隣で見ていた死神は平然とした顔をしている。

「夜になればこういう恰好をしている女は沢山いる。昼間でもいるけどな」
と、見慣れた様子だ。

化粧には驚いたのにこの派手な服には驚かないのかとツッコミたくなるのを抑えて、ため息をつく。


この服にあったメークをしようと思ったらまぁまぁ派手になってしまうのも仕方ないのかもしれない。

だけどさすがに仕事には着て行けないよなぁ。
仕事が始まれば制服に着替えをするのもも、行き帰りだけでも十分目立ってしまう。

あ、もしかして目立つことが目的なのかな?
ふとそんな事を考えた。

裕之は人気者だから、普通の服やメークでは見てくれない。
だからあえて派手なものばかりを選んでくれたのかも!

もしそうなら一美の気持ちをないがしろにはしたくない。
だけどこれを着ていくのはさすがに抵抗がある。

自分の中で葛藤を繰り広げていると「悩みがあるなら、一美という女に相談すればいいんじゃないか」と、死神が言った。


そうか!
この服やメークを選んでくれたのは一美だ。

それなら本人に直接質問するに限る!
美保はさっそくスマホで一美に連絡を入れた。

『どうしたの美保。なにかあったぁ?』
さっき別れたばかりだからか、心配するような声が聞こえてきた。

「ちょっと聞きたいんだけど。買ってくれた服とかメークでどのタイミングですればいいのかな?」

『はぁ? そんなの会社に着てくればいいじゃん。どうせ制服に着替えるんだしさ』

やっぱりそういうことか!

でも自分みたいな地味な人間が突然派手な服を着て行ったら絶対に驚かれるし、心配もされてしまいそうだ。

『どうしたの。その服私が選んだんだから似合ってるって』


「それはわかってるんだけど……」
でもやっぱり勇気がいる。

メークだって今はプロの人にしてもらったからキレイにできているけれど、明日には自分でしなきゃいけないんだ。

アイメークなんてほとんどしたことのない自分が最初から上手にできるとは思えない。

その不安をそのまま口に出すと一美が『なぁんだそんなこと』と笑い声を上げた。

『それならメークは私がやってあげるから、道具を持ってきなよ』
「え、いいの!?」

仕事前にそんな手間を取らせるのはどうかと思ったけれど、一美がメークしてくれるのならぜひお願いしたい。

自分でやるよりもよほどキレイに仕上がるはずだし。
『もちろん、任せて!』

一美の力強い言葉に美保はようやく笑顔を浮かべたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30歳まで✕✕だった私はどうやら魔法使いになったようです

西羽咲 花月
恋愛
恋愛ドラマが大好きな美加は交際経験ゼロのまま30歳を迎えた。 そのとき美加の体を不思議な光が包み込んで…… 地味な魔法が使えるようになってしまった! それは落としたものを拾うとか、トイレットペーパーがなくて困っていると頭上から振ってくるとか、その程度のもの だけどそれを同僚の麻子に打ち明けると…… 「ラブハプニングで憧れの人に急接近大作戦!!」 小さなハプニングで片思い中の大翔にアピールすることに!? この普通じゃない恋どうなっちゃうの!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

処理中です...