非モテOLが死神さまと恋愛リベンジ!

西羽咲 花月

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今日は大きな成果を残すことができたし、死神も満足してくれるはずだ。
そう思って鼻歌気分で帰宅した美保はすぐに昼間の出来事を死神に説明した。

死神は怖い顔で腕組みをして最後まで話を聞き終えるとすぐに美保の前に大鎌を突きつけてきた。

ギラリと光る切っ先に思わずのけぞってしまう。
「ちょっと何するの、危ないでしょう!?」

注意すると死神が関心したように「ふむ」と、つぶやいて大鎌を定位置へと戻す。
「ようやく死ぬのが惜しくなってきたか?」

その質問に美保はあっと小さくつぶやいた。

自分が事故に遭ったとき、未練もなにもないからすぐにでも連れて行ってほしいと伝えたことを思い出した。

でも今は……考えれば裕之の顔が浮かんでくる。
まだもう少しこの世界いたいかも。

なんて、思えている。

「心境の変化は褒めてやろう。だけどお前がここにいられるんのは一週間。そのうちの2日をすでに使ってしまったんだ」

「わ、わかってるよ……」

「わかってるならどうしてさっさと告白して付き合わない? 付き合うことができれば少しの間でも恋人らしいことができるんだぞ!」

恋人らしいことって、デートとかで手をつないだりキスしたりだろうか。
自分が裕之とそういうことをしている場面を想像してボッと一瞬で顔から火が出る。

「そ、そこまで望んでないよ! ただ気持ちを伝えるだけで十分なんだから!」
真っ赤な顔でブンブンと左右に首をふる。

そんな美保を見て死神はけげんそうな顔になった。
「付き合えるかもしれないのに、告白するだけでいいのか?」

「付き合える可能性なんて、ゼロだよ。だって相手は朝人気者だし」
もじもじと指先で遊び始めて美保を見て死神のこめかみに血管が浮き出てくる。


「そんなことでいいのか? 本当は付き合いたいと思ってるんじゃないのか?」
「そ、それは……そうなればいいけど、でも……」

今日裕之が隣に座っただけで美保の心臓は爆発してしまいそうだった。
そんな人相手に普通にデートができるとは思えない。

「い、いいの! 私は告白することを目指すから!」
タイムリミットはあと5日。

その間に告白できるのかどうか、今の自分ではかなり怪しいと思う。
だけど一美という仲間ができたからきっと勇気を出せるはず!

美保は自分自身にそう言い聞かせたの立った。


☆☆☆

3日目の朝。
今日ももちろん出勤日だ。

土日出勤した社員たちはみんな疲れ切った顔をしてゴミ箱の中にはエナジードリンクの空が山となっている。

それもこれも美保の心残りを晴らすため。
みんなごめん。

内心申し訳ない気持ちで謝罪しながら自分の席へ向かう。

パソコンを立ち上げている間に一美も出勤してきて大あくびをしながら「はよー」と声をかけてきた。

「おはよう。寝不足?」
「うん。昨日結局仕事終わりにデートでさぁ、余計に疲れちゃった」

と、机に突っ伏す。


疲れていると言いながら肌ツヤは良さそうで、美保の心臓はドキドキしてくる。
昨日彼氏とどんなことをしたんだろう。

質問したいけれど、きっと今の美保にはまだ刺激が強くて仕事が手につかなくなるからやめておいた。

「それよりさ、高野とはどうなの?」
グイッと顔を寄せて質問されて美保は思わず吹き出してしまいそうになった。

「どうって、なにが?」
「昨日ひる休憩中に結構会話したでしょう? 仲良くなれた?」

「それは……」
もしかしたら顔くらいは覚えてもらえたかもしれない。

という程度だった。
名前までは覚えてもらえていないかも。


それを素直に伝えると一美は驚いたように目を丸くして美保をマジマジと見つめてきた。
まるで天然記念物でも発見したみたいな顔だ。

「それ本気で言ってるの? 連絡交換とかは?」
「してないしてない」

美保は顔の前で手を振って答えた。
そんなことをするタイミングもなかったはずだけれどと、首をかしげる。

「なんだぁ、てっきりあの後高野のいる部署とか行ってみたのかと思ってた」
と、ガッカリした口調で言う。

そっか。
そういうこともしていいのかと、美保は新たな発見に目を白黒させる。

「用事もないのに他の部署へ行くの?」
「行くでしょ! 自分の好きな人がいるんなら!」

そ、そうなんだ。
あまりに大きな声で言われてビクリとしてしまう。


一美の思惑では食事を一緒にすることで顔を覚えてもらって、その後すぐに会いに行き連絡先を聞き出せばいいと思っていたみたいだ。

でもそんなのは美保にとってかなりハードルが高い。
急に押しかけていって連絡先を交換するなんて、思いもつかないことだった。

「そっか。そうだよね、ごめん」
なぜか一美に謝られてこっちまで申し訳ない気持ちになってしまった。

それから先はいつものように仕事に集中した。
1度やったことのある仕事だから倍速でこなくしていくことができる。

その爽快感もあって気がついたら4時間が過ぎていた。

今日も食堂へ行くだろうかと思いつつ、先にトイレに立った美保はそこに死神が立っているのを見つけて悲鳴を上げてしまいそうになった。

どうにか悲鳴を押しこめて「なんでここにいるの?」と、声を殺して質問した。


幸いトイレには他の社員の姿はない。
だけど休憩時間に入っているから、誰が入ってきてもおかしくなかった。

「お前の報告を聞いているだけじゃ心配で仕方なかったんだ」
死神が表情ひとつ変えずにそう行ってのけた。

死神に心配されるなんて、私の恋愛はどこまでレベルが低いんだとうと自分が情けない気持ちになってしまう。

「今日はどうだ?」
「今日はまだ会えてなくて」

だけどきっとこれから食堂で会うことができるはずだ。
そのときに連絡先を交換すればいい。

「なにしてんだ! もう4時間も過ぎたのに!」
「そ、そんな事言われても、仕事をしてるんだから」


「仕事? そんなものどうでもいいだろ。そんなもののために時間を戻したんじゃないぞ!」

ごもっともな言い分に言い返せなくなる美保。
だけど真面目な性格上仕事をサボってまで裕之に会いに行くようなことはできなかった。

物事は順序立ててちゃんとこなしていきたいタイプだ。

「あぁもう、仕方ないな。仕事はしてもいい。だけど絶対に今日中にもう少し進展させておくんだぞ!」

死神は自分の言いたいことだけ撒き散らずと、霧のようにその場から消えてしまったのだった。


☆☆☆

もう少し進展させておくようにと言われても、なかなか難しいのが現実だ。

昨日と同じように一美と一緒にお昼を食べたけれど、裕之は今日は別の席に座っていて会話することもできなかった。

連絡先を交換しようと気合を入れていた分、拍子抜けしてしまった。
「まぁ、今日は仕方ないね。高野は人気者だから、他の人たちも一緒に食事取りたいだろうし」

一美はそう言って慰めてくれたけれど、時間のない美保は少しだけ焦りはじめていた。
このままじゃ明らかに昨日より進展したとは言い難い。

自分でどうにかしなきゃ……。

午後からの仕事を再開させた美保だったが、裕之のことが気になりすぎてほとんど仕事が手につかなかった。

他のことが気になって仕事がおろそかになってしまうなんて、今までの美保なら考えられないことだった。


だけど手に付かないのだからどうしようもない。
他の人たちの邪魔にならないようにそっと席を立ち、トイレに向かう。

また死神が現れて怒られるかと思ったが、今回は誰もいなくてホッと胸をなでおろした。

どうしよう。
このままじゃ帰れないかも。

個室に入って考え込む。
今日は裕之と挨拶すら交わしていないなんて、あの死神に報告できるはずがなかった。

せめて会話くらいはしておかないと。
その中であわよくば連絡先も交換して。

と、考えるばかりで具体的にどうすればいいのか全くわからない。
「とにかく行ってみるしかないのかな」

ポツリと呟く。
一美だって、連絡先を聞くために他の部署へ行くべきだったと言うようなことを言っていた。


だからきっと他の人たちはこれくらいのことはしているということなんだろう。

無理やり自分を納得させてトイレを出た美保は、自分の部署とは逆方向へと歩き出した。

廊下を行き交う人たちと顔を合わせるのがなんとなく恥ずかしくてうつむいて歩いている間に裕之のいる部署に到着してしまった。

ずっと開きっぱなしになっているドアからそっと中の様子を確認してみる。

熱心に仕事をしている社員ばかりではなく、ほとんどの社員たちが談笑しながらそこそこに仕事をしている。

土日出勤したから、仕事がないのかもしれない。

ゆるい雰囲気の部署にひとまず胸をなでおろして「失礼しまぁす」と、誰にも聞こえないような声で挨拶をして一歩部屋に踏み入れた。


途端に自分の感じたことのない部署の雰囲気に筒こまれて、すぐに居心地が悪くなる。

それでも目だけを動かしてどうにか裕之のデスクを見つけることができた。
でも席を立っているようで、あいにくそこに裕之はいなかった。

ガッカリ半分安堵半分できびすを返して帰ろうとした、そのときだった。
今部屋に入ってきた誰かとぶつかってしまい、「ごめんなさい!」と、慌てて謝る。

「いや、こっちこそごめんね。あ、君は……」
その声に顔を上げると裕之が立っていて美保の呼吸が止まる。

私が今ぶつかったのは裕之だったの!?

もう1度謝ったほういいという気持ちと、連絡先を聞かなきゃという気持ちが入り乱れてアウアウと口をパクパクさせるばかりだ。

そんな美保を見て裕之がふふっと声を出して笑った。
わ、笑われた……。


ショックで青ざめる美保へ向けて「昨日食堂で隣になったよね」と、裕之の方から話題をふってくれた。

青ざめていた美保は我に返って「は、はい」と、頷く。
覚えていてくれたことが嬉しくて、今度は頬が赤く染まってくる。

好きかもしれない。
気になるだけかも。

そんな風に思っていたけれど、今は完全に好きだと自覚することができている。

なんとなく気になる程度で止まれていたのは、こうして関わり合うことがなかったからみたいだ。

「名前はたしか……」
「橋本です。橋本美保。一応同じ大学でした」

「あぁ、そうだったね! ごめん、俺物覚えが悪くて」


そう言って申し訳なさそうに頭をかく姿が可愛くてなにもかもを許してしまいそうになる。

「あ、あの、よかったら連絡先を……」
このまま自分のデスクへ戻って行ってしまいそうな裕之にあわてて声をかけた。

突然連絡先を聞いて気持ち悪く思われないか不安だったけれど、同じ大学だったと伝えたのが良かったのか、裕之は嫌な顔もせずに教えてくれた。

「なにかあったら連絡してよ」
「は、はい!」

嬉しさで声が裏返る。

顔は真っ赤に染まって見ていられないくらいだったけれど、それでも美保は大満足で自分のスマホをギュッと両手で抱きしめたのだった。
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