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謝罪
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「奈穂、食欲ないの?」
夕飯の席についても食べる気分になれなくて奈穂はうつむいたままだった。
テーブルには奈穂の大好物のロールキャベツとコンソメスープが並んでいるけれど、なかなか手を伸ばすことができない。
千秋のお見舞いから戻った後ちゃんと学校へ行ったものの、授業もろくに頭に入ってこなかった。
ジッと机に座って教科書を見ていると、どうしても千秋の姿を思い出してしまう。
頭に包帯を巻いて、あちこちに小さなガーゼがはられていてとても痛々しかった。
千秋がそんな状態になってしまったのは自分たちのせいなのに、こうして授業を受けていていいのかという気持ちになってしまう。
本当なら千秋だって今ごろ一緒に授業を受けていたはずなのに……。
そう思うと胸が苦しくて仕方なかった。
そして家に戻ってきた今も、その苦しみは消えてはいなかった。
自分だけ家族と食卓を囲んでいることに違和感を抱いてしまう。
「大丈夫……。ちょっと、体調が悪いだけ」
そう言い、一口だけ食べる。
ご飯はなかなか喉を通って行かなかった。
無理やり飲み込んでもなんの味もしない。
せっかくお母さんが作ってくれたのに。
そう思うと涙が出そうになった。
千秋のお母さんだってきっと同じ気持ちで毎日ご飯を作っていたんだろう。
千秋の喜ぶ顔が見たくて、家族団らんを楽しみたくて。
それを奪ったのだって、自分たちだ。
堪えきれずに涙が頬をこぼれ落ちた。
それはテーブルに落ちて丸くなる。
「奈穂、どうしたんだ?」
父親が気がついて心配そうに声をかけてきたけれど、奈穂は返事ができなかった。
両手で顔を覆い、子供みたいにしゃくりあげて涙を流す。
千秋にだって大切な人はいた。
千秋を大切に思っている人だって、きっと沢山いる。
それなのに、その人たちの気持ちまで踏みにじってしまったのだ。
謝罪してもしきれない。
許されないことをしてしまったのだと、今更ながら理解した。
「奈穂、大丈夫?」
「奈穂?」
両親からかけられる心配の声が、今の奈穂にはとても痛かったのだった。
☆☆☆
翌日のホームルームで担任の先生が奈穂の目が覚めたことをみんなに伝えた。
2年B組の中にさざめきが沸き起こる。
そんなにひどい事故だとは思っていなかった生徒たちも多いみたいで、動揺している子も多かった。
「もうしばらくは入院することになるけれど、退院すればすぐに学校に戻ってくることになる。みんな、見守ってやってくれ」
それは居つ頃のことになるのか、先生もまだ聞いていないようだった。
「千秋は学校に戻ってくるんだね」
ホームルームが終わった教室内で、珠美がそう声をかけてきた。
「そうだね」
頷いたあと、力なくうつむく。
千秋が学校へ戻って来ることへの気まずさもあるけれど、自分が千秋だったらどうだろうと考えたのだ。
散々自分をイジメていたクラスに戻りたいと思うだろうか。
事故が遭ったことをきっかけにして、転校してしまってもおかしくないかもしれない。
それでも千秋はこの学校へ戻ってくることを決めたみたいだ。
そこにはどれくらいの決断が必要だったろうか。
「このまま千秋が戻ってきても、気まずくなるだけだ」
そう声をかけたきたのは豊だった。
後ろには一浩の姿もある。
ふたりとも、ホームルームでの話を聞いて、考えることがあったんだろう。
「やっぱり、千秋には1度ちゃんと謝らないといけないと思う」
奈穂は勇気を出して4人に自分の気持を伝えた。
昨日は千秋が目を覚ましたりなんなりしてそんな暇はなかったけれど、もう少し時間を於けばきっと会いに行ける。
「だけど千秋が受け入れてくれるかどうかわからない」
珠美が自信なさそうな声で言った。
謝罪を受け入れるかどうかは千秋にかかっている。
自分たちにできることは、誠心誠意謝ることだけだ。
それ以上のことなんて、きっと望んじゃいけない。
「受け入れられなくてもやらなきゃいけないことだと思う」
奈穂はきっぱりと言い切った。
ここまで自分の意見を通したことは今までなかったかもしれない。
今回の出来事が少しだけ奈穂を変えていた。
「そうだな。俺もそう思う」
豊が同意して頷いた。
「千秋は学校へ戻る決意をしたんだ。それなら、俺達だって自分たちの罪を認めてちゃんと謝る決意をしないとな」
豊が珠美の肩をポンッと叩いてそう言った。
珠美は渋々ながらに頷く。
「一浩はどう思う?」
奈穂は話の矛先を一浩へ向けた。
この中では一番千秋と会いづらいはずだ。
けれど一浩はそんなこと気にしている様子は見せず「もちろん、謝りに行く」と言ったのだ。
「俺の単なる勘違いで、イジメたんだ。どう考えたって、俺が悪い」
「そうだね。だけど悪いのは一浩だけじゃないし、この4人だけでもなかったと思う。クラスで千秋のイジメを知っていた生徒は沢山いるんだから。その全員が自分がしてしまったことを理解して、千秋を受け入れないといけないと思う」
それはきっと簡単なことじゃない。
4人と同じ経験をしていれば千秋への考え方も少しは変わるかも知れないけれど、残念ながらみんなあの経験をしている様子ではなかった。
「少しずつでも俺がみんなを説得する。みんなを巻き込んだようなもんだから、他のやつらにも謝らないといけない」
一浩の言葉に豊が「それなら俺だって同じだ」と、呟いた。
千秋へのイジメは様々な因果関係が折り重なって行われた。
誰か1人が謝れば終わるようなものではない。
「わかった。それなら全員で謝りに行こう。それで、みんなで千秋を受け入れる準備をしようよ」
奈穂はそう言ったのだった。
夕飯の席についても食べる気分になれなくて奈穂はうつむいたままだった。
テーブルには奈穂の大好物のロールキャベツとコンソメスープが並んでいるけれど、なかなか手を伸ばすことができない。
千秋のお見舞いから戻った後ちゃんと学校へ行ったものの、授業もろくに頭に入ってこなかった。
ジッと机に座って教科書を見ていると、どうしても千秋の姿を思い出してしまう。
頭に包帯を巻いて、あちこちに小さなガーゼがはられていてとても痛々しかった。
千秋がそんな状態になってしまったのは自分たちのせいなのに、こうして授業を受けていていいのかという気持ちになってしまう。
本当なら千秋だって今ごろ一緒に授業を受けていたはずなのに……。
そう思うと胸が苦しくて仕方なかった。
そして家に戻ってきた今も、その苦しみは消えてはいなかった。
自分だけ家族と食卓を囲んでいることに違和感を抱いてしまう。
「大丈夫……。ちょっと、体調が悪いだけ」
そう言い、一口だけ食べる。
ご飯はなかなか喉を通って行かなかった。
無理やり飲み込んでもなんの味もしない。
せっかくお母さんが作ってくれたのに。
そう思うと涙が出そうになった。
千秋のお母さんだってきっと同じ気持ちで毎日ご飯を作っていたんだろう。
千秋の喜ぶ顔が見たくて、家族団らんを楽しみたくて。
それを奪ったのだって、自分たちだ。
堪えきれずに涙が頬をこぼれ落ちた。
それはテーブルに落ちて丸くなる。
「奈穂、どうしたんだ?」
父親が気がついて心配そうに声をかけてきたけれど、奈穂は返事ができなかった。
両手で顔を覆い、子供みたいにしゃくりあげて涙を流す。
千秋にだって大切な人はいた。
千秋を大切に思っている人だって、きっと沢山いる。
それなのに、その人たちの気持ちまで踏みにじってしまったのだ。
謝罪してもしきれない。
許されないことをしてしまったのだと、今更ながら理解した。
「奈穂、大丈夫?」
「奈穂?」
両親からかけられる心配の声が、今の奈穂にはとても痛かったのだった。
☆☆☆
翌日のホームルームで担任の先生が奈穂の目が覚めたことをみんなに伝えた。
2年B組の中にさざめきが沸き起こる。
そんなにひどい事故だとは思っていなかった生徒たちも多いみたいで、動揺している子も多かった。
「もうしばらくは入院することになるけれど、退院すればすぐに学校に戻ってくることになる。みんな、見守ってやってくれ」
それは居つ頃のことになるのか、先生もまだ聞いていないようだった。
「千秋は学校に戻ってくるんだね」
ホームルームが終わった教室内で、珠美がそう声をかけてきた。
「そうだね」
頷いたあと、力なくうつむく。
千秋が学校へ戻って来ることへの気まずさもあるけれど、自分が千秋だったらどうだろうと考えたのだ。
散々自分をイジメていたクラスに戻りたいと思うだろうか。
事故が遭ったことをきっかけにして、転校してしまってもおかしくないかもしれない。
それでも千秋はこの学校へ戻ってくることを決めたみたいだ。
そこにはどれくらいの決断が必要だったろうか。
「このまま千秋が戻ってきても、気まずくなるだけだ」
そう声をかけたきたのは豊だった。
後ろには一浩の姿もある。
ふたりとも、ホームルームでの話を聞いて、考えることがあったんだろう。
「やっぱり、千秋には1度ちゃんと謝らないといけないと思う」
奈穂は勇気を出して4人に自分の気持を伝えた。
昨日は千秋が目を覚ましたりなんなりしてそんな暇はなかったけれど、もう少し時間を於けばきっと会いに行ける。
「だけど千秋が受け入れてくれるかどうかわからない」
珠美が自信なさそうな声で言った。
謝罪を受け入れるかどうかは千秋にかかっている。
自分たちにできることは、誠心誠意謝ることだけだ。
それ以上のことなんて、きっと望んじゃいけない。
「受け入れられなくてもやらなきゃいけないことだと思う」
奈穂はきっぱりと言い切った。
ここまで自分の意見を通したことは今までなかったかもしれない。
今回の出来事が少しだけ奈穂を変えていた。
「そうだな。俺もそう思う」
豊が同意して頷いた。
「千秋は学校へ戻る決意をしたんだ。それなら、俺達だって自分たちの罪を認めてちゃんと謝る決意をしないとな」
豊が珠美の肩をポンッと叩いてそう言った。
珠美は渋々ながらに頷く。
「一浩はどう思う?」
奈穂は話の矛先を一浩へ向けた。
この中では一番千秋と会いづらいはずだ。
けれど一浩はそんなこと気にしている様子は見せず「もちろん、謝りに行く」と言ったのだ。
「俺の単なる勘違いで、イジメたんだ。どう考えたって、俺が悪い」
「そうだね。だけど悪いのは一浩だけじゃないし、この4人だけでもなかったと思う。クラスで千秋のイジメを知っていた生徒は沢山いるんだから。その全員が自分がしてしまったことを理解して、千秋を受け入れないといけないと思う」
それはきっと簡単なことじゃない。
4人と同じ経験をしていれば千秋への考え方も少しは変わるかも知れないけれど、残念ながらみんなあの経験をしている様子ではなかった。
「少しずつでも俺がみんなを説得する。みんなを巻き込んだようなもんだから、他のやつらにも謝らないといけない」
一浩の言葉に豊が「それなら俺だって同じだ」と、呟いた。
千秋へのイジメは様々な因果関係が折り重なって行われた。
誰か1人が謝れば終わるようなものではない。
「わかった。それなら全員で謝りに行こう。それで、みんなで千秋を受け入れる準備をしようよ」
奈穂はそう言ったのだった。
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