友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月

文字の大きさ
上 下
10 / 10

一週間後

しおりを挟む
屋上で倒れて緊急搬送された早紀はそのまま入院することになり、一時はどうなることかわからない状態まで陥った。

絵里香が面会することも叶わない時間が数日過ぎて、昨日からやっとお見舞いに来れるようになった。

「早紀、大丈夫?」
ベッドの上の早紀は数日前よりも随分やつれてしまったように見える。

けれどその表情は明るかった。
「大丈夫だよ。今日は調子がいいの」

そう言って微笑む早紀の頬は赤らんでいる。
「よかった。これ、お花」

病院に来る途中で購入したピンクの花を白い花瓶に入れると、部屋の中が一気に華やぐ。
「綺麗だね」

「うん。花瓶が白いから、きっとどんな色の花でも似合うよ。今度は黄色い花を持ってきてあげる」


「ふふっ、楽しみ。だけど本当は外へ出て、この目で咲いているところを見てみたい。学校の花壇はどうなってる?」

6月に入って梅雨が始まってから、花壇の花々は元気に背を伸ばし始めた。
早紀にそう伝えると、懐かしそうに目を細める。

「いいなぁ。見てみたいなぁ」
「学校にはこられそう?」

早紀の顔に始めて沈んだ色が見えた。
うつむき、白いシーツを握りしめる。

「今の所わからない。なにせ友梨奈が持っていた間に随分悪くなってたみたいだから」

早紀は今でも呼吸器を外せないままでいる。
こうして会話していても、時折苦しそうに深呼吸する場面があった。

「そっか……」
「友梨奈たちは、どこに行ったの?」

そう聞かれて絵里香は左右に首をふった。


屋上で早紀に病気を戻して以来、友梨奈たちとは合っていない。
学校内を探してみたけれど、どこにもいなかったのだ。

「詩乃や直斗のことも知らないって言われちゃったよ」
そう、誰に聞いてみてもあの3人組のことを知っている生徒や先生はいなかったのだ。

あの3人はそもそも人間だったんだろうか。

学校に忍び込んであんな活動をすることが、普通の人間にできるんだろうかと、今では不思議に感じられる。

「絵里香から、3人共消えたってきいて、またちょっと調べてみたんだよね」
早紀は床頭台の上に置かれているスマホへ視線を向けて行った。

「そしたら、こんな記事がでてきた」
右手にスマホを持ち、画面を表示させる。

元々絵里香に見せるつもりだったようで、問題のページはブックマークされていた。
表示されたのは、あのSNSだった。


『屋上の女子生徒とその取り巻きたちは、ひとつの学校にはとどまらない。学校を転々と渡り歩き、その姿は年も取らない』

これじゃ本当に人間じゃなく、都市伝説の存在みたいだ。

でもこれが案外真相なのかもしれない。
友梨奈たちに関しては家族やその周辺についての情報がなにも出てこなさすぎる。

一時期とはいえ一緒に過ごしたのに、友梨奈がチョコレート好きということしか、私達は知らない。
「友梨奈のことは、もう終わったことだよ」

絵里香はスマホ画面を消して早紀に言った。
「うん。そうだね」

「あれは悪い夢だった。これからは病気を治すことを考えて過ごさなきゃ」
「わかってる」


早紀は深呼吸をして、そして微笑んだ。
友梨奈と一緒にいた期間は短かったけれど、強烈な印象をふたりに与えた。

もう1度友梨奈に会うことがあっても、きっと声をかけることはないだろう。
「それじゃ、そろそろ行くね」

「うん。ありがとう」
「明日も来るから」

絵里香が早紀に手を振って病室を出る。
クリーム色の病院の廊下には珍しく人の姿がなかった。

患者たちはみんなおとなしく部屋にいるんだろうか。


絵里香がエレベーターへ向けてあるき出したとき、後方から「友梨奈さま」と聞こえた気がして振り向いた。

だけどそこには長い廊下が続いているだけで誰もいない。
気のせい……?

絵里香は再び歩き出す。
その歩調はこころなしか早くなっていた。

屋上で長時間正座させられたときの痛みが戻っくる感覚がした。
「お礼はチョコレートよ」

後方から友梨奈のそんな声が聞こえてきた気がしたけれど、絵里香はもう振り返らなかったのだった。

END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

命令教室

西羽咲 花月
児童書・童話
強化合宿に参加したその施設では 入っていはいけない部屋 が存在していた 面白半分でそこに入ってしまった生徒たちに恐怖が降りかかる! ホワイトボードに書かれた命令を実行しなければ 待ち受けるのは死!? 密室、デスゲーム、開幕!

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。 そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。 どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。 しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし
児童書・童話
天空の大陸に住むふたりの魔女が主人公の魔法冒険ファンタジー。 魔法が得意で好奇心おうせいだけど、とある秘密をかかえているリプルと、 基本ダメダメだけど、いざとなると、どたんばパワーをだすペブル。 平和だった魔女学園に闇の勢力が出没しはじめる。 王都からやってきたふたりの少年魔法士とともに、 王都をめざすことになったリプルとペブル。 きほんまったり&ときどきドキドキの魔女たちの冒険物語。 ふたりの魔女はこの大陸を救うことができるのか!? 表紙イラスト&さし絵も自分で描いています。

処理中です...