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一週間後
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屋上で倒れて緊急搬送された早紀はそのまま入院することになり、一時はどうなることかわからない状態まで陥った。
絵里香が面会することも叶わない時間が数日過ぎて、昨日からやっとお見舞いに来れるようになった。
「早紀、大丈夫?」
ベッドの上の早紀は数日前よりも随分やつれてしまったように見える。
けれどその表情は明るかった。
「大丈夫だよ。今日は調子がいいの」
そう言って微笑む早紀の頬は赤らんでいる。
「よかった。これ、お花」
病院に来る途中で購入したピンクの花を白い花瓶に入れると、部屋の中が一気に華やぐ。
「綺麗だね」
「うん。花瓶が白いから、きっとどんな色の花でも似合うよ。今度は黄色い花を持ってきてあげる」
「ふふっ、楽しみ。だけど本当は外へ出て、この目で咲いているところを見てみたい。学校の花壇はどうなってる?」
6月に入って梅雨が始まってから、花壇の花々は元気に背を伸ばし始めた。
早紀にそう伝えると、懐かしそうに目を細める。
「いいなぁ。見てみたいなぁ」
「学校にはこられそう?」
早紀の顔に始めて沈んだ色が見えた。
うつむき、白いシーツを握りしめる。
「今の所わからない。なにせ友梨奈が持っていた間に随分悪くなってたみたいだから」
早紀は今でも呼吸器を外せないままでいる。
こうして会話していても、時折苦しそうに深呼吸する場面があった。
「そっか……」
「友梨奈たちは、どこに行ったの?」
そう聞かれて絵里香は左右に首をふった。
屋上で早紀に病気を戻して以来、友梨奈たちとは合っていない。
学校内を探してみたけれど、どこにもいなかったのだ。
「詩乃や直斗のことも知らないって言われちゃったよ」
そう、誰に聞いてみてもあの3人組のことを知っている生徒や先生はいなかったのだ。
あの3人はそもそも人間だったんだろうか。
学校に忍び込んであんな活動をすることが、普通の人間にできるんだろうかと、今では不思議に感じられる。
「絵里香から、3人共消えたってきいて、またちょっと調べてみたんだよね」
早紀は床頭台の上に置かれているスマホへ視線を向けて行った。
「そしたら、こんな記事がでてきた」
右手にスマホを持ち、画面を表示させる。
元々絵里香に見せるつもりだったようで、問題のページはブックマークされていた。
表示されたのは、あのSNSだった。
『屋上の女子生徒とその取り巻きたちは、ひとつの学校にはとどまらない。学校を転々と渡り歩き、その姿は年も取らない』
これじゃ本当に人間じゃなく、都市伝説の存在みたいだ。
でもこれが案外真相なのかもしれない。
友梨奈たちに関しては家族やその周辺についての情報がなにも出てこなさすぎる。
一時期とはいえ一緒に過ごしたのに、友梨奈がチョコレート好きということしか、私達は知らない。
「友梨奈のことは、もう終わったことだよ」
絵里香はスマホ画面を消して早紀に言った。
「うん。そうだね」
「あれは悪い夢だった。これからは病気を治すことを考えて過ごさなきゃ」
「わかってる」
早紀は深呼吸をして、そして微笑んだ。
友梨奈と一緒にいた期間は短かったけれど、強烈な印象をふたりに与えた。
もう1度友梨奈に会うことがあっても、きっと声をかけることはないだろう。
「それじゃ、そろそろ行くね」
「うん。ありがとう」
「明日も来るから」
絵里香が早紀に手を振って病室を出る。
クリーム色の病院の廊下には珍しく人の姿がなかった。
患者たちはみんなおとなしく部屋にいるんだろうか。
絵里香がエレベーターへ向けてあるき出したとき、後方から「友梨奈さま」と聞こえた気がして振り向いた。
だけどそこには長い廊下が続いているだけで誰もいない。
気のせい……?
絵里香は再び歩き出す。
その歩調はこころなしか早くなっていた。
屋上で長時間正座させられたときの痛みが戻っくる感覚がした。
「お礼はチョコレートよ」
後方から友梨奈のそんな声が聞こえてきた気がしたけれど、絵里香はもう振り返らなかったのだった。
END
絵里香が面会することも叶わない時間が数日過ぎて、昨日からやっとお見舞いに来れるようになった。
「早紀、大丈夫?」
ベッドの上の早紀は数日前よりも随分やつれてしまったように見える。
けれどその表情は明るかった。
「大丈夫だよ。今日は調子がいいの」
そう言って微笑む早紀の頬は赤らんでいる。
「よかった。これ、お花」
病院に来る途中で購入したピンクの花を白い花瓶に入れると、部屋の中が一気に華やぐ。
「綺麗だね」
「うん。花瓶が白いから、きっとどんな色の花でも似合うよ。今度は黄色い花を持ってきてあげる」
「ふふっ、楽しみ。だけど本当は外へ出て、この目で咲いているところを見てみたい。学校の花壇はどうなってる?」
6月に入って梅雨が始まってから、花壇の花々は元気に背を伸ばし始めた。
早紀にそう伝えると、懐かしそうに目を細める。
「いいなぁ。見てみたいなぁ」
「学校にはこられそう?」
早紀の顔に始めて沈んだ色が見えた。
うつむき、白いシーツを握りしめる。
「今の所わからない。なにせ友梨奈が持っていた間に随分悪くなってたみたいだから」
早紀は今でも呼吸器を外せないままでいる。
こうして会話していても、時折苦しそうに深呼吸する場面があった。
「そっか……」
「友梨奈たちは、どこに行ったの?」
そう聞かれて絵里香は左右に首をふった。
屋上で早紀に病気を戻して以来、友梨奈たちとは合っていない。
学校内を探してみたけれど、どこにもいなかったのだ。
「詩乃や直斗のことも知らないって言われちゃったよ」
そう、誰に聞いてみてもあの3人組のことを知っている生徒や先生はいなかったのだ。
あの3人はそもそも人間だったんだろうか。
学校に忍び込んであんな活動をすることが、普通の人間にできるんだろうかと、今では不思議に感じられる。
「絵里香から、3人共消えたってきいて、またちょっと調べてみたんだよね」
早紀は床頭台の上に置かれているスマホへ視線を向けて行った。
「そしたら、こんな記事がでてきた」
右手にスマホを持ち、画面を表示させる。
元々絵里香に見せるつもりだったようで、問題のページはブックマークされていた。
表示されたのは、あのSNSだった。
『屋上の女子生徒とその取り巻きたちは、ひとつの学校にはとどまらない。学校を転々と渡り歩き、その姿は年も取らない』
これじゃ本当に人間じゃなく、都市伝説の存在みたいだ。
でもこれが案外真相なのかもしれない。
友梨奈たちに関しては家族やその周辺についての情報がなにも出てこなさすぎる。
一時期とはいえ一緒に過ごしたのに、友梨奈がチョコレート好きということしか、私達は知らない。
「友梨奈のことは、もう終わったことだよ」
絵里香はスマホ画面を消して早紀に言った。
「うん。そうだね」
「あれは悪い夢だった。これからは病気を治すことを考えて過ごさなきゃ」
「わかってる」
早紀は深呼吸をして、そして微笑んだ。
友梨奈と一緒にいた期間は短かったけれど、強烈な印象をふたりに与えた。
もう1度友梨奈に会うことがあっても、きっと声をかけることはないだろう。
「それじゃ、そろそろ行くね」
「うん。ありがとう」
「明日も来るから」
絵里香が早紀に手を振って病室を出る。
クリーム色の病院の廊下には珍しく人の姿がなかった。
患者たちはみんなおとなしく部屋にいるんだろうか。
絵里香がエレベーターへ向けてあるき出したとき、後方から「友梨奈さま」と聞こえた気がして振り向いた。
だけどそこには長い廊下が続いているだけで誰もいない。
気のせい……?
絵里香は再び歩き出す。
その歩調はこころなしか早くなっていた。
屋上で長時間正座させられたときの痛みが戻っくる感覚がした。
「お礼はチョコレートよ」
後方から友梨奈のそんな声が聞こえてきた気がしたけれど、絵里香はもう振り返らなかったのだった。
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