6 / 6
捻じ曲がる性癖(下ネタ注意)
しおりを挟む「おい青木」
「なんだ赤松」
「ある特定の層へ向けた、いわゆるマニアックな成人向けコンテンツを見て、よく『性癖が捻じ曲がる』とか、『本来在るべき場所から逸脱する』的なニュアンスを文字として、或いは言葉として発信する輩がいるだろう?」
「いきなり、しかもそれなりの長さの文で問題提起してくるな。びっくりするだろ」
「そういう輩がいるだろう?」
「強引だな。知らねえよ、そんなやつ」
「いるんだよ」
「いやだから、知らんがな。どこにいるんだよ」
「ああ、SNSやら作品投稿サイトやらでよく見かけるが?」
「あのな、それは、おまえがただ単に、そういった卑猥なものを長時間物色しているだけだろ。普通は目につかねえよ」
「お、なかなか冴えてるな、青木」
「その褒め方イラつくな……ったく、日陰にいるやつらをわざわざ引っ張り出してやるな」
「──ともかくだ」
「あのなあ……」
「俺が言いたいのは、果たして本当に〝性癖〟というモノは外部からの影響、もしくはなんらかの圧力によって捻じ曲がるのか否か、という話なんだ」
「死ぬほどどうでもいいな」
「いや、まだ死ぬべき時ではないぞ青木よ」
「例えだよ」
「……この世には様々な性癖がある。中には同じものに見えるが、細分化していくと、個々人により全く違った解釈の物もでてくる。最近、巷で台頭してきているN〇Rだって、男に感情移入している者や、女に感情移入している者、さらにはただの堕ちる過程が──」
「おい、赤松。どうでもいいけど、教室で話すことじゃねえだろ。女子たちが引いてる。先生もこっちを見てる」
「……フ、そうだったな。つい熱くなってしまったようだ。……では、話を続けよう」
「いや、俺の話聞いてたか!?」
「問題ない。冷静沈着に話を進めていってやる」
「冷静沈着に話題を止めるつもりはないんだな」
「つまりだな、俺がここであえて言いたいことは──」
「マジで続ける気かおまえ」
「〝性癖〟というのは捻じ曲がるようなものではなく、本人が、本来持ち合わせている性癖が開花するだけなのではないか、と」
「……わかるように言ってくれ」
「ノってきたな、青木ィ……!」
「いや、いまいち言ってる意味が分からんかっただけだ。つまり、どういうことだ」
「一般的に、傍から見れば変、妙とされている性癖に成るということは、決して捻じ曲がって至った結果ではなく、本来、その人間の持っていた性癖が花開いただけである。事実、俺は色々な文献を読み漁ったわけだが──」
「未成年がそんな文献を読み漁るな」
「刺さらないものは、どうやっても刺さらなかったからな。竜と車の何に興奮すればいいんだ」
「なるほど。それについてはニッチ過ぎるが……つまり、赤松は生まれ持っての、ナチュラルボーンヘンタイというわけか」
「んだ」
「なぜ訛る。そしてせめて否定しろよ」
「俺は俺であることを自覚し、誇りに思っているからな。いまさら世間体を気にする必要などないのだ」
「世間体は、今、気にしろ」
「……どうだ、この理論。穴があるならさして……いや、探してみろ」
「最低だなおまえは。……だが、おまえの言う事もわかる」
「おお、同調してくれるか、青木よ」
「同調はしてねえよ。ある点においては同意しているだけだ」
「……ある点においては、だと?」
「たしかに特殊な性癖が広まることによって、それを好む者も出てくる。この場合、花開くという表現は案外、的を射ているのかもしれない」
「だったら──」
「悪いが、俺の持論はその逆だ」
「逆……だと?」
「そうだ。性癖は……捻じ曲がる!!」
「言い切ったな」
「ある例をひとつ挙げてみよう。数年前……まだ、いまほど大衆にアニメなどが浸透していない時代だ」
「今もそうだが」
「昔はもっとだろう。揚げ足を取るな」
「すまん」
「許す。……まだ、今ほどそういったメディアが展開されていなかった時代、今でいう〝男の娘〟という性癖は公言出来るほどのものではなかった」
「今でも公言出来るものではないが」
「昔はもっとだろう。揚げ足を取るな」
「悪い」
「赦す。男の娘好きだと口を開けばやれホモだの、ゲイだのと罵られていた」
「いや、だが実際男の娘すきなんてホ──」
「やめておけ。その言葉を口にすると、あとは灰しか残らん」
「お、おう……」
「だが、いまはどうだ? ある程度の市民権は得ているだろう?」
「そうか?」
「得ているんだよ」
「俺が言うのもなんだが、もっと普通に、日常生活を送ったほうがいいぞ、青木」
「うるせーよ!! おまえが先にこの話を……まあいい。バカな赤松に、もうすこしだけわかりやすい例を挙げておいてやる」
「助かる」
「……これは、某動画サイトが公開している、どの国がどのジャンルを見ているかがわかるグラフだ」
「スマートフォンまで取り出して、用意周到だなおまえは。……だが、たしかに興味深くもある。ちなみに、お隣の国は日本のアニメ系などが好きなようだな。これがどうかしたか、青木」
「なあ赤松、日本のアニメが、昔からあると思うか?」
「……なに?」
「農業や自国の文化をこの島国に広めた渡来人が、アニメを伝えてくれたか? かの高名な航海士が日本を発見した時、その見聞録にアニメの記載はあったか?」
「それは……」
「答えは否だ。近代化が進み、車が馬の代わりに人の脚となり、様々な動乱を経て、この文化が海外へと広まり、外国人たちの性癖を捻じ曲げたのだ。ちがうか、赤松」
「そ、そう……なのか?」
「以上の事柄から鑑みて──いいか、もう一度言う。よく聞いておけ。……性癖は! 捻じ曲がる!!」
「言い切ったな。先生もすごい顔でおまえを睨みつけているぞ」
「構うものか。ヤツの性癖ごと捻じ曲げてやるさ」
「──青木、赤松、ふたりとも廊下に立っとれ」
「「はい!!」」
◇
「──おい、青木よ」
「なんだ赤松。もうバケツを握る手に力が無くなったか?」
「いや、さっきの事だが……」
「まだ言うか」
「『この時代になって、アニメが色々広がってそれを好む者が増え、結果性癖が捻じ曲がった』……おまえはそう言ったな」
「言った」
「でもそれ、結局外国の人間が、元々そういうのが好きで、目覚めただけだろ?」
「………………たしかに」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
シャ・ベ クル
うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。
異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…
夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?
主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893?
部員の成長を描いたコメディタッチの物語。
シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。
※※※
この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。
2023年05月01日 一章『人間ドール開放編』
~2023年06月27日
二章 … 未定
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
秘密兵器猫壱号
津嶋朋靖(つしまともやす)
キャラ文芸
日本国内のとある研究施設で動物を知性化する研究が行われていた。
その研究施設で生み出された知性化猫のリアルは、他の知性化動物たちとともに政府の対テロ組織に入れられる。
そこでは南氷洋での捕鯨活動を妨害している環境テロリストをつぶす計画が進行中だった。リアル達もその計画に組み込まれたのだ。
計画は成功して環境テロリストたちはほとんど逮捕されるのだが、逮捕を免れたメンバーたちによって『日本政府は動物に非人道的な改造手術をして兵器として使用している』とネットに流された
世界中からの非難を恐れた政府は証拠隠滅のためにリアル達、知性化動物の処分を命令するのだが……
その前にリアルはトロンとサムと一緒に逃げ出す。しかし、リアルは途中仲間とはぐれてしまう。
仲間とはぐれたリアル町の中で行き倒れになっていたところを、女子中学生、美樹本瑠璃華に拾われる。そして……
注:途中で一人称と三人称が入れ替わるところがあります。
三人称のところでは冒頭に(三人称)と入ります。
一人称で進むところは、リアルの場合(リアル視点)瑠璃華の一人称部分では(瑠璃華視点)と表記してます。
なお、大半の部分は瑠璃華視点になっています。
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
群青の空
ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前――
東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。
そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。
ただ、俺は彼女に……。
これは十年前のたった一年の青春物語――
女装をしたら、えらい目に遭わされました
葵井しいな
キャラ文芸
一時の気の迷いから取った行動を、双子の姉に見られ、代償として女装をすることになった主人公の麻耶。
その恥ずかしい姿を親友にも知られ、姉の策略に嵌まり堕ちるところまで行くお話。
つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して♡-
halsan
キャラ文芸
超限界集落の村役場に一人務める木野虚(キノコ)玄墨(ゲンボク)は、ある夏の日に、宇宙から飛来した地球外生命体を股間に受けてしまった。
その結果、彼は地球外生命体が惑星を支配するための「胞子力エネルギー」を三つ目の「きんたま」として宿してしまう。
その能力は「無から有」
最初に現れたのは、ゲンボク愛用のお人形さんから生まれた「アリス」
さあ限界集落から発信だ!
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる