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捻じ曲がる性癖(下ネタ注意)

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「おい青木」

「なんだ赤松」

「ある特定の層へ向けた、いわゆるマニアックな成人向けコンテンツを見て、よく『性癖が捻じ曲がる』とか、『本来在るべき場所から逸脱する』的なニュアンスを文字として、或いは言葉として発信する輩がいるだろう?」

「いきなり、しかもそれなりの長さの文で問題提起してくるな。びっくりするだろ」

「そういう輩がいるだろう?」

「強引だな。知らねえよ、そんなやつ」

「いるんだよ」

「いやだから、知らんがな。どこにいるんだよ」

「ああ、SNSやら作品投稿サイトやらでよく見かけるが?」

「あのな、それは、おまえがただ単に、そういった卑猥なものを長時間物色しているだけだろ。普通は目につかねえよ」

「お、なかなか冴えてるな、青木」

「その褒め方イラつくな……ったく、日陰にいるやつらをわざわざ引っ張り出してやるな」

「──ともかくだ」

「あのなあ……」

「俺が言いたいのは、果たして本当に〝性癖〟というモノは外部からの影響、もしくはなんらかの圧力によって捻じ曲がるのか否か、という話なんだ」

「死ぬほどどうでもいいな」

「いや、まだ死ぬべき時ではないぞ青木よ」

「例えだよ」

「……この世には様々な性癖がある。中には同じものに見えるが、細分化していくと、個々人により全く違った解釈の物もでてくる。最近、巷で台頭してきているN〇Rだって、男に感情移入している者や、女に感情移入している者、さらにはただの堕ちる過程が──」

「おい、赤松。どうでもいいけど、教室で話すことじゃねえだろ。女子たちが引いてる。先生もこっちを見てる」

「……フ、そうだったな。つい熱くなってしまったようだ。……では、話を続けよう」

「いや、俺の話聞いてたか!?」

「問題ない。冷静沈着に話を進めていってやる」

「冷静沈着に話題を止めるつもりはないんだな」

「つまりだな、俺がここであえて言いたいことは──」

「マジで続ける気かおまえ」

「〝性癖〟というのは捻じ曲がるようなものではなく、本人が、本来持ち合わせている性癖が開花するだけなのではないか、と」

「……わかるように言ってくれ」

「ノってきたな、青木ィ……!」

「いや、いまいち言ってる意味が分からんかっただけだ。つまり、どういうことだ」

「一般的に、傍から見ればとされている性癖にるということは、決して捻じ曲がって至った結果ではなく、本来、その人間の持っていた性癖が花開いただけである。事実、俺は色々な文献を読み漁ったわけだが──」

「未成年がそんな文献を読み漁るな」

「刺さらないものは、どうやっても刺さらなかったからな。竜と車の何に興奮すればいいんだ」

「なるほど。それについてはニッチ過ぎるが……つまり、赤松は生まれ持っての、ナチュラルボーンヘンタイというわけか」

「んだ」

「なぜ訛る。そしてせめて否定しろよ」

「俺は俺であることを自覚し、誇りに思っているからな。いまさら世間体を気にする必要などないのだ」

「世間体は、今、気にしろ」

「……どうだ、この理論。穴があるならさして……いや、探してみろ」

「最低だなおまえは。……だが、おまえの言う事もわかる」

「おお、同調シンクロしてくれるか、青木よ」

同調シンクロはしてねえよ。ある点においては同意しているだけだ」

「……ある点においては、だと?」

「たしかに特殊な性癖が広まることによって、それを好む者も出てくる。この場合、花開く・・・という表現は案外、的を射ているのかもしれない」

「だったら──」

「悪いが、俺の持論はその逆だ」

「逆……だと?」

「そうだ。性癖は……捻じ曲がる・・・・・!!」

「言い切ったな」

「ある例をひとつ挙げてみよう。数年前……まだ、いまほど大衆にアニメなどが浸透していない時代だ」

「今もそうだが」

「昔はもっとだろう。揚げ足を取るな」

「すまん」

「許す。……まだ、今ほどそういったメディアが展開されていなかった時代、今でいう〝男の娘〟という性癖は公言出来るほどのものではなかった」

「今でも公言出来るものではないが」

「昔はもっとだろう。揚げ足を取るな」

「悪い」

「赦す。男の娘好きだと口を開けばやれホモだの、ゲイだのと罵られていた」

「いや、だが実際男の娘すきなんてホ──」

「やめておけ。その言葉を口にすると、あとは灰しか残らん」

「お、おう……」

「だが、いまはどうだ? ある程度の市民権は得ているだろう?」

「そうか?」

「得ているんだよ」

「俺が言うのもなんだが、もっと普通に、日常生活を送ったほうがいいぞ、青木」

「うるせーよ!! おまえが先にこの話を……まあいい。バカな赤松に、もうすこしだけわかりやすい例を挙げておいてやる」

「助かる」

「……これは、某動画サイトが公開している、どの国がどのジャンルを見ているかがわかるグラフだ」

「スマートフォンまで取り出して、用意周到だなおまえは。……だが、たしかに興味深くもある。ちなみに、お隣の国は日本のアニメ系などが好きなようだな。これがどうかしたか、青木」

「なあ赤松、日本のアニメが、昔からあると思うか?」

「……なに?」

「農業や自国の文化をこの島国に広めた渡来人が、アニメを伝えてくれたか? かの高名な航海士が日本を発見した時、その見聞録にアニメの記載はあったか?」

「それは……」

「答えは否だ。近代化が進み、車が馬の代わりに人の脚となり、様々な動乱を経て、この文化が海外へと広まり、外国人たちの性癖を捻じ曲げたのだ。ちがうか、赤松」

「そ、そう……なのか?」

「以上の事柄から鑑みて──いいか、もう一度言う。よく聞いておけ。……性癖は! 捻じ曲がる!!」

「言い切ったな。先生もすごい顔でおまえを睨みつけているぞ」

「構うものか。ヤツの性癖ごと捻じ曲げてやるさ」

「──青木、赤松、ふたりとも廊下に立っとれ」

「「はい!!」」





「──おい、青木よ」

「なんだ赤松。もうバケツを握る手に力が無くなったか?」

「いや、さっきの事だが……」

「まだ言うか」

「『この時代になって、アニメが色々広がってそれを好む者が増え、結果性癖が捻じ曲がった』……おまえはそう言ったな」

「言った」

「でもそれ、結局外国の人間が、元々そういうのが好きで、目覚めただけだろ?」

「………………たしかに」
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