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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人と脱出の糸口

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 ドボン!
 ドボン! ドボン!
 ドボン! ドボン! ドボン!
 ドボドボドボ……ドバチャーン!!

 島吞しまのみの体内。
 イケメンが落ちてきたのを皮切りに、人が次々に上から落ちてくる。
 船の乗員、乗客、島の住民。
 全員、蛇に呑み込まれた人たちだった。
 そして──


「うわああああああああああ! 上だああああああああああああ!!」


 ひとりが声をあげ、そこにいた全員が上を見る。
 イルザードの魔導灯に照らし出されたのは──
 船。
 ガレイトたちが乗ってきた船。
 その船が、まっすぐに落ちてきていた。


「避けろおおおおおおおおおおおおお!!」


 ──ドッ……ボォォォォォオオオオオン!!
 とてつのなく大きな水柱をあげ、海面・・に叩きつけられる船。
 巨大な波が起こり、近くにいた人たちを悲鳴ごと呑み込んでいく。


「──ぶはぁッ!?」


 急浮上し、海面から顔を出して光源を睨みつけるガレイト。


「無事かァ! イルザードォォ!!」

「だ、大丈夫です! 問題ありません!!」


 イルザードも海面から顔を出し、すぐにガレイトの声に反応する。


「いまので負傷している人がいないか確認しろ! それと、沈んでいる人もいるかもしれないから、救助するんだ!」

「はい!」

「急げ!」

「ガレイトさん!!」


 イルザードがガレイトに向けて、何かを投げて寄越す。
 パシ。
 ガレイトはそれを受け取ると、イルザードを睨みつけた。


「これ……!」

「予備の魔導灯です! 捜索に使ってください!」

「あと何個持ってるんだ! 馬鹿者!」

「計三本です! お説教は後で聞きます!」

「ああ、覚悟しておけ! ……だが、でかしたぞ、イルザード。これで幾分か楽に──」

「ぷぁっ! ……ゲホ、ゲホ……」

「イケメンさん!」

「お、おうい! 俺にも、残りの一本をくれ!!」


 二人の近くから声が起こる。
 声の主はイケメンだった。


「無事だったのですか!」

「ああ、俺は元海賊だ。これくらいワケねえ。それよりもネーチャン!」

「使い方はわかるな!」


 イルザードがもう一本、未使用の魔導灯をイケメンに投げて寄越す。
 イケメンはそれを受け取ると、すぐに魔導灯に光を灯した。


「ああ、ばっちりだ」

「ふたりとも、お願いします!」

「承知しました」
「おう、任せとけ」


 二人はそう言うと、三方向へ散り散りになり、全員の救助にあたった。


 ◇


 数分後。
 三人は、ひとりも欠けることなく、乗員乗客、そして島の住民全員を救出した。
 のだが──


「……なぜ、あの三人がいないんだ……」


 ブリギット、サキガケ、そしてカミールの三人に関してはひとりも見つかっていなかった。


「……わるいな、ガレイトの旦那。俺たち全員でいちおう探してみたんだが……」


 イケメンはそう言うと、申し訳なさそうに、その後ろにいた乗組員たちを見た。


「……ガレイトさん、あの三人を心配しているのもわかりますが、まずはここから出なければどうにも……」

「……ああ、そのとおりだ」


 グググ……。
 ガレイトが水中で固くこぶしを握る。


「それよりも、俺たちに説明してくれよ。いまこれ、どうなってんだ?」

「……そういえば、イケメンさんたちは、ここがどこかわかっていないのですよね?」

「わからねえも何も、急に空が暗くなって、地面がグラグラ揺れたと思ったら、今度は地面が無くなってよ・・・・・・・・・……なんのことだか、さっぱりなんだわ」


 うんうん。
 イケメンの後ろにいた人たちも、同意するようにうなずく。


「地面が、なくなる……ですか?」

「……いや、その表現は適当じゃない」


 ガレイトが尋ねると、今度はティムが声を出した。


「地面が無くなるっつーよりも、あれは……動いていた」

「動いていた……? それは、どういうことでしょうか?」

「ああ、俺もあんまり詳しく説明は出来ないが、地面がうねうねと、まるで生き物みたいに動いていたんだ」

「ガレイトさん……」

「ああ、もしかしすると……いや、その前に──」


 ガレイトとイルザードは、そこにいる人たちに、現状を簡潔に伝えた。


「──へ、蛇だって!?」


 その場にいた全員が、驚きの声をあげる。


「ええ、まず間違いありません。ここにはいらっしゃいませんが、サキガケさん……魔物殺しプロの方がおっしゃっていましたので」

「あの、ニンニン言って、船酔いしてたネーチャンだな」

「はい」

「それにしても島吞……か……」

「なにか知っているのか、おっさん」


 イルザードがイケメンに尋ねる。


「いや、知らん」

「自重しろ、おっさん」


 イルザードが淡々とツッコむ。


「ともかく、あの三人の行方も気になりますが、今はここから脱出することが先決です」

「そうだな。ところで、ガレイトの旦那よ、なにか手はあるのかい?」

「手……ですか……」

「ああ、さすがに今回のこれはセブンスカジキとはワケが違う。いくら旦那でも、こんな馬鹿でかい相手にゃ……それに、俺たちにも手伝えることがあるかもしれねえからな」

「……すみません、俺もどうすればいいか」

「そうか。……じゃあ、ここはあのネーチャンならどうするかを考えねえとな」

「ネーチャン……サキガケさんなら、ですか……?」

「なんか、聞いてねえか? 蛇の苦手なものとか、弱点とかよ……おまえらの中でもこういうの詳しいやつはいねえか!?」


 イケメンがその場にいる全員に声をかける。
 しかし──
 うーん。
 その場にいる全員が苦い顔をする。


「くそっ、今でこそ、こんなことやってられるが、これが何時間も続くとなると……」


 イケメンがそう言うと、他の人たちの顔色も悪くなる。


「おい、いまはあまりネガティブな発言をするな」


 イルザードが呆れたような声を出す。


「あ、ああ、そうだな。わるい。俺もこんな状況ははじめてでよ、つい……」

「……そういえば、ガレイトさん」


 ティムが思いついたように発言する。


「さっき、イルザードさんとなにか話してなかったか?」

「え?」

「ほら、俺が言った、島が、地面がうねうねと動いたってやつだよ」


 ティムにそう言われ、ガレイトとイルザードが顔を見合わせる。


「……そうだ、ガレイトさん」

「ああ、そういえば……だが、それがどう関係するのか──」

「なあ、それ、俺たちにも話してくれねえか?」


 イケメンが藁にもすがるように、ガレイトに尋ねる。


「あ、はい。……俺たちは今、巨大蛇の中にいると話しましたよね?」

「ああ」

「だから、元々俺たちがいた、あの島は蛇のなんじゃないかって」

「舌……?」

「はい。ここに入る前に見たのですが、普通、島というのは大陸ありきですが、ここには蛇の体しかなかった。だから俺たちがいたのは、そもそもが開かれている口の中……つまり、舌の上なのではないかと……」

「ほう? なるほどな。……それで、つまり、どういうことなんだ?」

「そ、それは……」


 そう尋ねられ、ガレイトが黙り込んでしまう。


「あ、いや、悪ぃガレイトの旦那。嫌味のつもりじゃなかったんだ。ただ単に──」

「舌……いや、待てよ」


 ガレイトの目が次第に大きく開いていく。


「……あの時、サキガケさんは、どうやって蛇を仕留めていた……?」


 ガレイトは眉を顰めると、口元に手をあてて、ぶつぶつと呟き始めた。


「旦那……? どうしたんだ?」

「考えろ……考えろ……サキガケさんは……虎汁を食べた後……蛇を取り出して、なんていった……? どうやって仕留めたと言った……?」

「ガレイトさん……?」


 イルザードが心配そうにガレイトの顔を覗き込む。


「──そうだ!」

「ひゃ……」


 ガレイトが急に顔をあげイルザードが後ろへのけぞる。


「サキガケさんは、あの時、木に蛇の頭を叩きつけたと言ったんだ」

「そ、そうなんですか……?」

「ああ。それも、ヘビを苦手としているサキガケさんだ。仕留めるときはそんなに力は使っていないと考えられる……」

「だが、ガレイトの旦那、それがなにか──」

「舌です」

「舌?」

「そう。動物は……俺たちは、モノを食べるとき、舌を……こうしますよね?」


 ごくん。
 皆に見せるようにして、唾を呑み込んで見せた。


「いや、すまん。旦那……いまいちわからねえ──」

「なるほど! そうか!」


 ティムが声をあげる。


「モノを飲み込むとき、俺たちは必ず舌を上顎に着ける……俺たちは蛇にとって餌だから、いずれ必ず飲み込まれる。だけど、俺たちはまだ飲み込まれていない。ということは──」

「はい。俺たちを飲み込もうとする瞬間、舌が上顎に着くその瞬間に、俺とイルザードが上顎……つまり、頭へと攻撃すれば──」


そこにいた全員がハッとなり、ガレイトの顔を見る。


「蛇を倒せる!」
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