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懐かしのヴィルヘルム
閑話 イルザードの過去、団長の決意 ②
しおりを挟む「──王よ、お願いします。どうか、今度こそ団長を探しにいく許可を」
前回から少し時は流れ、ヴィルヘルム帝国城謁見の間。
戦争はヴィルヘルム帝国の圧勝。
未だ帝国内で祝勝ムードが冷めやらぬ頃──
イルザードはまた、ヴィルヘルム国王の御前で首を垂れていた。
「団長が、かの密林地帯で行方不明になってから数日、こんなことは前代未聞です。……もはや一刻の猶予もありません。いますぐに捜索をしなければ、あの人は──」
「ダ~メ」
国王は体の前で腕を交差させると、首をふるふると振った。
「な……!? なぜですか!? もう戦争は──」
「イルザード。……君の、此度の戦果はそりゃもう凄まじいものだった。敵兵を千切っては投げ千切っては投げ……まさに、獅子奮迅、八面六臂の大活躍だ」
「はい……」
「同じ様に二番隊隊長のアクアや、四番隊隊長ウォルターなんかも、これからはガレイト君同様、広く名が知れることになるだろう。これで、ヴィルヘルム・ナイツは層が厚い事を他国に知らしめることが出来、名実ともに最強の騎士団になった。それを踏まえたうえで、今後は、君たち三人に何かしらの報奨は与えるつもりさ。ちなみに、何か欲しい物ってある?」
「あの、私は──」
「だからこそ、よく考えてほしい。戦後、一隊の将である君が、あんな場所をうろついていたらどう思う?」
「た、たしかに、あそこは微妙な所ではありますが……」
「敗走した敵軍に追い討ちをかけるため? 極秘の行軍をするため? 次の戦いの準備? ……間違いなく、よくない噂がたつだろうね」
「そ、そんなことは……」
「これは君だけの問題じゃないんだ。もうしばらくの間、辛抱しておいてほしい」
「でしたら……そうです、王も仰っていた捜索隊を編成すれば──」
「あはは、それこそダメじゃないか。あそこは過酷な環境だ。とてもじゃないが、普通の人間は派遣できない。豊富な知識とサバイバル能力がないと、ただ死にに行くだけだよ」
「なら、今すぐそれに長けている人間を招集して……」
「うん。仮にそうするとして、サバイバルが得意な人的リソースを、ガレイト君捜索に割くとしよう。……でも、話は戻るけど、それを好意的に解釈してくれる人はどこにいるんだろう?」
「好意的に……? どういう……?」
「外国の人たちがその部隊を見て、『ああ、このヴィルヘルムの兵士たちは人を探しに来ただけなんだって。侵略しに来たんじゃないんだ』って、思う人はどれくらいいるかなって意味ね」
「それは……」
「戦勝間もなく、ヴィルヘルムが隊を編成して外国へ進軍……どこもいい顔はしないよ」
「では、どうすれば……!」
「今、向こうに書簡を送ってる所だ。あと数日すれば、返事もかえってくるだろうね」
「す、数日……!? そ、それではガレイトさんは……!」
「うん。だから、彼を信じるしかないよ。今のところは、ね。……どのみち、何よりも優先してするべき事ではない。向こうの許可が下り次第、改めて捜索隊は編成するし、君の同行も許可する。だから──」
イルザードはいきなり立ち上がると、そのまま無言で踵を返した。
それを見たヴィルヘルム国王は、「やれやれ」と言うと、パンパンと二度手を叩き、どこかへ合図を送った。
「──どこへ、行く気ですか、イルザードさん」
国王の合図により、入り口から入って来た騎士がイルザードに立ち塞がる。
「アクア、お願い」
国王がそう言うと、『アクア』と呼ばれた騎士は小さくうなずき、イルザードと向き合った。
「……気持ちはわからなくはないけど、戻ったほうがいいですよ。王の話はまだ終わっていない」
アクアは笑いながら、イルザードの肩にぽんと手を置くが──
メキメキメキ……!
アクアの手甲ごと潰れそうになるくらい、イルザードがそれを強く握る。
「どけ。殺すぞ」
「戻りなさい」
「二度は言わない」
「はぁ、謁見の間を貴女の血で汚したくありませんでしたが──」
静寂。
ピンと張りつめた空気がその空間を包み込む。
まさに一触即発。
その場にいた侍女や近衛兵は、固唾を飲んで両者の一挙手一投足を注視している。
そして、動いたのは両者同時であった。
アクアが腰に差していた剣に手を伸ばす。
イルザードは握っていたアクアの手を振り払い、もう片方の手で顔面に殴りかかる。
しかし──
「ガレイト様がお帰りになられました!!」
部屋中に伝令の声が響き渡る。
「──どけッ!!」
それを耳にした途端、イルザードは即座にアクアの体を突き飛ばした。
「あでッ!?」
支えを失ったアクアは、イルザードに突き飛ばされると、床に顔面を強く打ちつけた。
イルザードは、そんなアクアに一瞥もくれることなく、急いでガレイトの元へ急いだ。
アクアはゆっくりと起き上がると、懐から取り出した取り出したハンカチで鼻血を拭いた。
「いやぁ……すみません、勝手に転んで、僕の血で汚しちゃいました」
面申し訳なさそうに頭を掻くアクア。
ヴィルヘルム国王は玉座にて、頬杖をつきながら言った。
「ま、それならしょうがないよね」
◇
帝国城大広間。
そこには髭を生やし、髪もボサボサになっていたガレイトと、そんな彼に無言で抱きついているイルザードの姿があった。
そんな二人の元に、次第に、騒ぎを聞きつけた人々が集まってくる。
「お、おい、どうしたのだ。イルザード」
「どこへ行っていたのですか……!」
ガレイトの胸に顔をくっつけたまま、イルザードが言う。
「……ああ、悪かった。ちょっと色々とあってな」
「また、腹でも壊していたんですか」
「う……!? よ、よくわかったな。……だが、今回は偶然、ある人と出会って、救われたのだ」
「ある人……?」
「ああ」
「……それはそうと、これからはなるべく、はやめに帰ってくるようにしてください」
「これからは、か……」
ガレイトはそう呟くと、周りに集まった人々の顔を見た。
「……ガレイトさん?」
「──イルザード、俺はこれから王の所へ行く。おまえも付いてきてくれないか」
「……え?」
「大事な話があるんだ」
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