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懐かしのヴィルヘルム
元最強騎士 in 流され島
しおりを挟むぞろぞろぞろ……。
同時刻。
もじゃもじゃの男性に連れられ、ガレイトたちは島内の、人々が集まって暮らしている、集落のような場所へと案内された。
そこには老若男女問わず、二〇人ほどの人間がおり、日光浴をしている者、ボーっと海を見ている者、焚火を囲って話をしている者、釣りをしている者がいた。
人々は、ガレイトたちを見ても、面白がったり、近寄ってきたりはせず、ただ、空でも見ているかのように、視界にいれた途端、プイッとそっぽを向いてしまう。
「──ここが、わしらの主な居住区……と、呼べるほど大層なもんじゃあないが、あそこに見えるだろう?」
男性が指さした先──
そこにはプレハブ小屋のように、長方形に組み上げられた木材の周りを、葉やら束ねた藁やらで固めただけの、シンプルな建物があった。
「あの中には、等間隔に藁なんかが敷いてあってな、皆、だいたいそこで寝ておる。人によって睡眠時間はバラバラだから、基本的に満員になることはなかろう。それに、そもそも、外で寝ることも出来るしの。あとは食い物だが──」
男は、今度は、島の外のほうへ目を向けて言った。
「ここでの食事は基本、魚とヤシの実だ」
「……たしかに、島内にはかなりの数のヤシの木が群生しているよう、見受けられますが……勝手に取っていっても、いいものなのでしょうか?」
「ああ、気にするな。飲みたいときに飲めばいい。あんたの言う通り、実は島のあちこちに腐るほどある。あんたらが取っていっても、全然問題ないくらいな。あと、割るのは大変だが、コツがいるんだ。そこにデカい包丁が──」
べりっ。
ガレイトは近くにあったヤシの木から実をもぎ取ると──
パコっ。
即座に、手刀で真っ二つに割って見せた。
「な、なんなんだ、あんたは……」
男が驚いたように、声を震わせる。
「……ふむ、ほのかに甘い。どうぞ、ブリギットさん、サキガケさん」
ガレイトはその実を二人に渡す。
二人はガレイトに礼を言うと、そのまま飲み始めた。
「たしかに、これが島のあちこちに群生しているのであれば、水の代わりにはなりそうですね」
「あ、ああ……まぁな……」
「──あの、お、お魚は……?」
ブリギットが勇気を振り絞るように、男に尋ねる。
「あの、浅瀬のほうでお魚を見たんですけど、ここのお魚って、どういう……?」
「ああ、見たのか、魚を」
「は、はい……ごめんなさい……」
「いや、謝ることはないが、それこそが流され島が、流され島たる所以なんだよ」
「ゆえん……?」
「そう。……ところで、もしかしてあんたたち、この島から出ようって言うんじゃないだろうね?」
男性がその問いを口にするや否や、他の住民たちの雰囲気も一変する。
ガレイトとイルザード、そしてサキガケが、ブリギットを守るように、取り囲むように立った。
ガレイトはさらに一歩、前へ進むと、堂々とした態度で答えた。
「ああ、もちろん出ていくだが……それが何か?」
ガレイトがそう言うと──
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
男性をはじめ、そこにいた住民全員が笑い始めた。
ガレイトたちが皆、困惑したようにあたりを見回す。
「……な、なんなんだ?」
「ああ、すまんすまん。急に笑って悪かったな。……いや、別に反対しないさ。出ていきたいのなら、出ていけばいい」
「おい、不愉快だ。その、人を馬鹿にするような笑いを引っ込めろ」
「止めろ、イルザード。わざわざ敵を作る発言をするな……」
ガレイトに窘められると、イルザードはそれ以上何も言わず、住民たちを睨みつけた。
「……さて、流され島の所以だったな。流され島は、その名の通り、特殊な潮流がこの島の周りを巡っていてね、外へ出られないようになっているんだ」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。試しに、あんたたちの乗ってきた船で外海へ出てみるといい。まあ、戻されるだろうが。だから、ここへ流れ着いてきた魚も、外へ出ることが出来ず、浅瀬で泳ぐしかないんだよ」
「……脱出のほうは、試したのですか?」
「さあ、どうだろうな……」
男性がつまらなそうに、肩をすくめてみせる。
「ふむ、なるほど。この人が言うことが本当なら──」
「私たち、ここで結婚して、子作りするしかないのでは……!?」
ガレイトの両腕を掴み、ゆっさゆっさと揺さぶるイルザード。
「どうしましょう、ガレイトさ──」
ガレイトは鬱陶しそうにイルザードの体を引き剝がすと、そのまま砂の上にゆっくり寝かせた。
「あ、空が青いや」
呟くように、感心するようにイルザードが言う。
「……でも、それは、本当に本当なのでござるか? 出られないって……」
「信じられないのなら、試してみればいいとわしは言ったがな」
「……たしかに。もし嘘なら、家なんて悠長なものは作らず、イカダなどを作って、ここから脱出しようとするでござるからな。疑ってすまな──」
「いいや、わしらは脱出しようだなんて思っちゃいないよ」
「……え?」
サキガケだけでなく、ガレイトとブリギットも声をあげる。
「ここは天国だ」
「天国……?」
「ああ。腹が減ればそこらへんにいる魚を食えばいい。喉が渇けばヤシの実を。……それに、さっきも言ったが、潮流の関係でいろいろなものが流れ着いてくる。暇つぶしだってな。あそこの建物なんかも、漂着物を集めて作ったんだ。不格好だが、寝るには快適だ」
「しかし、あんな寄せ集めだと、すぐに壊れてしまうのではござらんか?」
「たしかに、ここはそれなりに風も吹くし、雨もたまに降る。だが、嵐は一度だって来たことがない」
「嵐が……一度も……?」
「そう。だからここは、わしらにとっちゃ天国のようなところなんだよ。あんたらも、島の外へ出ようなんて考えは止めたほうがいい。頑張れば頑張るだけ、無駄なんだからな」
男は一方的にそれだけ言うと、近くにひいてあったボロボロの茣蓙の上に寝転がった。
「……どうします? ガレイトさん」
いつの間にか立ち上がっていたイルザードが、他の三人に聞こえるよう言う。
「害がないのであれば、放っておけばいい。それよりもあの男が言っていた、潮流云々のほうが気になる」
「……ですね」
「それにしても、流され島……でござるか」
「サキガケさんは聞いたことは……?」
「いえ、がれいと殿は?」
「さあ、俺も聞いたことがありません。ですが、事実を確かめないとどうにも……」
「確かめるといっても、拙者たちの乗ってきた船はあの有様でござる。ろす殿は、もう長い航行は無理だと言ってござったし……」
「はい。仮に、その潮流を抜けたとしても、今度はゲイル大陸まで航行が出来ないのであれば、八方塞がり……ということになりますね」
「と、とりあえず、他の人たちにも話を聞いてみませんか……?」
ブリギットがそう提案すると、三人は顔を見合わせ、頷いた。
──ビチビチビチ!
ブリギットが大事そうに抱えていた魚が、元気よく跳ねる。
──グウリュリュリュウウゥゥグルングルングルン、ギャリリリリリィィィ……!!
それを見たガレイトの腹が豪快に鳴る。
「ま、魔物……!? 敵襲にござるか!?」
急にわたわたと辺りを見回すサキガケに対し、ガレイトが少し恥ずかしそうに口を開いた。
「す、すみません。俺の腹の音です」
「……が、がれいと殿は腹に魔物を飼っているのでござる……?」
気まずい沈黙が流れると、やがてブリギットが口を開いた。
「あ、朝ごはんも食べてませんし、とりあえず、このお魚でご飯にしましょうか」
「お、お願いします……」
ガレイトは消えてしまいそうな声で、ブリギットにお願いした。
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