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アルバイターガレイト

元最強騎士と怒りの炎

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「おら! もっと腰を振れ!」

「く……っ!」

「色っぽく踊れ! 羞恥に喘げ! 胸や尻を強調しろ!」

「こ、こんなことを……! よくも……!」

「こんなもんじゃ、おまえのやった事は消えんぞ!」

「くそ……くそ……! 絶対に、絶対に殺してやる……!」

「ほぅ、反抗的な態度だな……その恰好はだかのまま、開脚でもしてみるか?」

「ちくしょう……! ちくしょう……!」


 天にも届きそうなほどの勢いの炎。
 パチパチと弾け、辺りに散らばる火の粉。
 怒号が飛び交うオステリカ・オスタリカ・フランチェスカ。
 山で店の異変を察知したガレイトは、ブリギットやグラトニーのことも忘れ、一目散にここまでやって来ていた。

 そして、そんなガレイトが目にしたのは──全裸で踊らされているザザ・・ボボ・・の姿だった。
 二人は互いに手を取り合い、騒ぎに集まってきた衆目に晒されながらも、豪快なステップを踏んでいた。
 さらにその後ろでは、イルザードが楽しそうに手を叩いて音頭をとっている。


「──おや?」


 ガレイトに気づいたイルザードが、立ち上がり、ガレイトに近づいて行く。


「おやおやおや、ガレイトさんではあ~りませんか!」


 すでに中身の半分が消えている酒瓶を手に、イルザードが、ガレイトの背中を叩く。


「い、イルザード? なんなんだ、この騒ぎは……! 何が起こっているんだ!」

「キャンプファイヤーですよ、キャンプファイヤー」

「……はあ?」

「たまに団で遠征に行くときとか、夜にこうやって、火ぃ起こしてたりしてたじゃないですか」

「いや、今は戦時中ではないし、そもそもここは街中なんだが……」

「うははは! 街中だろうが山中だろうが、危険なことには変わりありませんので!」

「何を言……う!? おまえ、その顔、そのニオイ、それが一本目じゃないだろう!」


 ガレイトに指摘されたイルザードは、持っていた酒瓶を背後に隠した。


「あっはは~……いいじゃないっすか。そんなにカタイ事は言わないでください。……硬くするのは股間だけで十分ですよっ」

「おっさんかおまえは」

「はっはっは! 元上司にセクハラすると、酒がうまい!」


 もはや隠す気すらなくなったのか、イルザードはぐびぐびと酒を呷った。


「どこで酒なんて調達してきたんだ……」

「なんかぁ、いま踊ってる連中が持ってました」

「奪ったのか……?」

「ふふふ、人聞きの悪いこと言わんでください……頂いただけですよ。謂わば物資の補給、現地調達……」

「はいはい。……それにしても、なんだか踊っている者にも見覚えがあるのだが……」

「あら、ガレイトさんのお知り合いでしたか?」

「いや、よく似ているが……あれはいつも三人組だったし、もうここにはいないだろうから、恐らく違うな」

「ちがうんです?」

「……いや、だが、やはり似ているような気も……」

「むむむ。それは大変失礼なことを……でも、人付き合いはきちんと考えたほうがいいかもれすよ」

「なんだ。どういう意味だ」

「この二人組、いきなり店に現れてモニカ殿を人質にしたんすよ……」

「なに……?!」

「けしからんっしょ? その上、私にも『服を脱げ!』……なぁんて、言ってきて」

「それで、こんなことをさせたのか……?」

「弱っちぃくせに。偉そうに……それでムカついたから、ボコボコにして、逆に服をひん剥いて、踊らせて、こうして酒の肴にしてるわけです」

「なんてやつだ……」

「ガレイトさんもどうです? きったねぇ裸ですが、それがまた面白いんですよ」

「いらぬわ。……それに、その話が本当だとしてもやりすぎだろう。大の大人が半ベソかいてるなんて相当だぞ」


 しくしくしく……。
 ザザとボボは表情は変えず、そのままさめざめと泣いていた。


「いやいや、たぶんあれは、嬉しくて泣いてるんですって」

「どこの世界に半裸で、炎の周りを踊りながら嬉し泣きする輩がいるんだ」

「ここにいますとも! ガレイトさんに命じられたら、半裸でも全裸でも、喜んで踊りますよ!」

「はぁ~……、おまえと話しているとどっと疲れるな……」

「ええ~? ていうか、なんでそこで私の心配してくれないんですかぁ……」

「今、この辺りで一番危険な生物はおまえのはずだが……何を心配すればいいんだ?」

「いやいや、危険生物って! こんなか弱い女子に向かって……襲っちゃいますよ?」

「チッ……おまえは早く酔いを醒ませ。それより、モニカさんはどこだ?」

「あれ? さっきまで私と一緒に、このキモイ踊りを見ていたと思うのですが……」

「〝キモイ〟と思っているのなら踊りを止めろ」


 そう言ってキョロキョロと辺りを見渡すイルザードだったが、周囲にモニカの姿は見当たらない。


「はて、どこへ行ったのでしょう?」

「何をやっているんだ、おまえは」

「酒を飲んでます!」


 ガレイトはガシガシと頭を乱暴に掻くと、イルザードを無視して、ザザとボボに近づいていった。


「あの……すみません」

「わあ!?」
「ぎゃ!!」


 ガレイトが声をかけると、二人は飛び跳ねるようにして驚いた。


「いきなりすみません、すこしお尋ねしたいのですが……」

「あ、はい。なんでしょう……ん? おい、ちょっと待て」
「おまえ、ガレイトじゃないのか?」


 ザザとボボが震える指でガレイトを指さす。


「──ゴミムシ共が! 誰に向かって指さしてんだァ! ああ!? 聞かれたことだけ答えていろ!」


 ガレイトの後ろ。
 イルザードがそう怒鳴りつけると、二人はビクッと肩を震わせた。


「その、ガレイトですが……?」

「……ほ、ほら、俺だよ! ザザ! こっちはボボ!」


 ガレイトはそう言われると、改めて二人の顔を見た。


「……おお、やはりあんたたちか」

「ガレイト、おまえ、あのおっかねぇ姉ちゃ……イルザード姉さんと知り合いなのか?」

「いや、知り合いというか……むしろ、知合いたくなかったというか……」

「どっちでもいい。もう俺たちを解放してくれるよう言ってくれねえか?」

「あ、ああ……構わないが……」

「俺たちはただ依頼を受けただけなんだよ。だけど、まさか相手にヴィルヘルム・ナイツの隊長格がいるなんて、聞いてなかったんだ」

「依頼? なんの話だ?」


 ガレイトがそのことについて尋ねると、突然、ボボが青い顔になってガレイトを指さした。


「……おい、今気づいたんだが……イルザードの知り合いで、ガレイト・・・・って……もしかしてあんた……第二十二代目団長のガレイトなのか!?」


 それを聞いたザザも、サーッと顔から血の気が引いていく。


「いや、別人──」

「すすす……すみませんっしたァ……!!」


 ガレイトが否定するよりも前に、二人がものすごい勢いで土下座をする。


「な、なにを……?」

「今までの非礼は詫びます……!」
「ですから! い、いの、命だけは……! 見逃してくださひぃぃい……!」

「こ、殺すはずないだろう。やめてくれ。人が見てる」

「ですが……」

「やめろ」

「は、はい……」


 ガレイトがそう言うと、二人はガレイトに怯えるようにして立ち上がった。


「……俺が尋ねたいことはひとつだけだ。ここに、モニカさんがいただろう?」

「モニカ……」

「ほら、身長が低くて黒髪で、すこしふっくらしてて……おかっぱの……」

「あ、ああ……たしか、最初人質にしてた……」

「な……! 本当に人質にしていたのか!?」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「でも、危害は加えてないんです! 本当です!」

「……ならいい。その人がどこへ行ったか知らないか?」

「えっと……たぶん、あっち……」


 ボボが街の中心のほうを指さす。ガレイトはその方向を渋い顔をして睨みつけた。


「その方角は、たしか……」

「あ、あの……俺たちはこれで……?」

「ん? ……ああ、これに懲りたらもう迷惑をかけるなよ」

「は、はいぃ……!!」


 二人は震える声で言うと、裸のまま、一目散にその場から逃げ出した。


「おや、逃がしちゃってよかったんですか?」


 一部始終を黙ってみていたイルザードが、ガレイトの隣までやってくる。


「逆に何をするつもりだったんだおまえは」

「いや、拷問とか……」

「はぁ……そういうことは決してするな。いいな」

「ウィ」

「なんだその返事……」

「それで、モニカ殿の居場所はわかったのですか?」

「ああ、今からビストロ・バラムンディへと向かう」
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