上 下
31 / 147
アルバイターガレイト

閑話 やっぱりアブナイ絵面

しおりを挟む

「のぅのぅ」


 ガレイトと並んで歩いていたグラトニーが、ガレイトの服の裾をぐいぐいと引っ張る。


「ちなみにパパは普段どこに住んどるんじゃ?」


 モーセと別れた三人は、とりあえず今回の出来事の一部始終をブリギットに報告すべく、一路、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカに向かっていた。


「あ、それ、あたしも気になる。ガレイトさん、グランティに来てからどこ住んでるの?」

「えっと……」

「……ちょっと待った娘。さきほどから度々〝グランティ〟と申しておるが、それはもしや、ここの地名ではなかろうな」

「ああ、そういえば昔はここ、グラトニーって地名だったっけ?」

「な、なんという事じゃ……!」


 グラトニーはガレイトの服の裾をつまんだまま、がっくりと項垂れた。


「あれほどまでに美しく、荘厳で、洗練された名前だったのに、なんなんだ、その陽気でポップな名前は……! 親しみやすいではないか……!」

「いや、親しみやすいのはいい事じゃない?」

「何を言う。妾の街に親しみやすさなど必要ない。冷血にして冷徹にして冷酷、そのクールさがいいのではないか!」

「まあ、もうここはグラトニーちゃんの街じゃないんだけどね」

「ぐぬぬ……! 痛いところを……いつかまた強くなったら、もう一度ここを〝グラトニーの街〟にしてやるぞ……!」

「てかさ、そもそもの話、一体どんな悪行をすれば、魔物であるグラトニーちゃんの名前がつけられるのさ。……何人食べたの?」

「じゃから! 妾は、人は食わぬと言うとろうが!」

「でも……」

「……とくに何もしとらんわい」

「何もしてない? またまた、そんなわけないじゃん」

「ま、あえて言うなら、妾が美しすぎたということじゃろうな……」

「美しい……」

「フ、まったく、罪作りなものよの……」

「なにを言うとるんだ、このちんちくりんは」

「な!? 誰が竹林じゃ! どちらかと言うと、花畑じゃわい!」

「誰も竹林なんて言ってないけど……でも、関係なくない? なんで美しいだけで無害な魔物が、勇者に退治されたりするのさ」

「む。なにやら妾が封印されとる間に、だいぶ人間どもの都合の良い解釈になっておるようだな」

「都合の良いって……もしかして、あのおとぎ話、本当じゃないとか?」

「いや、知らん。それがどのような御伽噺かなぞ知らんが……妾、マジで美しいからって理由で封印されたんじゃぞ?」

「へえ……」

「いや、なんじゃその顔。もちろん、今みたいな感じじゃないぞ? 完全体じゃ」

「完全体ね……」

「今はこんな……一部の変態にしか好まれんような形態フォルムじゃが、完全体はそれはもう美しくて……って、そんな話はどうでもいいんじゃ。要は、妾が美しすぎるせいで、男どもが放っておかなくなったんじゃ」

「取り合ったってこと?」

「簡単に言えばそんな感じ。……事実は、もうすこし血なまぐさかったんじゃが」

「ふうん……でも、本当にそれだけ? 多少はけしかけたりさ」

「まあ、多少はね?」

「ろくでもないな」

「つか、妾の話はどうでもええじゃろ」

「いや、自分から話し始めたんじゃん」

「ね~え、パパぁ……パパは普段どこに住んどるん?」

「聞けよ」

「近場のホテルですよ」

「……やばくない?」


 モニカが深刻そうな顔で言う。


「たしかに一人用の部屋ですが、グラトニーさんくらいの年の子だとおそらく問題はないかと……」

「いや、そういうことじゃなくて、絵面的に……」

「絵面的……」

「いや、これから、グラトニーちゃんもガレイトさんの部屋で暮らすんだよね?」

「はい」

「一緒にチェックインして、一緒に寝食を共にして……」

「そうじゃの」

「い、いや……なんか、ごめん。考えすぎみたい。まあ、当人同士が何も思わないんだったらあたしからは特に……」


 モニカは気まずそうに口をつぐむと、ガレイトとグラトニーは互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。

チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。 名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。 そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す…… 元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...