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白銀編

神龍・行動

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「幾年月を経て、王女はついに帰還を果たした。我らはこれに歓喜し、その知らせは一日にして、龍空中に行き渡り、そして龍空中が喜びに包まれたのだ。しかし、ここで我らは天国と地獄を味わう羽目になる」

「天国と地獄? 王女様が帰ってきたんだろ?」

「ああ、それは大変喜ばしいことだった。以前お見かけしたときよりも、かなり凛々しい顔つきになっておられた。……お召し物は奇妙な赤色の、なにかよくわからんやつを着ておられたがな……」

「オレが買った芋ジャージ……まだ着てたのか……」

「王女は帰還して開口一番に、『龍空を潰す』と言った。我らは耳を疑った。冗談かとも思った。しかし、現に王女は、龍空にいるどの龍よりも龍空を愛していた。冗談でも、そのようなことを言うはずがないのだ。我らの王女が、王女に限って、そんなことを言うはずがない。その時だ。王女は――王女を止めようと動いた神龍と、その龍を一瞬にして、戦闘不能にしたのだ。そのときの王女の虚ろな眼を見て確信した。これが人間どもの仕打ちか、と」

「ど、どういうことだよ」

「さきほど話したろ。一刀斎とかいうやつの裏切り行為を」

「だから、それとどう繋がってるんだって――」

「王女を誘拐し、洗脳し、龍空を内部から崩壊させる。それがあの人間の――侵略者の立てた計画だ」

「な――!?」

「失ったと思った王女が帰ってきた。しかし、それは王女の形をした『何か』だったのだ。王女の精神はもう、人間によって殺害されていた。我らの目の前にいたのは、上辺を王女という外壁で取り繕った、ただの虚城。王女の形をしたナニカ。こうして、我らは二度、人間に地獄へ突き落とされた。先に一度、人間の罪を許してしまった王は、それによりとうとう心労がたたり、床に伏してしまった。これが……こんな仕打ちが、許されると思うか? 我らはなんとかして、その王女モドキを城から追放した。そして、こんな仕打ちをした、人間共を根絶やしにすると決めた。これは我らによる復讐なのだ」

「……それが、戦争の理由か」

「違う。これは戦争ではない。そのような対等なモノではない。いうならば駆除だ。我らはこれより、我らを陥れた虫けらを駆除しに行くのだ」

「って、待てよ。さっき言ってたレジスタンスってもしかして……」

「そう。王女の鱗を着たバケモノが、どこから集めたのか、龍を連れて城へ攻め込んできたのだ。王女ではないとはいえ、その実力は神龍とは変わらぬ。最早それは、ただのレジスタンスではない、その戦力は無視することができないほどに巨大。我らは今、猿を駆除しつつレジスタンス軍をも相手取っているのだ」

「だから、戦力が不足してるって言ってたのか……」

「そうだ。しかし、いつまでもこの戦況に、指を咥えて静観している我らではない。我らはここで、満を持して、こちらから打って出ることにした」

「それはつまり、レジスタンス軍をこっちから潰しに行くってことか?」

「そういうことだ。敵拠点の座標やモドキの戦闘スタイルもだいたいわかった。我とゴーンで強襲かけながら、とあるポイントに追い込みをかけ、そこでじっくりと網のように掬い上げるように潰すだけだ。それで、モドキレジスタンス軍は瓦解する。幸い、向こうには王女以外に脅威となる龍はいない。数こそあれど、真に気をつけるべき相手は王女だけだ。それ以外は有象無象。落ち着いて対処すれば、取るに足らない雑魚に過ぎない」

「そう……か」

『どうしましょう、タカシさん。このままじゃドーラちゃんが……』

「ああ、どのみち、こいつらが動くってんなら、俺も動かねえとダメだな。なら、現状を最大限に利用させてもらうか」

「? どうした、ルーシー。なにか意見でもあるのか?」

「……なあ、どうだろうか、その作戦に、オレも組み込んでくれないか?」

「な!? いきなり、どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。幸いオレは遊撃に関しては経験もあるし、得意でもある」

「……どうなのだ、エウリー。この者の能力としては」

「……たしかに、あの極大魔法を撃っておきながら、あのときはまだ余力があるように見えました。魔力に関しては姉様やカーミラと同等かそれ以上。遊撃に関しても、本人がそこまで言うのなら、得意なのでしょう。以上の点から鑑みると、申し分はないと思います」

「ゴーン、そういう事らしいが……、どうだ、おまえとしてはこの作戦、やりたかったのではなかったかな?」

「え? 俺? べつにいいっすよ? 一番楽そうなので、遊撃を請け負っただけですし」

「軽い、軽いな。……では、おまえはその地点に先回りして、時を待て。ルーシーとエウリー、この二名がモドキを追い込む、そしてその逃走先で仕留めるのだ」

「あれ? なんか余計めんどくさくなった? ……まあ、いっか。しっかり頼むよー、新人。せいぜい楽させてねん」


 ゴーンはそう言うと、ものぐさそうに謁見の間を後にした。


「まったくあいつは……! この作戦がいかに重要なのかわかっているのか?」

「……じゃあ、オレたちもいくか、エウリー」


 そう言ってタカシも謁見の間から出ようとする。


「ま、また名前で……我を呼んだな……」

「なんだ、嫌だったか?」

「も、もっと頼む……」


 タカシとエウリーは、ゴーンの後に続くように、謁見の間から出た。


「……てか、あれだな。エウリーが作戦から外れるって選択肢は無かったんだな」

「な、なんだそれは! 我と一緒に行くのは嫌だという意味か? 悲しいことを言うな!」

「いや、ごく自然にゴーンが外れるよう、話がいったからさ」

「なんだ、そういうことか。その理由はだな、我が神龍で一番素早いからだ。どうだ、すごいだろう。我はすごく速いのだ」

「ふうん、すごいね」

「え? 興味なし? もっと掘り下げてくれないの? あ、待って!」





 トバ国天守閣跡。
 そこでは人類対龍族の死闘が繰り広げられて――いなかった。
 残心のシノ。
 彼女の能力によって、残留する斬撃を異次元扉前に固定させ、それにより人間界側へと侵入してきた龍を、すべて、自動的に切り捨てていた。


「グオオオオオオオオオオオオ!! 人間ども! 覚悟し――ぐあああああ!?」
「我ら龍族の怒り、その身に受け――ギャアアアアア!?」
「おまえら全員、皆殺――どわあああああああああ!?」
「ギャアアア!!」
「グエエエエエエ!!」
「アーーーーーーーーッッッッッッ!!」


 その光景はまさに阿鼻叫喚。
 龍たちは顕現しては斬られ、顕現しては斬られていく。
 そうするうちに、龍たちの死体が、みるみるうちに積み上がっていった。
 積み重なった死体は周りにいるトバ兵たちが、雑談交じりに片付けていっている。
 当初の緊張感がウソのように、其処では一方的な駆除・・が行われていた。


「ガッハッハ。ここに、全自動龍斬り機械マシーンが出来上がったな。ざまあないわ! いきなり王を取ろうとするからこうなるんだ!」

「……お父さん、うるさい。黙って。気が散る」

「シノ。さすが俺の娘、おまえのお陰で、このままゆるりと茶を飲みながら、戦局を眺めることができ――」

「ああ!? ちょっと、それお酒じゃん! お父さん、なにやってんの、マジで」


 トバ皇が口へ運ぼうとしていた湯呑を、シノが遠慮なしに、バシンとはたき落とす。


「ちょ、むすめー? いったーい、遠慮なしじゃーん。どんだけー」

「キモ……なんで死なないの?」

「なに? いま、城下町ではこういう言葉が流行っているんだぞ。俺はわざわざ、おまえの目線に立ってだな……」

「それをなんで、おっさん用にローカライズしてんの? せめて用法用量を守って、正しく死んでください。というか、もうそんな言葉使わないで。鳥肌が立つから。鳥肌死するから」

「鳥肌くらいなんだ! 俺だって、流行に乗りたいのだ! ちょっとくらい、いいではないか!」

「しー……静かに……」

「な、なんだ、どうした?」

「息がくさい」

「なに? そんなことヒドイことを言うならもう、仕送りはせんぞ!」

「てか、仕送りに関してはもういいって言ってんじゃん。それなりに給料もらってるし。そもそも勝手に送り付けてるの、そっちでしょ? もうあたしはトバには帰ってきません。例え帰ったとしても、今後一切家には立ち寄りません。なんなら、『姫』ももう要りません」

「いや、それは許しませんよ。パパが悲しいもん」

「う~ざ~いっ! 今後一切の関わり合いを持たないで。このあたしと! あと、体に悪いから、酒も控えて!」

「ガッハッハ! 持つ! いくらでも関りを持ってやるぞ! 我が娘よ!」

「なら、そのまま関りを物理的に断ち切ってやる!」


 二人はそう言うと、龍そっちのけで斬り合いを始めた。


「フッ、困った父娘おやこだ。これは仮にも戦争。俺たちはあちら側に試されているのだというのに……この空気。まったくもって、食えん父娘だ。しかし、そんな俺もまた、くつろいでしまっている。人の事は言えんが、こういうのもたまには悪くはないな。そういえばあの日もこんな騒がしい日だった。あれは――」

「ほんとうに、なんなのじゃ、この戦争は……。姫と皇は親子喧嘩。他国の最強騎士殿は遠くのほうで、茶を啜りながら独り言。兵に至っては、ペチャクチャと雑談しておる」


 テシがただひとり、その状況を見て、愕然としていた。


「……まあ、それもこれも、姫の能力のお陰ではあるのだが……はぁ、なんというか緊張感が足らん。足りなさすぎる……。お姉ちゃんたちは今頃、何をしておるのじゃろう――」


 ゴギギギギギギギギギギィィィィ!!
 裁断機に異物が挟まった様な、不快音。
 テシを含め、そこにいる兵士全員が、その音に対し耳を塞ぐ。


「な……、なんなのじゃ、この、音は……!」

「クッ……、抜け、構えろ。勅使河原勅使。敵の真打登場だ」


 突然、ロンガがテシの横に並ぶ。
 手にはすらっとした細身の刀剣を鞘から取り出した。
 テシはロンガの顔を見ると、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
 シノとトバ皇もいつしか喧嘩を止め、異次元扉を睨みつけている。
 龍たちの断末魔はいつの間にか止んでいた。


――――――――――――――――――
読んでいただきありがとうございました!
突然ですが、新連載始めさせていただきました!
自分で戦えないエンチャンターが、うまく仲間を使って、魔王を倒す話です。
相変わらず、ほぼギャグです。
気になった方は、下記のURLからどうぞ!
是非ご一読くださいませ! ませませ!

「勇者たちに裏切られたので、新しいパーティを作って出し抜きます」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/671390973/37183771
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