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白銀編
美人有能?秘書エウリー
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龍空城。
それは白亜の浮城。
その城はエストリア城より巨大にして、荘厳。
城に無駄な装飾は一切なく、年代を感じさせる外壁には、傷や損傷の一切が見受けられない。
龍たちの居城にして、タカシの旅の終着点。
タカシはそこで、龍を統べる王『神龍王』との面会に臨むべく、長い廊下をズンズンと突き進んでいた。
そしてタカシの先頭をサキではなく、別の、ひとりの女性が歩いていた。
女性は長く、艶やかな紫色の髪を、シニヨンに結っており、眼鏡をかけている。
そのキリッとした顔立ちと、纏っている知的な雰囲気には隙が無いように見えた。
「こんな時になんだけど、おまえ、エウリーなんだよな?」
「そうだが……、なんだ、どうかしたのか?」
「いや、ちょっと言動と外見が合わないっていうか……、有能秘書にしか見えないというか……」
「クハハ、よくわかったな。我は『軍神』として部下の龍共の教育をしながら、秘書としてもこの辣腕を振るっているのだ。どうだ、恐れ入ったか」
「恐れ入りはしないけど、おまえに秘書なんて任せて大丈夫なのか、この国は?」
「ど、どういう意味だ、それは!?」
「あ、いや、なんていうか、労働過多になってやしないかと、おまえの辣腕とやらの行方を案じてるんだ」
「クハハハハ! なるほどな。バカにされていたのかと思ったぞ! ……問題はない。普段は特にやることがないのだからな」
「なるほど、それでか……」
「おい! 聞こえているぞ!」
「おっと、わるい」
「まったく、貴様というやつは! 同じ神龍だからといって、我を軽んじ過ぎだぞ! せめてこう……、仲良くおしゃべりできないのか!」
「仲良くおしゃべりしたかったのか……」
「え? あ、いや、そういう事ではなくてだな……、我は神龍とはあまり話す機会がないから、貴様とこれを機に仲良くなろうなんて、これっぽっちも思ってもいないのだからな。かかか……、勘違いするなよ!?」
「わかった。わかったから、そんなに興奮すんな」
「だだ、だれが興奮なぞ……!」
「ていうか、おまえ普段しゃべる機会がないとか言ってるけどさ、『軍神』とかって役割を受け持ってるんだろ? だったら、部下と話したらいいじゃねえか」
「わ、我は神龍なのだぞ? それに対し、部下は全て龍。対等におしゃべりできるワケがなかろう?」
「あれ? ここって神龍だけで構成された国じゃねえのか?」
「やれやれ、次から次に呆れたな。記憶を失っているとはいっても、これではまるで部外者ではないか。いいだろう。特別に教えてやるとだな――」
そう言ってエウリーは嬉々として語りはじめた。
「神龍は謂わば、選ばれし龍。龍の中でも、生まれつき高い能力を備わっている龍にのみ与えられる称号だ」
「んだよ、別種族かと思ったけど、称号って……。結局、選別してるだけか」
「いや、そうではない。事実、称号とはあるが、別種族なのだ」
「なら別種族なのに、称号って、どういうことだよ」
「差別問題に配慮した結果だ。仮に種族として神龍と名乗ってしまった場合、非神龍である龍の立場を貶めてしまうだろう? なにせ神の龍だからな。おまえたちの世界に照らし合わせてみれば、外見ではあまり差異のない人間が『我々は王である』と名乗っているようなものだ」
「ややこしい問題だな……だから龍ってことで一括りにしてんのか。そういえば、別種族とは言ってるけど、神龍と普通の龍の差ってどれくらいあるんだよ」
「そうだな。ひとつ例を挙げるとするなら、普通の龍が鍛錬に鍛錬を重ね、幾つもの死線を潜り抜け、歴戦の龍となったとしよう。――だが、それでも生まれてきたばかりの神龍には勝てんのだ」
「……は? 何で? 戦闘で?」
「ああ。それほどまでに、別格。能力も生まれも、何から何まで違う。いくら問題に配慮しても、この差はかなりデカいのだ。そんな存在に対し、ごく普通の一般龍や一兵卒などが、軽々しく口を利けると思うか?」
「無理だな」
「……そ、そうだろう……な」
エウリーはタカシの回答を聞くと、視線を落とし、唇を噛んだ。
「でも、アレだな。それくらい違ってくると、待遇も変わってくるんだろうな。どのみち、普通の龍からしたら、羨ましい限りだろう」
「それが、望まぬものだとしてもか?」
「え?」
「いや、なんでもない。いまのは忘れてくれ。……つまりは、そういうことだ」
「……ちなみになんだけど、神龍って龍空にはどれくらいいるんだ?」
「完全に把握してはいないが、城に所属しているのは、貴様を入れて十体だ」
「無理やりかよ。って、そんなに少ないのか!?」
『そんなに少ないってことは、把握していない分の神龍も少なそうですね。それにタカシさんを神龍って勘違いすることは、やっぱり能力以外では、その差は曖昧だから? それとも、タカシさんの正体が本当に神龍だったとか』
「ちげーよ。でも、たしかにそこはおかしいよな。……なあ、エウリー」
「なな、なんだ……いきなり名前で呼ぶなんて……!?」
「オレが言うのもなんだけど、オレみたいな身元不明の神龍を、こんなにも簡単に城へ招き入れて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「なんでだ」
「なんでだ……と言われも、だな……争う理由が見当たらないからだ」
「……まあ、いいや」
『いいんですか? もう追究しなくても?』
「いいんだ。たぶん、ここらへんは価値観の違いだろう。理解できないことは、無理に理解しなくていい。……でもエウリー、やっぱり神龍と龍の違いが曖昧だよな」
「いや、それはない。おまえが神龍たらしめる理由はさきほど言ったばかりではないか」
「いや、それは分かるんだけどさ、なんというか、根拠が弱いんじゃないか?」
「根拠薄弱……? なにを言っているのだ。これ以上ない根拠だと言えるだろ」
「そんなにすごいもんなのか……? その『失われた魔法』って」
「自覚なしに使っているのか!? 貴様は!」
「え、いや、たしかに範囲は出鱈目だし、下手したら国を潰せる魔法だし、地形も変えるし、触れればまず助からないし……――たしかに、やべえな」
「今頃気付いたか、それに、『失われた魔法』はな。我ら神龍以外が使おうとすると、死んでしまうのだ」
「は? 死ぬ?」
「さきほど言っただろう。我ら龍は、神龍と龍とで、その能力が全く違うと」
「あ、ああ……」
「ということは、生まれつき持てる魔力の最大容量も違ってくる。『失われた魔法』は使用するのに、膨大な魔力を必要とする。そのうえ、術者の体にも多大な負担をかける。それは神龍であっても同じだ。そのような魔法を、普通の者が使ったらどうなると思う? 例えるなら、一リットルしか入らない容器から、二リットルの水を取り出すようなものだ。不可能だ。……しかし、それでも無理に出そうとしたら、どうなるかわかるか?」
「どうなるって……、死ぬんだろ?」
「ああ、そうだ。しかし、正確に言うとひっくり返る」
「ひっくり……?」
「ああ。無いものを無理やり出そうとした結果だ。術者は全てがひっくり返る。皮や鱗は体内に潜り込み、内臓は体外へ飛び出す。まるで、靴下を裏返すようなかんじだ。それが術者の体には起こるんだ」
「まじか……」
「まじだ。……だから、わかっただろう? いかに失われた魔法が凄まじいかを」
「これからはできるだけ使用を控えます」
「うむ。そうしてくれ」
「それにしても、十体か……」
「ああ……、いや、王女はもう……いないから、九体だったか……」
エウリーはそう言うと、露骨に肩を落としてみせた。
「あのさ、さっきも話にでてきたけど、王女って誰なんだよ。おまえら三姉妹のうちの誰かじゃねえのか?」
「そんな! 畏れ多い! あの方はもう――はぁ……、王女の話、聞きたいか?」
「え? ああ、頼む。なんか心当たりがなくはないんだ。もしかするとアイツのことかもって……」
「……どういうことだ?」
「オレの同居人――知り合いに、龍がいたんだよ。いままで仲良くしてやったのに、そいつ、最近になって記憶を取り戻したとか言って、消えやがってよ。それも、絶対についてくるなって言葉だけ残してな」
「最近人間界から、龍空へ……だと? き、貴様……! その龍の名前は何て言うのだ!?」
「え? なんだよ、いきなり……?」
「言え! 名前だ!」
「……ドーラだけど……」
「ど、ドーラ……だと……!?」
「ッ!? し、知ってんのか!?」
「いや、知らん」
「うおい!!」
「紛らわしくてすまんな、しかし、ドーラという名前に心当たりはない。こちらからも、知り合いや部下にそれとなく訊いておこうか?」
「あー……いや、大丈夫だ」
「なに、遠慮するな。我と貴様の仲ではないか」
「どんな仲だよ」
「え? 友達じゃないの?」
「馴れ馴れしいわ! 出会ってすぐ友達とか、どこのブラザーだよ、おまえ――」
「ち、ちがうのか……そ、そうだな……馴れ馴れしいよな、こんな龍。鬱陶しいよな……」
「あ、い、いや、ちがわない。今日から、オレたちはソウルブラザーだぜ! へ……ヘイヘイ! ヨウヨウ!」
『ちょ、なんて恥ずかしいことしてるんですか、タカシさん。恥を知ってください、恥を』
「く……クハハハハ! よし、では、そうるぶらざーの仲だ。忌憚なく、その龍の特徴を述べるがよい! 鱗の色は? 牙の型は? 翼膜はどうだった? 爪の形は? 鉤爪型か?」
「いきなりノートとペンを持ち出して、質問攻めにするな! 鬱陶しい! ……そうだな、牙とか翼はよくわからなかったけど、鱗は白銀色だったな」
「白……銀……? 白ではなくて、か……?」
「ん? ああ、たしかに光ってたぞ。ただの白じゃなくて、白銀だ。朝日が差し込んだ雪原みたいな色だったな」
「それは見間違い、ではなくてか……?」
「たしかに一回しか見てなかったけど、その時のことはちゃんと覚えてる。あれは白銀だった。……もしかして、知ってんのか?」
「その龍の名前は……?」
「……ドーラだ」
「シラネ」
「だーかーら! ややこしいわ! なんなんだよ、おまえは! この質問も重複してんじゃねえか!」
「だって、本当に知らないんだもん」
「だもんっておまえな……。てか、なんでそんなに鱗に食いついてたんだよ」
「いや、それが妙でな。白銀の鱗を持っている龍といえば、我は王女しか知らない。もしや、とも思ったが、今度は名前が違うの。だから龍違いかと……」
「白銀の鱗の神龍は、他にはいねえのか?」
「ああ、いないな。神龍で白銀なのは王女様だけだった」
「普通の龍の中ではどうだ?」
「知らぬ。というか、ないな。ないない。普通の龍は、基本的に暗い色のやつしかおらん。黒や限りなく黒に近い緑や、限りなく黒に近い青などだ。普通の龍は、我ら姉妹のように鮮やかな紫色の鱗などには成り得ないのだ。おっと、そういえば、鮮やかな龍鱗もまた、神龍である証拠だった」
「……なあ、ちょっといいか?」
「なんだ? 翼膜の模様を思い出したか?」
「いや、その王女が偽名を使ってた……ってのは可能性としてどうなんだよ? というか、おまえの話を聞いてる限り、そうだとしか思えないんだけど……」
「クハハハハ、まさか! あの腕白で実直な王女に限って、万が一、いや、億が一にでも、そんな小賢しいマネをするわけが……ある!」
「あるのかよ!!」
「あるぞ!」
「あるのかよ! って、もういいわ!」
「そうだ。偽名……もしくは、記憶の欠如により虚言癖になってしまった……とか、その線も無きにしも非ず……!」
「すごい言い様だな、おい」
「たしかに、そなたと人間界で行動していたのは、我が王女であった可能性が高い」
「まじか、ドーラが王女……? 冗談だろ? ……て、ちょっと待てよ」
「なんだ」
「おまえ、王女は亡くなったって言ってたな?」
「ああ、そう言った……な。というよりも、そういう事にしたんだ」
「……聞かせてくれ」
――――――――――――
読んでいただきありがとうございました!
ここらへんから情報の出る量が増えます。ここ解りづらいとか、意味不明とか言って頂けると加筆するかもしれません。
作者自身、どこから書いていいか、どこを書かないでいいか、すこしこんがらがってます(笑)
ではでは
それは白亜の浮城。
その城はエストリア城より巨大にして、荘厳。
城に無駄な装飾は一切なく、年代を感じさせる外壁には、傷や損傷の一切が見受けられない。
龍たちの居城にして、タカシの旅の終着点。
タカシはそこで、龍を統べる王『神龍王』との面会に臨むべく、長い廊下をズンズンと突き進んでいた。
そしてタカシの先頭をサキではなく、別の、ひとりの女性が歩いていた。
女性は長く、艶やかな紫色の髪を、シニヨンに結っており、眼鏡をかけている。
そのキリッとした顔立ちと、纏っている知的な雰囲気には隙が無いように見えた。
「こんな時になんだけど、おまえ、エウリーなんだよな?」
「そうだが……、なんだ、どうかしたのか?」
「いや、ちょっと言動と外見が合わないっていうか……、有能秘書にしか見えないというか……」
「クハハ、よくわかったな。我は『軍神』として部下の龍共の教育をしながら、秘書としてもこの辣腕を振るっているのだ。どうだ、恐れ入ったか」
「恐れ入りはしないけど、おまえに秘書なんて任せて大丈夫なのか、この国は?」
「ど、どういう意味だ、それは!?」
「あ、いや、なんていうか、労働過多になってやしないかと、おまえの辣腕とやらの行方を案じてるんだ」
「クハハハハ! なるほどな。バカにされていたのかと思ったぞ! ……問題はない。普段は特にやることがないのだからな」
「なるほど、それでか……」
「おい! 聞こえているぞ!」
「おっと、わるい」
「まったく、貴様というやつは! 同じ神龍だからといって、我を軽んじ過ぎだぞ! せめてこう……、仲良くおしゃべりできないのか!」
「仲良くおしゃべりしたかったのか……」
「え? あ、いや、そういう事ではなくてだな……、我は神龍とはあまり話す機会がないから、貴様とこれを機に仲良くなろうなんて、これっぽっちも思ってもいないのだからな。かかか……、勘違いするなよ!?」
「わかった。わかったから、そんなに興奮すんな」
「だだ、だれが興奮なぞ……!」
「ていうか、おまえ普段しゃべる機会がないとか言ってるけどさ、『軍神』とかって役割を受け持ってるんだろ? だったら、部下と話したらいいじゃねえか」
「わ、我は神龍なのだぞ? それに対し、部下は全て龍。対等におしゃべりできるワケがなかろう?」
「あれ? ここって神龍だけで構成された国じゃねえのか?」
「やれやれ、次から次に呆れたな。記憶を失っているとはいっても、これではまるで部外者ではないか。いいだろう。特別に教えてやるとだな――」
そう言ってエウリーは嬉々として語りはじめた。
「神龍は謂わば、選ばれし龍。龍の中でも、生まれつき高い能力を備わっている龍にのみ与えられる称号だ」
「んだよ、別種族かと思ったけど、称号って……。結局、選別してるだけか」
「いや、そうではない。事実、称号とはあるが、別種族なのだ」
「なら別種族なのに、称号って、どういうことだよ」
「差別問題に配慮した結果だ。仮に種族として神龍と名乗ってしまった場合、非神龍である龍の立場を貶めてしまうだろう? なにせ神の龍だからな。おまえたちの世界に照らし合わせてみれば、外見ではあまり差異のない人間が『我々は王である』と名乗っているようなものだ」
「ややこしい問題だな……だから龍ってことで一括りにしてんのか。そういえば、別種族とは言ってるけど、神龍と普通の龍の差ってどれくらいあるんだよ」
「そうだな。ひとつ例を挙げるとするなら、普通の龍が鍛錬に鍛錬を重ね、幾つもの死線を潜り抜け、歴戦の龍となったとしよう。――だが、それでも生まれてきたばかりの神龍には勝てんのだ」
「……は? 何で? 戦闘で?」
「ああ。それほどまでに、別格。能力も生まれも、何から何まで違う。いくら問題に配慮しても、この差はかなりデカいのだ。そんな存在に対し、ごく普通の一般龍や一兵卒などが、軽々しく口を利けると思うか?」
「無理だな」
「……そ、そうだろう……な」
エウリーはタカシの回答を聞くと、視線を落とし、唇を噛んだ。
「でも、アレだな。それくらい違ってくると、待遇も変わってくるんだろうな。どのみち、普通の龍からしたら、羨ましい限りだろう」
「それが、望まぬものだとしてもか?」
「え?」
「いや、なんでもない。いまのは忘れてくれ。……つまりは、そういうことだ」
「……ちなみになんだけど、神龍って龍空にはどれくらいいるんだ?」
「完全に把握してはいないが、城に所属しているのは、貴様を入れて十体だ」
「無理やりかよ。って、そんなに少ないのか!?」
『そんなに少ないってことは、把握していない分の神龍も少なそうですね。それにタカシさんを神龍って勘違いすることは、やっぱり能力以外では、その差は曖昧だから? それとも、タカシさんの正体が本当に神龍だったとか』
「ちげーよ。でも、たしかにそこはおかしいよな。……なあ、エウリー」
「なな、なんだ……いきなり名前で呼ぶなんて……!?」
「オレが言うのもなんだけど、オレみたいな身元不明の神龍を、こんなにも簡単に城へ招き入れて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「なんでだ」
「なんでだ……と言われも、だな……争う理由が見当たらないからだ」
「……まあ、いいや」
『いいんですか? もう追究しなくても?』
「いいんだ。たぶん、ここらへんは価値観の違いだろう。理解できないことは、無理に理解しなくていい。……でもエウリー、やっぱり神龍と龍の違いが曖昧だよな」
「いや、それはない。おまえが神龍たらしめる理由はさきほど言ったばかりではないか」
「いや、それは分かるんだけどさ、なんというか、根拠が弱いんじゃないか?」
「根拠薄弱……? なにを言っているのだ。これ以上ない根拠だと言えるだろ」
「そんなにすごいもんなのか……? その『失われた魔法』って」
「自覚なしに使っているのか!? 貴様は!」
「え、いや、たしかに範囲は出鱈目だし、下手したら国を潰せる魔法だし、地形も変えるし、触れればまず助からないし……――たしかに、やべえな」
「今頃気付いたか、それに、『失われた魔法』はな。我ら神龍以外が使おうとすると、死んでしまうのだ」
「は? 死ぬ?」
「さきほど言っただろう。我ら龍は、神龍と龍とで、その能力が全く違うと」
「あ、ああ……」
「ということは、生まれつき持てる魔力の最大容量も違ってくる。『失われた魔法』は使用するのに、膨大な魔力を必要とする。そのうえ、術者の体にも多大な負担をかける。それは神龍であっても同じだ。そのような魔法を、普通の者が使ったらどうなると思う? 例えるなら、一リットルしか入らない容器から、二リットルの水を取り出すようなものだ。不可能だ。……しかし、それでも無理に出そうとしたら、どうなるかわかるか?」
「どうなるって……、死ぬんだろ?」
「ああ、そうだ。しかし、正確に言うとひっくり返る」
「ひっくり……?」
「ああ。無いものを無理やり出そうとした結果だ。術者は全てがひっくり返る。皮や鱗は体内に潜り込み、内臓は体外へ飛び出す。まるで、靴下を裏返すようなかんじだ。それが術者の体には起こるんだ」
「まじか……」
「まじだ。……だから、わかっただろう? いかに失われた魔法が凄まじいかを」
「これからはできるだけ使用を控えます」
「うむ。そうしてくれ」
「それにしても、十体か……」
「ああ……、いや、王女はもう……いないから、九体だったか……」
エウリーはそう言うと、露骨に肩を落としてみせた。
「あのさ、さっきも話にでてきたけど、王女って誰なんだよ。おまえら三姉妹のうちの誰かじゃねえのか?」
「そんな! 畏れ多い! あの方はもう――はぁ……、王女の話、聞きたいか?」
「え? ああ、頼む。なんか心当たりがなくはないんだ。もしかするとアイツのことかもって……」
「……どういうことだ?」
「オレの同居人――知り合いに、龍がいたんだよ。いままで仲良くしてやったのに、そいつ、最近になって記憶を取り戻したとか言って、消えやがってよ。それも、絶対についてくるなって言葉だけ残してな」
「最近人間界から、龍空へ……だと? き、貴様……! その龍の名前は何て言うのだ!?」
「え? なんだよ、いきなり……?」
「言え! 名前だ!」
「……ドーラだけど……」
「ど、ドーラ……だと……!?」
「ッ!? し、知ってんのか!?」
「いや、知らん」
「うおい!!」
「紛らわしくてすまんな、しかし、ドーラという名前に心当たりはない。こちらからも、知り合いや部下にそれとなく訊いておこうか?」
「あー……いや、大丈夫だ」
「なに、遠慮するな。我と貴様の仲ではないか」
「どんな仲だよ」
「え? 友達じゃないの?」
「馴れ馴れしいわ! 出会ってすぐ友達とか、どこのブラザーだよ、おまえ――」
「ち、ちがうのか……そ、そうだな……馴れ馴れしいよな、こんな龍。鬱陶しいよな……」
「あ、い、いや、ちがわない。今日から、オレたちはソウルブラザーだぜ! へ……ヘイヘイ! ヨウヨウ!」
『ちょ、なんて恥ずかしいことしてるんですか、タカシさん。恥を知ってください、恥を』
「く……クハハハハ! よし、では、そうるぶらざーの仲だ。忌憚なく、その龍の特徴を述べるがよい! 鱗の色は? 牙の型は? 翼膜はどうだった? 爪の形は? 鉤爪型か?」
「いきなりノートとペンを持ち出して、質問攻めにするな! 鬱陶しい! ……そうだな、牙とか翼はよくわからなかったけど、鱗は白銀色だったな」
「白……銀……? 白ではなくて、か……?」
「ん? ああ、たしかに光ってたぞ。ただの白じゃなくて、白銀だ。朝日が差し込んだ雪原みたいな色だったな」
「それは見間違い、ではなくてか……?」
「たしかに一回しか見てなかったけど、その時のことはちゃんと覚えてる。あれは白銀だった。……もしかして、知ってんのか?」
「その龍の名前は……?」
「……ドーラだ」
「シラネ」
「だーかーら! ややこしいわ! なんなんだよ、おまえは! この質問も重複してんじゃねえか!」
「だって、本当に知らないんだもん」
「だもんっておまえな……。てか、なんでそんなに鱗に食いついてたんだよ」
「いや、それが妙でな。白銀の鱗を持っている龍といえば、我は王女しか知らない。もしや、とも思ったが、今度は名前が違うの。だから龍違いかと……」
「白銀の鱗の神龍は、他にはいねえのか?」
「ああ、いないな。神龍で白銀なのは王女様だけだった」
「普通の龍の中ではどうだ?」
「知らぬ。というか、ないな。ないない。普通の龍は、基本的に暗い色のやつしかおらん。黒や限りなく黒に近い緑や、限りなく黒に近い青などだ。普通の龍は、我ら姉妹のように鮮やかな紫色の鱗などには成り得ないのだ。おっと、そういえば、鮮やかな龍鱗もまた、神龍である証拠だった」
「……なあ、ちょっといいか?」
「なんだ? 翼膜の模様を思い出したか?」
「いや、その王女が偽名を使ってた……ってのは可能性としてどうなんだよ? というか、おまえの話を聞いてる限り、そうだとしか思えないんだけど……」
「クハハハハ、まさか! あの腕白で実直な王女に限って、万が一、いや、億が一にでも、そんな小賢しいマネをするわけが……ある!」
「あるのかよ!!」
「あるぞ!」
「あるのかよ! って、もういいわ!」
「そうだ。偽名……もしくは、記憶の欠如により虚言癖になってしまった……とか、その線も無きにしも非ず……!」
「すごい言い様だな、おい」
「たしかに、そなたと人間界で行動していたのは、我が王女であった可能性が高い」
「まじか、ドーラが王女……? 冗談だろ? ……て、ちょっと待てよ」
「なんだ」
「おまえ、王女は亡くなったって言ってたな?」
「ああ、そう言った……な。というよりも、そういう事にしたんだ」
「……聞かせてくれ」
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読んでいただきありがとうございました!
ここらへんから情報の出る量が増えます。ここ解りづらいとか、意味不明とか言って頂けると加筆するかもしれません。
作者自身、どこから書いていいか、どこを書かないでいいか、すこしこんがらがってます(笑)
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最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
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