59 / 61
魔法少女派遣会社
決心☆ひろみの覚悟
しおりを挟む「ひろみ、私とレンジの話、ずっとそのテーブルの下で聞いてたんでしょ?」
私がひろみにそう尋ねると、ひろみは何も言わず、俯いてしまった。私はため息をひとつつくと、ひろみに向き直った。
「ほら、ここ座って」
私は今座っているソファの隣をポンポンと叩く。しかし、ひろみは一向に座ろうとしない。それにすこしイラついた私は強引にひろみの手首を掴むと、無理やり隣に座らせた。たしかにひろみがこうなってしまうのもわかる。今まで信じていたものが無くなったんだから、心に受ける傷もそれなり深いだろうし、何より、トップが敵だと知ってしまったのだから、それこそショックは計り知れないだろう。
でも、それでも、口を開こうとしないひろみ対して、私はあえて正面に回り込み、ひろみの顔をじっと見つめる。
「ねえ、ひとつだけ訊かせて、ひろみ」
「…………」
「あんた、どうやって〝力〟を手に入れたの? あの心臓破坂の子たちみたいに、インベーダーから貰ったの? それとも──」
「死んだんだよ」
ひろみが口を尖らせて、ぶっきらぼうに言う。
「どうやって?」
「……それ、訊くか? フツー」
「訊くよ。お姉ちゃんなんだし。フツーじゃない」
「言いたくない」
「わかった。じゃあ訊かない」
「はあ? なんだよそれ」
「言いたくないなら訊かないよ。……とにかく、私はひろみがなんで力を持ってるかが知りたかっただけだし、今はその力が誰かから貰ったものじゃなくてホッとしてる」
「ホッとしてるって……貰ってたとしても、普通に80年くらい生きられるなら別に大丈夫だろ」
「そういう事じゃないって。インベーダーなんかに譲渡されなくてよかったねって意味だよ」
「……いや、純粋な能力持ちも、インベーダーから能力を貰ってたとしても、結局変わらねえだろ」
「いーや、違うね」
「なにがだよ、言ってみろよ」
「感覚的に、なんか違う」
「ほら、姉ちゃんも説明できないんじゃん」
「あのね。説明出来ないからって、それが正しくないとは……まあいいや。理由の言語化でしょ? むぅ、改めて言葉で説明するとなると……まあ、誰みたい、とは言わないけど、こんな所に貰いに来るくらい、追いつめられてなくてよかったって事じゃない?」
「誰の事だよ」
「秘密」
「ふん、ま、追いつめられるも何も、俺、一回死んでるけどな」
「いやいや、もちろん、ひろみが一回死んじゃったのは悲しいよ。けどね、なんて言うか、こうやってまだ生きてるじゃん? そういうのも含めたうえで、よかったねって」
「意味わかんねえよ……」
「ごめん。私だって自分で何言ってるか分かんないや。自分でもまだ色々と整理できてないところがいっぱいあるし……何より、色々ありすぎた! にしし!」
「……っち」
「とにかく! もう昔みたいに変に意地悪したりしないからさ、帰ろうよひろみ。ね? もう魔遣社も無くなったんだし、S.A.M.T.に来なって」
「いや、意地悪とかそういうのはどうでもいいけど……」
「あー……ツカサの事、気にしてるの? 大丈夫、大丈夫。あの子、怪我はしてるみたいだけど、そんなにひどくはなさそうだからさ」
「あのなぁ……」
「うんうん。なんなら、お姉ちゃんも一緒に謝ってあげるから」
「いや、だから……」
「あ、もしかして、馴染めるかどうか心配してるの? 大丈夫、お姉ちゃんもまだ入って二日目だけど、今のところ皆よくしてくれてて──」
「──そう言うのが要らねえって言ってんだよ!」
「え?」
ひろみの凄味を帯びた剣幕に、私はおもわずたじろいでしまう。
何この子、なんでこんなにキレてんの? 私、何かしました?
「い、いつまでも俺をガキ扱いしやがって……! いつまでも、俺の上にいる気になりやがって……! ただ俺よりも早く生まれたってだけのヤツが、母親みたいなツラで俺に接して来てんじゃねえよ!」
「ム」
いきなり強い言葉を使われ、拒絶され、私もカチンと来てしまう。表情も険しくなってしまう。だってそこまで言わなくてもいいじゃん。私だってひろみの事、ちゃんと考えてあげているのに。
「あんた、誰に向かって口答えしてるの……?」
「姉ちゃんだろ」
「あんた、今お姉ちゃんに対して、そんな言葉遣いになってるの、気づいてる? ねえ?」
「ここ、怖くねえって言ってんだろ! ……も、もうその脅しは俺には通用しねえからな……! だから、やめとけ!」
「効いてるみたいだけど」
「お、表に出ろ! 俺と勝負だ!」
「はあ? あんた何言って──」
「姉ちゃ……いや、キューティブロッサム! いいかげん俺は弟として、男として、魔法少女として、あんたを超える! あんたは、昔から目の上のタンコブなんだよ! ……いいか、ここで俺はあんたを飛び越して、それで……魔法少女の高みに近づいてみせる!」
「それはそれでどうかと思うけど……」
「るせー! ついて来い! 俺は先に出てるからな! 逃げるんじゃねえぞ!」
ひろみはそう捲し立ててくると、ガタガタと震えながら社長室を後にした。ひろみが部屋を出て行った時、「きゃっ!?」という声が聞こえてきたので、おそらく霧須手さんと会ったのだろう。
──ガチャ。
そして案の定、すこし間を置いてから霧須手さんが社長室に入ってきた。
「きゅ、キューブロ殿、今、弟君とすれ違ったでござるが……」
「ビビってた?」
「いいえ。あれは……そう、覚悟を決めた、お──」
「男の目をしてた?」
「いいえ、覚悟を決めた、女子のような可愛い目をしていました」
「はあああああああ……」
これ見よがしに両手を腰にあて、バカデカいため息を漏らしてしまう私。
「覚悟を決める……だとォ!? ももも、もしかして……今からひろみ殿、処〇を散らしに……? デュフ、デュフフフ……! 今から撮影機材一式を買いに行っていいでござる?」
「いやいや、散らすも何もひろみ、男だからね!?」
「男にも 散らす花弁は 有りまする」
「クソみたいな川柳詠まないで?!」
「デュフフ。散りゆく花弁は拙者的に季語にござるから、これは川柳ではなく俳句にござる……」
「どうでもいいわ!」
「デュフ、デュフフフ……じゅるり」
「それで、仕事については……って、おーい、帰ってこーい」
私は軽く霧須手さんにツッコミを入れると、無理やり現実に引き戻した。
霧須手さんは口の端で滴っていたよだれを作業服の袖口で雑に拭うと、私に向き合った。
「仕事に万事滞りなく。……むしろ、滞りが無さ過ぎて、拍子抜けしたくらいでござる」
「どういう事?」
「それはこちらが訊きたい。メインコンピューター……つまり、重要データの保管先や社員の登記名簿、業務内容についての書類や、国に申請するべきその他諸々が、一切見当たらなかったのでござる。なんというか……ここはただの入れ物だったようで……」
「入れ物……なるほどね。それがさっきレンジの言っていた〝装置〟という意味の正体か……」
つまりは、本当にただの装置。ただの入れ物。ただのハリボテだったわけだ。
この会社は。
要するに、向こうの目的は私たちを潰せばそれで終了。あとはゆっくりこの国を乗っ取ればいいんだから、細かな手続きや処理なんてせず、ただ勢いそのままこうすればよかったんだ。いま、全部分かった。
「あの、キューブロ殿、一体ここで、何が行われたのでござるか? 何故、社長らしき人物の姿が見えなくて、代わりにひろみ殿がいたのでござるか。そして、先刻感じた殺気は一体……?」
「うん、まあ、そうだよね。霧須手さんも気になるとこがあるよね。うん、私も私で色々と混乱してて、まずは私が理解している事だけでも共有しておくよ……」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる